黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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16章

女将亭の移転

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 初夏の温泉大陸の温泉はミッカが温泉の中に大量に入っているミッカ温泉と化す。
実はこの温泉のミッカの実は間引きされた物で大量に実を付けてしまうミッカの実は間引きしないと味が薄くなってしまったり、小ぶりな物ばかりになってしまうので温泉に入れてしまうのである。
温泉大陸中のミッカの木から間引かれた実の匂いに【刻狼亭】の旅館はミッカのいい香りで溢れている。

「ふぇ~・・・すごくいい香り」
「いいにゃー」
「いいなー」
「ふにゃー」

 朱里が三つ子を連れて旅館のロビーにあるソファに座って従業員が籠の中に入れたミッカを運ぶのを見ながらルーファスの仕事が終わるのを待つ。
今日は昼過ぎには仕事を切り上げて『女将亭』を新しい土地へ移動させる為にドラゴン達総出で動くのでルーファスもニクストローブとスピナの主君として力を貸す様に指示を出しに参加する。
 新しい移転先は温泉大陸の港とは逆の場所にある静かな場所で温泉街からも離れている。
新しく建てる『女将亭』に住居を移す為に、古い方の『女将亭』は別荘の様な形にする為に静かで土地の広い場所にした。
そのうち子供達に『女将亭』を引き継いでもらって、古い方へ移り住めば良いかとも思っている。
朱里の少し早い老後計画で、ルーファスも「なら畑でも作るか?」と笑いながら提案して朱里がそれに「果樹園もつくりましょう!」と計画を立てていっている。

「アカリ、待たせた!」

 ルーファスがスピナとニクストローブを連れてロビーに現れるとソファから三つ子が飛び降りてルーファスにしがみ付く。

「ちちえー」
「だっこー」
「ちちえ、だっこ!だっこー!」
「ああ、わかったわかった。お前達は元気だな」

 ルーファスがぴょんぴょん足をバタつかせるティルナール達を抱き上げると朱里がくすくす笑って「大丈夫?」と聞く。

「流石に3人はバランスが悪いが重くは無いから大丈夫だ」
「ふふっ、皆良かったねー。さぁ、ルーファス行きましょうか」
「しゅぱーつ」
「しんこー」
「あーい!」
「ああ。行くか」

 元気な声を出す子供達と一緒に【刻狼亭】を出て『女将亭』へ向かい歩き始める。
外へ出ればミッカの匂いはほんのりとしている程度で初夏の風に直ぐに鼻腔から抜けて行ってしまう。
温泉街は薄着の冒険者が多く、足湯に浸かりながら道路で雑談をするお客が多い。
店の人々も着物が少し薄い物に切り替わって浴衣に近い形になっている。

「あっ、見て。ミッカの温泉饅頭だって」
「そういえば試食してくれと言われて食ったな・・・」
「なっ!ルーファス、ズルいです!私も食べたかったのに」
「なら買っていくか?ただ、食べた感じ改良の余地ありという味だったぞ?」
「そうなのですか・・・なら1個だけ!」

 朱里がミッカの温泉饅頭を1個買い、手でちぎって自分の口に入れると「うーん・・・?」と眉間にしわを寄せる。

「ははえー、ずるー」
「ちょーない」
「ははえー」
「うーん。これ苦いよー?一口だけだよー」

 小さく千切ってティルナールの口に入れると「にーぃ」と渋い顔をして眉間にしわを寄せるティルナールを見てエルシオンとルーシーが自分の口を手で押さえて首を振る。

「あ、うん。ですよねー」
「お前達はティルが可哀想じゃないのか?」
「いななーい」
「いらなー」
「エルとルーシーの見事な裏切りですねぇ。でも、これミッカの皮練り込み過ぎて苦いもんねぇ」
「少しばかり人を選ぶ味だな。まぁ改良次第でどうにかなりそうではあるがな」

 そんな話をしながら朱里が「舌がビリビリするー」と言いながら饅頭を食べきるとようやく『女将亭』が見え、庭先ではドラゴン達がハガネと一緒に家全体に大きな布を巻いていた。
朱里が手を振るとエデンとケイトが飛んできて朱里に抱きついて「おかえりなさい」と顔を摺り寄せる。

「皆、準備はどう?」
「見ての通りだ。あとはニクストローブが地面を固めてそのまま皆で持って行きゃ移転完了ってとこだろ」
「婿、温泉のバルブを止めるのは何処だ?」
「ああ、それなら資材置き場になっている所の近くの地面に蓋がしてあるはずだ」

「皆、主君命令です!家のお引越しの為に全力で力を貸してね!」
「ニクストローブ、スピナ。アカリに力を貸してやってくれ」
「嫁の為なら任せておけ」
「可愛いアカリの為に頑張るわよー!」
「主さまのためにー!」
「がんばろー!」
「ルーの命令だけど、勿論アカリちゃんの為に頑張るよ!」
「ワシは作業が終わった後の嫁御の飯を楽しみに頑張るわい」

 ワイワイと騒ぎながら、温泉のパイプを繋いで居たバルブを閉めて蓋をすると、地面をニクストローブが固めてケルチャが樹の蔦で家全体を縛り上げるとドラゴン達は元の大きさに戻り、『女将亭』をそれぞれ持って持ち上げ、ゆっくりと空に浮かせながら移動し始める。
スピナが下から風で押し上げながらドラゴン達が運んでいく。

「それじゃ私達も行こうか。アカリ、ルーファス。子供達落とさないようにね」
「うん。アルビーお願い」
「頼んだアルビー」

 アルビーは朱里とルーファスと三つ子を乗せて後ろから飛んでついていく。
ハガネは家の屋根に乗っての移動で大工道具と10段の重箱のお弁当を両脇に抱えている。

「揺らしたら弁当が無くなるからな!気を付けて進めろよー!」
「嫌な脅しをするでないわ!」
「早く飯にしたいのぅ」

 そんな声を響かせて進んでいき、朱里が携帯で写真を撮りながら「私の空飛ぶお城」と笑って、ルーファスが「世界広しと言えど、ドラゴンにこんな事をさせたのはアカリぐらいだ」と笑う。
ズシン・・・と、大きな音をさせて新しい移転地に着くとハガネ指導の元、『女将亭』は修繕作業に入った。
修繕作業を進めながら、ガランとした家の中を見て朱里がしんみりとしていると、アルビーが朱里の肩を叩く。

「アカリ、お店部分空いてるじゃない?」
「うん。どうしようかって感じだよね」
「あのね。ここ私達ドラゴンのお店にしていい?」
「え?お店?」
「うん。お酒を置くスペースが結構手狭になってきたし、いっそドラゴンの居酒屋でもしようかなって」
「うんうん。良いと思う!なら、私おつまみのお料理作る!」
「本当!やったぁ!アカリ大好きー!」

 アルビーの発案から旧・『女将亭』はドラゴンのお酒専門店『悪友の集い』というバーになる。
朱里の子供達が独り立ちしてもここは変わらず、遠い未来まで続くドラゴン達の憩いの場になる。
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