黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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13章

早田倫子

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 冒険者ギルドのエクルド支部に朝早くミンクと朱里が訪ねて行くと、取り調べの終わったリンコ・サナダが冬だというのに薄い服装のまま椅子に両手足を縛られたまま座らされていた。

「リンコは【毒忍】の称号の通り服だの髪だの口の中だの毒の暗器を隠したりしていて、この状態にするしかなかったんです」

 エクルド支部のギルド職員が非難する様な目で見ないでくれと、言わんばかりに説明してきた。
流石の朱里もそう聞いてしまえば少し身構えてしまうし、心配性のルーファスは朱里の前に出て守ろうとする。

「とりあえず、リンコ・サナダ。こちらはランク剥奪実技官のミヤ実技官だ。君のランクについて決める為に君の話が聞きたい」

 ミンクがリンコにそう言うと朱里が頭を下げる。
リンコは少し猫目な黒目でじっと朱里を見て口を開く。

「ミヤって漢字は『神宮』の宮って字?『京都』の『都』の方?それとも別の漢字かしら?」
 その言葉にミンクは怪訝な顔をし、ルーファスも少し眉間にしわを寄せたが朱里は直ぐに理解する。
「『神宮』や『宮仕え』の宮の漢字です」
 朱里の返答にリンコの表情が少しだけ柔らかくなる。

 リンコと朱里のやり取りにミンクは「ジングウのミヤの感じ?キョウトのミヤコ?」と首を捻る。
ルーファスは東国の漢字を頭に浮かべながら、当てはめていってはいるが、キョウトは何だ?と首を捻る。

「やっぱり私を『日本人』って言うわけね。貴女も『日本人』でしょう?」
「はい。別けあってこんな頭と目ですけど、元はリンコさんと変わらないです」
「そっかそっか。私は早田倫子。『早朝』の『早』って漢字に『田んぼ』の『田』で早田、倫子は『倫理』の『倫』に『子供』の『子』よ」
「ご丁寧にありがとうございます。私は三野宮です。『数字の三』に『野原の野』に『神宮の宮』で三野宮です。訳ありなので下の名前は誤魔化しますが、漢字は『朱肉の朱』に『里山の里』の漢字です」
「成程。オッケー、三野宮さんね」

 少し心配そうにルーファスが朱里を見るが、朱里は大丈夫とルーファスに微笑む。
倫子は朱里とルーファスのアイコンタクトを見ながら少しだけ肩の力を抜く。

「倫子さんはこの世界に来てどのくらいになるんですか?」
「多分、10年は経ってると思うわ。29歳の誕生日に友達と飲み会してたら気付いたら、この世界に放り出されてたから・・・」
「じゃあ私とそう変わらないんですね」
「え?三野宮さん貴女幾つよ?10代くらいよね?」
「えと・・・27歳です。あと3ヶ月で28歳です」
「うわぁー滅茶苦茶童顔じゃない」
 
 倫子が驚いた表情をするのと同様にミンクも朱里の年齢に驚いた表情をする。
肉体年齢が若返っている為、実際は14歳くらいなので驚かれても仕方が無いと朱里は口を噤んで笑顔で誤魔化す。
言えない事は笑顔で誤魔化すしかない。

「倫子さんは召喚されたんですか?」
「そうよ。でも召喚した人達が【病魔】とか言うのでバタバタ死んじゃって、気付いたら私は一人で生きて行くしか無くて、訳が分からないまま生きて行くにはどうするかって事で、冒険者になったのよね。元の世界に戻る為に遺跡だの回ってたんだけど、ギルドの禁止区域とか禁止している遺跡が怪しいのばかりで、出入りしているうちに、今回のランク下げの通知が届いたわけ」
「成程・・・じゃあ、何でミンクさんの奥さんの店で待ち伏せを?」
「アレに関しては御免なさいとしか言えないわね。毒で体を弱らせて実技官に「解毒薬が欲しかったらランクは下げない事」って言うつもりだったのよ」
 
 痺れ薬とかならまだしも・・・毒って怖い!と、朱里が小さく悲鳴を上げながら自分の体を抱きしめると、ルーファスがグルルルと低く唸り、倫子が「悪かったわよ。ほんと」と、眉を下げて謝る。

「私の妻を怪我をさせておいて、悪いで済むと思っているのか!」

 ミンクが怒鳴ると倫子は少し片眉を上げて「あ?」とミンクを睨みつけるとミンクがビクッと体を震わせる。
A+ランク冒険者なだけはあり、殺気を瞬時に出して威嚇する倫子に朱里が凄いなぁと少し関心していると、パシパシとルーファスに尻尾で足を叩かれる。

「倫子さん、一般人に手を出したら駄目ですよ」
「それは申し訳ないと思ってるわ。私も急いでたしね。手加減はしたつもりなのよ」

 ミンクが文句を言いたそうにしていたが、強く言う事が出来ずにグッと握り拳を震わせて歯噛みしていた。
愛する妻の為に色々言いたいが、如何せんミンクでは拘束されている倫子ですら倒す事は出来ない。ランクという物はそれだけ冒険者の身体強化に恩恵を与えている。

「倫子さんは元の世界に帰りたいだけなんですね」
「そうよ。三野宮さんは帰りたくないの?」
「私を元の世界で待つ家族は居ませんし、今はここが私の居場所で家族も出来たので夫や子供達が居れば十分過ぎる程幸せなのでそれ以上は望んだりしません」
「そっかー。うん、まぁ10年以上いたらそうなっちゃうかもね。私ももう諦めてこっちの世界に家でも買って腰を下ろすべきか考えてはいたしね・・・」

 倫子がハァ・・・と、ため息を吐いて天井を見上げて「諦めも肝心よねー」とぼやく。

「倫子さん、諦めるのでしたら、今後、立ち入り禁止区域や禁猟区に入らないとお約束していただけるのでしたら、ランクに関しては考えさせていただきますよ」
「そうね。もう私も年だし、冒険者やるには結構体にガタがきてたから、頃合いなのかも。いいわ。もうこの世界でのんびりスローライフでもして余生を過ごすわ。ランクは少し稼げる程度のダンジョンとか魔獣を少し狩れるくらいのランクがあれば良いかな?」

 しゃがみ込んでルーファスと朱里が意見をすり合わせ、普通の村や街程度ならばCランクでも元A+ランクならば魔獣は対応出来るという意見になり、早田倫子のランクはCランクに降格した。
 ルーファス的に朱里を狙った事が許せないとは言ったが、朱里が殺す気はなかったようだし、今回はランクを落とすだけにして様子をみようという事になった。
それに、ミンクの妻の店を修復する費用を払わせるのに冒険者で稼いでもらった方が良い事と、Cランクならギルドに補充員としてミヤの代わりに差し出す気でもいるからだった。
一度ランクを落とされるとランクは中々上がらないそうなので、精々ギルドに使われてギルドの監視下に置いてもらった方が良いとの判断でもあった。

 倫子はこれからミンクの妻の訴えで小さな裁判の様な物をさせられるらしいが、倫子は「まぁ仕方が無いよね」と少し晴々した顔をしていた。

「倫子さん、何で倫子さんは【毒忍】って呼ばれているんですか?」

「日本人なら【忍び】でしょ!あと、私学生時代、生物部だったの。だから毒草に詳しかったからね」


 朱里が「え?生物部ってそんな危険な物扱うの?!」と疑問を抱きながら、倫子が拘留所に送られるのを見送った。


 ミンクがミヤのランク剥奪実技官の終了の書類を手続きし、最後に朱里がその書類にサインをして無事に実技官の仕事を終了させた。

 後日談としては、早田倫子はその後、スローライフをするという事で山間の村に移住し、そこで魔獣を狩りながら魔獣で作った煮込み料理の店を出して、そこそこ人気が出て食べに来た冒険者の男と結婚をして、夫が魔獣を狩り、倫子が料理を作る。そんな感じで過ごしていくことになる。











※生物部の話は・・・作者の友人の現役大学生から「生物部はゴミ拾いから獣の解体、毒草ありとあらゆるものを扱う・・・扱わされる部なんだよぉ!!」との事です。生物部・・・怖いね。高校の時の話らしいですが、彼は研究者になるべく勉強中ですが「生物部で危険な事は教わった!今はその延長線じゃー!」との事です。
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