黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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16章

財貨の小人

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 ロックヘルの小人。
財産管理人をしている小鬼とは別の意味で並列思考する小人達。
小鬼程の喜怒哀楽は無く、只々、預けられた財貨を守る為だけの小人。
小人に預けた物は世界で一番安全と言われている『ロックヘル』という所に保管される。
ロックヘルはとても硬い岩でできた保管庫で、その保管庫を守る小人もまた岩のように固い。
物理的に。
小人が攻撃を受けると鉄の塊の様に硬くなり、決して動かす事が出来ない。
しかも全ての小人が並列思考しているので1人がやられると全員鉄の様に硬くなり、保管庫を開ける事は実質不可能にしてしまう。
ロックヘルは一見1つの空洞の様な部屋なのだが、預ける人によって部屋は変わる。
その原理はよくは解ってはいないが、小人以外は開ける事も、預けた人の部屋を呼び出すことも出来ない。

【刻狼亭】でもロックヘルに預けている財貨はあり、その財貨は代々の当主の思い出の物だったりするのだが、子孫が使える物ではない物だけを入れている為に、普段ロックヘルの財貨を出し入れする事は無い。
当主が亡くなった時にだけ、その当主の思い出の品や使っていた物を入れておく、言わば思い出の物置小屋なのである。

 そして件の13代目の印もそのロックヘルに入れられた物。

「『ロックヘル』に何かあったのかもしれん。様子を見に行くか」

 ルーファスの言葉にリュエールが「なら僕が行こうか」と言うが、ルーファスは首を横に振る。

「まだリュエールに当主の座を明け渡して居ないから小人が開けてはくれないだろう」
「残念。僕も一度ロックヘルを見に行きたかったんだけどな」

 ガチャッと扉が開くと小鬼がぴょーんとルーファスの足元に飛びついてくる。

「あっ、こら!小鬼駄目ですよー」
「旦那さん!今、ロックヘルと言いましたね?僕も行くのですっ!!!」

 テンがルーファスの足に飛びついた小鬼を指で摘まみ上げて「こらっ!」と叱りつけるが、小鬼は手足をバタバタさせて「行くんですー!」と騒いでいる。

「失礼しましたぁー。先程の事情聴取で判明した事を報告に来たんですけど、大丈夫ですかぁ?」
「ああ。構わん・・・小鬼、小人もお前達も似た様なものだろうが・・・」
「違います!あんな無表情な石頭達と一緒にしないで下さい!」

 キィッと声を上げながらも「それでもあいつらの情報が欲しいのです!」と小鬼が騒ぎ、テンにおにぎりの様に両手でむぎゅむぎゅと揉まれている。
これも一種の職業病?と、思いつつむぎゅられている小鬼を見つめながら朱里がテンと小鬼達にお茶を淹れて出す。

「では、報告を始めますねぇ。ディトリックス・エルロイ29歳クロイツ国のハーマン領の領主で馬亜人。【刻狼亭】より釣書入りの書簡が送って来られ、内容が16歳になる【刻狼亭】の娘ミルア・トリニアとの縁談に関するもので、大白金貨6枚相当の財貨を持って婚約の取り決めを交わす・・・という様な交渉をしたらしいですよぉ~」

 ルーファスとリュエールの片眉が上がり、ミルアはナルアと顔を見合わせる。

「釣書にあった姿絵ですが、どうやら【魔果】の事件の時にアカリさんが『カメラ』で撮られた物を写して描かれたもののようです。新聞社には写真を使わない様にさせていましたが、どうやら何処かで悪用された様ですねぇ。これに関してはどこの新聞社の『カメラ』の写真かを調べます」
「大白金貨6枚相当に随分と拘る犯人だな・・・しかし、このままでは【刻狼亭】の名に傷が付く」
「妹を身売りさせて嫁がせようとしているってイメージが悪いね。それに10歳の子供だと直ぐにバレるのに16歳って書いてあるのが・・・姑息だよね」

 ミルアとナルアはお互いに手を取り合って「10歳で嫁ぐのはご勘弁ですわ」「でもあと6年したら16歳ですわね」と言い、朱里が「16歳は母上が父上に嫁いだ年齢ですよ」と2人に言ってキャッキャッとはしゃいだ声を上げている。
3人を横目で見てルーファスとリュエールは平和な我が家の女性陣に小さく苦笑いする。

「ディトリックス・エルロイは温泉大陸へ商談で来る予定もあった事からぁ、婚約者として未来の花嫁に直接、大白金貨6枚相当の宝石を持って結納として義父になるであろう旦那様に挨拶に来たそうです」
「あっ、その宝石って赤いやつですか?」
「ええ、そうです。ディトリックス・エルロイの家に代々伝わる家宝だそうですよ」
「押し売りだと思ってました・・・もう少ししつこかったら宝石を港に投げつけるところだったー・・・良かったぁ。投げつけないで。ふふっ」

 朱里がおかしそうに笑って、ルーファスが「海にでも投げ込んでしまえば良かったものを」とボソリと呟き、リュエールに片眉を上げられていた。

「まぁ、話からしてディトリックス・エルロイは騙された被害者・・・と見るのが良いと思いますが、この様子ですとあと何件か被害者が出そうですねぇ。温泉大陸に来るであろう人々の目的項目をよく調べてから入国させるのが良いかと思います。ミルアさんナルアさんと姿絵がある事からアカリさんは十分気を付けた方が良いでしょうねえ」

 ミルアとナルアは扇子を持って「返り討ちですわ」と言い、朱里は困った顔でルーファスを見上げる。

「ミルアとナルアは当分外出禁止だ。常にローランドを側に置く事。アカリはルーシーも危険があるかもしれないからルーシーに気を配っておく事。あとグリムレインとエデンにケルチャとケイトを常に側において1人になるな」

「えーっ!父上そんなぁー!」
「父上、わたくし達自分の身は守れましてよ?」
「駄目だ。我が儘を言う様ならササマキの『弱点突き』で獣化させて鎖で繋いでおくぞ」

 耳を下げて「父上酷いのです・・・」と眉を下げるミルアとナルアに朱里が「ルーファス、そこまで脅さなくても・・・」と声を出すと、ルーファスに「アカリが一番問題なんだ」と言われる。

「アカリをミルアだと思っている奴がいる以上、一番危険なのはアカリだ。グリムレインに言って一時的にアカリを氷に閉じ込めた方が安全かもしれないと思っているぐらいだ」
「ひぇぇ・・・大人しくしておくのでご容赦ください」

 ルーファスの本気の目に朱里が少し涙目で首を横に振った。
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