黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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14章

狂った果実23 【終】

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 春、4月1日に花畑で大きなレジャーシートを広げ重箱のお弁当を広げてハガネが横に座って手伝おうとうずうずしている朱里に座っていろと指でクッションを指さす。

「主役が手伝ってどーすんだよ?」
「ううっ、手持無沙汰です」

 ハガネが朱里の頭をぽすぽすと叩き、朱里に哺乳瓶を3つ渡すと「アカリの仕事な」と白い歯を見せて笑う。
朱里が哺乳瓶を持って編み籠の中でタオル生地で作った人形を口に入れて遊んでいるティルナール達を1人ずつ抱きながら哺乳瓶を口に咥えさせていく。

「ティルも火属性アレルギーが治ったし、飲みっぷりも力強くなったね」
「うー、あー」
「あ、お返事はいらないんだよー。飲んでていいよティル」
 
 耳をピコピコと動かしながらティルナールがミルクを飲むのを朱里が笑って見守る。
朱里が1週間居なかった間にシュトラールがティルナールの火属性アレルギーを製薬部隊と一緒に薬湯を使った回復魔法を施したところ完治したらしく、ティルナールの体調も良くなり元気にミルクを飲む様になった。
どうも空気中の火属性でティルナールは体調をずっと崩していたらしく、お乳の吸いが悪かったりしていた原因だった様で、今は他の2人と大差ない体重を維持している。

「エルは相変わらずいい飲みっぷりですねー」

 ジュッコジュッコと返事すらなく一心不乱という様に飲んでいくエルシオンは流石である。
エルシオンもリュエールが魔力が溜まりやすい場所を【破壊】で流れを良くしてあげてからは獣化を繰り返す事は無くなった。
双子兄恐るべし、いや、これも兄弟愛?と、朱里は良い事だとうんうんと頷く。

「ルーシー」
「あー、んー」
「ルーシーは美人さんだねぇ。んっもう。可愛いんだから~」
「あー」

 自分に似ていない分、将来は美女になると朱里的に期待大のルーシーである。
勿論、ミルアとナルアも可愛いと思っているが、それでも美形のルーファスに似たルーシーは将来どんな子に育つのか母親としてはワクワクが止まらないのである。
ルーファスの母親シャロンは肖像画でしか見た事が無いので少し想像がしにくい。
写真に慣れてしまっている朱里には肖像画は少しリアルとは差があり過ぎるのである。

 3人にげっぷをさせてから、朱里が花畑を見つめて目を細めると花束お化けたちが歩いている。
お化け、もとい花束を持ったドラゴン達が嬉しそうに騒いでいる。
まだ孵化して日付が浅いケイトはケルチャが頭に乗せて首に花冠を何個も付けている。

「アカリ!お誕生日おめでとう!」
「嫁には我が氷の花をプレゼントしたかったんだが、婿に怒られた」
「当たり前じゃない!アンタの氷の花でアカリの手が霜焼け起こしたらどーすんのよ!」
「キュウウウ」

 アルビーにバランスよくグラデーションになった花束を貰い、グリムレインには花弁の大きな花を大量に貰い、ケルチャにはケイトの首に掛けてある花冠を頭にぽすぽすと乗せられた。

「ありがとう。すごい花の量だね」

「アカリの為に頑張ったよ!」
「我に任せればこんなものだ」
「ケイトとアタシが居ればどこでも花畑よ」
「キュウ!」

 あははと笑って朱里の周りに4匹が陣取ると、小さな黒い人影が森から2つピョンと飛び上がる。
ミルアとナルアが森から飛び出るとローランドが2人を両脇に抱えると、くるりと方向転換して空に向かって炎を吐き出す。
そこへミルアが火魔法を放ち、ハート形の炎が空に浮かび、ナルアがそこへ追加の火魔法を放つとハートの炎が大量に空に飛び散る。

「母上、見た?」
「母上、ハート花火なの!」

「うん。凄いね。綺麗で可愛かったよ」

「わたし達からの誕生日プレゼントなの!」
「形は残らないけど受け取ってなの!」

「ありがとう。2人共嬉しいよ」

 2人を両脇に抱えてローランドが空中にハートを描いて朱里の元へ降りる。

「おれはこんだけ」

 パラパラと朱里の手に赤いハート形の石を落とすとローランドがニッと笑う。

「ありがとうローランド。綺麗だね」

 光にかざして朱里が「宝石みたい」と笑うと、ハガネが「ルビーだな」と呆れた顔をする。
朱里が目を丸くするとローランドが「拾ったモンを削っただけだから気にすんな」とミルアとナルアを膝に乗せてレジャーシートの上に座る。

 ズシンと、音がするとニクストローブが空から降りてきて背中にルーファスとリュエールとシュトラールとスピナとエデンを乗せていた。
リュエールとシュトラールが降りると大きな肉の塊を持って帰って来る。

「母上の誕生日祝いにランバードを狩ってきたよ」
「母上おめでとー!ランバードが暴れて遅くなっちゃった」
「エデンもがんばったよ!」
「あたしはお肉を風で切るからニクストローブ石板用意してー」
「年寄りの扱いがひどいのぅ」

「ふふっ、大きなお肉だね。ありがとう。皆で食べよっか」

 ニクストローブが石を鉄板の様に長方形に成型するとその下に石を積み上げ、ケルチャがそこへ木をくべてローランドが火を放ち、スピナが風で肉を薄切りにして並べていく。

「即席石焼の焼肉!お誕生日プレゼント完成よ!」

「スピナもニクストローブもありがとう。あとケルチャも」

「「「どういたしまして」」」

 3人が笑ってハガネが大きなトングを持って皿に焼けた肉をサッと盛り付けて朱里に渡す。
「主役が一番だろ」と言われ、朱里が「いただきます!」と肉を口にすると、ルーファスが全員にグラスと飲み物を持たせていく。

「じゃあ、皆グラスを持ったか?」

 全員がグラスを持って掲げると、ルーファスが頷いて朱里のグラスと自分のグラスをカチンと合わせる。

「アカリ、誕生日おめでとう」

「「「「「誕生日おめでとう」」」」」
  
 朱里が目を細めて、はにかみながら「ありがとう」と笑う。

 ケルチャがケイトを抱きかかえて花冠を作って笑うと、花畑の花がポンポンと新しい花を作り、白金色のアルビーは花粉で黄色くなっていた。

「ちょっとー、花咲かせすぎだからね?」
「いいじゃない。黄竜みたいで」
「嫌だよ。まったくもぅ」

 そんなやり取りを見ながら朱里が隣りのルーファスに話し掛ける。

「ねぇ、ルーファス」
「どうかしたかアカリ?」
「ケイトが助かって良かったね。でもどうしてルーファスは『竜の癒し木』の実を持ってたの?」
「万が一の時の為に用意しておいただけだ」
「用意周到ですね」
「本当は【魔果】の果実も1つくらい何かの為に欲しかったんだがな」
「要らないでしょ?!」
「そうか?何かに使えそうな感じではあったんだがな。まぁ、意思を持っている時点で気味が悪いと手を出すのを止めておいたら、アカリが食ってしまったからな」
「うぐっ・・・忘れてください・・・」
「クククッ。まぁ、【魔果】で起きた犯罪は情状酌量の余地があるとして判決も厳しい物にならないらしいしな。他の【魔果】被害に遭っていた人間も元に戻ったし、犯人も【魔果】に狂わされていた様な所はあるから一生外には出てこれないが、【魔果】の効果が無くなって今は別人の様に真面目に刑に服しているらしいぞ」
「本当に、あの樹は人を狂わせて人騒がせな樹でしたね」

 朱里が「もうこりごりです」と肩を落とすとルーファスが朱里の頬にキスをしながら囁く。

「オレは可愛いアカリさんをまた見たいがな」
「~っ!!!」

 春の風に花が舞い、家族の笑顔がこぼれる中で朱里の誕生日の宴は賑やかに過ぎていく。

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