黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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14章

助けを求める声⑥

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 朝日がカーテンから差し込み、朱里が薄っすらと目を開けると、手を握って座ったまま寝ているルーファスとお互いの肩と頭を枕にしてソファで並んで寝ているリュエールとシュトラールの姿があった。

 皆、すごく疲れた顔をしている。
自分が赤ん坊を助けろと泣いて皆に無茶を言ってしまったせいで、皆に迷惑を掛けてしまった事で息子達にまで余計な悲しみを背をわせてしまった。
そう思うと涙がポロポロと零れてはシーツに染みを作っていく。
結局、赤ん坊は自分のお腹から1人居なくなってしまった。
心臓が止まった音を感じた。
助けられなかった。

 肩を震わせて泣く朱里の声にルーファスが目を開ける。

「アカリ、何を泣いている?」
「・・・っ、ごめんなさい・・・っ私のせいで」
「アカリのせいではない。泣かなくていい」
「赤ちゃん・・・、ちゃんと産んであげられなかった」
「大丈夫だ。少し誕生日が早くなっただけだ」
「ふぅ・・・うぇぇ・・・っ」
「泣かなくていい。体調はどうだ?」

 朱里の肩を抱き寄せて、泣き虫な番だと小さく笑って旋毛にキスを落とす。
朱里の泣き声リュエールとシュトラールも目を覚まし、お互いに顔を合わせてコツンコツンと頭を擦り付け合う。

「母上、おはよう」
「母上、体調はどう?何処か痛かったりする?」

 朱里が泣きながらフルフルと頭を左右に振ると2人も笑顔を見せる。
リュエールとシュトラールが朱里の所に来て冒険者カードを朱里に差し出す。

「母上、見て。Bランクに上がったよ」
「母上、僕はAランクに一気に上がったよ」
 尻尾を振りながら目を輝かせる2人の冒険者カードを手に取り、アカリが涙で滲む目で必死に子供達の頑張りを目にしてあげなきゃと涙をこらえて冒険者カードを見る。

シュトラール・トリニア
Bランク 回復術師/拳闘士
所属:【刻狼亭】
称号:【最強の回復術師】【賢者】


リュエール・トリニア
Aランク 拳闘士
所属:【刻狼亭】
称号:【強行軍崩し】【5つ首斬首】

「ぐすっ、2人共、頑張ったんだね・・・リューちゃんの称号物騒ね。ふふ」
 涙を指で拭い朱里が笑って、涙をまた溢れさせる。
笑ってあげたいのに、褒めてあげたいのに、胸が詰まって涙が勝手に溢れてしまう。

「僕の称号は父上も今回のヒドラ討伐で付いたし、他の従業員にも付いたんだよ」
「オレのは【5つ首斬首】だけだぞ。【強行軍崩し】はリューだけだ」
「いいなー。オレも【5つ首斬首】欲しかったー!」
「でも、シューは【賢者】が付いたじゃない?」
「そそ。母上!聞いて、っていうか、気付いて!【賢者】だよ!オレ賢者になった!」
 
 尻尾を振りながらシュトラールが自分の冒険者カードの【賢者】を指さす。
ルーファスもリュエールも誇らしそうに笑顔を向ける。

「んっ、凄いんだね・・・ぐすっ、【賢者】ってどういう称号なの?」
「ええ!母上そこから?!回復魔術師の最高峰の称号だよ!」
「そっか、シューちゃんは、偉いんだねぇ・・・」
「母上わかってなーい!その顔解ってないでしょ?」
「ごめんね。ちょっとわからなくて・・・」
 
 ガクリと頭を下げるシュトラールに朱里が明るい夫に息子達を見て、元気づけようとしてくれているのかな?と、優しい家族だなぁとまた涙をぽろっと流す。

「でも、今回はシューも頑張ったが、リューがヒドラと戦ったおかげで息子を失わなくて済んだんだから、一杯褒めてやらないとな」
 
 ルーファスの言葉に朱里が少し意味が分からなずに首を傾げる。
朱里の表情にルーファスが「ん・・・?」と少し眉間にしわを寄せる。

「もしかして、アカリは赤ん坊が死んだと思っていたりするか?」
「・・・赤ちゃん・・・っ、ふっ、うっぐすっ」
 ぼろぼろと泣き出した朱里にルーファスが慌ててリュエールとシュトラールを見ると、2人は顔を見合わせてお互いに首を振る。

「アカリ、子供は無事だ。小さすぎて動かせないのと、アカリがまだ安静にしていないといけないから会わせられないだけで、もう少し安定したら会わせてやれるから泣くな」
「・・・本当に?あの子は生きてる・・・?」
「母上、だからオレが【賢者】の称号になったのはそのおかげだよ。弟はオレがバッチリ回復させたからね」
「そして、その後、僕の持ち帰ったアイテムで自動回復で順調に頑張ってるよ」
 
 シュトラールとリュエールがウィンクして親指を立てると、朱里が「ありがとう」とポロポロと悲しくない涙を流した。

「あの子を助けてくれて皆ありがとう」

 三人が朱里に「家族なんだから助け合うのは当たり前」と言って笑う。
朱里が落ち着いたころ、病室にイルマールがハガネに連れてやってくる。
 討伐帰りでクタクタのイルマールの手には水を入れる2リットル程の皮袋があり、ハガネが良い笑顔でイルマールの皮袋を指さす。

「アカリはまだ乳が出ねぇ状態だろ?んでだ。イルマールが今回討伐した危険度Aのクルフルートは栄養価が高い事で知られてる魔獣で運の良い事に雌のクルフルートだったから、クルフルートの乳を持ち帰ってもらった。この乳を薄めれば赤ん坊のミルクになる・・・で、ここからは旦那達に交渉だ」

 ハガネがイルマールの背中を叩いてルーファス達の前に押し出す。

「イルマールがありすに借金があるのは知ってるよな?んで、このクルフルートの乳を買い取って借金の足しにしてやるのはどうだ?」
「そういう事なら言い値で買い取らせてもらおう」
「え?いえいえ、いいですよ!こちらこそお世話になっているんですから、差し上げます!」
「バーカ。こういう時こそ金貰っとけって。クルフルートの肉もまだあるんだし、旦那達が買い取ってくれるぜ?ギルドなんかよりよっぽど高値でな。アカリにクルフルートの肉を食わせれば腹の子にもアカリ自身にも栄養がいくからな」

 困惑するイルマールにハガネが「なっ!」とルーファスに言い、ルーファスも頷く。

「じゃ、じゃあ、ミルクは無料で良いので、肉の方を買い取っていただければ良いですから!」

 イルマールが皮袋をズイッと差し出すとルーファスが皮袋を受け取り、朱里に手渡す。
リュエールとシュトラールがニッと笑ってイルマールに抱きついて、イルマールにシュトラールが回復魔法を掛け、リュエールがイルマールの服のポケットに欠けてしまったヒドラから抜き取ったクリスタルの欠片を入れる。

「オレからのお礼!お疲れ様イル」
「僕からのお礼は小さいけど、それ1つで今後の討伐は楽になるはずだよ」

 訳が分からないと少し混乱しながらもイルマールが「ギルドに討伐完了の報告に行くので、肉は後で【刻狼亭】の料亭に持って行きます」と出ていく。

「さて、アカリはまだ動けねぇだろうけど、その乳で赤ん坊にミルク作ってやろうぜ。アカリが作れば【聖域】が発動するし、赤ん坊も喜ぶだろうしな」

 ハガネが手の平よりも小さな哺乳瓶を出して朱里に持たせる。
朱里が頷くとハガネがお湯玉を作り、朱里が皮袋からクルフルートの乳を入れてお湯玉を触り【聖域】のお湯に変えて哺乳瓶に入れる。
 シャカシャカと少し振って朱里が両手で哺乳瓶を握りしめると、ルーファスに渡す。

「お願いします」
「ああ。分かった」

「あっ、父上、母上の携帯で撮ってきてあげようよ!」
「それだ!流石リュー!」
 リュエールが朱里の病室にある引き出しから携帯を取り出し、朱里に「撮ってくるね」と言うとシュトラールも「オレも見に行く!」と元気に出ていく。

「肝心のミルクはオレの手にあるんだがな」
「ふふっ、ルーファスも急いで。きっとお腹空かせてますから」
「行ってくる。アカリが体調が戻るのが先かあの子が元気になるのが先か競争だな」
「頑張ります!自分で会いに行ってあげたいので、頑張ります!」
「その意気だ」

 ルーファスが朱里の頬にキスをすると朱里もルーファスの頬にキスをして、ルーファスが病室から出ていくとハガネが笑いながら皮袋を「産院の氷室に入れてくる」と持って行く。


 携帯を手にリュエールが戻ると朱里が早く早くと手を伸ばす。
小さな哺乳瓶すらも小さな息子には大きく感じる程の小ささに朱里が驚きながらも、ちゃんと生きていることに胸を撫でおろす。
 エデンとグリムレインが赤ん坊の周りに居るらしいが、グリムレインは未熟児の子供に冷気は駄目だと少し距離をとらされ、膨れているらしい。

 赤い蘇生クリスタルを赤ん坊の周りに置いているらしく、小さくうにうにと動く姿は生命力が戻ってきていると周りを安心させているらしい。

 朱里も早く直接見たいと携帯を握りしめて目を細めて笑う。 
 
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