黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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17章

氷竜と氷の城

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 氷の大地が続くハレイワ大陸。
一面が白い世界と言って良い。このハレイワ大陸の何処かに幻の氷の都市エルシオンがあるそうだが、水属性を持っていない朱里達家族には無縁の場所なので、エルシオンと言う名前を持つ四男が居るだけの関りしかない。

 ハレイワ大陸の奥まった北へと進む道に氷で出来た都市が見えて来る。
ベルドーラ都市はエルシオンへと続く道を示すと言われている場所で、都市の中央には氷で出来た城が建っている。
この城は重要な場所以外は自由に出入りできる城で、城の中に店や宿もある生活居住区域でもある。

 グリムレインが城の上で旋回すると城下では人々がグリムレインに手を振って笑っている。
氷竜はこの都市では歓迎される対象なのでグリムレインとしては朱里を連れてきたかった場所ナンバーワンと言って良い。

「ベルドーラの都市は我の元妻が統治しておるのよ」
「へぇー・・・ってぇええ?!!!元、妻ぁ!」
 グリムレインがカラカラ笑いながらベルドーラの街へ降り、朱里が驚いた顔でグリムレインを見上げながら「詳しく!詳しくですよ!グリムレイン!」と騒いでいると身を切るような寒さがブワッと辺りに立ち込める。

「むっ、来たな。嫁よ、アレが元妻のヴァレリーだ」
 グリムレインが目線を真っ直ぐ向ける先に透き通るような肌・・・と言うより、透き通る氷の肌をしたまるで彫刻で出来た様な美女がこちらに向かって飛んできていた。

「氷竜グリムレイン、元夫よ!よくぞ来ましたね!」
「ああ、ヴァレリー久方ぶりだの」
 両手を広げてそのままグリムレインの腕に収まった美女ヴァレリーはグリムレインしか見えていないのか、グリムレインの目の前に居た朱里に等気付かない様に嬉しそうにグリムレインの首に腕を回している。

「そちが来ぬからわらわは寂しくて溶けてしまうかと思ったわ」
「よく言うわ。我がおらずとも春には溶けるクセに」
 笑いながら2人は楽し気に抱擁し合っている。

「ヴァレリー、我の主君のアカリだ。それとアカリの婿のルーファスに、その子供達だ」
 ヴァレリーが頭を下げる朱里をチラッと見てからフンッとそっぽを向きルーファスの方へフワッと飛んでいく。
ルーファスの前でふわふわと宙に浮きながら立ち止まると唇の端を上げて笑う。

「うむ。わらわ、この男と今年は過ごすかのぅ」
「止めておけ。婿は気性が荒いぞ」
「それが良いのではないか。分かっておらんのぅ」
「ヴァレリーが次の冬まで粉々で良いなら我は止めぬが?」
「それは危ういのぅ。残念じゃ」
 ヲホホホと笑いながらヴァレリーが「城で歓迎しよう」とふわふわと先に飛んで行き、グリムレインが「行くぞ」と歩き始める。
朱里もルーファスも置いてけぼり状態で呆気にとられつつ付いていく。

「何だかグリムレインの元妻さんはグリムレインを女の人にしたみたいな感じですね」
「そうだな。まぁ、氷属性同士相性がいいのだろうさ」
 グリムレインがヴァレリーと何かを話しながら笑い声をあげているのを仲が良さそうだなと朱里が見ているとヴァレリーがチラッと朱里を見てツンッとそっぽをまた向く。

 流石に朱里でもヴァレリーの態度は何となくわかるので、やれやれと小さく溜め息をつきながらルーファスの後ろに隠れる様にして歩く。

「どうしたアカリ?」
「ううん。ただの風除けなのでルーファスしっかり守って下さい」
「うん?そんなに寒いなら手を握るか?」
「はい!」
 手を繋いでピタッとルーファスの腕に寄り添って歩きながら、再び目の合ったヴァレリーに朱里もツンとそっぽを向き返す。
後ろからその様子を見ていたミルアとナルアが弟と妹の手を繋ぎながら「あらあら」と声を出す。

「母上に好敵手登場ですわね」
「殿方は鈍いですから女の戦いですわねー」
「でも父上の取り合いでは無いので微妙でしょうか?」
「元妻対現嫁の対決ですわよ」
「ナルちゃん、嫁はグリムレインが言っているだけでは無くて?」
「それでも嫁は嫁ですわ」
 キャッとはしゃぎながらナルアが「面白そうですわ」と言い、ミルアは「母上を応援ですわね」とクスクス笑っている。
そんな姉達の様子を三つ子は首をかしげて見上げるのみである。

 城に入るとヴァレリーとグリムレインは生活居住区の人々に「おかえりなさいませ!」と声を掛けられていく。
居住区から上の階へ行き、大きな氷の扉を開けると広いアイスリンクの様な大広間があり、ヴァレリーが手を叩く。

「皆、元夫の帰還じゃ!宴の準備をせよ!」

 大広間の上から白い雪の妖精が舞い降りてきて「はい。陛下」と言いながら動き出す。
朱里達の周りに雪の精霊が来ると「お部屋にご案内します」と部屋に案内される。
それぞれに部屋が用意され、それぞれに雪の精霊が3人ずつお付きについて色々と世話を焼いてくれる。
至れり尽くせりではあるが、三つ子達は困惑して泣き出すのでルーファスの部屋と同じになった。

 朱里は部屋に通されると雪の妖精をガシッと捕まえる。
「このお部屋は何なのか聞いても良いですか?」
「陛下からの命令なのです」

 プルプルと震える雪の精霊に朱里も「上には逆らえないものね」と雪の精霊から手を離す。
朱里に用意された部屋は4畳程の小さな部屋で一歩間違えば監房の様な場所だった。

「宴の準備が整いましたらまた来ますぅ」
 プルプルと怯える様に雪の精霊が部屋を出て行き、朱里は自分の荷物を漁り始める。

「まったく、ルーファスですら女関係でこんな事無かったのに、グリムレインったら」

 荷物から『眠れる賛華』と『目覚めの賛華』を取り出す。
魔力はあっても魔法を使えない術者のみが使える武器で眠れる賛華には今は『保温魔法』が入っており、目覚めの賛華には『乾燥魔法』が入っている。

「【保温】【保温】【保温】【保温】」
 朱里が杖の中の保温魔法が尽きるまで呪文を降り続け杖の中身が無くなると冒険者服に着替えて部屋を出て行く。
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