黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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16章

500話記念:リリスの結婚

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 ドコォォォ・・・と、音がして壁に叩きつけられたのは金色の髪に白い角を生やした元・魔王のリロノス・ディア・ロードミリオンだった。

「パパなんて大っ嫌い!!!!!」

 肩で息をしながらゼィゼィと父親を殴り飛ばしたリリスは涙を溜めて、隣りに立っていたイルマールの手を取って家から出ていく。

「リリス!」
「リリちゃん!」
「姉さん?!」

 母親のありすも弟のシノリアもリリスに手を伸ばすが、追う事はしない。100%今回の事はリロノスが悪いのは解っているが、リロノスの気持ちも判らなくは無かったから。

『16歳になったらイルマールと結婚しても良い』

 リロノスが苦渋の決断で出した言葉だったが、16歳になった今日、イルマールを連れて婚姻の書類を持ってリロノスに認めてもらうはずだった。
しかし、リロノスは「認めない!」と言ったのだった。

 娘を可愛がっているリロノスだから想定はしていたが、リリスがリロノスを殴り飛ばすのは想定外。
ありすはリロノスを見て「何してるっしょ?」と呆れた声を出す。

「だってアリス・・・私の娘が・・・」
「リロっち・・・、リリちゃんは16歳で今日を指折り数えて楽しみに待ってたのも知ってるっしょ?」
「それでも、私のたった一人の娘なんだ・・・」
「娘離れする時期っしょ・・・うちにはシノリアもいるっしょ?」

 リロノスにとってリリスは初めての子供で、ありすが出産で命を落としかけた時もリロノスを支えてくれたたった一人の家族で、何より、朱里達の手助けはあったものの、育てたのはリロノスなのだから、思い入れはある。
本当に大事に育てた一人娘なのだ・・・。

 ガクリと項垂れるリロノスにありすは「これだから男親はダメなんっしょ」とポンポンと頭を叩く。

「シノリアが結婚したいって相手の親に申し込みに行った時に同じことされたら、リロっちどう思うっしょ?自慢の息子が『馬の骨』『うちの娘には相応しくない!』って言われて我慢できる?ムリっしょ?」
「私だって・・・リリスの番がイルマールだって知った時に諦めはついたんだよ・・・でも気持ちが全然追いつかない」
「何年リリちゃんの初恋を邪魔してるっしょ?10年以上時間があって、距離的にも離れさせて、これ以上邪魔したらリリちゃん自身が温泉大陸を離れてリロっちから離れて行く事も考えた方がいいっしょ?」
「そんな!私のリリスが私から離れるなんて・・・っ!」
「親よりも番を選ぶ・・・そうっしょ?リロっちが兄弟を捨ててうちとこの大陸に移住したのも番だから離れられなかった。リロっち、番は引き離したら番消失を起こして死んでしまうっしょ?リリちゃんが死んで後悔しても遅いっしょ・・・」

 ありすの言葉にリロノスの心はズタボロである。
解っているのに・・・自分の気持ちは追いつけていない。
リロノスにとっては何歳になっても小さい頃のリリスのままなのだ。



「と、いうワケで・・・見届け証人の判子押して」
「ちょっ・・・リリス」

 リリスが【刻狼亭】にやってきて執務室にいたリュエールに婚姻の書類を突き出す。
それをイルマールが落ち着かせようとするが、リリスにキッと睨みつけられ、困った顔になる。

「リリ、リロノスおじさんにダメって言われたの?」
「そう。約束をパパが破ったの」
「リロノスさんの気持ちを考えるとおれは仕方も無いと・・・」

「「イルはどっちの味方?!」」

 リュエールとリリスに声を揃えられ、イルマールが耳を下げる。
何だかんだで幼馴染の2人は解り合っているのである。

「判子は押しても良いけど、交換条件出しても良い?」
「リューの交換条件って聞くの怖いんだけど?」
「僕、今付き合ってる子が居てね。番だから結婚する」
「え?!聞いた事なかったんだけど?!いつから?!」
「14歳の時から付き合ってる」
「うわー!おめでとう!!で?私に何をしてほしいの?判子?押すよ!」
「俗物的で悪いけど、僕もその子も体は未経験。初めては女の子は痛いって聞くからなるべく痛くない様にしてあげたいから、良い体位とか道具とか慣らし方とかあったら教えてよ」
「はっ?!!ちょっ!!!」
「えええ?!!」

 真っ赤になる2人にリュエールが笑顔で書類に判子を押して「契約成立だから」と笑う。
悪魔の様な契約書に婚姻の書類が見えたのは言うまでもない。
リリスが魔法で婚姻の書類を提出してしまうと、リリスは「これでパパはもう関係ない」と言ってイルマールを見上げる。
イルマールは肩を下げて「それでも、報告はしないとね」と言うと、リリスが目を逸らしながら頬をふくらます。
そんな新婚の2人を笑顔で執務室から追い出してリュエールは「頑張ってね。色々と」と言って親指を立てる。

「リュー!」
「リュエール!」

 2人が真っ赤になって執務室の外で騒ぐがリュエールは無視して自分の仕事の続きをする。
2人は目線を合わせて少し赤くなりながら手を繋いで【刻狼亭】から出て行こうとすると、トリニア家の長女と次女のミルアとナルアがピョコっと顔を出して2人を手招きする。

「そこのお2人様、リューお兄様にご結婚の判を貰いに?」
「ご結婚の書類は提出お済ですか?」

 朱里によく似た可愛い双子は訳知り顔という感じで「ふふふ」と笑う。
リリスとイルマールが頷くと「では、ご一緒に来てくださいまし」と2人の手を取って料亭に入っていく。

「さぁさぁ!皆様、【刻狼亭】初のお仕事始めますよ!」
「女性陣はリリスさん達のお支度を!男性陣はセッティングを急ぎますよ!」

 ミルアとナルアが張り切って声を掛けると【刻狼亭】の従業員が一斉に動き始める。
客の居ない料亭内はテーブルの位置を男性従業員が変えていき、女性従業員達はリリス達を温泉に連れ出し、有無を言わさず磨き上げていく。

「ミルア、ナルアこれは何なの?」
「母上が企画していたのですが、シュー兄様がお姿を隠されてしまいましたので母上はショックで倒れてしまいましたので、わたくし達が代わりに指揮をとっていますの」
「リリスお姉様は16歳のその日にご結婚なさるでしょうから、お式をこの【刻狼亭】で挙げましょうと初の試みですわ」

 リリスが驚いた顔をしているとミルアとナルアは笑って「お式の御代はリロノスおじ様が出しているのですわ」とウィンクしながらリリスに教えて、「皆、楽しみにしておりましたのよ」と笑う。

「さぁ、最後はこのヴェールで終わりですわ」
「ミルア姉様ブーケも忘れてはいけませんわ」

 ふふっと双子が笑ってリリスにヴェールを被せてブーケを手渡すと襖をスッと開けると、バツの悪そうな顔をしたリロノスがリリスに手を差し伸べる。

「式が終わるまでは、リリスは私の娘だから。式が終わったらイルマールの所に行くのを許すよ」
「・・・パパ、素直さは大事よ?」
「素直に言ったら、誰にもリリスをお嫁にはやりたくないよ」
「心配しなくても私はイルのお嫁さんになってもパパの娘なんだから、何でそれを解ってくれないのか分からないわ」
「理屈じゃないんだよ・・・でも、リリスが幸せになってくれるのは嬉しいんだよ?」
「なら、花嫁の私より泣きそうな顔しないで?ね、パパ」

 リロノスの腕に手を回してリリスが苦笑いして歩き出すと、リロノスがぐすぐすと泣き始めるので「仕方ないなぁ」とハンカチをリロノスに渡す。

「パパ、今まで育ててくれてありがとうございました。これからもパパの娘としてよろしくね」
「ぐすっ・・・リリス・・・うん。うん」
「もぉー、パパ、皆に笑われるよ?」

 笑顔でリリスが料亭内に作られた白い花の祭壇の所までリロノスと歩き、白いタキシード姿のイルマールに引き渡されるとイルマールの手を取る。
リロノスはありすに直ぐ様回収されて、ありすに「リロっち頑張ったよ」と笑われていた。

 リュエールが祭壇に現れるとニコッと2人に笑う。

「さぁ、2人共、【刻狼亭】16代目のリュエール・トリニアと式に来てる親戚や知人、従業員に誓いの言葉を宣言してもらうよ」

 2人が頷くとリュエールが料亭内を目で見渡す。参加しているのはありす一家にイルマールの親テルトワイトに従者のエスタークとダリドア、そして【刻狼亭】の従業員にリリスの女友達達。

「2人は皆の前で夫婦としての誓いをする事を誓いますか?」
「「誓います」」

「2人はお互いの親を大切にすることを誓いますか?」
「「誓います」」

「2人は笑顔の絶えない家庭を築くことを誓いますか?」
「「誓います」」

「2人はお互いを尊重して支え合う事を誓いますか?」
「「誓います」」

「ではお互いに一言ずつ誓いをどうぞ」
「私リリスはイルマールを一生愛してそばに居る事を誓います」
「おれイルマールはリリスの笑顔を一生守って愛していくことを誓います」

「両者の結婚に異議がなければ、ご両親から指輪をお2人に」

 2人が「え?」という顔をすると、テルトワイトとリロノスがミルアとナルアが2人から指輪の入ったケースを受け取り、リュエールの元へ持って行く。

「お2人のご両親がお2人の為に用意した指輪です。お2人を育てて愛した気持ちを込めて新しい門出のお祝いだそうです」
「パパ・・・」
「父上・・・」

 リリスとイルマールが父親2人を見ればリロノスは相変わらず涙を流しているし、テルトワイトはいつも通りの穏やかな笑みを向けている。

「この指輪に誓って下さい。幸せになると」
「「誓います」」

「では、誓いの口づけを」

 リリスのヴェールをイルマールが上に持って行き、軽く唇を合わせると、リリスが首の後ろに手を回して唇を深く合わせる。
イルマールの頬が赤くなると同時にリロノスがバターンと倒れるが、リリスは振り向いて幸せそうに笑って見せる。
 
 お姫様抱っこでリリスがブーケを投げるとリュエールの所にブーケが届き、リリスが投げキッスする。

「次はリューの番だからね!」

 リュエールがブーケを持ったまま、やれやれと肩をすくめるが、この式の2ヶ月後にキリンと結婚してしまうとはリュエールとしては想定外だったが、リリスとイルマールに初夜の話を聞いたりしてキリンとの初夜で実践したりと、リリスとイルマールに感謝しつつ新婚生活を送っているのである。


 そんなリュエールが結婚してキリンを連れてイルマールとリリスの新居に訪れた。

「キリン、紹介するね。生まれた時からの幼馴染のリリスと、子供の頃から知り合いのイルマールだよ」
「リュエールの番のエルフのキリンです。よろしくお願いします!」
「リリスです。よろしくお願いします」
「イルマール・ジスだ。よろしくな」

 キリンが頭を下げると、リュエールが「キリン、この2人が初夜の事を色々教えてくれた2人だよ」と、ニコッと喋る。

「ふぇっ・・・あっ、リュ、リュエール!!!」
「ちょっ!リュー!!!」
「リュエール・・・」

 3人が真っ赤になってしまったのは言うまでもなく、リュエールだけケロッとした顔でニコニコしていた。
リリスとイルマールは何かあっても今後はリュエールに物を頼むのは止めよう。と、思うのだった。
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