黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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15章

美味しい物を探して⑫

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 項垂れたシュトラールに静まり返ったリビングは重い空気が立ち込めると、パンっと軽い音が立ち、両手を合わせたキリンに注目が集まる。

「まぁまぁ、お義父さんもリュエールも、落ち着きましょう、ね?」
「キリン・・・」
「まぁ、キリンが言うなら」

 ニコッとキリンが笑って、スッカリ息子嫁に絆されたルーファスと惚れた弱みのリュエールが椅子に座り、キリンがすかさずお茶を淹れて出す。

「シュー君もフィリアも座って、お義母さん達を呼んで来るから」

 キリンが軽い足取りで廊下に消えるとシュトラールとフィリアニルンも椅子に座る。
ハガネがお茶を淹れて2人の前に置いて、「リューの奴、俺等に内緒でキリンと3年も付き合ってたんだぜ?」とシュトラールに耳打ちしていく。
シュトラールがリュエールを見ると、お茶を飲みながらリュエールがすまし顔で「何さ?」と聞く。

「オレ、散々キリンさんの事心配してリューに言ったのに・・・」
「だから余計なお世話って言ったでしょ?」
「リュー、酷い・・・」
「シューがこんな大袈裟な家出しなきゃ僕はもっと段階を踏んで結婚出来たのに、シューのせいで滅茶苦茶になったんだから責任取ってよね?」
「え?リュー結婚したの?!」
「そっくりそのまま返すよ」

 2人のやり取りにルーファスがやれやれと自嘲気味に笑っていると、戻って来たキリンと朱里が席に座る。

「さて、シューちゃん、フィリアさん。反省はした?」

 朱里が2人を交互に見て腰に手を当てると、シュトラールとフィリアニルンが頷いて頭を下げる。

「「本当に、ごめんなさい」」

「フィリアさんにはもう言ったけど、フィリアさんの生まれた国は無くなったの。シューちゃん解る?シューちゃんが連れて逃げてしまったせいで1つの国が無くなったの。でも、そのお蔭でシューちゃんは番を失わずに番喪失にならなかった。私には見も知らない国よりシューちゃん1人が大事。だから、フィリアさんを連れて逃げたのは正解。でも、逃げるならこの大陸でしょう?」
「はい。母上・・・」
「シューちゃん、次から何かあればリューちゃんや父上に相談してから行動しなさい」
「はい。母上・・・」
「最後にシューちゃん、女の子の窮地を救ったシューちゃんは格好いいよ。母上の自慢の息子さんです。シューちゃんはフィリアさんの人生を救ったの。だから、これから先もそれは誇っていきなさい。以上。母上のお説教は此処までです」
「はい。母上」

 フゥッと朱里が息をつくと、キリンがお茶を淹れて朱里に渡し、2人はニコッと微笑んでいる。
シュトラールの居ない間に嫁姑関係は良好に築かれているらしい。

「シュトラールは今後は魔法通信の腕輪を外さない事。あと、今回の事でシュトラールの追跡を交わす腕は判明したからそれだけは評価しよう」
「父上・・・」
「フィリアニルン、君にはもう帰る場所も行く場所もここしかない。名前も全て捨てて『フィリア』という名だけになってもらう。それで良いか?」
「父上っ!そんなの・・・」
「シュー、良いの。私は死んだ者として新しく此処でただのフィリアとしてシューと生きていく」
「良いの?フィリアニルンじゃなくてフィリアで良いの?」
「うん。フィリアで良いの」

 シュトラールとフィリアが手を取り合って見つめ合うと、ルーファスが咳払いをして止めに入る。
困った顔の朱里に、片眉を上げて口元に笑みを浮かべるリュエール、微笑ましそうに見ているキリン、ニヤニヤ顔のハガネ、顔を手で半分隠して目を塞ぎつつも隙間からみるアルビー、そして興味のない顔のグリムレイン、それぞれから視線を向けられて、シュトラールとフィリアが顔を赤くしながら照れた様に笑う。

「はぁー・・・、まぁもう婚姻を受理させてしまったし、番同士ならオレももう口は出さん。しかし、今後については2人で話し合うより先に家族会議で話し合いの場を設けていけ。お前達は世間知らずで危なっかしい」
「そうよ?シューちゃん達はもう勝手に物事を決めちゃ駄目だからね!」

 ルーファスと朱里がシュトラールを見ながら注意すると、少し首を傾げて「わかったよ」とシュトラールが言うと、ルーファスと朱里は本当に判ってるのか?と、少しだけ眉間にしわを寄せた。

「まぁまぁ、お義父さんもお義母さんもそのくらいにしましょう。折角家族が揃ったんですから」
「キリンに免じて今は見逃そう。だが、迷惑を掛けた分、働いてもらうからな」
「フィリアさんは私の方で色々とこの大陸の事を教えていきますからね」

「うう・・・はい。」
「シュー、返事は『はい』だけ!」
「はい!」

 リュエールが「本当はもっとギチギチに締めてやりたいんだからね!」と、耳を下げるシュトラールに噛みつくように言ってキリンに「リュエール、そのくらいに」と上目遣いに言われて、ふぅっと息を吐くとキリンが笑顔で「そろそろおいとましましょうか」と言い、リュエールも「そうだね」と言って立ち上がる。

「それじゃあ、僕達は帰るよ。シュー反省ちゃんとしなよ?あと父上も早めに仕事に復帰するように」
「え?リューどこ行くの?」

 シュトラールが眉を下げて首を傾げると、リュエールが片眉を上げる。

「僕の家だけど?シューと違って僕はキリンに家を用意するぐらいはしてから結婚に踏み切ったからね。シューもちゃんと自分の番の家くらいは用意出来るように父上の元で働きなよ?」
「リュー・・・大人だね・・・」
「シューが子供過ぎるの。じゃあ、また明日ね」
「お義父さん、お義母さん、失礼します」
「ああ、気を付けて帰れ」
「また明日ねキリンちゃん」

 リュエールがキリンを連れてリビングから階段で下の階へ行ってしまうと、シュトラールは耳を下げる。

「リューの奴3年前から土地と家探ししてコツコツ建ててたんだぜ?だからシューもこれからコツコツ頑張れよ」
「オレも頑張る・・・」

 ハガネがシュトラールの頭をぐしゃぐしゃと撫でながら「頑張れよ」と笑う。

「でも、リューがエルフの嫁さんでシューが精霊族の嫁さんだから嫁同士も仲良く出来そうで良かったな」
「え?ハガネ、それどういう事?」
「ん?シューは知らねぇのか?エルフの魔法は精霊の力を借りて増幅させてるんだぜ?」
「そうじゃなくて!フィリアが精霊族って・・・」
「どう見ても精霊族の髪と目じゃねぇか。まぁ、他種族の精霊同士の子供だから色が混じり合ってるみてぇだけどな」

 目を丸くしてシュトラールがフィリアを見て、フィリアが髪を指で弄りながら困った顔をする。

「私もさっき教えてもらいました。精霊族の母がトラザルの王に連れ去られて手籠めにされた、でも母はその時既に私を身籠っていて、誤解されたままトラザルの王に私を産むまで捕らえられて亡くなった。私は、トラザルの王の娘では無かった・・・だから城の離れで暮らしをさせていたようなの。カイザー王国に目を付けられた為に要らない私を処分するつもりで嫁がせようとして・・・逃げ出さない様に足枷を船に取り付けていた。そういう事だったみたい」
 
 フィリアの目に涙が浮かぶとシュトラールも泣きそうな顔でフィリアを抱きしめると「泣かないで、オレが守るから、フィリアは笑ってて」そういってボロボロ泣き始め、フィリアに泣き笑いされながら「シューも泣かないで笑って」と言い返されて、笑いながら2人で泣いていた。
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