375 / 960
13章
リューとデンシャク
しおりを挟む
母上が10代の頃に父上に作ってもらった狼の耳と尻尾付きパーカーをすっぽりと被り、母上のジャケットだと流石に上腕がキツイ為に自分のジャケットを羽織り、ズボンとブーツに、母上のポーションホルダーと【眠れる賛華】を手に持つ。
「わぁ、母上そっくり。リュー似合う」
「あんまり嬉しくないけど、まぁ似てるなら今回は良いよ」
耳付きパーカーのおかげで耳は隠せるけど、母上なんでこれ持って来たんだか・・・まったく。
母上は相変わらず発熱していて寝ているので、父上に母上は任せてシューとグリムレインと僕の3人で行くことになった。
「父上、行ってきます!」
「母上の事お願いね。終わったら連絡入れるから」
父上が母上の手を握ったまま頷いて「気を付けろ。無理はするな」と心配そうな顔でこちらを見て来るけど、父上が今しなきゃいけないのは母上の心配だけなので、僕らへの気遣いは無用。
「嫁~。早く良く治れ」
母上の口にグリムレインが小さな氷を口に入れて、母上の額にスリスリと頭を擦り付けて、後ろ髪・・・というか尻尾を引かれる思いで僕らの方へ飛んで来る。
「婿、嫁は任せたからな。終わったら直ぐに帰るからな!」
「ああ、グリムレイン、2人を頼んだ」
静かにドアを閉めて宿を出るとミンクさんが馬車で待っていた。
「おはようごさいます。・・・ミヤ試験官・・・?」
「はい?どうかしましたか?さぁ、お仕事行きましょう」
ここはニッコリ笑顔で誤魔化して行くしかない。馬車に乗ってしまえば身長などほぼ判らないし。
ササッと馬車に乗り込むと、ミンクさんが少し首を捻るが、ミンクさん、気にしたらいけない事もあるんですよ。
「今日は魔獣は1匹だけなんですね」
「そうなんですよー。あ、でもレインもいるので2匹ですね」
グリムレインがパーカーのフードから少し顔を出してミンクさんを見てフイッとフードの中に戻っていく。
「大丈夫ですか?A+ランクの人物ですから、この間のニッキーより強いと思いますが」
「何とかなりますよ。それにランク剥奪の理由もギルドでも曖昧な感じですから、話し合いでどうにかなるかもしれませんしね」
「ええ。デンシャクさんは人当たりも良い方ですし、不運なだけかもしれないと、こちらでも迷う案件ですからね」
書類にも人柄に問題はないと記入されていたから、実際に会ってみないとこればかりは僕にも判断はつかない。
母上の話を聞いて竜人へのイメージは悪いけれど、全員が全員、悪人という極論はしない様にしないと広い視野で物事は見極められない。
個人的にはサクッとグリムレインの氷結で凍らせてランクを落として終わりにしたいんだけど、万が一、本当に不運が重なってダンジョンでただ1人生き残っただけの人ならば、ランクの下げ幅も考えなきゃいけない。
「フゥーン」
「同感だよ」
シュトラールが馬車飽きたねと、声を掛けて来るけどこればかりはどうしようもない。
どうせならギルドに呼び出しをしたらいいのにって思う。
まぁ、ランク剥奪対象者になるぐらいだから逃げるか来ないかだろうから、こうして出向かなきゃいけないんだろうけど。
馬車に揺られる事1時間弱、小さな森の中にある寺院にデンシャクさんは居た。
巨大な体躯はネルフィームの人型よりも大きくがっしりした体は竜人だなぁって感じ。
シャンパンゴールドの髪に白い髪が二房生えている。
生えている尻尾の色は黄色で、穏やかそうな人という第一印象・・・かな?
「ようこそ遠い所までおいで下さいました」
「デンシャクさん、申し訳ないが書簡で知らせた通り、貴方にランク剥奪対象の嫌疑が掛かっていて、その采配の為にこちらのミヤ実技官に来てもらった」
「よろしくお願いします。ランク剥奪実技官のミヤです」
「あなたの様な小さい方がですか・・・今回は宜しくお願いします」
デンシャクさんが優し気な笑みを向けて手を差し伸べてきたので、手を握った。
握った手は酷く冷たかった。まるで冷水で手を洗ったばかりの様な冷たさ。
「聞いたかもしれませんが、私と組んだ冒険者達がダンジョンで魔獣に襲われましてね。運が悪いのか5回も続いてしまい・・・私も高難易度のダンジョンの難しさを痛感しました。私が生き残れたのも竜人という強靭な体のおかげです」
確かに、竜人の肉体は強靭だとは聞くけど・・・5回も続くのは多すぎだと思う。
「こうして、亡くなった仲間たちを弔うために寺院で祈りを毎日捧げているのです」
並んでいる石を手彫りした仏像は仲間を模した物なのか1つ1つ違っていて、1つずつ装備品の様な物が置かれている。
「私も自分のランクではまだ仲間を守って戦うことなど無理だと思いましたので、ミヤ実技官にランクを下げてもらって、下のランクで普通のダンジョンで仲間たちを助けながら冒険者を続けられたらと思っています」
「という事は、戦わずにミヤ実技官にランクを下げてもらう事を任せるという事で良いでしょうか?」
「構いません。私の様な者は高難易度のダンジョンにはまだまだ力不足なのです。もっと力を貯めて仲間を守れる力量を付けてから出直したいと思っています」
ミンクさんが書類を出し、戦闘放棄で実技官の采配に任せるというサインをデンシャクさんにさせた。
「ミヤ実技官、やはり不幸が重なると疑心暗鬼になってしまう物ですね」
ミンクさんが書類をカバンに仕舞い込んで、「仕事はこれで完了になりますね」と笑う。
お人好しな人だなとミンクさんの人の良さそうな笑顔に、甘いなぁって思いながらデンシャクさんの目線を追えば、デンシャクさんが善い人かどうかは解る。
「ミヤ実技官、それで私のランクはどうなりますか?」
デンシャクさんが笑顔で聞いてきて、僕も笑顔で答える。
「冒険者ランクはC以下です。つまり冒険者の資格剥奪ですよ」
「わぁ、母上そっくり。リュー似合う」
「あんまり嬉しくないけど、まぁ似てるなら今回は良いよ」
耳付きパーカーのおかげで耳は隠せるけど、母上なんでこれ持って来たんだか・・・まったく。
母上は相変わらず発熱していて寝ているので、父上に母上は任せてシューとグリムレインと僕の3人で行くことになった。
「父上、行ってきます!」
「母上の事お願いね。終わったら連絡入れるから」
父上が母上の手を握ったまま頷いて「気を付けろ。無理はするな」と心配そうな顔でこちらを見て来るけど、父上が今しなきゃいけないのは母上の心配だけなので、僕らへの気遣いは無用。
「嫁~。早く良く治れ」
母上の口にグリムレインが小さな氷を口に入れて、母上の額にスリスリと頭を擦り付けて、後ろ髪・・・というか尻尾を引かれる思いで僕らの方へ飛んで来る。
「婿、嫁は任せたからな。終わったら直ぐに帰るからな!」
「ああ、グリムレイン、2人を頼んだ」
静かにドアを閉めて宿を出るとミンクさんが馬車で待っていた。
「おはようごさいます。・・・ミヤ試験官・・・?」
「はい?どうかしましたか?さぁ、お仕事行きましょう」
ここはニッコリ笑顔で誤魔化して行くしかない。馬車に乗ってしまえば身長などほぼ判らないし。
ササッと馬車に乗り込むと、ミンクさんが少し首を捻るが、ミンクさん、気にしたらいけない事もあるんですよ。
「今日は魔獣は1匹だけなんですね」
「そうなんですよー。あ、でもレインもいるので2匹ですね」
グリムレインがパーカーのフードから少し顔を出してミンクさんを見てフイッとフードの中に戻っていく。
「大丈夫ですか?A+ランクの人物ですから、この間のニッキーより強いと思いますが」
「何とかなりますよ。それにランク剥奪の理由もギルドでも曖昧な感じですから、話し合いでどうにかなるかもしれませんしね」
「ええ。デンシャクさんは人当たりも良い方ですし、不運なだけかもしれないと、こちらでも迷う案件ですからね」
書類にも人柄に問題はないと記入されていたから、実際に会ってみないとこればかりは僕にも判断はつかない。
母上の話を聞いて竜人へのイメージは悪いけれど、全員が全員、悪人という極論はしない様にしないと広い視野で物事は見極められない。
個人的にはサクッとグリムレインの氷結で凍らせてランクを落として終わりにしたいんだけど、万が一、本当に不運が重なってダンジョンでただ1人生き残っただけの人ならば、ランクの下げ幅も考えなきゃいけない。
「フゥーン」
「同感だよ」
シュトラールが馬車飽きたねと、声を掛けて来るけどこればかりはどうしようもない。
どうせならギルドに呼び出しをしたらいいのにって思う。
まぁ、ランク剥奪対象者になるぐらいだから逃げるか来ないかだろうから、こうして出向かなきゃいけないんだろうけど。
馬車に揺られる事1時間弱、小さな森の中にある寺院にデンシャクさんは居た。
巨大な体躯はネルフィームの人型よりも大きくがっしりした体は竜人だなぁって感じ。
シャンパンゴールドの髪に白い髪が二房生えている。
生えている尻尾の色は黄色で、穏やかそうな人という第一印象・・・かな?
「ようこそ遠い所までおいで下さいました」
「デンシャクさん、申し訳ないが書簡で知らせた通り、貴方にランク剥奪対象の嫌疑が掛かっていて、その采配の為にこちらのミヤ実技官に来てもらった」
「よろしくお願いします。ランク剥奪実技官のミヤです」
「あなたの様な小さい方がですか・・・今回は宜しくお願いします」
デンシャクさんが優し気な笑みを向けて手を差し伸べてきたので、手を握った。
握った手は酷く冷たかった。まるで冷水で手を洗ったばかりの様な冷たさ。
「聞いたかもしれませんが、私と組んだ冒険者達がダンジョンで魔獣に襲われましてね。運が悪いのか5回も続いてしまい・・・私も高難易度のダンジョンの難しさを痛感しました。私が生き残れたのも竜人という強靭な体のおかげです」
確かに、竜人の肉体は強靭だとは聞くけど・・・5回も続くのは多すぎだと思う。
「こうして、亡くなった仲間たちを弔うために寺院で祈りを毎日捧げているのです」
並んでいる石を手彫りした仏像は仲間を模した物なのか1つ1つ違っていて、1つずつ装備品の様な物が置かれている。
「私も自分のランクではまだ仲間を守って戦うことなど無理だと思いましたので、ミヤ実技官にランクを下げてもらって、下のランクで普通のダンジョンで仲間たちを助けながら冒険者を続けられたらと思っています」
「という事は、戦わずにミヤ実技官にランクを下げてもらう事を任せるという事で良いでしょうか?」
「構いません。私の様な者は高難易度のダンジョンにはまだまだ力不足なのです。もっと力を貯めて仲間を守れる力量を付けてから出直したいと思っています」
ミンクさんが書類を出し、戦闘放棄で実技官の采配に任せるというサインをデンシャクさんにさせた。
「ミヤ実技官、やはり不幸が重なると疑心暗鬼になってしまう物ですね」
ミンクさんが書類をカバンに仕舞い込んで、「仕事はこれで完了になりますね」と笑う。
お人好しな人だなとミンクさんの人の良さそうな笑顔に、甘いなぁって思いながらデンシャクさんの目線を追えば、デンシャクさんが善い人かどうかは解る。
「ミヤ実技官、それで私のランクはどうなりますか?」
デンシャクさんが笑顔で聞いてきて、僕も笑顔で答える。
「冒険者ランクはC以下です。つまり冒険者の資格剥奪ですよ」
54
お気に入りに追加
4,628
あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。
鯖
恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。
パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

婚約者である皇帝は今日別の女と結婚する
アオ
恋愛
公爵家の末娘として転生した美少女マリーが2つ上の幼なじみであり皇帝であるフリードリヒからプロポーズされる。
しかしその日のうちにプロポーズを撤回し別の女と結婚すると言う。
理由は周辺の国との和平のための政略結婚でマリーは泣く泣くフリードのことを諦める。しかしその結婚は実は偽装結婚で
政略結婚の相手である姫の想い人を振り向かせるための偽装結婚式だった。
そんなこととはつゆ知らず、マリーは悩む。すれ違うがその後誤解はとけマリーとフリードは幸せに暮らしました。

大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた
黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」
幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。