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14章
狂った果実16【新聞記者2】
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白い苗木【魔果】は、やり方は俺に任せると言って苗木から実った赤い実を使い人々を狂わせる能力がどの程度になったかを調べろと言った。
俺にとっても【魔果】にとっても好都合。
俺は自分の足で脅迫を探さずとも【魔果】の赤い実で狂わせてしまえば醜態はあちらが勝手に晒してくれる。
まずはそこそこ金を持っている人間に近付けばいいだけ・・・なのだが、一番大変なのがコレだった。
俺の身なりではそこそこの金持ちにすら近寄れない。なので、地味に最初は行くしかなく、レストランで皿洗いとして働きながら、【魔果】の赤い実を店の料理にこっそりと入れて様子を見ながら、狂う人々の中で金のありそうな人間をターゲットにして、脅迫を掴んだら脅して金を巻き上げ、少しずつ【魔果】の効果がどの程度で利くかもわかるようになった。
効果は鍋(10人分)に溶かした物で1日半。
実半分で1週間。実1つで2週間。
『俺の能力も随分落ちているな。まぁ、まだ苗木だしな』
【魔果】は楽しそうに笑う。
皮袋に土を入れ【魔果】をその中に入れて持ち運んでいるが彼の目的は何かといえば『人が狂う時の表情は楽しい。正気に戻った時の顔は何とも言えず面白いじゃないか』と、少し歪んだ事を言う。
しかし、この【魔果】と一緒に居ると望む通りに事が運び、人が狂って欲望のままに動くのを見るのは、滑稽で面白かった。
そう、思ってしまった時点で俺も狂っていたのかもしれない。
俺をクビにした新聞社の編集長にも赤い実をご馳走してあげたら、知り合いの新聞社を紹介してくれて再び俺は新聞記者に返り咲いた。
新聞記者に戻ってからは仕事は実にやりやすくなった。
脅して金になりやすそうな人間に「新聞社の者です」と近付いて話を聞きながらターゲットを絞って行けるのだから。
そして、金を強請るのは慈善事業をしているような人間たち程、自分達の醜態を隠そうと金を出す。
本人ではなく、従者が主人を守ろうと金を出してくる時もあった。
俺と【魔果】は世の中を良くしようとする人間たちをターゲットに活動を広げて行った。
そして出会った。金の生る木を。
個人で大陸を所有している一族トリニア家の当主の番が慈善家主催のパーティーに初めて顔を出した。
彼女の名前はアカリ・トリニア。『温泉大陸の黒真珠』と称される黒髪に黒目の人族。
慈善活動は【病魔】の時に復興支援として自分が作り出したジュースを売るという物だったが、ジュースの器が復興支援に協力した証として持ち帰れるとあり、貴族の間で一時期ステータスの様に取り上げられたことがある。
しかもジュースを飲んだところ、療養に来ていた人々がこぞって病が治ったと騒ぎ、それも拍車をかけていた。
その後はピタリと止めてしまったようだが、再び、自分達の大陸に住んでいる温泉鳥の支援活動をしていて、その活動をするにあたって近隣の領地の親の居ない子供達にも職を与え、彼らが給金を貰えるようにした事で評価を受けている。
幾つかのパーティーに今回は出るらしく、強請れるネタはあるのかを調べる為に船で来るという彼女を待ち構えた。
・・・が、入港した船に名前は載っているのにそれらしき人物は居なかった。
女性客が降りるのを見逃さないように見ていた筈なのに・・・。
20代後半のはずだが、髪色の違う女や、髪色は黒で黒目なのに子供だったり、今回は肩透かしだったのかと思い、ターゲットを別の人間に変えるかとパーティー会場で物色していたら、彼女は現れた。
【刻狼】と金糸で刺繍してある白い着物。
黒髪、黒い目、赤い帯に金の腰紐。帯飾りに黒い狼のチャームが付いていて、黒髪に金目の背の高い女性と一緒に主催者に挨拶に行っていた。
予想外の見た目に驚いた。
船で見た子供がアカリ・トリニアだった。
「本日はお招き有り難うございます。温泉大陸【刻狼亭】の女将アカリ・トリニアです」
主催者に挨拶をした瞬間、名前を聞いた耳ざとい新聞記者や参加者たちに取り囲まれ、少し怯えた様な顔をして一緒に来ていた女性の後ろに隠れる姿は、本当に子供にしか見えない。
女性は護衛なのか記者や参加者たちに一定の距離まで近寄らせようとはしない。
中々に近づくのは難しそうである。
【魔果】の赤い実を彼女の近くで砕くと、小さく彼女は「あっ・・・」と声を出した。
番や主君のいる人間には効きづらいが、効きづらいだけで効果が無いわけでは無い。
少しフラっとした彼女を近くに居た別の慈善家が手を貸して抱きとめる。
金色の髪の獣人の慈善家に抱きとめられると彼女は熱っぽい目でその男を見つめ、男も【魔果】の効果が出たのか、彼女に熱っぽい目で見つめ返していた。
「大丈夫ですか?」
「はい・・・。ありがとうございます」
「私はルー・アーバン。良ければ一緒にお話なんてどうですか?」
「はい・・・」
護衛の女性に彼女が目配せすると、護衛の女性は少し離れた場所へ行く。
ルー・アーバン・・・参加者リストを調べ、男の活動内容を見れば魔国の女性の権利を支援する団体への寄付と戦争孤児への支援活動が記載されている。
強請れるようなら男も強請る対象である。
男が彼女に飲み物を差し出し、彼女が飲み干すと彼女の耳元で何かを囁き、彼女が頷くと男に肩を抱かれるように会場を出ていく。
護衛の女性に気付かれないように出たのか、それとも護衛の女性は気付いていて行かせたのか、会場に残っていた。
彼女を追い駆けると会場の外で一目も憚らず男とキスをして彼女は馬車に乗って行ってしまった。
次の日に彼女の泊っているホテルに脅迫状とキスをしていた証拠を紙に写して一緒に贈り付けておいた。
番にバレたらきっと大変だろうから必死に金を作ってくるだろう。
まさに金の生る木とは彼女の事ではないか?と、俺はほくそ笑んだ。
俺にとっても【魔果】にとっても好都合。
俺は自分の足で脅迫を探さずとも【魔果】の赤い実で狂わせてしまえば醜態はあちらが勝手に晒してくれる。
まずはそこそこ金を持っている人間に近付けばいいだけ・・・なのだが、一番大変なのがコレだった。
俺の身なりではそこそこの金持ちにすら近寄れない。なので、地味に最初は行くしかなく、レストランで皿洗いとして働きながら、【魔果】の赤い実を店の料理にこっそりと入れて様子を見ながら、狂う人々の中で金のありそうな人間をターゲットにして、脅迫を掴んだら脅して金を巻き上げ、少しずつ【魔果】の効果がどの程度で利くかもわかるようになった。
効果は鍋(10人分)に溶かした物で1日半。
実半分で1週間。実1つで2週間。
『俺の能力も随分落ちているな。まぁ、まだ苗木だしな』
【魔果】は楽しそうに笑う。
皮袋に土を入れ【魔果】をその中に入れて持ち運んでいるが彼の目的は何かといえば『人が狂う時の表情は楽しい。正気に戻った時の顔は何とも言えず面白いじゃないか』と、少し歪んだ事を言う。
しかし、この【魔果】と一緒に居ると望む通りに事が運び、人が狂って欲望のままに動くのを見るのは、滑稽で面白かった。
そう、思ってしまった時点で俺も狂っていたのかもしれない。
俺をクビにした新聞社の編集長にも赤い実をご馳走してあげたら、知り合いの新聞社を紹介してくれて再び俺は新聞記者に返り咲いた。
新聞記者に戻ってからは仕事は実にやりやすくなった。
脅して金になりやすそうな人間に「新聞社の者です」と近付いて話を聞きながらターゲットを絞って行けるのだから。
そして、金を強請るのは慈善事業をしているような人間たち程、自分達の醜態を隠そうと金を出す。
本人ではなく、従者が主人を守ろうと金を出してくる時もあった。
俺と【魔果】は世の中を良くしようとする人間たちをターゲットに活動を広げて行った。
そして出会った。金の生る木を。
個人で大陸を所有している一族トリニア家の当主の番が慈善家主催のパーティーに初めて顔を出した。
彼女の名前はアカリ・トリニア。『温泉大陸の黒真珠』と称される黒髪に黒目の人族。
慈善活動は【病魔】の時に復興支援として自分が作り出したジュースを売るという物だったが、ジュースの器が復興支援に協力した証として持ち帰れるとあり、貴族の間で一時期ステータスの様に取り上げられたことがある。
しかもジュースを飲んだところ、療養に来ていた人々がこぞって病が治ったと騒ぎ、それも拍車をかけていた。
その後はピタリと止めてしまったようだが、再び、自分達の大陸に住んでいる温泉鳥の支援活動をしていて、その活動をするにあたって近隣の領地の親の居ない子供達にも職を与え、彼らが給金を貰えるようにした事で評価を受けている。
幾つかのパーティーに今回は出るらしく、強請れるネタはあるのかを調べる為に船で来るという彼女を待ち構えた。
・・・が、入港した船に名前は載っているのにそれらしき人物は居なかった。
女性客が降りるのを見逃さないように見ていた筈なのに・・・。
20代後半のはずだが、髪色の違う女や、髪色は黒で黒目なのに子供だったり、今回は肩透かしだったのかと思い、ターゲットを別の人間に変えるかとパーティー会場で物色していたら、彼女は現れた。
【刻狼】と金糸で刺繍してある白い着物。
黒髪、黒い目、赤い帯に金の腰紐。帯飾りに黒い狼のチャームが付いていて、黒髪に金目の背の高い女性と一緒に主催者に挨拶に行っていた。
予想外の見た目に驚いた。
船で見た子供がアカリ・トリニアだった。
「本日はお招き有り難うございます。温泉大陸【刻狼亭】の女将アカリ・トリニアです」
主催者に挨拶をした瞬間、名前を聞いた耳ざとい新聞記者や参加者たちに取り囲まれ、少し怯えた様な顔をして一緒に来ていた女性の後ろに隠れる姿は、本当に子供にしか見えない。
女性は護衛なのか記者や参加者たちに一定の距離まで近寄らせようとはしない。
中々に近づくのは難しそうである。
【魔果】の赤い実を彼女の近くで砕くと、小さく彼女は「あっ・・・」と声を出した。
番や主君のいる人間には効きづらいが、効きづらいだけで効果が無いわけでは無い。
少しフラっとした彼女を近くに居た別の慈善家が手を貸して抱きとめる。
金色の髪の獣人の慈善家に抱きとめられると彼女は熱っぽい目でその男を見つめ、男も【魔果】の効果が出たのか、彼女に熱っぽい目で見つめ返していた。
「大丈夫ですか?」
「はい・・・。ありがとうございます」
「私はルー・アーバン。良ければ一緒にお話なんてどうですか?」
「はい・・・」
護衛の女性に彼女が目配せすると、護衛の女性は少し離れた場所へ行く。
ルー・アーバン・・・参加者リストを調べ、男の活動内容を見れば魔国の女性の権利を支援する団体への寄付と戦争孤児への支援活動が記載されている。
強請れるようなら男も強請る対象である。
男が彼女に飲み物を差し出し、彼女が飲み干すと彼女の耳元で何かを囁き、彼女が頷くと男に肩を抱かれるように会場を出ていく。
護衛の女性に気付かれないように出たのか、それとも護衛の女性は気付いていて行かせたのか、会場に残っていた。
彼女を追い駆けると会場の外で一目も憚らず男とキスをして彼女は馬車に乗って行ってしまった。
次の日に彼女の泊っているホテルに脅迫状とキスをしていた証拠を紙に写して一緒に贈り付けておいた。
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