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16章
双子のお嬢様
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春日和に桜並木の下を歩く観光客の人々の間を桜色の着物を着てすり抜けていくのはトリニア家の10歳になるミルアとナルアのお姫様2人。
「ナルアちゃん早くするのです」
「ミルア姉様待ってくださいませ」
ふわふわのウェーブの髪を桜色のリボンで結んで、手には可愛らしい桃色の扇子を持っている。
2人は足音を立てずに素早く動き、道が開けた所でナルアの手をミルアが取り、高く放り投げるとナルアが空中で扇子を槍の様に投げる。
ズシャッ
扇子が少し前を走っていた男の衿首を引っ掛けて地面に突き刺さり、男が派手にもんどりを打つ。
「温泉大陸【刻狼亭】がトリニア一族が娘ミルア見参ですわ!」
「同じく【刻狼亭】がトリニア一族が娘ナルア捕縛に参りました!」
ミルアが男に扇子を突き付けてビシッとポーズを付けると、ナルアも男の襟首から扇子を引き抜くと扇子を広げて桃色の扇子に【刻狼】と白字と金字で書かれている文字を見せつける様に自分の口元に持っていく。
男が倒れた体勢から2人に足払いを掛けると、2人はヒョイとジャンプしてかわして、扇子を交互に男の脇腹に打ち付ける。
「うぐっ!このっ!」
男が手から放ち火の玉が2人に襲い掛かるが、2人は可愛く笑って扇子で火の玉をお手玉の様に2回程打ち上げてから男に叩き返す。
男の足元に円を描くように炎が立ち上がると2人は扇子を仰いでふふっと笑う。
「わたくし達の扇子は特別制ですのよ?」
「ドワーフのお爺様お手製ですの。魔法攻撃は2倍にして返しますのよ」
「それに、わたくし達は火属性相手が悪かったのですわ」
「わたくし達火竜ローランドの加護がついていますしね」
2人がそこまで言うとズンッと音を立てて上空から火竜ローランドと黒狼族のミールが降りてくる。
「2人共オレを置いて突っ走り過ぎだからな!」
「ミルア、ナルア、遅くなってすまない・・・」
「まぁ!ローランドにミールお早いお着きで」
「まぁ!お2人共お早いですわ」
ミルアとナルアがふふっと言いながら扇子をパチンと閉じると周りの人々に「お騒がせいたしましたの」と言って軽く頭を下げる。
「それで騒ぎを起こした冒険者は何処に?」
「ローランド、あなたの足の下ですわ」
「踏みつけてますわ」
「足をどけてくれ、ローランド・・・」
「うわっ!夢中で追ってて気づかなかった!」
ローランドが足を退けると8メートルの巨体を小さく縮ませて人型を取り、赤毛のヤンチャそうな青年になる。
ミールが伸びている男に縄を掛けるとローランドが男を担ぎ上げて4人は歩き出す。
【刻狼亭】の料亭に戻るとリュエールとキリンが妹2人に何とも言えない顔をして従業員に男を持って行かせる。
「ミルア、ナルア・・・別にタマホメとメビナの留守の間に警備をしなくても良いんだよ?」
「2人共危ないよ?お義母さんに心配されちゃうんだからね?」
注意をしながらも妹2人の頭を撫でてリュエールが「困った妹達なんだから」と腰に手を当てて隣りのキリンに「キリンも無茶しないでよ?」と言うと、キリンが眉を下げて「しないよ?!」と頬を赤くする。
今現在、冬眠期間と蜜籠りが終わった従業員が仕事に戻った為に、冬の間代わりに忙しく働いていた従業員は長期休みを貰い、警備も担当しているタマホメとメビナも兄のシュテンと共に旅行に出かけていて留守とあって、温泉大陸で起きる治安維持やいざこざを残った従業員と温泉街の人間で担当しているのだが、【刻狼亭】の若女将のキリンやミルアやナルアが動いてしまう事が多々ある。
この女性陣達は身体能力が高い分、直ぐに動いてしまうのだ。
「わたくし達はタマホメ師匠とメビナ師匠に留守を任されたのです!」
「そうなのです!わたくし達お2人が帰って来るまで留守を守るのです!」
タマホメとメビナを師匠と仰ぐ2人に「うーん」とリュエールも笑顔で眉間にしわを寄せるしかない。
アマゾネスにならないようにと思っていたのに、立派な戦闘狂になってしまって兄としては心配しかないのである。
カランコロンと下駄の音がしてシャランと耳飾りの音をさせながら白い着物に赤い帯をして黒髪を上にまとめ上げた朱里がミルアとナルアを見て、ニコッとすると「あーなーたーたーちーはぁぁ」と腰に手をやって怒った声を出す。
「こうした事は大人に任せなさいと言ったでしょ!」
「でも母上」
「だって母上」
耳を下げて朱里を見上げるミルアとナルアに朱里が「でももだってもありません!」と叱りつける。
「今は長期休暇の従業員さんの穴埋めで猫の手も借りたいくらい忙しいの!2人は危ない事をしていないでお手伝いしなさい!」
「ううー・・・はい」
「母上は怖いのです・・・」
2人が耳を下げたまま厨房の方へ歩いて行くと、「誰に似たのかしら?」とため息を吐く。
「女将、オレも手伝う」
「ミールありがとう。でもミールは折角、騎士学校が休みなんだからゆっくりしてね」
「やる事もない」
「ミルアとナルアが引っ張り回してごめんね」
「気にしなくていい。好きでやってる」
「ミールは本当に2人の騎士なんだから」
朱里がミールの頭を撫でながら不愛想ながらも一生懸命なミールに笑顔を向けていると、黒髪に白い角の少年シノリアが料亭に勢いよく入って来る。
「ミール!見つけたぞ!今日こそは勝負しろ!」
「・・・女将、騒がしいのが来た。迷惑になるからオレは出て行く」
「あらあら、元気ねぇ」
「場所と人の迷惑を考えろ」とミールがシノリアの頭を叩いて引きずるようにして料亭から出て行く。
騎士学校に通う2人は何かと衝突しているというか、シノリアがミールに突っかかっている。
厨房からミルアとナルアが顔を覗かせてハァとため息をつく。
「シノリアはバカなのかしら?」
「シノリアは懲りてないのですわ」
2人はシノリアに辛辣に言いながら再び厨房に戻る。
朱里もリュエールもキリンもシノリアが2人が好きでミールに突っかかっていると分かっているだけに、2人の辛辣さに苦笑いするしかない。
お姫様や騎士に憧れる心はあっても『恋』という物にはとことん疎いトリニア家の双子なのである。
「ナルアちゃん早くするのです」
「ミルア姉様待ってくださいませ」
ふわふわのウェーブの髪を桜色のリボンで結んで、手には可愛らしい桃色の扇子を持っている。
2人は足音を立てずに素早く動き、道が開けた所でナルアの手をミルアが取り、高く放り投げるとナルアが空中で扇子を槍の様に投げる。
ズシャッ
扇子が少し前を走っていた男の衿首を引っ掛けて地面に突き刺さり、男が派手にもんどりを打つ。
「温泉大陸【刻狼亭】がトリニア一族が娘ミルア見参ですわ!」
「同じく【刻狼亭】がトリニア一族が娘ナルア捕縛に参りました!」
ミルアが男に扇子を突き付けてビシッとポーズを付けると、ナルアも男の襟首から扇子を引き抜くと扇子を広げて桃色の扇子に【刻狼】と白字と金字で書かれている文字を見せつける様に自分の口元に持っていく。
男が倒れた体勢から2人に足払いを掛けると、2人はヒョイとジャンプしてかわして、扇子を交互に男の脇腹に打ち付ける。
「うぐっ!このっ!」
男が手から放ち火の玉が2人に襲い掛かるが、2人は可愛く笑って扇子で火の玉をお手玉の様に2回程打ち上げてから男に叩き返す。
男の足元に円を描くように炎が立ち上がると2人は扇子を仰いでふふっと笑う。
「わたくし達の扇子は特別制ですのよ?」
「ドワーフのお爺様お手製ですの。魔法攻撃は2倍にして返しますのよ」
「それに、わたくし達は火属性相手が悪かったのですわ」
「わたくし達火竜ローランドの加護がついていますしね」
2人がそこまで言うとズンッと音を立てて上空から火竜ローランドと黒狼族のミールが降りてくる。
「2人共オレを置いて突っ走り過ぎだからな!」
「ミルア、ナルア、遅くなってすまない・・・」
「まぁ!ローランドにミールお早いお着きで」
「まぁ!お2人共お早いですわ」
ミルアとナルアがふふっと言いながら扇子をパチンと閉じると周りの人々に「お騒がせいたしましたの」と言って軽く頭を下げる。
「それで騒ぎを起こした冒険者は何処に?」
「ローランド、あなたの足の下ですわ」
「踏みつけてますわ」
「足をどけてくれ、ローランド・・・」
「うわっ!夢中で追ってて気づかなかった!」
ローランドが足を退けると8メートルの巨体を小さく縮ませて人型を取り、赤毛のヤンチャそうな青年になる。
ミールが伸びている男に縄を掛けるとローランドが男を担ぎ上げて4人は歩き出す。
【刻狼亭】の料亭に戻るとリュエールとキリンが妹2人に何とも言えない顔をして従業員に男を持って行かせる。
「ミルア、ナルア・・・別にタマホメとメビナの留守の間に警備をしなくても良いんだよ?」
「2人共危ないよ?お義母さんに心配されちゃうんだからね?」
注意をしながらも妹2人の頭を撫でてリュエールが「困った妹達なんだから」と腰に手を当てて隣りのキリンに「キリンも無茶しないでよ?」と言うと、キリンが眉を下げて「しないよ?!」と頬を赤くする。
今現在、冬眠期間と蜜籠りが終わった従業員が仕事に戻った為に、冬の間代わりに忙しく働いていた従業員は長期休みを貰い、警備も担当しているタマホメとメビナも兄のシュテンと共に旅行に出かけていて留守とあって、温泉大陸で起きる治安維持やいざこざを残った従業員と温泉街の人間で担当しているのだが、【刻狼亭】の若女将のキリンやミルアやナルアが動いてしまう事が多々ある。
この女性陣達は身体能力が高い分、直ぐに動いてしまうのだ。
「わたくし達はタマホメ師匠とメビナ師匠に留守を任されたのです!」
「そうなのです!わたくし達お2人が帰って来るまで留守を守るのです!」
タマホメとメビナを師匠と仰ぐ2人に「うーん」とリュエールも笑顔で眉間にしわを寄せるしかない。
アマゾネスにならないようにと思っていたのに、立派な戦闘狂になってしまって兄としては心配しかないのである。
カランコロンと下駄の音がしてシャランと耳飾りの音をさせながら白い着物に赤い帯をして黒髪を上にまとめ上げた朱里がミルアとナルアを見て、ニコッとすると「あーなーたーたーちーはぁぁ」と腰に手をやって怒った声を出す。
「こうした事は大人に任せなさいと言ったでしょ!」
「でも母上」
「だって母上」
耳を下げて朱里を見上げるミルアとナルアに朱里が「でももだってもありません!」と叱りつける。
「今は長期休暇の従業員さんの穴埋めで猫の手も借りたいくらい忙しいの!2人は危ない事をしていないでお手伝いしなさい!」
「ううー・・・はい」
「母上は怖いのです・・・」
2人が耳を下げたまま厨房の方へ歩いて行くと、「誰に似たのかしら?」とため息を吐く。
「女将、オレも手伝う」
「ミールありがとう。でもミールは折角、騎士学校が休みなんだからゆっくりしてね」
「やる事もない」
「ミルアとナルアが引っ張り回してごめんね」
「気にしなくていい。好きでやってる」
「ミールは本当に2人の騎士なんだから」
朱里がミールの頭を撫でながら不愛想ながらも一生懸命なミールに笑顔を向けていると、黒髪に白い角の少年シノリアが料亭に勢いよく入って来る。
「ミール!見つけたぞ!今日こそは勝負しろ!」
「・・・女将、騒がしいのが来た。迷惑になるからオレは出て行く」
「あらあら、元気ねぇ」
「場所と人の迷惑を考えろ」とミールがシノリアの頭を叩いて引きずるようにして料亭から出て行く。
騎士学校に通う2人は何かと衝突しているというか、シノリアがミールに突っかかっている。
厨房からミルアとナルアが顔を覗かせてハァとため息をつく。
「シノリアはバカなのかしら?」
「シノリアは懲りてないのですわ」
2人はシノリアに辛辣に言いながら再び厨房に戻る。
朱里もリュエールもキリンもシノリアが2人が好きでミールに突っかかっていると分かっているだけに、2人の辛辣さに苦笑いするしかない。
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