黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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13章

リューとデンシャク

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 母上が10代の頃に父上に作ってもらった狼の耳と尻尾付きパーカーをすっぽりと被り、母上のジャケットだと流石に上腕がキツイ為に自分のジャケットを羽織り、ズボンとブーツに、母上のポーションホルダーと【眠れる賛華】を手に持つ。

「わぁ、母上そっくり。リュー似合う」
「あんまり嬉しくないけど、まぁ似てるなら今回は良いよ」

 耳付きパーカーのおかげで耳は隠せるけど、母上なんでこれ持って来たんだか・・・まったく。
母上は相変わらず発熱していて寝ているので、父上に母上は任せてシューとグリムレインと僕の3人で行くことになった。

「父上、行ってきます!」
「母上の事お願いね。終わったら連絡入れるから」

 父上が母上の手を握ったまま頷いて「気を付けろ。無理はするな」と心配そうな顔でこちらを見て来るけど、父上が今しなきゃいけないのは母上の心配だけなので、僕らへの気遣いは無用。

「嫁~。早く良く治れ」
 母上の口にグリムレインが小さな氷を口に入れて、母上の額にスリスリと頭を擦り付けて、後ろ髪・・・というか尻尾を引かれる思いで僕らの方へ飛んで来る。

「婿、嫁は任せたからな。終わったら直ぐに帰るからな!」
「ああ、グリムレイン、2人を頼んだ」

 静かにドアを閉めて宿を出るとミンクさんが馬車で待っていた。

「おはようごさいます。・・・ミヤ試験官・・・?」
「はい?どうかしましたか?さぁ、お仕事行きましょう」

 ここはニッコリ笑顔で誤魔化して行くしかない。馬車に乗ってしまえば身長などほぼ判らないし。
ササッと馬車に乗り込むと、ミンクさんが少し首を捻るが、ミンクさん、気にしたらいけない事もあるんですよ。

「今日は魔獣は1匹だけなんですね」
「そうなんですよー。あ、でもレインもいるので2匹ですね」
 グリムレインがパーカーのフードから少し顔を出してミンクさんを見てフイッとフードの中に戻っていく。

「大丈夫ですか?A+ランクの人物ですから、この間のニッキーより強いと思いますが」
「何とかなりますよ。それにランク剥奪の理由もギルドでも曖昧な感じですから、話し合いでどうにかなるかもしれませんしね」
「ええ。デンシャクさんは人当たりも良い方ですし、不運なだけかもしれないと、こちらでも迷う案件ですからね」

 書類にも人柄に問題はないと記入されていたから、実際に会ってみないとこればかりは僕にも判断はつかない。
母上の話を聞いて竜人へのイメージは悪いけれど、全員が全員、悪人という極論はしない様にしないと広い視野で物事は見極められない。
 個人的にはサクッとグリムレインの氷結で凍らせてランクを落として終わりにしたいんだけど、万が一、本当に不運が重なってダンジョンでただ1人生き残っただけの人ならば、ランクの下げ幅も考えなきゃいけない。

「フゥーン」
「同感だよ」
 シュトラールが馬車飽きたねと、声を掛けて来るけどこればかりはどうしようもない。
どうせならギルドに呼び出しをしたらいいのにって思う。
まぁ、ランク剥奪対象者になるぐらいだから逃げるか来ないかだろうから、こうして出向かなきゃいけないんだろうけど。

 馬車に揺られる事1時間弱、小さな森の中にある寺院にデンシャクさんは居た。

巨大な体躯はネルフィームの人型よりも大きくがっしりした体は竜人だなぁって感じ。
シャンパンゴールドの髪に白い髪が二房生えている。
生えている尻尾の色は黄色で、穏やかそうな人という第一印象・・・かな?

「ようこそ遠い所までおいで下さいました」
「デンシャクさん、申し訳ないが書簡で知らせた通り、貴方にランク剥奪対象の嫌疑が掛かっていて、その采配の為にこちらのミヤ実技官に来てもらった」
「よろしくお願いします。ランク剥奪実技官のミヤです」
「あなたの様な小さい方がですか・・・今回は宜しくお願いします」

 デンシャクさんが優し気な笑みを向けて手を差し伸べてきたので、手を握った。
握った手は酷く冷たかった。まるで冷水で手を洗ったばかりの様な冷たさ。

「聞いたかもしれませんが、私と組んだ冒険者達がダンジョンで魔獣に襲われましてね。運が悪いのか5回も続いてしまい・・・私も高難易度のダンジョンの難しさを痛感しました。私が生き残れたのも竜人という強靭な体のおかげです」

 確かに、竜人の肉体は強靭だとは聞くけど・・・5回も続くのは多すぎだと思う。

「こうして、亡くなった仲間たちを弔うために寺院で祈りを毎日捧げているのです」

 並んでいる石を手彫りした仏像は仲間を模した物なのか1つ1つ違っていて、1つずつ装備品の様な物が置かれている。

「私も自分のランクではまだ仲間を守って戦うことなど無理だと思いましたので、ミヤ実技官にランクを下げてもらって、下のランクで普通のダンジョンで仲間たちを助けながら冒険者を続けられたらと思っています」
「という事は、戦わずにミヤ実技官にランクを下げてもらう事を任せるという事で良いでしょうか?」
「構いません。私の様な者は高難易度のダンジョンにはまだまだ力不足なのです。もっと力を貯めて仲間を守れる力量を付けてから出直したいと思っています」

 ミンクさんが書類を出し、戦闘放棄で実技官の采配に任せるというサインをデンシャクさんにさせた。 

「ミヤ実技官、やはり不幸が重なると疑心暗鬼になってしまう物ですね」
 
 ミンクさんが書類をカバンに仕舞い込んで、「仕事はこれで完了になりますね」と笑う。
お人好しな人だなとミンクさんの人の良さそうな笑顔に、甘いなぁって思いながらデンシャクさんの目線を追えば、デンシャクさんが善い人かどうかは解る。

「ミヤ実技官、それで私のランクはどうなりますか?」

 デンシャクさんが笑顔で聞いてきて、僕も笑顔で答える。

「冒険者ランクはC以下です。つまり冒険者の資格剥奪ですよ」
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