黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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13章

2人の旅行はトントン拍子

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 サクサクと音を立てホロホロと口の中で崩れていくガレットを頬張りながら、小さな陶器のティーカップに注がれる琥珀色の紅茶に小鬼が目を輝かせる。

「はい。お砂糖とオレンジも入れてあげますねぇ~」
「ありがとうございます!美味しいですね!すっごく!」

 小鬼が頬っぺたを両手で押さえてモグモグと口を動かして笑うとテンも笑顔の顔が心なしか優しい雰囲気を醸し出す。

「はい。小鬼、次の書類はこっちですよ~」
「はーい。僕、テンさんと旅行に来て良かったです!」
「旅行は楽しまないとですからねぇ~。小鬼に喜んでもらえて良かったですよ~」

 テンと小鬼の前には書類の束や巻物が山の様に並び、小鬼は積み上げられた書籍の上でテンから手渡される書類を次々と読んでは目をくるくると動かし、情報が満杯になると糖分補給のお菓子を食べて、また書類に手を伸ばす。
 小鬼が糖分補給をしている間にテンが小鬼の読み散らかした書類を整頓して積み上げていく。
既にテンの身長を超える書類の山が3つ程出来上がっていた。

「テンさんのお蔭で僕また昇級してお給金アップの閲覧制限がまた一つ解除されました!」
「ふふ。小鬼が頑張ったからですよ~。次はどのギルドに行きましょうねぇ?」
 くすくすと楽しそうにテンが笑い、小鬼が嬉々として「次はこのギルド職員をターゲットにしましょう!」と書類の束を取り出し、テンがその書類を受け取り「じゃあ次はここに旅行に行きましょうね~」小鬼の頭を指で撫でる。

「あ、そこの人、この書類片付けておいてくださいねぇ~」
 
 テンが積み上げられた書類を冒険者ギルドの制服を着た職員に言い、紅茶を飲み干した小鬼の口元を指で拭いて肩に乗せると小鬼のティーカップを水魔法で洗い、乾燥魔法で乾かすと小鬼のカバンに入れる。

「さて、この冒険者ギルドにもう用はありませんから行きましょう」
「はい!次はどんな情報を作りましょう?」
「そこは小鬼にお任せですよ~」

 2人が冒険者ギルドから出ていくと、職員が胸を手で押さえながら脂汗を流して座り込む。

「クソ・・・ッ!何なんだよあいつ等!出戻りなんて・・・恥さらしも良い所だ!」

 職員の声が悔し気にギルド内に響く。


 朱里達が冒険者ギルドからの通知を受けて騒いでいる時に、情報が閲覧出来なかった事への腹いせ・・・というより、ステップアップの為にギルド職員達が昇格をする為に各ギルドへ派遣され、色々と試される昇格テストがあり、期間中であれば職員は受けられる為に、小鬼に色々と受けさせたのである。

 小鬼の昇級テストは他のギルド職員に指定した人物を見破れるかどうかのテストで、小鬼はその人物の情報を偽情報と真実情報を渡し、職員がその情報の真実を見抜けなければ小鬼は昇格が出来る。

 その指定人物を全てテンにして色々な職員に挑み、ことごとく見破られないまま小鬼は昇格をとんとん拍子にしていき、閲覧できる情報も増えた為に、その情報で今現在、昇格試験をしている職員を調べ上げて小鬼に昇格試験を挑ませ続けていた。

「しかしそろそろ休暇も終わってしまいますから、次がラストでしょうかねぇ」
「なら楽しみましょうね!美味しい物いっぱい食べましょう!」
「それは・・・いいですねぇ~ふふ」

 テンと小鬼が出ていき、ギルド職員がテンの事を調べようとギルド本部へ情報閲覧を申し込むと、テンの情報は閲覧不可能のランクにあげられていた。

「そんな・・・Cランク冒険者が閲覧出来ないわけはないだろう!」

 テンは冒険者登録をしていなかった為にランクが今まで無かった。
今回、小鬼が昇格試験を受けやすくするために冒険者になり、Cランクになったので試験に潜り込めていたわけである。
 しかし、小鬼が情報閲覧開示が増えるのと一緒に情報規制も掛けられる様になっている為に、テンの情報はCランクでも閲覧が不可能になっている。

 情報を頼りに相手を探らなければいけない試験なのに情報が閲覧出来ないという初めから勝たす気は無いテンと小鬼は他にも閲覧禁止を増やし、ギルドの上層部の上の方でしか動かせない情報に【刻狼亭】の人々の情報を紛れ込ませ、しかもほんの少し改ざんをした。

「これでアカリさんがギルドに使われる事もありませんから、来年はアカリさんもゆっくりお正月を過ごせるでしょうねぇ」
「家族ですからね。僕らは家族だから家族は守らないとです!金貨に誓って仲間は売りません!」
「偉いですよ~。小鬼に今日は甘い物をご馳走しましょうねぇ」
「わぁーい!美味しい物、僕大好きです!」

 なでなでと小鬼を撫でテンが次の移動先の馬車のチケットを購入している頃、朱里達は温泉大陸へ戻ってきていた。

 サッサッと書類を冒険者ギルドに出して、自分を魅了状態にしてサインをさせた職員に叩きつけてやる!と意気込みながら、ミヤの冒険者カードも2人犯罪者確保をして事件解決したのでランクがBに上がったのもあり、二度と使われないぞ!と文句を言うつもりでもあった。

 温泉大陸支部のギルドの受付リンディに「あの職員は何処ですか!」と文句を言うと、リンディが苦笑いをする。

「左遷させられたので私も元上司がどこのギルドに飛ばされたのか分かんないんですよ。あの人、人の骨格や皮膚を見て年齢から職業、家族構成を何でもズバズバ当てる人だったから、結構簡単な昇格試験でミスするわけ無いのに、年齢は10以上間違えたり職業も間違えたり、家族構成を間違えたり、本当に普段なら考えられないミスをしまくったみたいで・・・」

 朱里が空振りした勢いをどうすればいいの?と頬を膨らませつつ、リンディが「実は・・・」とヒソヒソ声でアカリに言う。

「元上司が魅了を使ってCランクの人達に無茶を要求していた事がかなりの数で事細かに被害に遭った人の実名付きで上層部に届いたとかで、左遷というより、ギルド職員でいる事自体難しいかもしれないんですって」

「悪い事は出来ないものなんですねぇ」

 朱里が何処か他人事の様に言い、リンディが少し苦笑いして「あなたも被害者の1人でしょ」と言って、朱里から書類を受け取り、実技官への報酬を支払った。

 温泉大陸支部から出ると朱里が大きく伸びをして一緒に付いてきていたルーファスに「これでミヤからアカリ・トリニアに戻れました!」と笑う。

「ああ。お疲れ様アカリ」
「ルーファスもルー役有り難うございました。お疲れ様でした」

 ルーファスが朱里を抱き上げて歩き始めると、コツコツと小粒の雪の塊が降ってきていた。

「あらら、グリムレインが遅いって言ってますね。早く帰ってご飯にしましょう」
「ククッ、そうだな。久々のアカリの手料理が待ち遠しいな」
「はい。期待していてくださいね!」
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