黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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14章

狂った果実15 【新聞記者1】

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「悪いけど、うちは『カメラ』を導入するから君は雇えない」

 バタン・・・と、扉が閉じて今まで働いていた新聞社を追い出された。
今まで新聞と言うのは絵と文字で書いていた物を、俺の能力【映写】で目で見た物をそのまま紙へ転写できるようになり、人々は絵ではなくちゃんとした物を見ることが出来るようになっていた。
新聞社でも俺の能力は高く評価されていて、給金も普通の社員より良かった。

 それなのに【風雷商】という商人ギルドと【ミコ】という個人経営者が『カメラ』を開発したことにより、高い買い物だが、新聞社はこぞって『カメラ』を導入していった。

 そして俺はお払い箱になった。
俺一人に払う給金を『カメラ』に払った方が分割払いでも安いからだそうだ。
一般の新聞記者の給金でも良いから雇ってくれと言ったが、今までの俺の態度が我慢の限界だったと言われた。
確かに、他にない能力で仲間の記者たちにも酷い態度をとっていたかもしれない。
しかし、俺の能力はまだまだ使える筈なのに・・・。

 その後は転がる様な人生のスタートだった。
仕事を転々と変えながら、酒におぼれて、今まで貯めていた給金もどんどん減り、気付けば家賃を滞納して住む場所を追い出されていた。

 そんな時、路上生活者を支援する慈善団体に拾われて住む場所を確保する事が出来た。
身綺麗にしてもらい、仕事も斡旋してくれると聞いて、もう一度人生をやり直そうと思った。

 仕事は中々決まらなかったが、施設の人々は優しく「焦らなくても大丈夫ですよ」と声を掛けてくれた。
親切な人達は居るもんだなぁと思い、早く仕事を見付けて施設の世話になって迷惑を掛けていてはいけないと決意を新たにした。
そんな事を考えながら日々が過ぎ、夜遅く、何気なく起きて施設の庭を見たら人影が見えた。

 慈善団体の代表の男が年若い男とキスをしていて、もしかして年若い方は女なのだろうか?とも思ったが、男同士の様で思わず声が漏れていた。

「嘘だろ・・・」

 俺の声に2人はハッとしたように体を離して年若い男は逃げ去り、慈善団体の代表の男は俺に金を握らせると「今の事は見なかった事に」と言って去って行った。

 しかし、やはり都合が悪かったのだろう。
俺に施設を出ていくように話が来て、行く当てもない俺は自分の能力【映写】を使って代表の男を脅した。
当面は生きていけるだけの金を貰い、俺は施設を出た。

 そして気付いたのは、人の弱みを握って金を得る事に俺の能力は最適ではないかという事だった。
『カメラ』を持っている奴が気付く前に、この仕事は俺の物だ!これ以上俺の仕事を奪わせないぞ!

 この仕事を成功させるにはもっといい脅迫ネタが無くてはいけない。
チマチマした脅迫をしていたら、『全財産を払うのでこれ以上の集りはやめてくれ』と言われた。
そして呼び出しを受けて、気付けば・・・小さな船の上で海の上を漂流していた。

 呼び出しが罠で襲われて船で沖に流されたらしい。
陸も何も見えず、海だけ、海、海、海____。
喉が渇いたら水魔法で水は出せるが、それだけだった。
水だけで腹が膨れるわけでもなく、何日漂った事か・・・秋の寒さに凍死してしまうかと思いながら船の上で過ごし、ある海域に入った時だった。

 透明度の高い海域なのか、海底の様子が見える。
浅瀬かと思えばそんなわけでは無い。海面の底が見えても足など届くことは無い深い場所。
その奥深くに白い樹が見えた。
白い樹から顔が浮かび上がり、こちらを見えげて、目が合った。

 白い樹から枝が伸び、船に枝が絡みつき、船の上に白い肌の少年が立っていた。

『やぁ。こんな場所で何をしているんだ?』

「ヒィッ!なんだお前は!?」

『・・・【魔果】と呼ばれている』

「マカ・・・?何だそれは?」

『世界を狂わす樹・・・と、言われた気がするな。随分大昔に』

「そんな樹がこんな所で何をしているんだ?」

『封印されていたんだが、ほんの少ししか外に出れなくてな。丁度いい所にお前を見付けた』

 不気味な顔でその樹は笑い、頭は霧靄きりもやが掛かったようになり、後の記憶は混濁していった。 

 気付けば、陸地に着いていて、悪い夢かと思ったが赤い実が手の中にあった。
見覚えのない実は何故か美味しそうに見え、一口齧ると何でも出来る気持ちが湧いて、自分がするべきことが頭の中でハッキリしてくる。

『おいおい、種は大事な俺の【核】なんだから食ってくれるなよ?』

 そんな声が実からして、実を手から落とせば、地面に落ちた実は直ぐに白い小さな苗木になった。
少年の姿は無いが、苗木からは『丁寧に扱え』と声がする。

『まずは俺の力がどこまで落ちてしまったかの実験だ』

 不気味で捨てて逃げるべき状態だというのに、地面に跪いて白い苗木をすくい上げる。

「あなたの仰せのままに」
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