黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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14章

新年はお家で

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 新しい1年が始まろうというお目出度い日に『女将亭』に居るのは身動きのまだ取れない朱里と三つ子にシュトラール、そしてハガネの6人。
 他の家族は【刻狼亭】の料亭で毎年行われている新年会へ行っている。
今年はグリムレインが赤ん坊が寒くないようにと温泉大陸に雪を降らせない様にしている為に比較的暖かい冬で、他のドラゴン達は半冬眠状態で過ごしている為に、新年会へ行っている。
 
 グリムレインは最後まで家に居ると騒いでいたが、グリムレインには冬を振りまく仕事がある為にどうしても行かなくてはいけない場所があり、出掛けて行った。
朱里が身動きが取れない事が心配らしい。
ルーファスよりも心配性なのではないか?と、思わない事も無いが、ルーファスもルーファスで新年会に行くのを最後まで渋っていた。

 番の朱里が体調が悪いのもあるし、赤ん坊を置いていくのも心配で直ぐに帰りたいが、リュエールは酒は飲めないので酒の席はルーファスが対応するしかない。

「おしっ。出来たぞ。アカリ、シュトラール」

 ハガネが縁起物のお正月料理をテーブルに並べ、シュトラールに抱き起してもらいながら朱里も席に着く。
服は黄色のカーディガンを羽織っている事で縁起物という事にしている。
さすがに着物は着れそうに無かったのが大きい。
 ハガネとシュトラールも普段通りの服装に黄色い物を取り入れただけになっている。
赤ん坊が三人もいれば汚されてもいい服になってしまうのも仕方がない。
抱っこしていたら飲んだお乳を吐かれることなどしょっちゅうなのである。
 
 席に着いて3人で「今年もお願いします」と頭を下げて、小さなお猪口でお神酒を口に少し付ける程度で挨拶をする。

「お家でお正月なんて初めてかも?」
「そういえばいつも新年会だったもんね」
「たまにゃぁいいだろ?」

 ハガネがササマキとクロにも縁起物の『竜のヒゲ』という細くて長いインゲン豆を食べさせながら、寄越せ寄越せと二匹に突かれている。
ハガネは新年会に参加しようとしまいと二匹に突かれるのは変わらないなぁと朱里とシュトラールが思いながら、自分達もお節料理を口に運ぶ。

「伊達巻きはやっぱり入って無いと落ち着かないね」
「そういえば、母上がこれが無きゃ嫌だっていつの間にかこれ浸透していったよね・・・」
「同じような南瓜の入ったヤツは違うって抜かすからな」
「だって、伊達巻はお正月に食べられる美味しい物だし!」
「美味しいけど、お子様味だよね。嫌いじゃないけど」
「作るのはいいけど、手間暇かかんだよな。ハンペンとかいうやつが特に・・・」
「はんぺん手作り良いじゃないですか。お魚すりつぶして、山芋と白身の卵にお砂糖、塩、みりんとお手軽材料だし」

 朱里が言うとハガネが糸目をさらに糸目にしてハァ・・・と、ため息をつく。

「魚をすりつぶすのが面倒くせぇ。しかもハンペンの後で、またハンペンをすりつぶして卵とみりんと混ぜて焼けとくるし・・・何回すりつぶすんだっつー話だよ」
「うふふー。でも、こうして美味しい伊達巻になるんだから文句はないじゃないですか」
「文句はあるぞ。俺の腕はすりこぎで筋肉痛になるかと思った」

 腕を左右に振りながらハガネが満足そうに伊達巻を口にする朱里に「仕方ねぇ奴だな」と言いながら伊達巻を口に運ぶ。形にしても何度も朱里が「知ってるのと違う」と騒がれ・・・結局、手巻き寿司をする時の巻きすで巻けば良い事に辿り着くまでに何度すり鉢で魚をすりつぶした事か・・・。

 まぁ、ハンペンは美味しかったので色々と料理に活用できそうだと言ったら、朱里に「ハンペンの中にチーズを入れて衣をつけて揚げるとお酒のおつまみに良いよ」と言われ、それを聞いたドラゴン達に作れと言われて、好評だった為にハガネの腕は魚すりつぶし機と化したのは言うまでもない。

「にしてもよ、今年はギルドからの仕事もねぇからゆっくり出来るんだし、アカリがゆっくりしてる正月は珍しいよな」
「・・・今回はゆっくりというより、動けないんです。ううっ、シューちゃん回復魔法下さい」
「だーめ。母上はティルを見習って自己回復力を高めて」
「ティルは子供なので成長の力が凄いんです。私は大人なので成長はもう無理!」
「肉体年齢で言えば、母上は14,5歳なので成長出来るよ。頑張って」
「くぅー・・・息子が手厳しいよぅ」

 確かに肉体年齢は若返ったので治り方は20代の時より早いが、ティルナールに比べると回復がゆっくりなので子供は日々成長をしていくと思っている。
もしくは、ティルナールも聖属性の回復使いなのかもしれないと思ってはいるが、魔法の属性は強く出ている子供でない限りは1歳をすぎないと分からない。

 相変わらず、火属性にはアレルギーが出ているので火属性では無い事だけは確かである。
他の2人がティルナールに触ってもアレルギーが出ないのでエルシオンとルーシーも火属性では無いらしい。

 ちなみに朱里は聖属性でルーファスは雷属性。
子供達に雷属性が現れていないので、三つ子はルーファスに似ている分、属性も同じなら面白いかもしれないと朱里は思っている。

「ぇぅー・・・」

 小さな声にシュトラールが耳を動かしてティルナールを見に行く。
ティルナールの声は小さいので人数が居ない今はしっかりと声が聞こえる分非常に助かっている。
賑やかなのは良いが、小さな声がかき消されてしまうのは結構困ってしまったりもする。

「んー、ティルどうしたの?・・・って、エルシオンがまた獣化してる」
「あらら、またですか」
「エルは魔力が安定しねぇな。魔力ポーション舐めさせとくか?」

 ジェル状にした魔力ポーションを入れた瓶をハガネが出してエルシオンの所に持って行き、シュトラールがエルシオンを抱き上げて、小さなスプーンで魔力ポーションを口に入れて様子を見る。

「きゅー、きゅー・・・」
「んー・・・少し熱があるね。ハガネ、熱さまし飲ませるから何か少し甘い物作れる?」
「わかった。リンゴすりおろしてみっか」
「ルーシーは大丈夫?」
「ルーシーは・・・うん。大丈夫。何ともないよ」

 朱里がおろおろと自分も何かしようと立ち上がろうとするのをシュトラールが「母上は大人しく座ってる」とピシャリと言われて、眉を下げる。
 子供の発熱はよくある事とはいえ、きゅーきゅー鳴く子供の声は胸にくるものがあるので朱里的には落ち着かないのである。

 熱さましを飲ませて様子を見る事になったが、困った事にエルシオンはルーファス達が新年会から戻ってきた夜遅くになっても熱が下がらず、シュトラールに連れられて深夜診療所に運び込まれた。
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