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14章
不穏な気配
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グリムレインが帰って来れないまま二月が過ぎた頃。
【刻狼亭】の旅館にある薬湯を使ってティルナールの火属性アレルギー治療を試したところ、赤みが引いたので薬湯で沐浴させるために朱里がティルナールを連れて連日旅館に来ていた。
「わしから話を主人につけてやろう」
「いえ、困ります・・・本当に迷惑ですし、退いて下さい」
ティルナールを腕に抱きしめて朱里が壁際に追い詰められながら、自分より3倍は横にも縦にも大きい中年の男に困り果てていた。
朱里を子守りの小間使いとでも思っているのか中年は自分の所で雇ってやると言って断ってもしつこく言い寄り、壁際に追い込まれて逃げ出せなくさせられてしまったのだ。
自分のテリトリーの様な場所なので安心していたせいか、ハガネとシュトラールにはエルシオンとルーシーをお願いして家に居てもらっている為に1人で旅館に来ていたのだが、こういう時に限って従業員も周りにも人が居ない。
「わしなら給金も弾むし、子守りより良い仕事をさせてやろう」
「結構です!この旅館でこの様な事をすれば次からは予約すら出来ませんよ!」
中年の金糸を大量に使った着物と上質な香料の匂いから身分が高い泊り客だと判る分、朱里としても【刻狼亭】の売り上げを少し気にして警告だけに留めておきたいが、ティルナールに危険があると困る為に腕輪に魔力を通してルーファスに声が聞こえる様にしているが、ティルナールを抱いている為に通話が出来ていないのでルーファスが探し出してくれるのを待っている所なのである。
「ぇぅー、ぇー」
「ティル、大丈夫よ。泣かないで、大声を出してごめんね」
中年の男の喉が鳴り、息遣いが近付く事に気付き「ヒッ」と朱里が小さく悲鳴を上げる。
顔を赤らめる中年に対して朱里の顔は恐怖で青ざめていく。
「良いのう。幼き顔立ちに見える慈母の様な顔と大人の様な顔付きになる少女の顔はたまらんのう。わしはお前が欲しい」
「ち・・・近付かないで」
気持ち悪さと怖さに生理的嫌悪感から涙がじわっと目に溜まってくる。
中年はその表情に恍惚とした表情を向けてくる。
「ハァハァ・・・たまらんのう」
「嫌ぁ・・・ヒィッ」
中年男と壁に挟まれ密着すると腹部に何か硬い物が押し当てられ、ペットボトルの様な大きさに膨らんだ男の着物部分から股間だと判り、恐怖でガチガチと歯が鳴り始める。
ティルナールが潰されない様に必死で腕を突っぱねている為にもう腕輪を触っていることは出来ず、通信は切れてしまっている。
「やめて!やめて!ティルが、子供が潰れちゃう!離れてぇ!誰か・・・誰か助けて!」
突っぱねる腕も益々押され、中年男と壁に挟まれ朱里も潰されて苦しくなるが、ティルナールの柔らかな体にこれ以上、負担が掛かれば骨が折れてしまうと、朱里が必死に足で男を蹴るが、隙間なく押し込まれている為に足が動く範囲も小さくダメージなどほとんど当てられていない。
朱里が騒ぐと余計に男が興奮していき、もう駄目だとティルナールを抱きしめてギュッと抱きしめて目をつぶると圧迫感が強くなったかと思うと、ガンッと音がし、圧迫感が無くなり冷たい物に体を包まれる。
「嫁ッ!大丈夫か?!」
目を開ければ、氷色の髪と金色の目をした人型のグリムレインが朱里を抱きしめていた。
「グリムレイン・・・?」
「驚いたぞ?魔法通信を嫁にしたら変なオッサンの声はするし、嫁は返事をせぬし。ティルは大丈夫か?」
ハッとして朱里が腕の中のティルナールを見ると小さく「ぇー」と泣いてぐずっている。
体を触りながら痛さに泣く素振りが無いので骨は無事の様だとホッと息を吐くと、ぼろぼろと涙が溢れて朱里がへたり込んで「怖かった」と泣き出すとグリムレインは少し困った顔をして朱里の頭を撫でる。
朱里が泣き止むと、グリムレインが氷漬けにして蹴り飛ばした中年を前に、ルーファスに腕輪で連絡をしてルーファスと【刻狼亭】の従業員がお客の男を連れて急いで駆け付けてくる。
「アカリ・・・ッ!・・・話は後で聞く。オレは少し外す、お前達で客人の対応にあたってくれ」
「畏まりました旦那様」
ルーファスが朱里を見て眉間にしわを寄せて朱里を抱き上げるとグリムレインを連れて歩き出す。
後ろではルーファス達が連れてきた客人の男が「旦那様!」と氷漬けになった男に騒いでいるのをグリムレインがチラッと見て「あと5分で氷は消える」と告げてフンッと鼻で息を吐く。
「グリムレイン、久々に帰ってきたようだな」
「ずっとややこしいのに掴まっておったのだ。ようやく帰れると思って連絡したら嫁が変なオッサンに押しつぶされそうになっておるし、この大陸にまで影響が出ておるとは思わなかった」
「なるほど、お前はあの症状が何なのか解っている様だな」
ルーファスとグリムレインの会話に朱里が目だけ動かして困った顔をしながらティルナールの涙を自分の服の袖でちょんちょんと拭き取る。
「私、ルーファスに連絡したのに、どうしてグリムレインに繋がったのかな?」
「我が連絡したのと嫁が腕輪に魔力を通したのが同時だったのだろ?」
「そっか・・・ルーファスは来てくれないし、お客さんには押しつぶされるようになるし、どうしようかと思った・・・」
「我に感謝するといい」
グリムレインがドヤ顔で言い、朱里が「ありがとう」と答えればグリムレインが満足そうに頷く。
ルーファスは2人のやり取りにモヤッとしながらも、今は朱里の方が先だとグリムレインに先に家に戻る様に言って薬湯のある朱里がティルナールの為に予約している部屋に入る。
部屋に着くとティルナールを朱里から受け取ると部屋に設置したベビーベッドにティルナールを置いて、ルーファスが服を脱がせ始める。
「良かったね。ティル。父上がお着換えさせてくれるよ」
「アカリも服を脱いでおけ」
「え?どうして・・・?」
「さっきの客の匂いが服についている。洗って流しておけ」
「あ・・・うん。じゃあティルと入ってる」
「オレはアカリの着替えを料亭の部屋から取ってくる。それまでは部屋にある浴衣を着ておいてくれ」
「今着ている服は処分していいな?」
「・・・はい」
ルーファスの目に怒りの色が見え、朱里も客に変な物を押し付けられた服は気持ちが悪いので処分は一向に構わないが、ほんの少しルーファスが怖いと急いで服を脱ぐとティルナールを連れて温泉に向かった。
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「わしから話を主人につけてやろう」
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ティルナールを腕に抱きしめて朱里が壁際に追い詰められながら、自分より3倍は横にも縦にも大きい中年の男に困り果てていた。
朱里を子守りの小間使いとでも思っているのか中年は自分の所で雇ってやると言って断ってもしつこく言い寄り、壁際に追い込まれて逃げ出せなくさせられてしまったのだ。
自分のテリトリーの様な場所なので安心していたせいか、ハガネとシュトラールにはエルシオンとルーシーをお願いして家に居てもらっている為に1人で旅館に来ていたのだが、こういう時に限って従業員も周りにも人が居ない。
「わしなら給金も弾むし、子守りより良い仕事をさせてやろう」
「結構です!この旅館でこの様な事をすれば次からは予約すら出来ませんよ!」
中年の金糸を大量に使った着物と上質な香料の匂いから身分が高い泊り客だと判る分、朱里としても【刻狼亭】の売り上げを少し気にして警告だけに留めておきたいが、ティルナールに危険があると困る為に腕輪に魔力を通してルーファスに声が聞こえる様にしているが、ティルナールを抱いている為に通話が出来ていないのでルーファスが探し出してくれるのを待っている所なのである。
「ぇぅー、ぇー」
「ティル、大丈夫よ。泣かないで、大声を出してごめんね」
中年の男の喉が鳴り、息遣いが近付く事に気付き「ヒッ」と朱里が小さく悲鳴を上げる。
顔を赤らめる中年に対して朱里の顔は恐怖で青ざめていく。
「良いのう。幼き顔立ちに見える慈母の様な顔と大人の様な顔付きになる少女の顔はたまらんのう。わしはお前が欲しい」
「ち・・・近付かないで」
気持ち悪さと怖さに生理的嫌悪感から涙がじわっと目に溜まってくる。
中年はその表情に恍惚とした表情を向けてくる。
「ハァハァ・・・たまらんのう」
「嫌ぁ・・・ヒィッ」
中年男と壁に挟まれ密着すると腹部に何か硬い物が押し当てられ、ペットボトルの様な大きさに膨らんだ男の着物部分から股間だと判り、恐怖でガチガチと歯が鳴り始める。
ティルナールが潰されない様に必死で腕を突っぱねている為にもう腕輪を触っていることは出来ず、通信は切れてしまっている。
「やめて!やめて!ティルが、子供が潰れちゃう!離れてぇ!誰か・・・誰か助けて!」
突っぱねる腕も益々押され、中年男と壁に挟まれ朱里も潰されて苦しくなるが、ティルナールの柔らかな体にこれ以上、負担が掛かれば骨が折れてしまうと、朱里が必死に足で男を蹴るが、隙間なく押し込まれている為に足が動く範囲も小さくダメージなどほとんど当てられていない。
朱里が騒ぐと余計に男が興奮していき、もう駄目だとティルナールを抱きしめてギュッと抱きしめて目をつぶると圧迫感が強くなったかと思うと、ガンッと音がし、圧迫感が無くなり冷たい物に体を包まれる。
「嫁ッ!大丈夫か?!」
目を開ければ、氷色の髪と金色の目をした人型のグリムレインが朱里を抱きしめていた。
「グリムレイン・・・?」
「驚いたぞ?魔法通信を嫁にしたら変なオッサンの声はするし、嫁は返事をせぬし。ティルは大丈夫か?」
ハッとして朱里が腕の中のティルナールを見ると小さく「ぇー」と泣いてぐずっている。
体を触りながら痛さに泣く素振りが無いので骨は無事の様だとホッと息を吐くと、ぼろぼろと涙が溢れて朱里がへたり込んで「怖かった」と泣き出すとグリムレインは少し困った顔をして朱里の頭を撫でる。
朱里が泣き止むと、グリムレインが氷漬けにして蹴り飛ばした中年を前に、ルーファスに腕輪で連絡をしてルーファスと【刻狼亭】の従業員がお客の男を連れて急いで駆け付けてくる。
「アカリ・・・ッ!・・・話は後で聞く。オレは少し外す、お前達で客人の対応にあたってくれ」
「畏まりました旦那様」
ルーファスが朱里を見て眉間にしわを寄せて朱里を抱き上げるとグリムレインを連れて歩き出す。
後ろではルーファス達が連れてきた客人の男が「旦那様!」と氷漬けになった男に騒いでいるのをグリムレインがチラッと見て「あと5分で氷は消える」と告げてフンッと鼻で息を吐く。
「グリムレイン、久々に帰ってきたようだな」
「ずっとややこしいのに掴まっておったのだ。ようやく帰れると思って連絡したら嫁が変なオッサンに押しつぶされそうになっておるし、この大陸にまで影響が出ておるとは思わなかった」
「なるほど、お前はあの症状が何なのか解っている様だな」
ルーファスとグリムレインの会話に朱里が目だけ動かして困った顔をしながらティルナールの涙を自分の服の袖でちょんちょんと拭き取る。
「私、ルーファスに連絡したのに、どうしてグリムレインに繋がったのかな?」
「我が連絡したのと嫁が腕輪に魔力を通したのが同時だったのだろ?」
「そっか・・・ルーファスは来てくれないし、お客さんには押しつぶされるようになるし、どうしようかと思った・・・」
「我に感謝するといい」
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ルーファスは2人のやり取りにモヤッとしながらも、今は朱里の方が先だとグリムレインに先に家に戻る様に言って薬湯のある朱里がティルナールの為に予約している部屋に入る。
部屋に着くとティルナールを朱里から受け取ると部屋に設置したベビーベッドにティルナールを置いて、ルーファスが服を脱がせ始める。
「良かったね。ティル。父上がお着換えさせてくれるよ」
「アカリも服を脱いでおけ」
「え?どうして・・・?」
「さっきの客の匂いが服についている。洗って流しておけ」
「あ・・・うん。じゃあティルと入ってる」
「オレはアカリの着替えを料亭の部屋から取ってくる。それまでは部屋にある浴衣を着ておいてくれ」
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「・・・はい」
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