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14章
助けを求める声 ①
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8月に入り、ミルアとナルアが6歳になった。
朱里は眠り続け、時折アルビーが持ってくる花の匂いを凝縮した香りで目を覚ます。
そんな日々が続いていた。
リュエールとシュトラールは冒険者になった事もあってか、連日、冒険者ギルドの依頼書を見ては出掛けて行っている。ランクをサクサク上げたいのだが、Cランクが受けられる依頼という物は簡単な物が多く、中々ランク上げ出来ない事もあり、2人は通い詰めているという感じだ。
今日も冒険者ギルドに顔を出すとイルマールが居て、依頼を受けて出るところだった。
「イルー!何処に討伐に行くの?」
「ああ、リュエールにシュトラール。今日はガスティアの森に出た危険度Aの魔獣討伐だよ」
「イル良いなぁ。オレ等も討伐行きたい・・・」
「僕らにはまだ討伐系は出てないんだよね・・・採取とか面倒くさい」
「それなら、さっきCランクの依頼書で危険度C+の魔獣討伐が張り出されてたよ。早めに受けたら討伐いけるかもよ?」
「本当?!」
「急いでリュー!」
2人が依頼書の貼ってある掲示板に張り付き、依頼書を手に取ると受付に持って行く。
「やったー!」と、声が上がっている事から依頼は受けれた様だ。
イルマールが少し微笑んでから冒険者ギルドを出るとエスタークとダリドアが「主行くぞ」と、まるでそっちが主の様に言ってくるので、やれやれとしか言えない。
依頼にしろギルドへの報告にしろ、主君がやらされているのは何故なのか解せない。
しかし、子供の頃からの付き合いなので慣れてしまったのもある。
「行くぞお前達」
「主が偉そうだ」
「主は年上を敬え」
「お前等、おれは主君だろ!」
「それで今回は何を討伐するんだ主?」
「今回は危険度Aのクルフルートだ」
「ああ、あのやたらと栄養価の高い肉の魔獣か」
「どうも巨大なクルフールートが出現したらしくて暴れまわっているらしい」
「なら主を囮にして討伐するしかないな」
「主はいい囮になるだろう。我らが肉を持ち帰り美味しく頂こう」
「お前等、おれを囮にするな!おれはお前等の主君だからな?わかってんのか!」
いつも通りのイルマールの叫びが響いて、賑やかに三人は出掛けていく。
イルマール達が出掛け、リュエール達も討伐に出た2時間後、朱里が目を覚まし、グリムレインとエデンが朱里の顔を覗き込む。
「今日は、何日?」
「カレンダーはここにあるぞ。嫁、今日は体調はどうだ?」
「主様、お茶と食べ物用意する?」
朱里が×が書かれたカレンダーを見ながら、ミルアとナルアの誕生日が過ぎてしまった事に少し眉を下げる。
「グリムレイン、エデン大丈夫。お茶と何か軽い物を貰える?」
「わかった」
「わかったのー」
グリムレインが麦茶に氷を入れ、エデンが朱里がいつ起きても良い様にハガネが用意した小さな手毬寿司を出す。
朱里が目を覚まさない時はグリムレインとエデンの軽食になる。
「手毬寿司・・・焼肉で巻いてある。ふふ、美味しそう」
「ゆっくり食べろ。デザートもあるぞ」
「デザートはメローネだよ」
朱里に甲斐甲斐しくお世話をするグリムレインとエデンは3日ぶりに起きた朱里の元気そうな様子に目を細める。
手毬寿司を完食して朱里が麦茶を飲んで、窓の外を見れば夏らしい風景に「外は暑そうだね」と、2人に行って2人が「外は夏真っ盛りだからな」「お外は暑いの」と外の事を話す。
「ルーファスや子供達は元気にしている?」
「婿は夏祭りに来ている客が多くて午前様だ。たまに昼に嫁の所に来ては狐に連れ帰られている」
「リューとシューは冒険者をしているのが楽しいみたいで毎日狩りに行ってるよ。ミル・ナルはローランドとハガネと一緒に毎日ここに来ては魔法の練習をしてるよ。小さな花火魔法が出来るようになったけど、色を変えるのが中々難航してるみたい」
朱里がうんうん。と頷いて家族は元気そうだと微笑む。
寝ている間も皆元気で良かったと思うのもあるが、同時に寝てばかりで皆に心配を掛けてはいないだろうか?と、迷惑を掛けているのは確かだなぁと、いつもならば、ここらへんで眠気が来るのに頭がスッキリしていることに朱里が小さく首を傾げる。
「どうした嫁よ?」
「んー・・・なんか少し変な気がする」
「少し失礼するの」
エデンが朱里のお腹にペタッと張り付いておでこをくっつける。
「1人、命を諦めかけているの。2人の命を優先させようとしてるの」
「なっ!」
朱里が声を出した瞬間、グリムレインが病室を飛び出していく。
「エデン・・・『祝福』効いてないの・・・?」
「ううん。『祝福』でこれ以上は主様の体に負担になると魔法が働いているの」
「待って、そんなの駄目・・・っ」
「主様・・・」
ここまで育ってきてあと3ヶ月もすれば生まれる筈の子供を諦めたくないと朱里が顔を両手で覆いながら泣き、エデンが首を項垂れ、グリムレインが産医を連れて来て、朱里の診察が始まった。
エデンのいう様に3人の子供のうち一人の心音がとても小さくなっているらしい。
子供がお腹の中で亡くなってしまうと出産時に死んだ子供も一緒に出産する事になると説明を受けて、諦めきれない朱里が今お腹から1人出してあげる事は出来ないか聞くと、それは難しいと言われた。
「子宮から直ぐに取り出して直ぐに閉じる必要がありますし、その際に少しでも間違えば残る二人も危険に晒されます。それに回復魔法を使える息子さんの手を借りなければ難しいと思うのですが、息子さんは直ぐに来れますか?」
シュトラールに連絡は取ったものの、温泉大陸を離れた島へ出掛けてしまっているらしく、直ぐに戻るのは難しいらしく、スピナが風を使って高速で飛んでシュトラールを迎えに行っている。
「最悪の場合、3人共危ない事をよく考えて決断してください」
ルーファスが産院に駆けつけ産医に説明を受けて、ベッドの上で静かに泣く朱里と相談を始める。
朱里は眠り続け、時折アルビーが持ってくる花の匂いを凝縮した香りで目を覚ます。
そんな日々が続いていた。
リュエールとシュトラールは冒険者になった事もあってか、連日、冒険者ギルドの依頼書を見ては出掛けて行っている。ランクをサクサク上げたいのだが、Cランクが受けられる依頼という物は簡単な物が多く、中々ランク上げ出来ない事もあり、2人は通い詰めているという感じだ。
今日も冒険者ギルドに顔を出すとイルマールが居て、依頼を受けて出るところだった。
「イルー!何処に討伐に行くの?」
「ああ、リュエールにシュトラール。今日はガスティアの森に出た危険度Aの魔獣討伐だよ」
「イル良いなぁ。オレ等も討伐行きたい・・・」
「僕らにはまだ討伐系は出てないんだよね・・・採取とか面倒くさい」
「それなら、さっきCランクの依頼書で危険度C+の魔獣討伐が張り出されてたよ。早めに受けたら討伐いけるかもよ?」
「本当?!」
「急いでリュー!」
2人が依頼書の貼ってある掲示板に張り付き、依頼書を手に取ると受付に持って行く。
「やったー!」と、声が上がっている事から依頼は受けれた様だ。
イルマールが少し微笑んでから冒険者ギルドを出るとエスタークとダリドアが「主行くぞ」と、まるでそっちが主の様に言ってくるので、やれやれとしか言えない。
依頼にしろギルドへの報告にしろ、主君がやらされているのは何故なのか解せない。
しかし、子供の頃からの付き合いなので慣れてしまったのもある。
「行くぞお前達」
「主が偉そうだ」
「主は年上を敬え」
「お前等、おれは主君だろ!」
「それで今回は何を討伐するんだ主?」
「今回は危険度Aのクルフルートだ」
「ああ、あのやたらと栄養価の高い肉の魔獣か」
「どうも巨大なクルフールートが出現したらしくて暴れまわっているらしい」
「なら主を囮にして討伐するしかないな」
「主はいい囮になるだろう。我らが肉を持ち帰り美味しく頂こう」
「お前等、おれを囮にするな!おれはお前等の主君だからな?わかってんのか!」
いつも通りのイルマールの叫びが響いて、賑やかに三人は出掛けていく。
イルマール達が出掛け、リュエール達も討伐に出た2時間後、朱里が目を覚まし、グリムレインとエデンが朱里の顔を覗き込む。
「今日は、何日?」
「カレンダーはここにあるぞ。嫁、今日は体調はどうだ?」
「主様、お茶と食べ物用意する?」
朱里が×が書かれたカレンダーを見ながら、ミルアとナルアの誕生日が過ぎてしまった事に少し眉を下げる。
「グリムレイン、エデン大丈夫。お茶と何か軽い物を貰える?」
「わかった」
「わかったのー」
グリムレインが麦茶に氷を入れ、エデンが朱里がいつ起きても良い様にハガネが用意した小さな手毬寿司を出す。
朱里が目を覚まさない時はグリムレインとエデンの軽食になる。
「手毬寿司・・・焼肉で巻いてある。ふふ、美味しそう」
「ゆっくり食べろ。デザートもあるぞ」
「デザートはメローネだよ」
朱里に甲斐甲斐しくお世話をするグリムレインとエデンは3日ぶりに起きた朱里の元気そうな様子に目を細める。
手毬寿司を完食して朱里が麦茶を飲んで、窓の外を見れば夏らしい風景に「外は暑そうだね」と、2人に行って2人が「外は夏真っ盛りだからな」「お外は暑いの」と外の事を話す。
「ルーファスや子供達は元気にしている?」
「婿は夏祭りに来ている客が多くて午前様だ。たまに昼に嫁の所に来ては狐に連れ帰られている」
「リューとシューは冒険者をしているのが楽しいみたいで毎日狩りに行ってるよ。ミル・ナルはローランドとハガネと一緒に毎日ここに来ては魔法の練習をしてるよ。小さな花火魔法が出来るようになったけど、色を変えるのが中々難航してるみたい」
朱里がうんうん。と頷いて家族は元気そうだと微笑む。
寝ている間も皆元気で良かったと思うのもあるが、同時に寝てばかりで皆に心配を掛けてはいないだろうか?と、迷惑を掛けているのは確かだなぁと、いつもならば、ここらへんで眠気が来るのに頭がスッキリしていることに朱里が小さく首を傾げる。
「どうした嫁よ?」
「んー・・・なんか少し変な気がする」
「少し失礼するの」
エデンが朱里のお腹にペタッと張り付いておでこをくっつける。
「1人、命を諦めかけているの。2人の命を優先させようとしてるの」
「なっ!」
朱里が声を出した瞬間、グリムレインが病室を飛び出していく。
「エデン・・・『祝福』効いてないの・・・?」
「ううん。『祝福』でこれ以上は主様の体に負担になると魔法が働いているの」
「待って、そんなの駄目・・・っ」
「主様・・・」
ここまで育ってきてあと3ヶ月もすれば生まれる筈の子供を諦めたくないと朱里が顔を両手で覆いながら泣き、エデンが首を項垂れ、グリムレインが産医を連れて来て、朱里の診察が始まった。
エデンのいう様に3人の子供のうち一人の心音がとても小さくなっているらしい。
子供がお腹の中で亡くなってしまうと出産時に死んだ子供も一緒に出産する事になると説明を受けて、諦めきれない朱里が今お腹から1人出してあげる事は出来ないか聞くと、それは難しいと言われた。
「子宮から直ぐに取り出して直ぐに閉じる必要がありますし、その際に少しでも間違えば残る二人も危険に晒されます。それに回復魔法を使える息子さんの手を借りなければ難しいと思うのですが、息子さんは直ぐに来れますか?」
シュトラールに連絡は取ったものの、温泉大陸を離れた島へ出掛けてしまっているらしく、直ぐに戻るのは難しいらしく、スピナが風を使って高速で飛んでシュトラールを迎えに行っている。
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