黒狼の可愛いおヨメさま

１６章

当主代理

　本日何度目かの書簡に頭痛を覚え始めたリュエールが隣りで欠伸を噛み殺している弟のシュトラールにも頭痛を覚える。

「シュー、陽射しが温かいからって寝ないでよ」
「んー、リューは眠くならない？」
「眠くてもこの書簡の山をどうにかしないと僕達は休めないの」
「父上が帰ってきたら父上に投げちゃえば？」
「父上が帰ってきたら母上の所に2日間は張り付いてるだけろうから無理」
「あー、うん。わかる。オレもフィリアに会いに帰りたい」
「僕だってキリンに会いに帰りたいよ」

　書類の山は釣書の詐欺に関するもので、これに関しては既にギルドを通して釣書が送られた人間は詐欺なのでギルドの方に釣書を送るように伝達しておいたのだが・・・。
思いのほか多い。
一応、大金貨6枚分またはそれ相当の財貨を・・・という文章で大抵の者は詐欺を疑い引っ掛かってはいないらしい。
ディトリックスが初めの被害者ともいえる。
家の家宝まで出して結婚したかったのか？と、ディトリックスの今までの事を調べ上げた所、ディトリックスは幼い子供に興味がある少し難ありの性癖の持ち主と判り、領地で幼い子供に手を出す事でも少し問題視されていた。
そこへ釣書の姿絵の朱里を見て、合法的に幼い顔立ちの妻を娶れると深く考える前に暴走してしまったのだろう。

　他の人間は【刻狼亭】との関係は持ちたいが大白金貨6枚は尻込みもするし、断るにしても【刻狼亭】へ断りの書簡を送るのも失礼のない様にと、頭を悩ませていたところへ【刻狼亭】からギルドへ詐欺なので報告を！と、伝達が回りホッとして最寄りのギルドへ送られて来た釣書を持ってきたという。

　そして、その釣書やギルドの報告書がこの書簡の山としてリュエールとシュトラールの目の前に山積みになっているのである。

「こんなによく送り付けたよね」
「暇人なんじゃない？オレ読んでると眠くなる」
「だからシュー、寝ないでよ？」
「あー、これ何か、ギルドが詐欺の伝達があと少し遅れてたら【刻狼亭】を訴えるところだったって貴族が居るよ」
「何事も早め早めが肝心だよね。まぁ訴えられても鼻で笑ってあげるけどね」

　リュエールとシュトラールが、くわぁー・・・と欠伸をしていると、チリンという音と明るい喋り声に耳をピンッと立てて、サッと姿勢を正して書類に目を通し始める。

　コンコン

「リュエール、お昼ご飯持って来たよ」
「シュー、今日のお弁当は春蓮根を使ってみたの」

　リュエールの番のキリンと、シュトラールの番のフィリアがお弁当を包んだ風呂敷を持って笑顔で部屋に入ってきて2人は書類から顔を上げて、笑顔を向ける。

「キリンありがとう。丁度休憩にしようと思ってたんだ」
「お疲れ様。わたしお茶淹れるね」

　お弁当をテーブルに乗せるとキリンが小さな給湯室に姿を消し、リュエールが書類を脇に積み重ねるとサッサとお弁当の置かれた応接間のテーブルに移動する。

「フィリアのお弁当楽しみに仕事頑張ってたよ！」
「はい！シューの為に私もお弁当頑張りましたよ！」

　フィリアに抱きついて頭に顔を擦り寄り尻尾をブンブンと振り回って、早くご飯にしようとフィリアを抱きしめたまま応接間のテーブルの方へ移動して、リュエールに生暖かい目で見られるが、お互いに番の前では見栄は張りたいので黙っておく。
お互い、さっきまで欠伸してただろ！とは、流石に言えない。

　お茶を4人分入れたキリンが戻ってきて、お弁当を広げると昼食が始まり、リュエールが「この時間が一番穏やかで癒されるよ」というとキリンが「午後からも頑張って」と笑いかける。
シュトラールはフィリアにお弁当を「あーん」してもらいながら食べて「フィリア大好きー！」と騒いでいる。

　小一時間程まったりと過ごした後、キリンとフィリアは「お義母さんと一緒に今日は桜餅作るの」と朱里の居る屋敷に行く事を2人に伝えてから部屋を出て行く。

「はぁー・・・早く仕事終わらせて帰りたい」
「お昼食べた後って眠くなるから、このまま帰ってフィリアと寝たい」

　春の陽射しに負けてすでにやる気は床を這いまわっている2人を縁側で遊んでいた魔獣のクロが何とも言えない顔で見つめていた。
縁側から部屋に入り、シュトラールの足元にスリつくと、シュトラールに軽く体をはたかれて土埃を落とされ、ソファの上に登って春の陽射しを浴びて大きく欠伸をする。

「あー・・・クロの欠伸が移るー・・・ふぁぁ」
「あー・・・シューの欠伸が移った。ふぁぁ～」

　2人のやる気が再び地を這ったところで、魔法通信の腕輪が震えてルーファスが戻って来ると連絡があり、2人はシャキッと目を覚まして書類に目を通す。

「父上が帰って来るまでに終わらせるよ！」
「了解！書類仕事に父上の仕事を追加されたくないからね！頑張ろ！」

　やる気（？）を出した2人にクロが片目を開けて見てから、ふぁーと欠伸をして再びまどろむ。