黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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16章

浴衣を届けに

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 夕暮れの【刻狼亭】で『星降り祭り』の前夜祭が開始されて従業員達が出掛けて行く音を聞きながら、朱里とルーファスが執務室で桐の箱を開ける。
桐の箱の中には白い和紙に包まれた浴衣が1枚ずつ入っている。
着物を頼んでいる反物屋から新しい浴衣が届いた物で、朱里が一枚ずつ確認していく。
『星降り祭り』用に用意した浴衣はドラゴン達と家族の物でそれぞれ色違いの帯に柄は同じではあるけれど、袖がそれぞれをイメージした色にグラデーションに染められている。
朱里の浴衣は袖が朱色のグラデーションでミルアとナルアは桃色と桜色のグラデーションになっている。
ルーシーは橙色のグラデーションでティルナールとエルシオンは黄色と山吹色にしてある。
まだ個性という個性が無いので雷属性の色に三つ子は統一した感じである。

「今年の浴衣の柄は藤にしたのか?」
「ええ。藤の花は春の物ですから。それと藤の花の下に狼の柄も入れているんですよ」
「アカリデザインの物だな」
「ふふっ、今年の浴衣のお披露目はキリンちゃんとフィリアちゃんがしてくれるから旅館の上でそれを愉しみに見るつもりです」
「あの2人のも作ったのか」
「家族ですから。お揃いにしたいじゃない?」
「そうだな。3日間開催されるからリューやシューが用意した浴衣も無駄にはならないだろうしな」
「あの子達も用意したんですか?」
「ああ。自分の番には自分で用意して着せてやりたいだろう?」
「そっかー・・・そうだよねー・・・お母さん業も控えないと駄目ですね」

 少し残念そうな顔をしながらも息子達にはもう自分達の家庭があるのだから、自分はでしゃばるのは控えるべきかな?と、浴衣を見ながら小さかった頃のリュエールとシュトラールを思い出して寂しい気持ちにもなる。
ルーファスが父親離れを悲観していたが、朱里も母親離れを悲観しそうで小さくため息を吐く。

「アカリ、オレもアカリに浴衣を用意しているんだが着て出掛けてみるか?」
「え・・・ルーファスも用意したの?」
「息子達に負けてはいられないからな」
「ふふっ、もう、ルーファスったら」

 ルーファスが別の桐箱を棚の上から出し、朱里の前で箱を開けると黒い浴衣に烏の羽の様な光の加減で虹色に光る染めでブルースターの花柄が描かれている浴衣を出す。

「瑠璃唐綿ですね」
「ああ、アカリが初めてデザインした着物もこれだっただろう?」
「覚えてくれていたんですか?」
「自分の番の事はちゃんと覚えてる」
「嬉しいです。ふふっ着るの勿体ないけど着てからこの浴衣をリューちゃん達に届けて前夜祭に行きましょう!」

 ワンピースを脱いでいそいそと浴衣に袖を通すと浴衣の帯をルーファスが朱里の後ろに回って結んで、朱里が袖を少しだけ摘まんで「似合いますか?」と笑う。

「似合ってる。オレの番は可愛い」
「もう、ルーファスは可愛いばかりなんだから」
「アカリは可愛いんだから仕方がない」

 軽く唇を合わせてリュエールとキリンの分の浴衣を風呂敷に包み、シュトラールとフィリアの浴衣も別の色の風呂敷に包んでルーファスに持って貰うと2人は息子達の家へ目指して【刻狼亭】を出て行く。
先に家の近いシュトラールの家に向かい、2階建ての可愛らしい小洒落た洋風の家を訪ねるとシュトラールが玄関を開ける。
少し不機嫌な顔をして出たものの、朱里とルーファスだと気付くとパッと顔を明るくして尻尾を振る。

「2人共いらっしゃい!どうしたの?」
「あのね『星降り祭り』の浴衣をフィリアちゃんとシューちゃんの分を作ったから届けに来たの」
「ありがとう!母上!」

 朱里の頬にチュッとシュトラールがキスをするとルーファスがシュトラールのおでこを指で弾く。
キャインと小さくシュトラールが悲鳴を上げると、奥からフィリアがパタパタと音を立てて出て来る。

「シュー何かあったの?・・・って、お義父様、お義母様いらっしゃい!」
「ふふっ、お邪魔してます。浴衣を作ったから届けに来たの。フィリアちゃんのは背中にスリットが入ってるから羽が出ても羽を痛めない様にしたの」
「わぁ!お義母様ありがとうございます!今、シューとその話で口論していたんです」
「あら?口論する事があるの?」
「シューったら、前から見たら普通の浴衣なんですけど、背中の所だけ布がない浴衣作ってきて・・・これなんですけど・・・恥ずかしくて」
「あらあら、襟首で前身頃を作って背中は空いてるのね・・・背中開きドレスの東風って感じね」

 フィリアが背中の開いた浴衣の後ろを見せて頬を赤くするが、朱里は「斬新ね」と感心しながら、フィリアの帯を少し解いて帯を子供の飾り帯の様に大きなリボン状に仕上げる。

「こうしてボリュームを持たせた帯の方がこの浴衣なら合うと思うわ」
「さすが母上!」
「お義母様~っ!!恥ずかしいです・・・っ!!」
「羽が出ない様に自分をコントロールしていくしかないだろうな」

 ルーファスが苦笑いしつつ、リュエールの所にも届けると言ってシュトラール家から出ると街中は少しずつ前夜祭に行く人々でにぎわい始めていた。
リュエールの家に向かう為、間欠泉の森の中の歩いているとコロコロとした小さな温泉鳥の雛たちがアグアグ鳴きながら並んで歩いているのを見て「可愛い」と朱里が騒ぐとルーファスの手が朱里の口を塞ぐ。

「・・・んぐっ?」
「シッ。少しだけ黙っていろ」

 首を傾げるとルーファスに抱き上げられて森の中を静かに素早く駆け出す。
何があったのだろう?と不思議に思いながらリュエールの家まで着くと玄関の前に置いてあるウッドチェアに浴衣を入れた風呂敷を置くとルーファスが踵を返す。

「あの、リューちゃんに会わないの?」
「いや、リュー達は今家には居ない」
「そうなの?あっ、ルーファス耳が良いから家に居ないのが解るのね」

 納得と、朱里が笑うとルーファスが苦笑いして朱里を抱きかかえたまままた森を素早く駆けて出て行く。
まさか自分の息子夫婦が森の中でむつみ合ってるのを朱里に見せるわけにもいかない。そしてお互い気恥ずかしいだろうというルーファスなりの気遣いではあるが、家の前に浴衣を置いてきた時点でリュエールは察しそうではある。

「ルーファス、前夜祭の屋台が見えてきたよ!」
「ああ、初めて開催した時と変わらないな」
「ふふっ、あの時もこうして抱き上げてもらって歩いてたね」

 あの頃より大人な年齢ではあるけれど、シュトラールの能力で10歳若返った2人は見た目は少し変わっただけであの頃とそれ程変わりがない。

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