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16章
黒馬の婚約者
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差し出された宝石の入った小さな小箱を首を傾げて見つめると、目の前の青年は掌に小箱を乗せて来る。
この温泉大陸では余り見ない亜人種の人で獣人とは少し違って全面的に獣部分が多く馬面・・・文字通り、馬。
黒い馬の亜人なのだろうとチラチラと顔を伺ってみる。
「あの、誰かとお間違いではないでしょうか?」
「いえいえ、貴女は温泉大陸の【刻狼亭】のトリニア家の方だろう?」
「はぁ、まぁそうですが・・・」
赤い宝石が箱の中で輝いて、差し出した男の人の瞳の赤の様で少し見比べた後で思い当たったのは「押し売り」ではないかという事だった。
「我が家に余分なお金はありませんから!お断りします!!」
「え?」
小箱を男に付き返して先を進むと男が「待って待って」と言いながら追いかけてきて「しつこい押し売りね!」と、眉間にしわを寄せると男がまた回り込んで来る。
「この宝石は結納だと思って貰って欲しい」
「はぁ?」
「私の気持ちだ」
「・・・本当に人違いですよ?私人妻ですし」
「え・・・?」
今度はあちらが首を傾げる。傾げられても私は人妻ですよ?と、私も首を傾げる。
「失礼だが、トリニア家のミルアさんでは?」
「・・・あなたはどこの誰?まずは名乗りなさい」
少し間を開けてから馬亜人の人は目を伏し目がちにしてから微笑んで、片手を胸の前に出してお辞儀をする。
「私はクロイツ国ハーマン領の領主ディトリックス・エルロイと申します。ミルア・トリニア、君の婚約者だ」
「少々、お待ちください・・・」
腕輪に魔力を通して連絡を取る。
『どうした?』
「私の目の前にミルアの婚約者と名乗る人が、結納を持って現れているのだけど?」
『ハァ?!なんだそいつは!!』
「その様子だとルーファスは知らない様ですね・・・ハァどうしましょ?」
『すぐに叩き出す!何処に居るんだ?』
「港のお魚屋さんの近くなんだけど・・・」
『すぐ行く!!』
目の前のディトリックスは少し困ったような笑顔でこちらを見ているが、おそらくは腕輪の通信はまだ普及していないので、ブツブツと1人で喋っている変な女とでも思われているのだろう。
「今、私の夫がこちらに向かっていますからお待ちくださいね」
「何?!本当に夫がいるのか?!君は夫が居るのに私と婚約したというのか?!」
「それがそもそも間違いだと思います。私はミルアではありませんし、ミルアに婚約者等居ません!」
「どういう事だ!」
「それはこちらのセリフです!ミルアは私の娘です!まだ幼いあの子に婚約等どういう事なんです!」
「ハッ?!娘ぇぇえ!!!」
素っ頓狂な声をディトリックスが上げるが、こちらが逆に上げたいくらい。
いえ、本当に、どういう了見で10歳の子供に婚約だ結納だしてくるんですか?って言いたい。
まぁ、番ならともかく。この様子だとミルアの顔すら知らないようだし・・・いや、先ずはそこなのかな?なんで私がトリニア家の人間だと分かったのかがわからない。
「ディトリックスさん、あなたはどういう経由で娘と婚約なさったんです?」
「それは【刻狼亭】から釣書が届いて・・・釣書の姿絵は貴女だった」
なるほど・・・でも、なんで私の姿絵?
まぁ10歳のミルアよりかは私の方が大人ではあるけれど・・・気分の良い物でもない。
港が騒がしくなると、黒い狼がこちらに向かってくるのが見えて、手を振るとルーファスが人型に戻ってグルルと唸り声をあげている。
「アカリ、ミルアは何処に?!」
「いえ、ミルアは居ないの。ミルアと私を間違えて声を掛けたみたいで・・・」
「なんだその間抜けは!」
ルーファス、その間抜け呼ばわりしている人、目の前に居ますからね?
それともワザトなんだろうか?
「えと、ルーファス。この人ディトリックスさんが【刻狼亭】から釣書が届いてミルアの姿絵ではなく私の姿絵が入ってたとかで、間違えたみたいなの・・・」
「オレが釣書なんぞ送るはずがない!第一何故自分の番の姿絵をどこの馬の骨とも知らん奴に送るというんだ」
あー、ルーファス。馬の亜人の人に馬の骨は言っちゃ駄目だと思うの。
ディトリックスさんも何とも言えない困惑顔してるし・・・。
ハァー・・・と息を大きく吐いて、苦虫を噛みつぶしたような顔をしてルーファスがディトリックスさんをようやくまともに見て片眉を上げて認識した。
「オレは温泉大陸【刻狼亭】15代目当主ルーファス・トリニアだ。娘に婚約だ何だと言っているお前は何者だ?」
「私はクロイツ国ハーマン領の領主ディトリックス・エルロイと申します」
ディトリックスが手を胸の前に出して頭を下げお互いに自己紹介の様な物が終わると、ディトリックスは朱里を見る。朱里は胡散臭い物を見る様な目でディトリックスを見上げる。
「私は【刻狼亭】15代目ルーファスの番、女将のアカリ・トリニアです。ミルアの母です」
「そう、ですか・・・貴女では無かったのですね」
ルーファスに抱き上げられると朱里は定位置の様なルーファスの腕の中で少し気恥ずかしさもあるものの、自分の安全地帯でふぅと小さく息をつく。
この温泉大陸では余り見ない亜人種の人で獣人とは少し違って全面的に獣部分が多く馬面・・・文字通り、馬。
黒い馬の亜人なのだろうとチラチラと顔を伺ってみる。
「あの、誰かとお間違いではないでしょうか?」
「いえいえ、貴女は温泉大陸の【刻狼亭】のトリニア家の方だろう?」
「はぁ、まぁそうですが・・・」
赤い宝石が箱の中で輝いて、差し出した男の人の瞳の赤の様で少し見比べた後で思い当たったのは「押し売り」ではないかという事だった。
「我が家に余分なお金はありませんから!お断りします!!」
「え?」
小箱を男に付き返して先を進むと男が「待って待って」と言いながら追いかけてきて「しつこい押し売りね!」と、眉間にしわを寄せると男がまた回り込んで来る。
「この宝石は結納だと思って貰って欲しい」
「はぁ?」
「私の気持ちだ」
「・・・本当に人違いですよ?私人妻ですし」
「え・・・?」
今度はあちらが首を傾げる。傾げられても私は人妻ですよ?と、私も首を傾げる。
「失礼だが、トリニア家のミルアさんでは?」
「・・・あなたはどこの誰?まずは名乗りなさい」
少し間を開けてから馬亜人の人は目を伏し目がちにしてから微笑んで、片手を胸の前に出してお辞儀をする。
「私はクロイツ国ハーマン領の領主ディトリックス・エルロイと申します。ミルア・トリニア、君の婚約者だ」
「少々、お待ちください・・・」
腕輪に魔力を通して連絡を取る。
『どうした?』
「私の目の前にミルアの婚約者と名乗る人が、結納を持って現れているのだけど?」
『ハァ?!なんだそいつは!!』
「その様子だとルーファスは知らない様ですね・・・ハァどうしましょ?」
『すぐに叩き出す!何処に居るんだ?』
「港のお魚屋さんの近くなんだけど・・・」
『すぐ行く!!』
目の前のディトリックスは少し困ったような笑顔でこちらを見ているが、おそらくは腕輪の通信はまだ普及していないので、ブツブツと1人で喋っている変な女とでも思われているのだろう。
「今、私の夫がこちらに向かっていますからお待ちくださいね」
「何?!本当に夫がいるのか?!君は夫が居るのに私と婚約したというのか?!」
「それがそもそも間違いだと思います。私はミルアではありませんし、ミルアに婚約者等居ません!」
「どういう事だ!」
「それはこちらのセリフです!ミルアは私の娘です!まだ幼いあの子に婚約等どういう事なんです!」
「ハッ?!娘ぇぇえ!!!」
素っ頓狂な声をディトリックスが上げるが、こちらが逆に上げたいくらい。
いえ、本当に、どういう了見で10歳の子供に婚約だ結納だしてくるんですか?って言いたい。
まぁ、番ならともかく。この様子だとミルアの顔すら知らないようだし・・・いや、先ずはそこなのかな?なんで私がトリニア家の人間だと分かったのかがわからない。
「ディトリックスさん、あなたはどういう経由で娘と婚約なさったんです?」
「それは【刻狼亭】から釣書が届いて・・・釣書の姿絵は貴女だった」
なるほど・・・でも、なんで私の姿絵?
まぁ10歳のミルアよりかは私の方が大人ではあるけれど・・・気分の良い物でもない。
港が騒がしくなると、黒い狼がこちらに向かってくるのが見えて、手を振るとルーファスが人型に戻ってグルルと唸り声をあげている。
「アカリ、ミルアは何処に?!」
「いえ、ミルアは居ないの。ミルアと私を間違えて声を掛けたみたいで・・・」
「なんだその間抜けは!」
ルーファス、その間抜け呼ばわりしている人、目の前に居ますからね?
それともワザトなんだろうか?
「えと、ルーファス。この人ディトリックスさんが【刻狼亭】から釣書が届いてミルアの姿絵ではなく私の姿絵が入ってたとかで、間違えたみたいなの・・・」
「オレが釣書なんぞ送るはずがない!第一何故自分の番の姿絵をどこの馬の骨とも知らん奴に送るというんだ」
あー、ルーファス。馬の亜人の人に馬の骨は言っちゃ駄目だと思うの。
ディトリックスさんも何とも言えない困惑顔してるし・・・。
ハァー・・・と息を大きく吐いて、苦虫を噛みつぶしたような顔をしてルーファスがディトリックスさんをようやくまともに見て片眉を上げて認識した。
「オレは温泉大陸【刻狼亭】15代目当主ルーファス・トリニアだ。娘に婚約だ何だと言っているお前は何者だ?」
「私はクロイツ国ハーマン領の領主ディトリックス・エルロイと申します」
ディトリックスが手を胸の前に出して頭を下げお互いに自己紹介の様な物が終わると、ディトリックスは朱里を見る。朱里は胡散臭い物を見る様な目でディトリックスを見上げる。
「私は【刻狼亭】15代目ルーファスの番、女将のアカリ・トリニアです。ミルアの母です」
「そう、ですか・・・貴女では無かったのですね」
ルーファスに抱き上げられると朱里は定位置の様なルーファスの腕の中で少し気恥ずかしさもあるものの、自分の安全地帯でふぅと小さく息をつく。
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