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16章
13代目の印
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小鬼がムスッとして目の前で優雅にお茶を飲んで持て成されている小人に口を尖らせる。
小人はエフリの都市の復旧とロックヘルの盗まれた財貨が戻った事を報告に遠路はるばる温泉大陸に来たのである。
エフリの都市からほぼ出てこない小人が出てきたこと自体珍しく、小人を見ようと従業員達も事務所に出入りを繰り返している。
「皆さん!用も無いのに事務所に出入りしないで下さい!」
キィッと小鬼が手を上げてプンスカ怒って見せるが、従業員達は「まぁまぁ」と言いながら引切り無しに相変わらず事務所に訪れている。
小鬼のそんな姿を見て小人が無表情な顔で口の端だけ上げてみせる。
「ほら、小鬼。マシュマロですよ~」
ぽふっと小鬼の口にマシュマロを咥えさせてテンが従業員達に「旦那様がそろそろ来ますよぉ~早く仕事に戻って下さいねぇ~」と言い、従業員達はワラワラと事務所から出て行く。
小人はお茶うけに出された温泉饅頭を竹の爪楊枝で切り取りながら、黙々と食べ進める。
「待たせたな。遠い所からわざわざ済まない」
「いえいえ。こちらこそ、お客様にはご迷惑をお掛けいたしました」
ルーファスが事務所に入り事務所の応接間のテーブルの上に座っている小人を見つけて声を掛けると、小人は口元を小さなハンカチで拭いてルーファスに正座して頭を下げる。
「犯罪に使われた証拠でもあるのでギルドの方から返却がようやく来ましたのでこちらをご確認ください」
そう言って小人は小さな袋から自分と同じ背丈の黒い判子を取り出し、それをルーファスが指で摘まんで確認する。13代目の当主の印鑑。
ルーファスの印は【刻狼】の狼の字が少し雄々しい字なのだが、13代目の印は刻の字が強弱がハッキリしている物になっている。
「ああ、13代目の印で間違いない」
「では、再びロックヘルへ収納でよろしいですか?」
「そうしてくれ」
「あとは他に盗まれたり、破損してしまった物に関しましては一度ロックヘルへご足労いただくことになります。修復はしてありますが、万が一もありますので」
「わかった。まぁ、先代達の思い出の品だからなオレが気付ける程の物はあるかはわからないがな」
小人は袋に13代目の印を入れていくと、ロックヘルにそのまま繋がっているらしく、袋は印を入れ込むとペタンと薄い袋になる。
「【刻狼亭】の皆様には盗まれた財貨の回収にご協力いただきありがとうございます。ファルヒューム様より心からの感謝とお品を預かってきました」
再び小人が袋の中に手を入れて銀色の指輪をルーファスに差し出す。
銀色の指輪は白い丸い石が1つついているシンプルな物だった。
「この指輪は何だ?」
「この指輪を身に着けていると毒や麻痺という状態異常に掛からない解呪の指輪です」
「ふむ。アカリにでも付けさせておくか・・・」
「珍しい物ですので大事になさってください」
ルーファスが指輪を手に取って握った時、指輪が酷く心をざわつかせた。
涙が零れテーブルの上に音もなく落ちていき、胸が痛く苦しく切ない思いが溢れ出す。
ルーファスにも意味の分からない涙に指輪を手放そうとするが、、手は指輪を離す事を拒む様に握りしめたまま手が開けなかった。
「旦那様・・・?大丈夫ですかぁ?」
「・・・ああ」
テンが眉を下げながらハンカチをルーファスに差し出してルーファスが自分の目にハンカチを当てる。
小鬼とテンが小人を見ると、小人は無表情のまま首を傾げる。
「この指輪は何なのです!」
「変な物だったら容赦しないですよぉ?」
「それは今回の岩喰虫が発生した部屋の持ち主が死亡が確認されたのでファルヒューム様が慰謝料代わりに財貨を全て没収した物です。その指輪は【聖域】の人間の骨で作られた物の様です」
ケンジ・タナカの物だと解るとルーファスは納得がいった。
【聖域】の人間の骨。それは三野宮朱里、ルーファスの最愛の番の骨。
別の世界線で殺された朱里から作られた指輪なのだろう。何故消えずにこの世界へ持ち込まれたのかは分からないが、自分の番の骨だとルーファスには解る。
ようやく開いた手の平で無機質な指輪になってしまっている朱里が泣いている気がしてまた涙が溢れる。
「アカリ・・・」
自分の涙は出逢う事すら適わずに自分の番を失った自分の涙なのだろうとルーファスは理解して目を閉じる。
ああ、今日は早く帰って朱里を抱きしめないと自分の心がバラバラになりそうだと指輪をまた握りしめる。
テンと小鬼は少し困った顔でルーファスを見た後で小人の頬を左右から引っ張る。
余計な物を持ってきて・・・と、声には出さずに静かにパチンと手を離す。
小人は訳が分からないという感じで頬を摩りながら、自分の用件は終わったとばかりに、もう一度ルーファスにお礼を言って布袋の中に顔を入れるとスルスルと袋の中に入っていき、布袋だけになると布袋もスルスルと小さくなり消えていった。
ロックヘルと繋がっている不思議な袋なのだろうという事で何となく察して、テンが小人の使った茶器を片付け、小鬼がテーブルの上を念入りに拭き掃除をして仕上げとばかりにフーッと息を吹いて飛ばしていた。
ルーファスが気持ちを切り替えて仕事を始めるとテンと小鬼は安堵して自分達の業務に戻る。
早めに仕事を終わらせて夕暮れの中を屋敷に帰れば朱里と子供達が競う様に抱きついてきて「おかえりなさい!」と声を弾ませるのを聞いてようやくルーファスの心は落ち着くことが出来た。
小人はエフリの都市の復旧とロックヘルの盗まれた財貨が戻った事を報告に遠路はるばる温泉大陸に来たのである。
エフリの都市からほぼ出てこない小人が出てきたこと自体珍しく、小人を見ようと従業員達も事務所に出入りを繰り返している。
「皆さん!用も無いのに事務所に出入りしないで下さい!」
キィッと小鬼が手を上げてプンスカ怒って見せるが、従業員達は「まぁまぁ」と言いながら引切り無しに相変わらず事務所に訪れている。
小鬼のそんな姿を見て小人が無表情な顔で口の端だけ上げてみせる。
「ほら、小鬼。マシュマロですよ~」
ぽふっと小鬼の口にマシュマロを咥えさせてテンが従業員達に「旦那様がそろそろ来ますよぉ~早く仕事に戻って下さいねぇ~」と言い、従業員達はワラワラと事務所から出て行く。
小人はお茶うけに出された温泉饅頭を竹の爪楊枝で切り取りながら、黙々と食べ進める。
「待たせたな。遠い所からわざわざ済まない」
「いえいえ。こちらこそ、お客様にはご迷惑をお掛けいたしました」
ルーファスが事務所に入り事務所の応接間のテーブルの上に座っている小人を見つけて声を掛けると、小人は口元を小さなハンカチで拭いてルーファスに正座して頭を下げる。
「犯罪に使われた証拠でもあるのでギルドの方から返却がようやく来ましたのでこちらをご確認ください」
そう言って小人は小さな袋から自分と同じ背丈の黒い判子を取り出し、それをルーファスが指で摘まんで確認する。13代目の当主の印鑑。
ルーファスの印は【刻狼】の狼の字が少し雄々しい字なのだが、13代目の印は刻の字が強弱がハッキリしている物になっている。
「ああ、13代目の印で間違いない」
「では、再びロックヘルへ収納でよろしいですか?」
「そうしてくれ」
「あとは他に盗まれたり、破損してしまった物に関しましては一度ロックヘルへご足労いただくことになります。修復はしてありますが、万が一もありますので」
「わかった。まぁ、先代達の思い出の品だからなオレが気付ける程の物はあるかはわからないがな」
小人は袋に13代目の印を入れていくと、ロックヘルにそのまま繋がっているらしく、袋は印を入れ込むとペタンと薄い袋になる。
「【刻狼亭】の皆様には盗まれた財貨の回収にご協力いただきありがとうございます。ファルヒューム様より心からの感謝とお品を預かってきました」
再び小人が袋の中に手を入れて銀色の指輪をルーファスに差し出す。
銀色の指輪は白い丸い石が1つついているシンプルな物だった。
「この指輪は何だ?」
「この指輪を身に着けていると毒や麻痺という状態異常に掛からない解呪の指輪です」
「ふむ。アカリにでも付けさせておくか・・・」
「珍しい物ですので大事になさってください」
ルーファスが指輪を手に取って握った時、指輪が酷く心をざわつかせた。
涙が零れテーブルの上に音もなく落ちていき、胸が痛く苦しく切ない思いが溢れ出す。
ルーファスにも意味の分からない涙に指輪を手放そうとするが、、手は指輪を離す事を拒む様に握りしめたまま手が開けなかった。
「旦那様・・・?大丈夫ですかぁ?」
「・・・ああ」
テンが眉を下げながらハンカチをルーファスに差し出してルーファスが自分の目にハンカチを当てる。
小鬼とテンが小人を見ると、小人は無表情のまま首を傾げる。
「この指輪は何なのです!」
「変な物だったら容赦しないですよぉ?」
「それは今回の岩喰虫が発生した部屋の持ち主が死亡が確認されたのでファルヒューム様が慰謝料代わりに財貨を全て没収した物です。その指輪は【聖域】の人間の骨で作られた物の様です」
ケンジ・タナカの物だと解るとルーファスは納得がいった。
【聖域】の人間の骨。それは三野宮朱里、ルーファスの最愛の番の骨。
別の世界線で殺された朱里から作られた指輪なのだろう。何故消えずにこの世界へ持ち込まれたのかは分からないが、自分の番の骨だとルーファスには解る。
ようやく開いた手の平で無機質な指輪になってしまっている朱里が泣いている気がしてまた涙が溢れる。
「アカリ・・・」
自分の涙は出逢う事すら適わずに自分の番を失った自分の涙なのだろうとルーファスは理解して目を閉じる。
ああ、今日は早く帰って朱里を抱きしめないと自分の心がバラバラになりそうだと指輪をまた握りしめる。
テンと小鬼は少し困った顔でルーファスを見た後で小人の頬を左右から引っ張る。
余計な物を持ってきて・・・と、声には出さずに静かにパチンと手を離す。
小人は訳が分からないという感じで頬を摩りながら、自分の用件は終わったとばかりに、もう一度ルーファスにお礼を言って布袋の中に顔を入れるとスルスルと袋の中に入っていき、布袋だけになると布袋もスルスルと小さくなり消えていった。
ロックヘルと繋がっている不思議な袋なのだろうという事で何となく察して、テンが小人の使った茶器を片付け、小鬼がテーブルの上を念入りに拭き掃除をして仕上げとばかりにフーッと息を吹いて飛ばしていた。
ルーファスが気持ちを切り替えて仕事を始めるとテンと小鬼は安堵して自分達の業務に戻る。
早めに仕事を終わらせて夕暮れの中を屋敷に帰れば朱里と子供達が競う様に抱きついてきて「おかえりなさい!」と声を弾ませるのを聞いてようやくルーファスの心は落ち着くことが出来た。
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