黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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14章

助けを求める声③

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 シュトラールが温泉大陸へ戻ったと同時に土竜ニクストローブが【刻狼亭】の従業員を20名弱背中に乗せて温泉大陸を飛び立った。

「何だかニクストローブが凄い人いっぱい連れて行ったけど、どうかしたの?」

 シュトラールが産院に顔を出してルーファスに聞くと、ルーファスがシュトラールの肩に両手を置いてから目を合わせてシュトラールに落ち着く様に言う。

「リュエールがヒドラと1人で交戦している。今ニクストローブが連れて行った従業員はそのヒドラを退治する為の部隊だ」
「ヒドラ?オレが出る時には居なかったけど・・・強いの?」
「危険度はSクラス。再生の能力が高く、5つの頭を同時に落とすしかないが、体が大きい分首は斬り落とし辛い。しかも魔法耐性も高いから魔法での攻撃はそれ程効かない」
「それ、不味いんじゃないの?」
「ああ。本来は1人で相手をする相手ではない」

  シュトラールはリュエールなら何とか頭で考えて対処出来るかな?と思い、ルーファスの心配とは余所に「何とかなるよ」とあっけらかんとして、自分のやるべき事はこっちと言わんばかりに、朱里の病室に入っていく。

 朱里の病室にはイルマールの父親テルトワイトも治療師として来ていて、回復魔法の使えるアルビーが産医と相談をしていた。

「ただいまー!」
「おかえり、シュー」

 アルビーがシュトラールに抱きついて尻尾を揺らしながら、シュトラールと一緒に朱里の所まで近づいていく。
朱里は首だけ動かしてシュトラールを見つめると「おかえりなさい」と涙を溢れさせる。

「シューちゃんを待ってたの。シューちゃん助けて」
「うん。母上、任せてオレが何とかするから、母上は安心していいから」
「シューちゃん、シューちゃん・・・」
「母上、泣かないで。安静にしないと。大丈夫だから、少し寝てていいよ」

 シュトラールが朱里の頬の涙を手で拭きながら安心しろと笑うと朱里が少し笑ってそのまま目を閉じて眠りにつく。
シュトラールが「よしっ!」と気合を入れてバックパックから回復向上の装飾品を着けていく。

「あっ、製薬の人達は?」
「製薬部隊ならテッチ以外は出ている」
 ルーファスが病室に入ってきて告げると、製薬部隊はヒドラの方かとシュトラールが少し考えてから直ぐに産医達の方へ話をしに行く。

 産医と話をしながらシュトラールがテルトワイトとアルビーと回復の分担を決めて、朱里の頭の近くで不安そうにしているグリムレインを手招きする。

「グリムレイン、もしもの時の事をお願いするよ。危ない時は冷凍魔法だよ。母上は勿論だけど、今回の問題はお腹から取り出す赤ん坊に必要かもしれない」
「わかった。我が冷凍魔法を使う指示はシューに任せる」
「うん。なるべくオレ達が頑張るからグリムレインはどーんと構えといてよ」

 グリムレインが頷いた後、朱里の頭にスリつきながらシュトラール達の話に耳を傾ける。

「産医さんはとにかく赤ん坊を取り出す事だけ考えて、切った場所はアルビーが回復魔法で直ぐに塞いで、テルトワイトさんは体が元に戻る様に治療魔法を、ただしそんなに治療魔法を掛けると子宮が硬くなるから気を付けて、オレは全体魔法で取りこぼしが無い様に回復魔法をするから、最悪は蘇生魔法を使うけど、これはあくまで最終手段だから、使う気はほぼ無いと思ってね」

「なんだかシューは最近お医者みたいな子になったよね」
「アルビー、オレだって日々進歩してんの。リューみたいな全体的な考えは無理だけど、オレは一点集中で医学知識だけは詰め込んでるの」
「頼もしいじゃないですか。うちのイルももう少しお勉強が好きなら良かったんですけど」
「テルトワイトさん、イルはイルで冒険者としての勉強して強くなってるから畑が違うだけだよ」
「とにかく、時間がありませんから直ぐに準備にかかりましょう」
「はい。産医さんを頼りにしてます!」

 テッチが薬品を運び込むと、睡眠ポーションで朱里を深く眠らせてから行動開始となった。




____一方。

 マングローブの木が生い茂る森で相変わらず戦闘を繰り広げているリュエールは、知恵を振り絞りながら逃げ回りつつ、試せる事はとりあえず試している。

 「【破壊】【破壊】と、よしっ!【破壊】」

 ヒドラの一番右と一番左の頭を破壊魔法で潰し、ヒドラの背中の上に飛び乗り、真ん中の首の根元に破壊魔法を打ち込むと、ほんの少しヒドラの動きが弱まる。

 腰のバックパックから魔力回復ポーションと体力回復ポーションを取り出して飲み干し、ハァーと息をつくとナイフで真ん中の首元をザクザク斬り付け、傷口に痺れポーションと睡眠ポーションを流し込む。
首の肉の奥で赤く光るクリスタルが見え、手を伸ばそうとリュエールがナイフを差し込む。

「何かある・・・ってぇええ、もう再生したのか!」

 シャーッと威嚇されて危うく耳を齧られるところだったリュエールが慌ててヒドラの背から飛び退く。

「あーっ!ナイフ取られた!!!」
 深く突き立てたナイフがヒドラの首に刺さったままになり、リュエールが叫ぶ。

 そんなリュエールにブルッと振動が来ると、腕輪の方に魔法通信が入る。

「なーに?今凄く忙しいよー!」
『リューまだ無事みてぇだな』
「当たり前だよ。まぁいいや、どうかしたの?」
『シューが戻って今、アカリに施術が始まった』
「そっか。シューに任せれば大丈夫だよ」
『リュー、ニクストローブがそっちに討伐部隊を運んで行ってる。あと40分くらい持ちそうか?』
「母上とシューが頑張ってるんだから、僕が頑張らないでどうするのさ?まぁ、大分疲れてきたけどね。こんな事なら疲労回復ポーションも持ってくれば良かったよ」
『製薬部隊がそっちに行ってるから疲労回復ポーションを貰っとけ。いいか、あんまし無茶すんなよ』
「はーい。じゃあ製薬部隊がくるなら、あと少し無茶してもなんとかなるね」
『だから、無茶すんなって言ってるだろうが!人のいう事は聞けー!!』

 ブツンと通信を切ると、リュエールが「無茶でもなんでもしないとヤバいって」と言って額の汗を手で拭う。
ヒドラだけを相手にしていた筈が、周りには他の魔獣も集まってきていた。

「これでCランクから脱せなかったら冒険者ギルド訴えてやるから」
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