421 / 960
14章
狂った果実11
しおりを挟む
『兄さん!兄さん!助けて!!』
最後に交わしたケイトの声が今も耳に残っている。
ケルチャのたった一人の妹。助けてと呼んでいたのに、助ける事も出来ず、封印した。
後悔をしても時は戻せず、強力な力を得てしまった【魔果】にもう近付く事さえできなくなってしまった。
狂ってしまえたら良かっただろうけれど、自分が狂ってしまったら世界への影響は【魔果】以上に危ういのを重々承知している。
カシュッと音を立てて果実を食べるドリアード族の青年の傍らでケイトが泣いている。
助けてと言いながら・・・、その後ろにはドリアード族の枯れ果てた死体が積みあがっている。
仲間のドラゴンも死体の中で骨になっていた。
関わってしまったばかりにこんな事になったのか?それとも自分達が関わらなくてもいずれ関わってしまったのだろうか?
ああ・・・分からない。
でも、助けたいのはたった一人の大事な妹だけ。
手を伸ばしても、白い枝が邪魔をしてケイトの場所までたどり着く事も出来ない。
ケルチャはたった一人、枯れていくケイトの花を見ていた。
「ああー・・・嫌な夢」
ケルチャが目を覚ますと、そこはここ数年寝床にしている『女将亭』のケルチャに与えられた部屋だった。
くぅー・・・とお腹が鳴り、冬眠明けに何を食べさせてもらうかを考えながらリビングへ行くと、『女将亭』の女主である朱里と【刻狼亭】の当主の叔父であるギルが追いかけっこをしていた。
「いやぁああ!!ルーファス助けてぇえええ!!!」
「アカリ!ルーファスに助けを求めるなんて卑怯ですよ!」
「ギルさんに巻き込まれるー!助けてぇええ!!」
腕輪で魔法通信をしながら朱里が悲鳴を上げて逃げまどいキャーキャー騒いでいた。
ドラゴンも一緒に住んでいる為に広いリビングではあるけれど、走り回るには狭すぎる上に、赤ん坊のベビーベッドやベビーサークルなどがある為に狭くなっている。
赤ん坊達は何処に居るかと思えば、黒竜ネルフィームが隣りの応接間で結界を張って音を遮断して守っている。
「何してるのよ?アンタ達」
「ケルチャー!!ケルチャ逃げてください!ギルさんは敵です!」
朱里がケルチャの腕を掴んで騒ぐとギルに後ろから朱里が捕まり、ケルチャもギルに【弱点突き】をされてドラゴンの小さなサイズにさせられると小脇に抱えられる。
「アカリもケルチャも私の元へようこそ」
「ようこそじゃないです!私は子供のお世話があるんですから離してください!」
「ちょっと、アタシを巻き込んでんじゃないわよ!」
ペシペシとケルチャと朱里がギルの腕を叩いて暴れるとトスッと朱里の首の後ろに手刀が入り朱里がくたりと気を失うと、ギルがケルチャに「あなたは大人しくしてくれますよね?」とニコリと微笑む。
「ちょっと!ネルフィーム!アンタんとこの男恐ろしいんだけど?!」
「むっ、主!私の同朋に手を出すな!」
ネルフィームが結界を解いて人型を取ると腰に手を当ててギルを見下ろす。
ギルは「怒ったネルフィームも素敵ですよ?」とネルフィームの怒りは何のそのという感じである。
「アカリに迷惑を掛ければまたルーファスとアルビーに嫌われるぞ?」
「でも、私達の知り合いで慈善事業をしているのなんてアカリくらいじゃないですか?」
「だから慈善事業はやっておけと主に私は言っていたのに!」
「ですから、こうしてアカリで間に合わせるんですよ」
ネルフィームが海よりも深そうなため息を吐いて首を左右に振る。
ギルは思い立つと直ぐに行動してしまう為に後先を考えない所がある。一匹狼のギルは自分をリーダーとして考えてしまうので本能と言えど、身勝手な部分は痛手でしかない。
「主、次は氷に何年漬けられるかわからん。止めておけ。そしてケルチャを離せ」
「そうよ!アタシは関係ないでしょ!」
「いえいえ、ケルチャ。あなたには関係ありますよ?」
「主!ケルチャを巻き込もうとするんじゃない!」
「ケルチャ、【魔果】が今、世間を騒がせているんですよ」
ギルの言葉にケルチャの目が大きく見開かれる。
ネルフィームがパンッとギルの頬を打ち、ケルチャを回収すると申し訳なそうな顔でネルフィームが小さく「すまない」と謝った。
「どういう事?【魔果】は封印されているはずでしょ?!」
「誰かが慈善活動をしている様な人々を相手に【魔果】を使って悪さしている様ですよ?封印はグリムレインがやり直したようですけどね」
「犯人はどこのどいつなのよ!あんな危険な物の封印を解くなんて!」
「その犯人をおびき寄せるのに、格好の餌が【刻狼亭】の女将で慈善事業をしているアカリが必要なんですよ」
くたりと気絶したままギルに俵抱きにされている朱里をケルチャが見ながら眉間にしわを寄せる。
「わかったわ。アタシも手伝うわ」
「そうそう。それで良いんですよ」
「主!ケルチャ!関係のないアカリを巻き込むのは止めろ!どうしてもと言うなら私は本気で止めに掛かる!」
ネルフィームとギルが対峙する様に向かい合うと冷たい風がリビングの中を駆け巡る。
「ギル叔父上!アカリに何をした!」
「貴様!我の嫁に手を出したな!」
窓からルーファスとグリムレインがリビングに入ってくると、ギルが「少し時間を掛け過ぎましたね」と、ため息を吐いた。
最後に交わしたケイトの声が今も耳に残っている。
ケルチャのたった一人の妹。助けてと呼んでいたのに、助ける事も出来ず、封印した。
後悔をしても時は戻せず、強力な力を得てしまった【魔果】にもう近付く事さえできなくなってしまった。
狂ってしまえたら良かっただろうけれど、自分が狂ってしまったら世界への影響は【魔果】以上に危ういのを重々承知している。
カシュッと音を立てて果実を食べるドリアード族の青年の傍らでケイトが泣いている。
助けてと言いながら・・・、その後ろにはドリアード族の枯れ果てた死体が積みあがっている。
仲間のドラゴンも死体の中で骨になっていた。
関わってしまったばかりにこんな事になったのか?それとも自分達が関わらなくてもいずれ関わってしまったのだろうか?
ああ・・・分からない。
でも、助けたいのはたった一人の大事な妹だけ。
手を伸ばしても、白い枝が邪魔をしてケイトの場所までたどり着く事も出来ない。
ケルチャはたった一人、枯れていくケイトの花を見ていた。
「ああー・・・嫌な夢」
ケルチャが目を覚ますと、そこはここ数年寝床にしている『女将亭』のケルチャに与えられた部屋だった。
くぅー・・・とお腹が鳴り、冬眠明けに何を食べさせてもらうかを考えながらリビングへ行くと、『女将亭』の女主である朱里と【刻狼亭】の当主の叔父であるギルが追いかけっこをしていた。
「いやぁああ!!ルーファス助けてぇえええ!!!」
「アカリ!ルーファスに助けを求めるなんて卑怯ですよ!」
「ギルさんに巻き込まれるー!助けてぇええ!!」
腕輪で魔法通信をしながら朱里が悲鳴を上げて逃げまどいキャーキャー騒いでいた。
ドラゴンも一緒に住んでいる為に広いリビングではあるけれど、走り回るには狭すぎる上に、赤ん坊のベビーベッドやベビーサークルなどがある為に狭くなっている。
赤ん坊達は何処に居るかと思えば、黒竜ネルフィームが隣りの応接間で結界を張って音を遮断して守っている。
「何してるのよ?アンタ達」
「ケルチャー!!ケルチャ逃げてください!ギルさんは敵です!」
朱里がケルチャの腕を掴んで騒ぐとギルに後ろから朱里が捕まり、ケルチャもギルに【弱点突き】をされてドラゴンの小さなサイズにさせられると小脇に抱えられる。
「アカリもケルチャも私の元へようこそ」
「ようこそじゃないです!私は子供のお世話があるんですから離してください!」
「ちょっと、アタシを巻き込んでんじゃないわよ!」
ペシペシとケルチャと朱里がギルの腕を叩いて暴れるとトスッと朱里の首の後ろに手刀が入り朱里がくたりと気を失うと、ギルがケルチャに「あなたは大人しくしてくれますよね?」とニコリと微笑む。
「ちょっと!ネルフィーム!アンタんとこの男恐ろしいんだけど?!」
「むっ、主!私の同朋に手を出すな!」
ネルフィームが結界を解いて人型を取ると腰に手を当ててギルを見下ろす。
ギルは「怒ったネルフィームも素敵ですよ?」とネルフィームの怒りは何のそのという感じである。
「アカリに迷惑を掛ければまたルーファスとアルビーに嫌われるぞ?」
「でも、私達の知り合いで慈善事業をしているのなんてアカリくらいじゃないですか?」
「だから慈善事業はやっておけと主に私は言っていたのに!」
「ですから、こうしてアカリで間に合わせるんですよ」
ネルフィームが海よりも深そうなため息を吐いて首を左右に振る。
ギルは思い立つと直ぐに行動してしまう為に後先を考えない所がある。一匹狼のギルは自分をリーダーとして考えてしまうので本能と言えど、身勝手な部分は痛手でしかない。
「主、次は氷に何年漬けられるかわからん。止めておけ。そしてケルチャを離せ」
「そうよ!アタシは関係ないでしょ!」
「いえいえ、ケルチャ。あなたには関係ありますよ?」
「主!ケルチャを巻き込もうとするんじゃない!」
「ケルチャ、【魔果】が今、世間を騒がせているんですよ」
ギルの言葉にケルチャの目が大きく見開かれる。
ネルフィームがパンッとギルの頬を打ち、ケルチャを回収すると申し訳なそうな顔でネルフィームが小さく「すまない」と謝った。
「どういう事?【魔果】は封印されているはずでしょ?!」
「誰かが慈善活動をしている様な人々を相手に【魔果】を使って悪さしている様ですよ?封印はグリムレインがやり直したようですけどね」
「犯人はどこのどいつなのよ!あんな危険な物の封印を解くなんて!」
「その犯人をおびき寄せるのに、格好の餌が【刻狼亭】の女将で慈善事業をしているアカリが必要なんですよ」
くたりと気絶したままギルに俵抱きにされている朱里をケルチャが見ながら眉間にしわを寄せる。
「わかったわ。アタシも手伝うわ」
「そうそう。それで良いんですよ」
「主!ケルチャ!関係のないアカリを巻き込むのは止めろ!どうしてもと言うなら私は本気で止めに掛かる!」
ネルフィームとギルが対峙する様に向かい合うと冷たい風がリビングの中を駆け巡る。
「ギル叔父上!アカリに何をした!」
「貴様!我の嫁に手を出したな!」
窓からルーファスとグリムレインがリビングに入ってくると、ギルが「少し時間を掛け過ぎましたね」と、ため息を吐いた。
50
お気に入りに追加
4,628
あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。
鯖
恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。
パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。

婚約者である皇帝は今日別の女と結婚する
アオ
恋愛
公爵家の末娘として転生した美少女マリーが2つ上の幼なじみであり皇帝であるフリードリヒからプロポーズされる。
しかしその日のうちにプロポーズを撤回し別の女と結婚すると言う。
理由は周辺の国との和平のための政略結婚でマリーは泣く泣くフリードのことを諦める。しかしその結婚は実は偽装結婚で
政略結婚の相手である姫の想い人を振り向かせるための偽装結婚式だった。
そんなこととはつゆ知らず、マリーは悩む。すれ違うがその後誤解はとけマリーとフリードは幸せに暮らしました。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。