黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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14章

狂った果実17

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 脅迫状の一通目が朱里の所へ届き、いきなり食いついてきた犯人に「おいおい」と言えばいいのか、それとも巻き込まれやすい朱里の引きの良さに「おいおい」と言えば良いのかは疑問である。

「アカリ、頭はどうだ?スッキリしているか?」
「んー・・・ふわふわです」

 昨夜の慈善家を集めたパーティー会場で【魔果】が持ち込まれていたらしく、【魔果】の影響で朱里の意識は薄ぼんやりとしている。
すぐさま飲み物にありすの特性ポーションを混ぜて飲ませて中和はさせたが、空気にもほんのりと【魔果】が漂っているらしく、耐性の低い朱里はその微小な【魔果】すらも吸収してしまい、完全には抜けきっていない。

「んー・・・ルーぅ・・・」

 くてんとベッドの上でキャミソール姿で眠そうにしている朱里が【魔果】の影響でこうなっているのは『睡眠欲』が働いているせいもある。
したいと思った欲望が現れるのだから、眠い欲には勝てないとばかりに昨日は帰ったらシャワーも浴びて眠気を飛ばした物の目を離した隙にすやすやと寝入っていた。

「午後に公園に金を渡しに来いとあるが、大丈夫か?」
「頑張ります~。朱里さんは脅える奥様をしますよ!女優ですよ?ふふ」

 自分を「朱里さん」と言って嬉しそうに朱里が笑う。
トロンとした目で朱里が手を伸ばし引き寄せて来る。

「金髪にするとルーファスはイケナイ人に見えますね。ふふ」
「作戦が終わるまではルー・アーバンだと言っただろう?」
「はーい。ルー・アーバンさんと熱い一夜を過ごしてしまいましたわ」

 すっかり【魔果】に思考能力をやられているのか朱里はコロコロと弾んだ声で1人劇をしている。
普段の朱里ならば恥ずかしがってしない事で、ある意味新鮮な朱里の一面を垣間見た感じである。

 ちなみにルー・アーバンはルーファスの名前を略してギルの家名を少し貰った簡単な偽名で、小鬼が情報を操作して作り上げた慈善家の御曹司である。
ギルが小鬼が情報操作を出来るのを知って「それだったらアカリを囮に使わなくても済んだのに、まぁ、これから先使えそうですし、小鬼仲良くしましょう」と小鬼に詰め寄り、テンに追い払われたりというドタバタ劇もあった。

「なら奥さん、旦那さんに内緒で火遊びをしてみるか?クククッ」
「やっぱりイケナイ人ですね。ルー・アーバンさんは」

 くすくす笑いながら朱里が唇を重ねるとルーファスも「イケナイ奥さんだ」と笑いながらキスをし返した。



 出掛けにありすの特殊ポーションを飲み、頭をスッキリさせると朱里は指定された公園に行きベンチに座っていた。長い髪の毛をまとめた髪の間にはネルフィームが最小限の小ささになりいつでも対応出来るようにしている。
近くにはルーファスも身を隠して待機しているので朱里は大丈夫だと言い聞かせながら犯人を待つ。

 しばらくすると、ハンティング帽を被った小さな男の子がやってきて手を朱里に差し出す。

「変なオッサンがアンタに渡すもの渡せって言えってさ」
「そう・・・君は頼まれただけなのかな?」
「そ。銅貨1枚(1000円)のお仕事さ!」
「いいわ。でも、危ない事に巻き込まれる事もあるから、もう知らない人に使われないようにしなさいね。これは私からのお駄賃。何か美味しい物でも食べてね」

 少年に銀貨(10000円)を1枚渡して、「これが男に渡す物だよ」と、言って大金貨1枚(1000000円)の入った封筒を渡す。

「男にこれっきりにしてって伝えておいて。渡したら直ぐに男から逃げるのよ?わかった?」
「ねえちゃんあんがとー!わかった!じゃーなー!」

 少年は銀貨を嬉しそうに手に握りしめて封筒を無造作にズボンのポケットに入れると朱里に手を振って走って行ってしまった。

「あの子犯人の顔を見たから殺されたりとかしないかな?」
「それは大丈夫だろう。この事件で死人は出てはいるが、どれも【魔果】に狂わされた人間が起こした事件の被害者だけだしな」

 ネルフィームが「心配ない」と朱里に言いながら腕輪でギルに連絡をして少年に一応何もない様に張り付くよう頼むとギルが「心配いらないと思いますけどね」と言いながら渋々少年に張り付いて動いてくれるようだ。


 公園を出て街を歩いてカフェに行くと先回りしたルーファスが片手を上げて朱里に微笑む。

「やぁアカリ。今日も可愛いね」
「ありがとう。アーバンさん」

 くすっと笑ってルーファスが椅子に座った朱里の手を取る。

「アーバンじゃなくてルーと呼んで欲しいな」

 チュッと朱里の手の甲にキスをしてウィンクしてみせると、朱里の頬が桜色に染まる。

「えっと・・・ルー・・・」
「なんだい?アカリ」
「何だか恥ずかしいです・・・」

 どこからどう見ても甘くキザな男を演じるルーファスに朱里も応じなければとは思うが、こみ上げそうになる笑いに少し唇を噛みしめて恥ずかしがる振りをする。

 しかし、犯人の男がその様子を見ている事は少年をつけていたギルからの連絡で犯人が朱里をつけて回していると聞いて、火遊びの醜態を演じる事になったのだ・・・。

 朱里とルーファスがカフェでお茶をした後に朱里の泊っているホテルへ2人で入った後、犯人の男は消えて行ったらしい。
 そして夜、2日目のパーティーへ黒に金色の薔薇の刺繍と黒いレースのドレスを着て朱里がルーファスと一緒に出席した。

「アカリ、着物もいいけどドレスもよく似合ってる」
「ルーに言われると嬉しいです」

 そんな会話を交わしつつ、会場でしばらくすると別れて行動し、背の高い護衛の女性、ネルフィームと一緒に朱里は他の慈善家とあいさつを交わしていく。

 そして、また犯人の男は現れた。
痩せ型で酷く目が淀んでいる男だった。そして少しくらっとするような匂いがする。
【魔果】が男に染みつき、男自体が弱い【魔果】の効果の様になっていた。


「アカリ・トリニア夫人。アーバンさんからこれを貴女にと」

 赤い飲み物を手渡され、朱里は小さく震える。
しかし、飲まなければ怪しまれるだろうかと考えていると、後ろからトンっと背中を押されてカクテルグラスが揺れ、床に赤い飲み物が零れる。

「ああ、失礼しました!大丈夫ですか?!」
「大丈夫です。お気になさらないで下さい」

 ぶつかって来た人物に頭を下げ、朱里がホッと息をつく。
ぶつかった背の高い糸目の男は朱里に謝りながら代わりの飲み物をご用意いたしますよと、朱里を連れて犯人から朱里を遠ざけていく。

 小さくチッと舌打ちが聞こえたが、急いでいた為に犯人の顔は見てはいないが、ネルフィームいわく「醜悪な顔をしていた。蛇のようだった」らしい。


 犯人の男から離れて、特殊ポーションを混ぜた飲み物を口にしながら朱里が息を吐く。

「ハガネ、ありがとう」
「どういたしまして。トリニア夫人」

 ニッと白い歯を見せてハガネが笑い、その笑いに朱里も少し震えていた手が止まるのを感じた。
パーティーから帰る際に「一緒にこの後飲みに行きませんか?」とルーファスが誘い掛け、朱里が頷いて人気のない場所でキスをして、傍から見ると不倫している悪い奥様を演じてみる。


 予想通り、その時のキスを写真に撮られ脅迫文と一緒にまたホテルの部屋のドアに差し込まれていた。
 
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