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14章
若のお悩み(番外編)
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「若。今日は団体のお客が入りますから、若には・・・若、話聞いてますか?」
狐獣人のシュテンがぼーっとしているリュエールの顔を覗き込むと、リュエールが慌てて「聞いてる」と頷く。
いけないいけないとリュエールが気を引き締めて着物の襟をピシッと整えてシュテンの話を聞く姿勢をとる。
【刻狼亭】の次期当主として学ぶことは沢山ある為に修行中のリュエールはルーファスが留守にしている間はこうして当主代行として働いている。
当主代行は深紫の着物なのだが、次期当主なのでリュエールは黒い着物を着ているので当主だと勘違いするお客もいる。
別にそれは構わないが、「こんな女みたいな子供が温泉大陸の頭なのか」と態度の悪い客に関しては次からは客として予約を取らせない様に対応している。
まぁ、これも客を選別する上でルーファスに課せられた事でもあるのだろうと思う。
それでなくてもリュエールは生まれつきの能力なのか害のありそうな人間からは嫌な匂いがするのを感知出来る為に嫌な匂いを感じたら善良そうな人間であろうと容赦なく叩き出すのである。
逆にシュトラールは何かしら得になりそうな人間の匂いをかぎ分けてしまう。
顔も身長も何もかも違い正反対の様な双子ではあるが、お互いを信頼しているし、相棒だと思っているので兄弟仲は大変良い。
ただ、たまにではあるけれど、シュトラールの様に将来という物が自分で考えなければいけないという事が自由の様で少し羨ましい事もある。
【刻狼亭】は好きだし、嫌ではない。
次期当主になるのも自分が望んでいる事だし、嫌なら別の道もあると言われているが、それをしないのは自分が選んだからだ。
でも、シュトラールが将来を悩んで「うーん」と医者の様な事もしてみれば、冒険者ギルドで討伐をこなして「うーん」と言って悩んで自分の将来が見えずにウロウロしていると、自分はああして悩む選択はしていないなと、少し寂しくもある。
「若、今日は休憩室に豆大福あるらしいよ」
「若、お茶は新茶の味比べらしくて3種類飲まされるから豆大福に釣られると腹がチャポチャポにされるぞ」
従業員達が忙しく動き回る中リュエールに声を掛けて行ってくれる。
こうしたやり取りも嫌いじゃない。
いつからだったろう?
従業員が自分の事をリューから『若』と呼ぶようになったのは?
シュトラールの事は皆相変わらずシュー呼びなんだけどな。
まぁ、シュトラールは【刻狼亭】を継ぐつもりは更々無いらしく、若呼びされる事はないらしい。
自分に何かあった時に『若』になるのかもしれないが、妹のミルアもナルアも居るし、新しくティルナールという弟も誕生した。
まだ2人生まれていない兄弟が居るのだから、自分の代わりは居るのだ。
それを思えば、自分も将来を考えたりした方が良いのだろうか?とも思う。
妹や弟が将来【刻狼亭】を引き継ぎたいというなら譲る事も出来る。それまでは自分が当主としてその地位を温めておけばいいだけの話。
「リュー、何か考え事か?分った。お前の事だから、ティルが生まれた事で、当主の座をティルに渡しても良い様に将来の事を考えておこうとか考えてんだろ?」
ズバッと考えていたことを指摘してきたのは友達の豹獣人のジーク。
1つ年上だけど、シュトラールが眠りについている間、シュトラールの次に自分の考えを怖いくらいズバズバ当ててくるくらいには仲が良くなった。
冒険者の父親と小物屋の母親が居るが、冒険者登録はしたものの、【刻狼亭】で料理長のアーネスさんに弟子入りした。
7歳の時にお正月の集まりに呼ぶようになってからアーネスさんの料理のファンで12歳で将来を決めるこの世界でジークが選んだのは料理人だった。
「ジークはよく僕の考えが判るよね?」
「そりゃ、俺も長男で母ちゃんの店を長男だから継げって言われたり、冒険者の父ちゃんの後を継いで冒険者になれとか言われたクチだしな。結局、下の弟や妹に押し付けて自分の好きな道選んじまったけどさ。リューは当主の仕事嫌なわけじゃないんだろ?」
「まぁね。割りと人を動かすのも好きなら変な客や商売人と交渉するの好きだしね」
「じゃあさ、弟だ妹だに譲ってやろうとか考える必要ねぇだろ?」
「そうかな?将来、どうなるかわかんないよ?」
「だからだろ?将来下の奴らに兄ちゃん譲れって言われて譲る様な仕事ならここでグダグダ悩まねぇって。第一、この【刻狼亭】で何かを得ようとするなら実力で得るしかねぇんだから、下の奴らにも実力で掛かってこいって話」
「いや、僕が当主の仕事投げ出したくなったらどうするのさ?」
「それこそ愚問だろ?長男様のいう事聞けって下に押し付けりゃいいんだよ」
「うわぁ・・・暴君だね」
「長男の特権だろ?多少の事は下に譲ってやるけど、悩み抜いた考えの元で出した答えは譲らねぇ。それは長男でも次男でも末っ子でも同じだけどな」
「んーっ、そうだね。ぐだぐだ考えても仕方が無いしね。ジークと話してると気が紛れて良いよ」
「まぁ、幼馴染特権だな。ついでに長男同士で同じ様な考えは判るからな」
「ありがと。今度どっか食べに行こうか」
「リューの奢りな」
「はいはい。それじゃ、僕は仕事に行くね」
「おう。俺も仕事に戻るかな」
幼馴染に話を聞いてもらい、リュエールは自分の仕事に戻る。
結局のところ、悩んだところで出る答えは【刻狼亭】の当主を継ぐ事しか選べないのだから、悩むだけ時間の無駄だったかな?と、少し経ってから思ったリュエールだった。
狐獣人のシュテンがぼーっとしているリュエールの顔を覗き込むと、リュエールが慌てて「聞いてる」と頷く。
いけないいけないとリュエールが気を引き締めて着物の襟をピシッと整えてシュテンの話を聞く姿勢をとる。
【刻狼亭】の次期当主として学ぶことは沢山ある為に修行中のリュエールはルーファスが留守にしている間はこうして当主代行として働いている。
当主代行は深紫の着物なのだが、次期当主なのでリュエールは黒い着物を着ているので当主だと勘違いするお客もいる。
別にそれは構わないが、「こんな女みたいな子供が温泉大陸の頭なのか」と態度の悪い客に関しては次からは客として予約を取らせない様に対応している。
まぁ、これも客を選別する上でルーファスに課せられた事でもあるのだろうと思う。
それでなくてもリュエールは生まれつきの能力なのか害のありそうな人間からは嫌な匂いがするのを感知出来る為に嫌な匂いを感じたら善良そうな人間であろうと容赦なく叩き出すのである。
逆にシュトラールは何かしら得になりそうな人間の匂いをかぎ分けてしまう。
顔も身長も何もかも違い正反対の様な双子ではあるが、お互いを信頼しているし、相棒だと思っているので兄弟仲は大変良い。
ただ、たまにではあるけれど、シュトラールの様に将来という物が自分で考えなければいけないという事が自由の様で少し羨ましい事もある。
【刻狼亭】は好きだし、嫌ではない。
次期当主になるのも自分が望んでいる事だし、嫌なら別の道もあると言われているが、それをしないのは自分が選んだからだ。
でも、シュトラールが将来を悩んで「うーん」と医者の様な事もしてみれば、冒険者ギルドで討伐をこなして「うーん」と言って悩んで自分の将来が見えずにウロウロしていると、自分はああして悩む選択はしていないなと、少し寂しくもある。
「若、今日は休憩室に豆大福あるらしいよ」
「若、お茶は新茶の味比べらしくて3種類飲まされるから豆大福に釣られると腹がチャポチャポにされるぞ」
従業員達が忙しく動き回る中リュエールに声を掛けて行ってくれる。
こうしたやり取りも嫌いじゃない。
いつからだったろう?
従業員が自分の事をリューから『若』と呼ぶようになったのは?
シュトラールの事は皆相変わらずシュー呼びなんだけどな。
まぁ、シュトラールは【刻狼亭】を継ぐつもりは更々無いらしく、若呼びされる事はないらしい。
自分に何かあった時に『若』になるのかもしれないが、妹のミルアもナルアも居るし、新しくティルナールという弟も誕生した。
まだ2人生まれていない兄弟が居るのだから、自分の代わりは居るのだ。
それを思えば、自分も将来を考えたりした方が良いのだろうか?とも思う。
妹や弟が将来【刻狼亭】を引き継ぎたいというなら譲る事も出来る。それまでは自分が当主としてその地位を温めておけばいいだけの話。
「リュー、何か考え事か?分った。お前の事だから、ティルが生まれた事で、当主の座をティルに渡しても良い様に将来の事を考えておこうとか考えてんだろ?」
ズバッと考えていたことを指摘してきたのは友達の豹獣人のジーク。
1つ年上だけど、シュトラールが眠りについている間、シュトラールの次に自分の考えを怖いくらいズバズバ当ててくるくらいには仲が良くなった。
冒険者の父親と小物屋の母親が居るが、冒険者登録はしたものの、【刻狼亭】で料理長のアーネスさんに弟子入りした。
7歳の時にお正月の集まりに呼ぶようになってからアーネスさんの料理のファンで12歳で将来を決めるこの世界でジークが選んだのは料理人だった。
「ジークはよく僕の考えが判るよね?」
「そりゃ、俺も長男で母ちゃんの店を長男だから継げって言われたり、冒険者の父ちゃんの後を継いで冒険者になれとか言われたクチだしな。結局、下の弟や妹に押し付けて自分の好きな道選んじまったけどさ。リューは当主の仕事嫌なわけじゃないんだろ?」
「まぁね。割りと人を動かすのも好きなら変な客や商売人と交渉するの好きだしね」
「じゃあさ、弟だ妹だに譲ってやろうとか考える必要ねぇだろ?」
「そうかな?将来、どうなるかわかんないよ?」
「だからだろ?将来下の奴らに兄ちゃん譲れって言われて譲る様な仕事ならここでグダグダ悩まねぇって。第一、この【刻狼亭】で何かを得ようとするなら実力で得るしかねぇんだから、下の奴らにも実力で掛かってこいって話」
「いや、僕が当主の仕事投げ出したくなったらどうするのさ?」
「それこそ愚問だろ?長男様のいう事聞けって下に押し付けりゃいいんだよ」
「うわぁ・・・暴君だね」
「長男の特権だろ?多少の事は下に譲ってやるけど、悩み抜いた考えの元で出した答えは譲らねぇ。それは長男でも次男でも末っ子でも同じだけどな」
「んーっ、そうだね。ぐだぐだ考えても仕方が無いしね。ジークと話してると気が紛れて良いよ」
「まぁ、幼馴染特権だな。ついでに長男同士で同じ様な考えは判るからな」
「ありがと。今度どっか食べに行こうか」
「リューの奢りな」
「はいはい。それじゃ、僕は仕事に行くね」
「おう。俺も仕事に戻るかな」
幼馴染に話を聞いてもらい、リュエールは自分の仕事に戻る。
結局のところ、悩んだところで出る答えは【刻狼亭】の当主を継ぐ事しか選べないのだから、悩むだけ時間の無駄だったかな?と、少し経ってから思ったリュエールだった。
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