黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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14章

小さな光

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 温泉大陸の蒸したような暑さと夏の暑さが雑じり合い、手に持った扇子で前を早歩きするミルアとナルアに風を送ると2人はキャアキャア声を出してはしゃぎ、アイス屋を指さして「早く」と急かす。
アイス屋でカップのアイスを6個買うと、ミルアとナルアが「急げー!」と声を出して、ルーファスの手を引っ張る。

「父上!アイス溶けちゃう!」
「父上!早く早く!」
「わかった。わかった。急ぐと転ぶぞ」

 2人は生まれたばかりの弟に会いたくて仕方が無いのに、触る事が許されるのはルーファスやリュエールとシュトラールだけで、2人はまだちょんと指で触ったくらいしか無い。
小さすぎて2人が抱くには危険すぎて抱っこは禁止させられ、ミルクもまだあげた事が無い。
 今日こそはー!と、この5日間、毎日通い詰めているのである。
しかも今日は弟の名前が決まる日なので2人の張り切り方は少し高い。
産院の扉を開き、真っ直ぐ朱里の病室に行くと、朱里がミルアとナルアに笑いかけて「いらっしゃい」と迎えてくれて2人はお土産に買ってきたアイスを朱里に差し出す。

「母上、お土産ー」
「母上、アイスだよ!」
「ふふ。ありがとう。皆で食べようか!」
「やれやれ、2人共元気がいい」
「ルーファス、暑い中ありがとう」
 
 1人お腹から出てしまった事で朱里の体に余裕が出来たのか、朱里が何日も寝て起きないという事も無くなり、ミルアとナルアも朱里に甘える様にベッドによじ登って朱里に抱きつく。
 アイスを紙袋から出してミルアとナルアに1個ずつ渡し、ルーファスにも渡す。
頭の近くで惰眠を貪るグリムレインを指で突いて起こすとアイスを目の前に差し出せば尻尾を振ってニンマリと笑顔を向けてアイスの蓋をパッと開ける。

「エデンはまだあの子の所ね。グリムレイン、エデンも呼んでもらえる?」

 アイスを口に咥えてグリムレインが少し考えた後、腕輪を使いエデンを呼び出す。
エデンが直ぐに病室に戻ると言い、グリムレインが再びアイスを食べると、朱里が少し呆れた顔をする。

「グリムレインの横着者~」
「我は氷菓子が一番好きなのだ。仕方なかろう?」

 パタパタと音を立ててミルアとナルアそっくりな人型で金髪の髪をしたエデンが戻ってくる。
アイスを手にするとエデンが「わぁーい」と喜んでアイスを食べ始める。

「カップアイス、好評みたいですね」
「持ち運びに便利で溶けにくいからな」

 今まで棒付きアイスキャンディーやワッフルコーンはあったが、カップアイスはなく、1年ほど前に朱里が「持ち運びの利くカップアイス欲しいですよね」と、カップアイスの容器と蓋を試行錯誤で【風雷商】と一緒に作り上げた。
『女将亭』でも温泉鳥のアイスを売ってカップの絵柄も可愛い温泉鳥のデザインで作っているが、朱里が入院してから発売したので、朱里自身はまだ直接自分の店で売られているのは見た事は無い。
温泉大陸では今現在、カップアイスが人気になっていて、温泉街のアイス屋でもカップアイスが買える様になっている。

 アイスを口に運びながら朱里がルーファスの懐を見つめる。
朱里の視線に気付きルーファスが懐から白い紙を取り出して朱里の前に置く。
白い紙に墨で『ティルナール・トリニア』と名前が書かれている。

「ティルナールですか?意味は何かあるんですか?」
「ティルナールは『小さな光り』という意味がある」
「小さなあの子にはピッタリかもしれないですね」
「生まれて6日経つが日に日に目を見張るくらい大きくなっていくからな。直ぐに小さいとは言えなくなるかもしれないぞ?」
「ふふ。早く見たいです」

 朱里が白い紙に書かれた名前を指でなぞりながら「ティルナール」と名前を口にして優しい笑みを口元に浮かべる。

 名前に関してはトリニア家ではリュエールとシュトラールの意見は即座にルーファスとハガネとドラゴン達に却下された。

「ルシファーっていいと思うんだけどなぁ」

 2人にしてはマトモな名前ではあるが、物知りなドラゴン達に「悪魔の親玉」って意味だけど?と言われてお蔵入りした。
ドラゴン達は物知りな分、色々名前の候補を上げていくが、あーでもないこーでもないと仕舞いには大喧嘩に発展してしまい、ドラゴン達が仲たがいしてしまうのは駄目だと、結局、ルーファスが決める事になった。

 ちなみに朱里の意見は「ピ・・・」と言った瞬間に却下された。


「あなた達のお兄ちゃんはティルナールというお名前になりましたよ」

 お腹の子供に朱里が呼び掛けて、小さな胎動にニッコリとお腹を撫でる。
ミルアとナルアが朱里のお腹に手を触れながら「動いた?」「動いてる?」と首を傾げる。

「ミルアもナルアもお姉さんだね。ティルナールと仲良くしてあげてね」
「うん。いっぱい遊んであげるの」
「早くね、抱っこしたいの」

 うんうん。と、朱里が頷いて2人の頭を撫でながら、「母上も抱っこしたいよ」と携帯の写真でしか見た事の無いティルナールを抱きたい気持ちは2人と同じかそれ以上にある。

「さて、ミルア、ナルア。ティルナールを見に行くか」
「はーい」
「早く。父上!」
「ルーファス、ティルナールをお願いね」
「ああ。早くアカリの腕に抱かせてやれるようにいっぱい飲ませてくる」
「ふふ。無理していっぱい上げ過ぎても駄目ですよ」

 ルーファス達を見送ると、朱里がまた白い紙に書かれた名前を見ながら幸せそうに微笑んだ。

「小さな光・・・うん。失わないでよかった」
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