黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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14章

冒険者と試験

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 7月7日に12歳になったリュエールとシュトラールの誕生日に何とか朱里が目を覚まし、リュエールとシュトラールの冒険者試験の許可証のサインを誕生日のプレゼント代わりに朱里が書いて2人に「おめでとう」と言うと再び眠りに落ちて行った。

 ルーファスはシュトラールには専用の武器や防具を用意したが、リュエールには渡していなかったので、12歳の誕生日に武器と素材をドワーフに頼み用意させた。

 双子故なのか、リュエールの武器も拳専用武器だった。
ただ、リュエールの場合は今までウェイトが軽かった分、打撃の数が多くなるか、相手の一番弱い部分を的確に射貫く等していたが、それを補えるだけの攻撃力向上の効果で破壊力が増したのは良い事なのかどうなのか、ルーファスも悩むところだった。
 リュエールの相手を考察する戦い方は、今まで通りしていった方がリュエールの力を発揮するには良い物だとルーファスは思う。

 2人は12歳になったその日に冒険者試験を受けに行ってしまった。
ちなみに、普段は各地に散らばった支部では冒険者試験は筆記だけで実技は受けることは出来ない。
冒険者ギルドの本部イルブールか、大きな国にある支部でしか受けられない。
2人は筆記試験を温泉大陸支部で受けて合格すると、ギルド本部があるイルブールへ温泉大陸の所持している高速船『刻狼丸』に乗って行ってしまった。
 お守り役について行ったのはテンと小鬼で、小鬼の久々の里帰りでもある。

 イルブールは冒険者ギルドの本部とあって、冒険者の数も凄い。
そして冒険者相手の商売と言えば武器屋、防具屋、薬品屋、魔道具屋と店の数も凄いのである。
巨大なカジノを思わせる造りをしているイルブールの街で小鬼の案内でギルドの本部へリュエールとシュトラールは実技を受けに行く。

「ここ冒険者ギルド本部では、基本何か揉め事が起きても「冒険者なら自分で何とかしろ」というのが暗黙の了解になっているので、他の冒険者に絡まれても相手にしてはいけません。相手にしたら自己責任です」

 小鬼が2人に言い聞かせる様に言うが、既に2人は他の冒険者に絡まれていた。
小鬼が「あらら」と声を出すとテンが「仕方が無いですねぇ」と冒険者達の間に割り込んでいく。

「何しているんですかぁ~、受付はちゃんとし終わったんですかぁ?」
「それはしたよ。そうしたらこいつらが絡んできた」
「オレ等が冒険者になるのが気に入らないんだってさ」

 2人は冒険者のパーティー4人に「実技って、おいおい。お前等じゃ無理だから帰んな」と揶揄う様に言われて、ムッとしているところである。

 受付をしたギルドの職員は毎度の事なのかチラッと見ただけで助けに来たり、声を掛けたりはしてこない。

「申し訳ないんですけど~、絡まないでもらえると助かるんですけど~」

 テンはニコニコといつも通りの笑顔で対応するが、肩に居る小鬼はファイティングポーズでシュッシュッとパンチを繰り出すような素振りをしている。

「アハハ。ですけど~だってよ」

 ポンポンとテンの頭に冒険者が笑いながら手で叩くと、テンが笑顔のまま男の手を掴んで「おやおや~」とのんびりとした声を出す。
手を掴まれた男の髪が白くなっていくと、パサパサと髪が落ちていく。
わずか5秒ほどの出来事でしかないのに、男のあまりの変わりように仲間のパーティーメンバーが何が起きたかが把握できずにポカンとする。

「お前、何しやがった!」
「え~手を掴んだだけですけど~?何もしてないですよね~?」
 テンが手を掴んだ男に問うと男は恐怖に引き攣った顔をして上下に首を動かす。

「ほら、何もしてないってお仲間も言っているんですから、サッサッと消えてください~」
「シッシッです!」
 テンが手でシッシッと払うと小鬼も一緒になって強気に騒ぐ。

「ふざけるな!お前ランクは何だ!」
「Cですけど~なんですかぁ~?」
「わっ!」

 テンの胸倉を絡んできた冒険者のリーダー的な男が掴むと、衝撃で小鬼がテンの肩からバランスを崩してずり落ちる。
シュトラールが途中で小鬼をキャッチすると、リュエールが「揉め事は自己責任だよね?」と言って絡んできた残りの冒険者を飛び蹴りして倒し、床に倒れた冒険者をシュトラールが殴り気絶させる。
もう1人をシュトラールが足を引っ掛けて転ばせるとリュエールが踵落としを頭上に落として男を気絶させる。

「残るはあなただけですが、小鬼に謝ってもらいましょうか?」

 テンがにじり寄ると男が後ずさりし、小さく悲鳴を上げる。
受付カウンターに男が手を付くと、受付のギルド職員が「はい。そこまでです」と声を出す。

「リュエール・トリニアは貴方ね。シュトラール・トリニアが貴方の方ね。はい。実技試験は合格ですよ」

 受付の職員が冒険者カードを2人に渡し、2人が首を傾げる。

「実技試験は一応試験官も居るんですけど、こうした上のランクの冒険者に絡まれて倒した場合は合格になる様になっているんです。冒険者としてこれからも頑張って下さいね・・・・って、そこの人、相手は戦闘の意思はもうありませんから、許してあげてくださいね?」

 説明をしている間にテンが冒険者の男にガスガスと足の向う脛を蹴ってカウンターにもゴンゴンと音を立てていた。怯える冒険者の男が「すいません」と震える声で言うのを聞いてからテンがいつもの表情に戻り、シュトラールから小鬼を受け取ると肩に小鬼を乗せる。

「小鬼、ちゃんと掴まって無いと駄目じゃないですかぁ」
 指でぽふぽふと小鬼の頭を叩いて、小鬼がテンの指にぶら下がりながら「僕は悪くないのです!」とキィキィ声を上げていた。

「とりあえず、冒険者にはなれたからご飯食べて温泉大陸に帰る?」
「いいですねぇ~小鬼おすすめの『爆弾』って丸いミートボールを出すお店があるのでそこに行きましょうかぁ。合格祝いに奢ってあげますよ~」
「わぁ!テンありがとー!やったー!」
「テンさん!僕は半熟卵の入った爆弾がいいです!」
「はいはい。小鬼は相変わらずそればかり選びますねぇ~」

 テン達がその場を去ると、受付の職員が肩をすくめる。

「たまにああいう化け物みたいな人間来るのよね。あんた達もう少し絡む相手を選びなさいよ」

 冒険者達が「もう御免だ」と首を左右に振って鳥肌を立てていた。
 
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