黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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16章

夏の露店の女将亭

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 温泉大陸に夏の猛暑対策の移動型露店が15店舗配置され、通行門と船着き場で15店舗のマップが温泉大陸を訪れた人々に配られた。
15店舗全てアイスとジュースの説明が載っていて、スタンプラリー付きのマップで全店舗制覇で『温泉鳥のダブルアイス』『温泉鳥のサマージュース』という、5cm程の人形付き温泉街の食事処の無料券が当たる。
この食事無料券は【刻狼亭】を筆頭に食事のできるところならどこでも使用可能になっている。
ただ、獣人はお腹が弱いと判明したので、獣人の方用に腹痛止めの薬も【刻狼亭】の製薬部隊から提供されている。
味は・・・腹痛を我慢するのと一時口の中が開けなくなる苦さを味わうのどっちが良いか?という究極の選択でもある。

「ミッカジュース2つとアイスはコーヒーゼリー入りを1つとクッキー入りを1つ」
「はーい。ミッカ2、アイスのコーヒーとクッキー1ずつ」
「はい。スタンプ押しておきましたよ」
「はい。ご注文のミッカジュース2、コーヒー、クッキー1ずつです」

 注文担当はキリン、スタンプ係りフィリア、アイスとジュース受け渡しが朱里と『出張・女将亭』は3人でやっていて、それなりに今の所上手く回っている。
 ちなみに出店場所は【刻狼亭】の横なので従業員が水分補給に買いにくるのでサクラかな?と思わなくはない朱里達ではあるが、売り上げにはなっているので「過保護な人達だ」という事で済ませている。

 氷竜のグリムレインは風竜スピナとたまに温泉大陸の街中を吹雪をまき散らして拡散しながら猛暑対策をして、終わると朱里達の露店に戻りグリムレイン専用のアイスボックスに入り込みアイスを貪り食べている。
グリムレインは氷のグラスを大量に作成して他の店舗のアイスボックスに入れる作業もしているのでこの夏は1人で何役もこなす重労働者をしていて、今年の冬は朱里と一緒に旅行に行く事をご褒美に頑張っている。
ルーファスは「婿は嫁のオマケで連れて行ってやろう」と言われて複雑な顔をしていたが、この夏の猛暑の前に頷くしかなかった。

「嫁~アイスが無くなったぞ」
「こらぁ。追加のアイス頼んでおくから売り物に手を出しちゃ駄目」

 アイスボックスからグリムレインが手を出して露店の氷室からアイスを催促して朱里に手をペチペチ叩かれて頬を膨らませる。
追加のアイスは【刻狼亭】の厨房にある大きな業務用氷室に置いてあるので無くなると持ってきてもらっている。

「あ、良い所に。シューちゃんグリムレインのアイスが足りないから持ってきてくれる?」
「ええ~オレ、フィリアにアイス貰いに来ただけなのにぃー」
「シューちゃん、あとでフィリアちゃんに休憩あげるから急いで」
「はぁーい・・・フィリアー・・・」
 耳をぺしゃっとしてヒューンと鼻で鳴くシュトラールにフィリアがよしよしと尻尾を撫でる。
「シューがんばって!」
「頑張る!」
 フィリアの応援に尻尾を振ってシュトラールが【刻狼亭】へ戻り、朱里は我が子ながら少し残念男子だと半目になる。誰に似たのやら?と眉が下がってしまうところだったりする。

「ちちえー、あいしぃー」
「アカリ、盛況なようだな」
「お陰様で盛況ですよー。ふふっ」

 ティルナールを抱き上げてルーファスが露店に並ぶ人を見ながら、温泉街の道通りに設置してある他の店舗にも目を向け、他の店舗も列をなしている事から今年の猛暑対策は上手く行っている様だと頷く。

「ティルはお義父さんと何処に行くのかなー?」
 ティルナールの頬をぷにぷにと突きながらキリンが目を細めるとルーファスにヒシッと抱きついてティルナールが顔を隠したのを見てキリンが「人見知り可愛いっ!」と自分の目に手を当てて可愛いを連呼している。
「ティルは誕生日がそろそろだからなスタンプラリーをオレと一緒にするのが今年の誕生日プレゼントの様なものだ」
「あー、そういえば三つ子なのに1人だけ誕生日先なんでしたっけ?」
「ああ、誕生日祝いは他の2人と同じ日にするからな。ティルには先渡しの誕生日をしている」
「良かったねーティル」

 キリンに頭を撫でられながらティルナールが「やーん」と声をあげてルーファスが笑いながら「じゃあ、一番遠い場所から行ってくる」と連れ立って行く。
朱里とキリンとフィリアが手を振りながら見送って、シュトラールが追加のアイスを持ってくるとグリムレインがアイスボックスから出て、朱里の首に巻きつく。

「ひゃぁ!冷たっ!」
「気持ち良かろう?そろそろ我は見回りに行く」
「うん。頑張って行ってきて、気を付けて行くんだよ?」
「適当に氷を補充したら帰って来る」
「はーい。いってらっしゃい」

 グリムレインが朱里の首から降りると1メートル程の大きさに変化してからゆっくりと飛んでいく。
並んでいた人々もギョッとした顔をしてグリムレインが飛ぶ姿を見上げて「おおー」と声を上げている。

「さて、もうひと踏ん張り頑張りましょうか!」
「はい。お義母様!」
「はい。お義母さん!」

 朱里の元気な声に2人も元気に答えて初日は上々という感じで昼の4時前には店仕舞いをして終わった。
売り上げも上々という感じで他の露店も初日にしては上手くいったらしく、会合所に張り付けてある売り上げ表はほぼ同じような物だった。

「女将の所は冒険者に絡まれたりしませんでしたか?」
「無かったですよ。冒険者の男の人ってこういうの買うの恥ずかしいのか顔赤くして買うから可愛かったですけど。ふふっ」
「女将さんのところ可愛い子揃ってるから恥ずかしがってただけですよ」
「流石、私の息子達のお嫁さんなだけあるでしょー。ふふふ」

 朱里が嫁自慢をしてから「明日も皆さん頑張りましょうねー」と会合所からホクホクで出て行く。
【刻狼亭】に一度顔を出しに戻ると製薬部隊に捕まり、何事かと首を傾げると「女将確保です!」と叫ばれて製薬室に運ばれる。

「何なのー?!!」
「女将、熱があったり悪寒がしたりしてませんか?吐き気とか無いですか?」
「ないない。元気ですよ?何かあったんですか?」
「それが、水晶通信で各国にギルドから『熱病』が流行しているという発令が出て、どうも猛暑で病気が変質したようで今までの薬では効き目がないらしく、女将の確保を急げという事になったんです」
「あらら。ならポーション造りしなきゃですね」
「ええ。ご協力をお願いしたいところですが、とりあえず女将はしばらく露店禁止です」
「ええーっ!困りますー!」
「とりあえず、今から通行門を封鎖して港も一時封鎖して、女将が作りためたミッカジュースと梅ジュースを配りますから、女将はジュースとお茶を作りまくっていてください。それで今現在この大陸に居る人達に予防させますから、それが行き届いたら、通行門と港で温泉大陸に入って来る人達にも入る前に飲ませて安全を確保出来たら露店に戻って良いですから」

 製薬部隊のマグノリア達にありすの特殊ポーションを飲まされ、製薬室の新しい作業場に放り込まれると、アルビーとエデンが大量のミッカと梅樽と茶葉の箱の上に座っていた。

「アカリー、私も手伝いに来たよ」
「エデンもお手伝いするよぉー」
「2人共ありがとー」

 アルビーとエデンが朱里に擦り付いて顔に頭をスリスリとしていると、ルーファスが部屋に駆け込んできて朱里に抱きつくと心配そうな顔で朱里を覗き込む。

「アカリ大丈夫か?何ともないか?」
「平気だよ。ポーションも飲んだし、ちゃちゃっとジュースを作ってまた露店に戻りたいから頑張るよ」
 割れ物を扱う様に朱里の頬に手を当てて心配そうに瞳を揺らすルーファスに「大丈夫だよ」と言って笑うと、アルビー達もルーファスに「大丈夫だよ」と声を掛ける。

「オレを置いていかないでくれ・・・」
「置いていかないよ。病気は目に見えないから怖いけど、ありすさんのポーションもあるし、私も温泉大陸の皆が病気にかからない様に頑張るから、ルーファスは皆がパニックにならない様に的確に指示を出してあげて」
「そうだよ。ルーファス、私もアカリを手伝うし!」
「エデンも手伝う!だから大丈夫!」
「そう、だな・・・アカリとアルビー達を頼りにしている。だから、無理のない程度に頑張れ」
「うん。頑張るよ」
「任せてルーファス!」
「がんばる!がんばるー!」

 ルーファスが「部屋を用意してくる」と言って出て行くと、朱里は腕まくりをしてアルビーとエデンと拳をコツンと合わせると材料を台の上に並べていく。

「よし!久々の私、本気モード!!頑張るぞー!!」
「なら私も本気モード!」
「エデンも本気モード!」

 あははっと笑って3人は作業を開始しすべく隣りの部屋の製薬室に足りない調理器具を持ってくるように言いに行く。
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