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15章
美味しいを探して⑧
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『女将亭』のリビングで音もなく倒れかけた朱里にルーファスが慌てて抱きとめる。
自分達の息子シュトラールが「もう帰らない」と通信で宣言して消息を絶って半年。
消息を絶った宿屋にはシュトラールの獣騎のザックが馬小屋に繋がれていて、宿屋を借りた部屋にはお金とメモが置いてあり、『ザックを迎えの人が来るまで世話をお願いします』とあった。
ザックは目立つ為に置いて行かれたのだろうと予想はつく。
魔法通信の腕輪は通じず、ザックを回収に行ったとき、初めてザックの首輪に腕輪が通してあることを知った。
まるで、家族との連絡を全て断つように。
しかし、シュトラールに何があったのか分からないまま、女と一緒に逃げる様に姿を消したと宿屋の人に言われ、シュトラールが悪い女に騙されたのではないかという不安だけが募った。
以前行った事のあるコーデンの街でシュトラールが婚姻の書類を出して結婚をした事も判った。
そこでようやく、相手の名前を知ることが出来たのである。
「シューちゃんが・・・シューちゃんが・・・」
「アカリ、しっかりしろ!」
「お願いだから、帰ってきて・・・シューちゃん返してぇ・・・」
ぽろぽろと涙を流して、ルーファスにしがみ付いて嗚咽を漏らし「早く探しだして助けてあげて」と朱里が何度も口にして、ルーファスも「わかっている」と何度も朱里に言う。
この半年で朱里は心配のし過ぎでご飯が喉も通らず、顔色も悪いままで泣いて過ごしている。
ルーファスも出来る事なら探し出して連れ帰りたいが、シュトラールは【刻狼亭】の従業員に万が一の時に追手を撒く方法などを教え込まれていたのが仇になったのか、あと少しというところでいつもギリギリ間に合わず、逃げられる。
シュトラールの意思で逃げているのかも判らないが、追手を撒く方法からしてシュトラールが協力していることは明らかで、騙されている可能性が強いだろうと思われていた。
お人好しで人懐っこいシュトラールなら有り得る話だったからだ。
ようやく掴んだ結婚相手の名前を今現在、小鬼を使って探し出させている最中なのである。
蒼白な朱里を抱き上げてソファに寝かせると、ルーファスが深いため息を吐く。
心配そうに三つ子達もルーファスを見上げて耳をしゅんと下げているのを見て、ルーファスが3人の頭を撫でる。
「心配いらない。母上もシューも直ぐにお前達に笑顔を見せてくれる」
「ちちえー」
「ちちぃー」
「ちいちー」
三つ子がルーファスの足にしがみついて「キュゥゥン」と切なげに鳴く声にシュトラールの居ない寂しさが3人から出ている。
何だかんだで三つ子を朱里の次に面倒を見ていたのはシュトラールで良い兄であったのだ。
「父上、小鬼から情報が入りました!」
リュエールが勢いよくリビングに入り小鬼から受け取った書類をルーファスに渡す。
すぐさまルーファスが書類に目を通して、眉間にしわを寄せる。
「シューは・・・何を仕出かしたんだ?」
フィリアニルン・トラザル・セシカ王女。
西にある国の小国トラザルの第6王女、16歳の王女で輿入れの途中で船が座礁し乗船していた全員が死亡。
フィリアニルン王女は行方不明。
フィリアニルン王女が輿入れをするはずだったカイザー王国はフィリアニルン王女が輿入れをしない為にトラザル国を属国するか戦争かを迫っている最中だという。
属国すれば全てを奪われる。
恐らくは戦争になる。
戦争をすれば金が動く、カイザー王国はそうして大きくなっていった国なのだから。
そんな渦中の王女とシュトラールに何が・・・と、考えてようやく合点がいく。
シュトラールが王女を連れて逃げている理由、家に帰れない理由。
「リュー、アカリを少し頼む!【刻狼亭】へ行ってくる!」
「わかりました。父上、お願いします!」
リュエールに強く頷いてルーファスは獣化するとリビングの窓から姿を消す。
いつもは玄関を使えと口うるさく言うルーファスが一刻の猶予も無いとばかりに走り去る姿にリュエールは小さく笑う。
「まったく、シューは愛されてるんだから」
誰よりも心配していたのは双子のリュエールでもあるけれど、泣いてやつれていく朱里を目にしてしまえば、うじうじと悩んでいる事も出来なかった。
魔法通信の腕輪をシュトラールがザックの首輪に付けていた事で余計にシュトラールの本気を見せつけられた気がしていた。
どんな女に騙された!あのお人好し!!と、何度も思った。
せめて自分には連絡の一つくらい寄越すんじゃないかと思っていた自分の思い上がりが恥ずかしかった。
双子の自分より女を選ぶなんて信じられない・・・でも、その一方でここまでシュトラールがするのはその女はシュトラールの『番』で、シュトラール自身にもコントロールが出来ないんじゃないかと・・・。
『番』で今までの人生を狂わされた人間も少なくは無い。
蓋を開けてみれば、王女様との逃避行・・・。
シュー、お前なに物語の勇者みたいな事になってるの?と、リュエールは思わずにはいられない。
でも、結婚までして、本当にあのバカ後先考えないんだから!と、怒りたい気持ちもある。
自分達の息子シュトラールが「もう帰らない」と通信で宣言して消息を絶って半年。
消息を絶った宿屋にはシュトラールの獣騎のザックが馬小屋に繋がれていて、宿屋を借りた部屋にはお金とメモが置いてあり、『ザックを迎えの人が来るまで世話をお願いします』とあった。
ザックは目立つ為に置いて行かれたのだろうと予想はつく。
魔法通信の腕輪は通じず、ザックを回収に行ったとき、初めてザックの首輪に腕輪が通してあることを知った。
まるで、家族との連絡を全て断つように。
しかし、シュトラールに何があったのか分からないまま、女と一緒に逃げる様に姿を消したと宿屋の人に言われ、シュトラールが悪い女に騙されたのではないかという不安だけが募った。
以前行った事のあるコーデンの街でシュトラールが婚姻の書類を出して結婚をした事も判った。
そこでようやく、相手の名前を知ることが出来たのである。
「シューちゃんが・・・シューちゃんが・・・」
「アカリ、しっかりしろ!」
「お願いだから、帰ってきて・・・シューちゃん返してぇ・・・」
ぽろぽろと涙を流して、ルーファスにしがみ付いて嗚咽を漏らし「早く探しだして助けてあげて」と朱里が何度も口にして、ルーファスも「わかっている」と何度も朱里に言う。
この半年で朱里は心配のし過ぎでご飯が喉も通らず、顔色も悪いままで泣いて過ごしている。
ルーファスも出来る事なら探し出して連れ帰りたいが、シュトラールは【刻狼亭】の従業員に万が一の時に追手を撒く方法などを教え込まれていたのが仇になったのか、あと少しというところでいつもギリギリ間に合わず、逃げられる。
シュトラールの意思で逃げているのかも判らないが、追手を撒く方法からしてシュトラールが協力していることは明らかで、騙されている可能性が強いだろうと思われていた。
お人好しで人懐っこいシュトラールなら有り得る話だったからだ。
ようやく掴んだ結婚相手の名前を今現在、小鬼を使って探し出させている最中なのである。
蒼白な朱里を抱き上げてソファに寝かせると、ルーファスが深いため息を吐く。
心配そうに三つ子達もルーファスを見上げて耳をしゅんと下げているのを見て、ルーファスが3人の頭を撫でる。
「心配いらない。母上もシューも直ぐにお前達に笑顔を見せてくれる」
「ちちえー」
「ちちぃー」
「ちいちー」
三つ子がルーファスの足にしがみついて「キュゥゥン」と切なげに鳴く声にシュトラールの居ない寂しさが3人から出ている。
何だかんだで三つ子を朱里の次に面倒を見ていたのはシュトラールで良い兄であったのだ。
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リュエールが勢いよくリビングに入り小鬼から受け取った書類をルーファスに渡す。
すぐさまルーファスが書類に目を通して、眉間にしわを寄せる。
「シューは・・・何を仕出かしたんだ?」
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西にある国の小国トラザルの第6王女、16歳の王女で輿入れの途中で船が座礁し乗船していた全員が死亡。
フィリアニルン王女は行方不明。
フィリアニルン王女が輿入れをするはずだったカイザー王国はフィリアニルン王女が輿入れをしない為にトラザル国を属国するか戦争かを迫っている最中だという。
属国すれば全てを奪われる。
恐らくは戦争になる。
戦争をすれば金が動く、カイザー王国はそうして大きくなっていった国なのだから。
そんな渦中の王女とシュトラールに何が・・・と、考えてようやく合点がいく。
シュトラールが王女を連れて逃げている理由、家に帰れない理由。
「リュー、アカリを少し頼む!【刻狼亭】へ行ってくる!」
「わかりました。父上、お願いします!」
リュエールに強く頷いてルーファスは獣化するとリビングの窓から姿を消す。
いつもは玄関を使えと口うるさく言うルーファスが一刻の猶予も無いとばかりに走り去る姿にリュエールは小さく笑う。
「まったく、シューは愛されてるんだから」
誰よりも心配していたのは双子のリュエールでもあるけれど、泣いてやつれていく朱里を目にしてしまえば、うじうじと悩んでいる事も出来なかった。
魔法通信の腕輪をシュトラールがザックの首輪に付けていた事で余計にシュトラールの本気を見せつけられた気がしていた。
どんな女に騙された!あのお人好し!!と、何度も思った。
せめて自分には連絡の一つくらい寄越すんじゃないかと思っていた自分の思い上がりが恥ずかしかった。
双子の自分より女を選ぶなんて信じられない・・・でも、その一方でここまでシュトラールがするのはその女はシュトラールの『番』で、シュトラール自身にもコントロールが出来ないんじゃないかと・・・。
『番』で今までの人生を狂わされた人間も少なくは無い。
蓋を開けてみれば、王女様との逃避行・・・。
シュー、お前なに物語の勇者みたいな事になってるの?と、リュエールは思わずにはいられない。
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