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14章
花と白虎 上(番外編)
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夏の終わりが近付き、イルマール・ジスはその日の討伐でレア素材が出た為に、今まで貯めた貯金の金貨を両替してありすの所へ借金を返しに行っていた。
ありすの家は温泉街の青果店通りにあり、産院も近い為トリニア家の子供達やドラゴンに従者によく会う。
朱里がティルナールを抱くことが出来る程にティルナールの体重もしっかりしてきて、朱里自身も体調面で問題なく過ごしている為に、トリニア家の人々も明るい笑顔で産院を訪れている。
その日はトリニア家の次男シュトラールに会った。
「あっ、イル!討伐から帰って来てたんだ。怪我とかしてない?」
「お陰様で怪我も直ぐに治ってるよ」
そう言ってイルマールがリュエールがお礼と言ってくれた再生クリスタルの欠片をネックレスにした物をシュトラールに見せる。
「それ、便利だよね。オレの活躍の場が減るアイテムだよ」
「相変わらずシュトラールは回復魔法の向上に力を注いでるみたいだね」
「弟がまだ心配だからね。いざという時に出来ないなんて弟には言いたくないからね」
シュトラールが笑って「誰か怪我してくれないかなー」と物騒な事を言いながら歩いて行く。
苦笑いしながらイルマールは小さな頃のシュトラールは怖がりでリュエールの後ろに隠れていたのに、すっかりお兄さんの顔になったなぁと感慨深い思いでシュトラールの後ろ姿を見つめる。
あの時はリュエールの後ろにリリスとシュトラールが隠れてたっけ?と、思い出し、数年であの小さな子供達は大きくなったと思う反面、自分も大人になったなぁと思う。
大人・・・23歳の今現在、12歳の彼らから見れば自分は大人なのか、会った時のままオジサンなのか?どっちなんだろうな?と、思う。
リリスは自分をどう思っているのか少し気になる所だ。
リリスが自分を好きになってくれたのはかなり早い段階で、5歳の時には気に入られていた。
当時16歳と5歳で、何処が気に入ったのかは分からないが、会うたびに顔を赤くしてもじもじと話すリリスは可愛かった。
段々と慣れて行って、普通に赤面せずに話す様になって仲良くなっていくと、冒険者として色々と活動を広げていき会う機会が少し少なくなっていった。
でも同じ温泉大陸に暮らしているから会う事はあった。
挨拶程度の付き合い。それでいいと思っていた。
歳が10以上離れているし、小さな子供の恋心はいつまでも続くものでは無いと思っていた。
それでもリリスは温泉大陸に討伐から戻るといつも「お疲れ様」と言いに来て少しはにかんだ笑みで満足そうに帰っていく。
従者のエスタークやダリドアは「主・・・幼女キラーか!」「幼な妻・・・っ!主ヤバいな」と揶揄ってくるので、少し困ったりはしていた。
悪い気はしないけど、気恥ずかしい物もあった。
リリスが10歳を迎えると、リリスから花とお菓子を混ぜた様ないい香りがする様になった。
首の後ろがチリチリする様な感じで、リリスは前にも増して会いに来るようになり、危うい感じが自分の中で警鐘を鳴らしていた。
冒険者ギルドの依頼が片付いて数日は温泉大陸でゆっくり休もうと海辺を歩いていると、懐かしいあの逃げ込んだ洞窟が見えた。
洞窟の中に入ると先客が居て、それがリリスだと判ると一瞬戸惑ったが、リリスに気付かれて、ここで逃げ出すのも失礼かと足を踏みとどまらせる。
他愛無い挨拶をして、岩の上に並んで座りながら、冒険者ギルドの仕事の話やリリスの近状という情報交換の様な話をした。
「イルは良い香りがするよね!」
「しないと思うよ?なんせ男所帯で暮らしてるから、いい匂いとは無縁だしな」
「爽やかな森とフルーツみたいな良い香りがするんだけどなぁ・・・」
「ちょっ、リリス!?!」
フンフンと鼻を鳴らしながら、リリスが首筋に顔を近づけてきて、リリスの匂いがこっちにも濃く匂ってくる。
クラクラと頭の芯に甘く痺れるような匂いに気が付くとリリスの首筋の匂いを嗅いでいた。
顔を赤くして目を潤ませてダークパープルの瞳が静かに閉じられる。
そこで正気に戻った。
自分は何をしようとした?!
このままだと危ないと直ぐにリリスの頭を撫でて誤魔化して距離を置く。
「悪い。何かぼーっとしてた。本当にごめんな」
目を開けたリリスは少し傷ついた様な顔をした後で俯いて、悪い事をしたとこちらが罪悪感と申し訳なさでもう一度謝ろうと口を開いた時、リリスに首の後ろに手を回されて唇を塞がれていた。
甘く蕩ける様なキスの味に驚いて心臓が跳ね上がったのと同時に、ギュッと締め付けられるような甘い痛みと、ああ、自分の番だと理解した。
口の中に広がる甘さと痺れるようなもどかしさに本能でリリスの口の中を貪っていたら、リリスの体から力が抜けて目を回させてしまっていた。
「あ・・・」
再び「しまったー!!!」と、思ったけれど、確信してしまった自分の番に、小さく「参ったな・・・」と呟いてどうすべきか考える。
リリスはまだ10歳で親元で守られるべき子供だから、もう少しリリスが大人になるまでは、こちらが大人でいるしかないな・・・と、残念な気持ちもあれば、嬉しい気持ちもある。
番を見付けられたのなら、それは幸運なのだから、焦らずゆっくり歩んでいけば良い。
リリスにはちゃんと幸せになって欲しいから、まだ冒険者として自分の稼ぎが安定していないから、リリスが大人になるまでにリリスを困らせないくらいの生活を整えて、ちゃんと迎えてあげたい。
これは自分に与えられた時間でもあると思って、リリスが目を覚ました時にちゃんと話をした。
「おれはリリスが好きだよ。だからリリスを迎えに行ける準備が整うまで、おれに時間をくれないか?」
「私もイルの事好きだよ!いっぱいいーっぱい大好き!待ってるから!」
ありすの家は温泉街の青果店通りにあり、産院も近い為トリニア家の子供達やドラゴンに従者によく会う。
朱里がティルナールを抱くことが出来る程にティルナールの体重もしっかりしてきて、朱里自身も体調面で問題なく過ごしている為に、トリニア家の人々も明るい笑顔で産院を訪れている。
その日はトリニア家の次男シュトラールに会った。
「あっ、イル!討伐から帰って来てたんだ。怪我とかしてない?」
「お陰様で怪我も直ぐに治ってるよ」
そう言ってイルマールがリュエールがお礼と言ってくれた再生クリスタルの欠片をネックレスにした物をシュトラールに見せる。
「それ、便利だよね。オレの活躍の場が減るアイテムだよ」
「相変わらずシュトラールは回復魔法の向上に力を注いでるみたいだね」
「弟がまだ心配だからね。いざという時に出来ないなんて弟には言いたくないからね」
シュトラールが笑って「誰か怪我してくれないかなー」と物騒な事を言いながら歩いて行く。
苦笑いしながらイルマールは小さな頃のシュトラールは怖がりでリュエールの後ろに隠れていたのに、すっかりお兄さんの顔になったなぁと感慨深い思いでシュトラールの後ろ姿を見つめる。
あの時はリュエールの後ろにリリスとシュトラールが隠れてたっけ?と、思い出し、数年であの小さな子供達は大きくなったと思う反面、自分も大人になったなぁと思う。
大人・・・23歳の今現在、12歳の彼らから見れば自分は大人なのか、会った時のままオジサンなのか?どっちなんだろうな?と、思う。
リリスは自分をどう思っているのか少し気になる所だ。
リリスが自分を好きになってくれたのはかなり早い段階で、5歳の時には気に入られていた。
当時16歳と5歳で、何処が気に入ったのかは分からないが、会うたびに顔を赤くしてもじもじと話すリリスは可愛かった。
段々と慣れて行って、普通に赤面せずに話す様になって仲良くなっていくと、冒険者として色々と活動を広げていき会う機会が少し少なくなっていった。
でも同じ温泉大陸に暮らしているから会う事はあった。
挨拶程度の付き合い。それでいいと思っていた。
歳が10以上離れているし、小さな子供の恋心はいつまでも続くものでは無いと思っていた。
それでもリリスは温泉大陸に討伐から戻るといつも「お疲れ様」と言いに来て少しはにかんだ笑みで満足そうに帰っていく。
従者のエスタークやダリドアは「主・・・幼女キラーか!」「幼な妻・・・っ!主ヤバいな」と揶揄ってくるので、少し困ったりはしていた。
悪い気はしないけど、気恥ずかしい物もあった。
リリスが10歳を迎えると、リリスから花とお菓子を混ぜた様ないい香りがする様になった。
首の後ろがチリチリする様な感じで、リリスは前にも増して会いに来るようになり、危うい感じが自分の中で警鐘を鳴らしていた。
冒険者ギルドの依頼が片付いて数日は温泉大陸でゆっくり休もうと海辺を歩いていると、懐かしいあの逃げ込んだ洞窟が見えた。
洞窟の中に入ると先客が居て、それがリリスだと判ると一瞬戸惑ったが、リリスに気付かれて、ここで逃げ出すのも失礼かと足を踏みとどまらせる。
他愛無い挨拶をして、岩の上に並んで座りながら、冒険者ギルドの仕事の話やリリスの近状という情報交換の様な話をした。
「イルは良い香りがするよね!」
「しないと思うよ?なんせ男所帯で暮らしてるから、いい匂いとは無縁だしな」
「爽やかな森とフルーツみたいな良い香りがするんだけどなぁ・・・」
「ちょっ、リリス!?!」
フンフンと鼻を鳴らしながら、リリスが首筋に顔を近づけてきて、リリスの匂いがこっちにも濃く匂ってくる。
クラクラと頭の芯に甘く痺れるような匂いに気が付くとリリスの首筋の匂いを嗅いでいた。
顔を赤くして目を潤ませてダークパープルの瞳が静かに閉じられる。
そこで正気に戻った。
自分は何をしようとした?!
このままだと危ないと直ぐにリリスの頭を撫でて誤魔化して距離を置く。
「悪い。何かぼーっとしてた。本当にごめんな」
目を開けたリリスは少し傷ついた様な顔をした後で俯いて、悪い事をしたとこちらが罪悪感と申し訳なさでもう一度謝ろうと口を開いた時、リリスに首の後ろに手を回されて唇を塞がれていた。
甘く蕩ける様なキスの味に驚いて心臓が跳ね上がったのと同時に、ギュッと締め付けられるような甘い痛みと、ああ、自分の番だと理解した。
口の中に広がる甘さと痺れるようなもどかしさに本能でリリスの口の中を貪っていたら、リリスの体から力が抜けて目を回させてしまっていた。
「あ・・・」
再び「しまったー!!!」と、思ったけれど、確信してしまった自分の番に、小さく「参ったな・・・」と呟いてどうすべきか考える。
リリスはまだ10歳で親元で守られるべき子供だから、もう少しリリスが大人になるまでは、こちらが大人でいるしかないな・・・と、残念な気持ちもあれば、嬉しい気持ちもある。
番を見付けられたのなら、それは幸運なのだから、焦らずゆっくり歩んでいけば良い。
リリスにはちゃんと幸せになって欲しいから、まだ冒険者として自分の稼ぎが安定していないから、リリスが大人になるまでにリリスを困らせないくらいの生活を整えて、ちゃんと迎えてあげたい。
これは自分に与えられた時間でもあると思って、リリスが目を覚ました時にちゃんと話をした。
「おれはリリスが好きだよ。だからリリスを迎えに行ける準備が整うまで、おれに時間をくれないか?」
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