黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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15章

冬の蜂と妖精

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 わたしキリンの朝はまずネリリスお婆ちゃんに杖で叩き起こされることから始まる。
わたしが起きるのが遅いのではなく、ネリリスお婆ちゃんがとっても早起きなだけ。
まだ太陽は顔を覗かせたばかりでよく見れば星すらまだ見えそうな時間。

 ネリリスお婆ちゃんはこのエルフの村では家を持たない変なエルフで今現在の住まいがわたしの家。
エルフは生まれて30年程で1人暮らしを始めて自分の家を建てる。自分の家を建てて家具も自分で作る事が出来て一人前。
わたしの家はベッドとお風呂とトイレとキッチンしかないからこじんまりとしているんだけど、ネリリスお婆ちゃんと一緒に暮らす事になってからは、私はベッドから追い出されて、床で寝てる事が多い。

 番のリュエールがふかふかの綿花を素材で集めてくれて、お布団を自作したんだけど、ネリリスお婆ちゃんに奪われた・・・っ!!!
また暇を見つけて素材を集めてくるって苦笑いしながらリュエールが言ってくれて、今はリュエールが冒険の時に使っている寝袋を貸してもらって寝袋の中で寝ている。

「ネリリスお婆ちゃん、起こすのは良いけど杖でポコポコ叩くのは止めて?」
「早くおし。今日は皇帝蜂のロイヤルゴールド蜂蜜を獲りに行くよ」
「え?待ってネリリスお婆ちゃん、それ冬に獲れる物じゃないよね?」
「早くおし!」

 ポコポコと杖で叩かれながら、わたしは家を追い出される。
だーかーらー、ネリリスお婆ちゃん杖で叩かないで!そして家に入れてー!!
わたしまだ寝着だから!冬だから一応長袖の物を着ているけど、寒いから!寒いからね?!

「ネリリスお婆ちゃん!開けて!入れて!」

 ポイポイと、私の服と弓とカバンが外に出される。
ちょっ!ネリリスお婆ちゃん?!冬ですよ?!外で着替えろとか鬼か何かかな?!

「ネリリスお婆ちゃんっ!!」

『キリンうるさいわよ!』
『いい加減にしろ!小人!』

 村のエルフからの怒りの声に渋々家の陰に隠れて着替えてガクガク震える体を両手で摩りながら行く準備を整える。
いつか覚えてろ!村のエルフめ!そのうちネリリスお婆ちゃんがそっちの家に行くんだから!

 ネリリスお婆ちゃんは半年に1回は他の人の家に行くので村の人はネリリスお婆ちゃんが家に来たら諦めるしかない。何故か昔からそんな感じ。生まれる前からある、持ち回り制のお婆ちゃんシステム。

「ハァー・・・」

 吐く息が白い。
こんな寒い中、蜂蜜なんて・・・。
でもネリリスお婆ちゃんの修行は毎回こんな無理難題ばかりだから行くしかない。
無理難題の多い場所に行く事こそ、移転魔法の真髄だとかなんとか・・・。

 村の入り口を出るとここからは森の妖精らしく木から木へジャンプして飛んでいくしかない。
身軽で風と相性のいいエルフだからこその脚力だけど、この間リュエールと一緒に木から木に移動してたらリュエールもエルフ並みに脚力があって、あれには驚いた。

 ちなみにリュエールは冬場は【刻狼亭】が人手不足になるから会いに来るのは春かな?と言われた。
獣人や亜人の一部の人達は冬眠期に入るから人手不足は毎年の事らしい。
少し寂しいかな?と、思うけど・・・ワガママを言って困らせちゃいけないし、でも、会いたいなぁ。

 そんな事を思っていたら皇帝蜂の巣を発見。
少し雪の積もった樹の間から見える巣は1メートルくらいの大きさで思わずゴクリと喉が鳴る。
矢を4本用意してそれぞれに糸を着ける。
かなり距離もあるし、冬場は皇帝蜂も冬眠してるはず・・・多分。

 弓を引いて矢を4本同時に放つ。

 カン コン コン カン 

「うそっ!全部矢が通ってない?!」

 ヴヴヴヴヴ・・・。
拳程の大きさの蜂が警戒音を出しながら巣から出てきて距離があるから平気かと思ったけど、一直線にこっちに向かって蜂が飛んで来る。

「うわぁあああああ!!!!!」

 何でバレたのぉおお!!
こういう時の対処法は・・・なんだっけ?!
焦るなー焦っちゃダメ!!ネリリスお婆ちゃんが前に言ってた言葉を思い出さなきゃ!

 『蜂に追われた時は川の中に逃げ込め』

 真冬に川とか死ねというの?!無理!!!
ネリリスお婆ちゃんのアドバイスは頭の隅に追いやったけど、蜂の羽音は近くまで迫ってきているし、迎え撃つ・・・のはやっぱり怖い!!!

 ズボッと、逃げ回っている最中で雪に足を取られたと思ったら腐った木の根に足が引っかかっていた。
蜂の毒で死ぬのはイヤー!!!だって死体がブクブクに膨れ上がって悲惨なんだもの!!
うわぁぁん!!!こんな所で死ぬたくなーい!!

 それに蜂の毒で死んだ顔なんてリュエールに見られたくない!!
バッと顔に手を広げて顔面を覆って身を縮こまらせる。せめて顔だけは守りたい!


「【火山・竜巻ボルケーノ・タイフーン】」

 オレンジ色の炎の竜巻が上がり、蜂を巻き込んで燃えていく。
黒いコートを着た黒髪に三角耳と尻尾。
森の香りとハーブと柑橘系の匂いに甘く爽やかな香り。

「リュエール・・・?」

「大丈夫だった?」

 振り返って笑う顔はリュエールで、冬場は忙しいって言ってたのに何でここに居るんだろう?
立ち上がろうとして、木の根に足が取られてガクンと体が倒れそうになると、リュエールが受け止めてくれて、木の根を少しナイフで広げながら足を引き抜いてくれた。

「ありがとう」
「どういたしまして。間に合ったみたいで良かった」
「あ、リュエール何でここに居るの?冬は会えないんじゃなかったの?」
「そのつもりだったんだけど、綿花の素材が集まったから持って来たんだ。寒いのに寝袋じゃ体が冷えるといけないからね」

 リュエールがそう言いながらペパーミント色のマフラーをくるくるとわたしに巻いてくる。

「母上がキリンに作ったマフラーだよ」
「ふわぁ。ありがとう。アカリさん優しいね」
「母上はキリンの事気に入ってるからね」

 ふわふわのマフラーなんて貰ったの初めてかも?

「さてと、キリンは此処には何しに来たの?」
「ネリリスお婆ちゃんに皇帝蜂のロイヤルゴールド蜂蜜を獲ってくるように言われて来たんだけど、蜂に追われて逃げてたの。蜂があんなに元気だとは思わなかったよ」
「ああ、皇帝蜂は羽で熱風を出し合って冬の間も元気なんだよ。巣も氷でコーティングしてるからかなり硬くなってるしね」

 なるほど、道理で矢が通らなかったわけだ。
初めから魔法で戦えば良かったのかも・・・でも、エルフの魔法は特殊で呪文が長いから戦闘に直ぐ対応出来る物じゃないから囲まれたら終わっちゃう。

「じゃあ、皇帝蜂の蜂蜜を獲って帰ろうか」
「付き合わせて良いの?」
「またキリンが襲われたら僕が心配だからね。付き合わせてよ」
「ありがとう。リュエール」
 
 リュエールと手を繋ぎながら皇帝蜂の巣まで行ったら、リュエールが皇帝蜂の巣を水玉で包み込んで蜂を溺死させて巣を取ってくれた。
巣ごと持って帰るとネリリスお婆ちゃんが蜂と蜂の子をバター焼きにしてもらうと言って、近所のエルフの家に行ってしまった。
あそこの家の蜂のバター焼きが一番美味しいのだとか・・・。

「多分ネリリスお婆ちゃん明日まで帰って来ないと思うんだけど、呼び戻す?」
「いいよ。今日は泊っていく。泊っていって良い?」
「はぅっ?!えと、ど・・・どうぞ。何もお構い出来ませんが・・・」
「キリンが居ればそれだけで充分だよ」

 うわぁ・・・久々のリュエールのキラキラ笑顔とセリフが甘いよぅ!!!
大丈夫。リュエールは変な事したりしないから・・・セリフが甘いだけだから!
リュエールを見れば目を細めて笑ってわたしの方を見て満足そうにしてる。
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