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13章
過去の傷
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体の中をジクジク小さな痛みが走って行く。
もう捕らわれてはいないのに、吸い込んだ瘴気に蝕まれ、息苦しさと体中の痛さが心に深く刻まれてしまって溺れている様に息が上手く吸えなくなる。
ドラゴン達には慣れたのに、竜人が怖くて体の震えが止まらない。
アルビーに治してもらった腕も幻肢痛の様に剣で切られた痛みが戻ってくる。
腕が熱い、体が熱い、息が苦しい。
体がジットリして気持ちの悪さに目を開けると薄暗い部屋に金色の目が光っていた。
「アカリ、熱があるからもう少し寝ておけ」
「・・・手・・・」
「ああ、握っておいてやるから、寝ていろ。心配ない」
ギュッと握られた手の確かな感触に目を閉じたら眠りに入っていた。
ようやく魘されずに眠りに入った朱里の横でルーファスがギルドに手渡された書類を見ながら、フゥとため息を吐く。
『冒険者A+ランク デンシャク 竜人』
冒険者ランク剥奪対象になった理由が組んだパーティーメンバーがことごとく行方不明になっている事から怪しいと目を付けられた事らしい。
ダンジョンに入ればパーティーが崩壊して生き残りが1人になる事は多々ある。
デンシャクの場合はダンジョンに入ったメンバーが5回中5回ともデンシャクを残して死亡と報告されているが、遺体は出ていないので行方不明扱いになっている。
冒険者ギルドもデンシャクが行ったダンジョンが高難易度という事もあり、無くはない話なので、せめてこれ以上の犠牲者を増やさない為に、デンシャクの冒険者ランクを下げて高難易度のダンジョンでパーティーを組めないようにする事を目的としての依頼らしい。
しかし、ランク剥奪実技官の決定に左右されるのでここは実技官にお任せという感じらしい。
朱里が過度のストレスから発熱してしまった為に、明日の依頼はどうするかが決められないでいる。
断れれば一番いいのだが、契約書にサインをしてしまっている以上はこちら側のペナルティーになってしまう。
ペナルティーが嵩めば、3人を実技で相手をすれば仕事完了で解放されるが、それが無効になる事も十分考えられる。
カリカリ・・・。
小さなドアを引っ掻く音に、朱里から手を離してドアを開けるとシュトラールが心配そうに獣化して待っていた。
「母上、大丈夫?」
「まだ熱があるが少し落ち着いた。心配しなくていい」
「リューが作戦を立てたから父上少し来れる?」
朱里が寝ているのを確認してから、ルーファスが「ああ」と言って静かにドアを閉めて出ていく。
隣りの部屋に行くとオパール色に髪を変えたリュエールが居た。
「あ、父上、母上は大丈夫?」
「ああ。それよりその髪はどうした?」
「母上の髪を染めてる道具を借りたんだよ。僕も一応聖属性だから色は同じになるし」
リュエールが目の色も変える魔法薬を目にさして両目とも金色にすると、シュトラールがうんうんと頷く。
「父上、これならなんとか誤魔化せそうじゃない?」
「僕としては不本意だけど、どう?父上」
朱里の替え玉になる気満々なリュエールが、朱里そっくりの笑顔で笑って見せる。
無くはないかもしれない・・・が、大丈夫かも不安になる。
デンシャクは初顔合わせなので何とかなるが、ミンクは誤魔化せるものか・・・?
「我が嫁に変化した方が完璧だと思うがな」
グリムレインが朱里に変化するが、自信満々なドヤ顔をしている為に偽者感が否めない。
「グリムレインは口調とか態度でバレるよ」
「母上は、我なんて言わないしね」
「むぅ・・・」
リュエールとシュトラールに突っ込まれてグリムレインが口を尖らせてベッドの上に胡坐をかいて座る。
「胡坐はかかないで!」とリュエールにペシッと膝を叩かれてグリムレインが「何をする!」と文句を言うが、朱里の姿で胡坐はかくんじゃないとルーファスも喉から出かかった言葉だった。
「で、母上のあの怯え方はどうしてなのか教えてくれない?」
「書類に載ってた奴は母上の知ってる奴なの?」
リュエールとシュトラールがルーファスに詰め寄り、グリムレインはベッドの上でルーファスの方を静かに見ている。
「書類の奴は知り合いでも何でもないが、アカリにとっては『竜人』というだけで恐怖の対象なんだ」
「竜人・・・?竜人ってトカゲ系の亜人で自分達をドラゴンの子孫だとか言ってる痛い人達だよね?」
「我らをあんな亜人達と一緒にするでないわ!」
グリムレインが心外だ!と言わんばかりにブスッとした顔をしているが、アルビーもそうだが、ドラゴン達には竜人は嫌われているらしい。
「アカリは温泉大陸から竜人の国へ誘拐され、1ヶ月程捕らえられていた。救い出した時は自力では歩けない程に衰弱して骨と皮の様な状態だった」
「そんな話知らなかった・・・」
「オレ達の生まれる前の話?」
「やはりあんな紛い者達は滅べばいいのだ!」
「リュー達の生まれる前だ。アカリが刃物を怖がって未だに小さなナイフしか料理に使わない理由も竜人にある。あいつらはアカリの【聖域】の血肉を採る為に、アカリを押さえつけて剣で腕を切り裂いた。あれ以来、アカリは刃物を怖がる様になった。アルビーに傷跡は消してもらったが、アカリの心の傷は今も癒えてはいない」
言葉を出そうとして何も言えず、口を噤んで耳をさげる息子達にルーファスが優しく微笑んで頭を撫でる。
「そんな顔をするな。アカリは竜人のせいで体がボロボロになって子供を望むことは難しいと言われたが、お前達が腹に宿ってアカリがどれだけ喜んだと思っている。お前達はアカリの幸せの形なんだ。グリムレインが祝福をアカリに授けてくれたからこそ、お前達がココに居るのかもしれないからな。グリムレインにも感謝しておけ」
耳を下げながらもリュエールとシュトラールが小さく尻尾を振ったのを見てルーファスが頷く。
ルーファスに頭をコツンと2人が小さくぶつけて甘えるしぐさをすると2人の背中を撫でて、ルーファスも2人に頭をコツンとぶつける。
もう捕らわれてはいないのに、吸い込んだ瘴気に蝕まれ、息苦しさと体中の痛さが心に深く刻まれてしまって溺れている様に息が上手く吸えなくなる。
ドラゴン達には慣れたのに、竜人が怖くて体の震えが止まらない。
アルビーに治してもらった腕も幻肢痛の様に剣で切られた痛みが戻ってくる。
腕が熱い、体が熱い、息が苦しい。
体がジットリして気持ちの悪さに目を開けると薄暗い部屋に金色の目が光っていた。
「アカリ、熱があるからもう少し寝ておけ」
「・・・手・・・」
「ああ、握っておいてやるから、寝ていろ。心配ない」
ギュッと握られた手の確かな感触に目を閉じたら眠りに入っていた。
ようやく魘されずに眠りに入った朱里の横でルーファスがギルドに手渡された書類を見ながら、フゥとため息を吐く。
『冒険者A+ランク デンシャク 竜人』
冒険者ランク剥奪対象になった理由が組んだパーティーメンバーがことごとく行方不明になっている事から怪しいと目を付けられた事らしい。
ダンジョンに入ればパーティーが崩壊して生き残りが1人になる事は多々ある。
デンシャクの場合はダンジョンに入ったメンバーが5回中5回ともデンシャクを残して死亡と報告されているが、遺体は出ていないので行方不明扱いになっている。
冒険者ギルドもデンシャクが行ったダンジョンが高難易度という事もあり、無くはない話なので、せめてこれ以上の犠牲者を増やさない為に、デンシャクの冒険者ランクを下げて高難易度のダンジョンでパーティーを組めないようにする事を目的としての依頼らしい。
しかし、ランク剥奪実技官の決定に左右されるのでここは実技官にお任せという感じらしい。
朱里が過度のストレスから発熱してしまった為に、明日の依頼はどうするかが決められないでいる。
断れれば一番いいのだが、契約書にサインをしてしまっている以上はこちら側のペナルティーになってしまう。
ペナルティーが嵩めば、3人を実技で相手をすれば仕事完了で解放されるが、それが無効になる事も十分考えられる。
カリカリ・・・。
小さなドアを引っ掻く音に、朱里から手を離してドアを開けるとシュトラールが心配そうに獣化して待っていた。
「母上、大丈夫?」
「まだ熱があるが少し落ち着いた。心配しなくていい」
「リューが作戦を立てたから父上少し来れる?」
朱里が寝ているのを確認してから、ルーファスが「ああ」と言って静かにドアを閉めて出ていく。
隣りの部屋に行くとオパール色に髪を変えたリュエールが居た。
「あ、父上、母上は大丈夫?」
「ああ。それよりその髪はどうした?」
「母上の髪を染めてる道具を借りたんだよ。僕も一応聖属性だから色は同じになるし」
リュエールが目の色も変える魔法薬を目にさして両目とも金色にすると、シュトラールがうんうんと頷く。
「父上、これならなんとか誤魔化せそうじゃない?」
「僕としては不本意だけど、どう?父上」
朱里の替え玉になる気満々なリュエールが、朱里そっくりの笑顔で笑って見せる。
無くはないかもしれない・・・が、大丈夫かも不安になる。
デンシャクは初顔合わせなので何とかなるが、ミンクは誤魔化せるものか・・・?
「我が嫁に変化した方が完璧だと思うがな」
グリムレインが朱里に変化するが、自信満々なドヤ顔をしている為に偽者感が否めない。
「グリムレインは口調とか態度でバレるよ」
「母上は、我なんて言わないしね」
「むぅ・・・」
リュエールとシュトラールに突っ込まれてグリムレインが口を尖らせてベッドの上に胡坐をかいて座る。
「胡坐はかかないで!」とリュエールにペシッと膝を叩かれてグリムレインが「何をする!」と文句を言うが、朱里の姿で胡坐はかくんじゃないとルーファスも喉から出かかった言葉だった。
「で、母上のあの怯え方はどうしてなのか教えてくれない?」
「書類に載ってた奴は母上の知ってる奴なの?」
リュエールとシュトラールがルーファスに詰め寄り、グリムレインはベッドの上でルーファスの方を静かに見ている。
「書類の奴は知り合いでも何でもないが、アカリにとっては『竜人』というだけで恐怖の対象なんだ」
「竜人・・・?竜人ってトカゲ系の亜人で自分達をドラゴンの子孫だとか言ってる痛い人達だよね?」
「我らをあんな亜人達と一緒にするでないわ!」
グリムレインが心外だ!と言わんばかりにブスッとした顔をしているが、アルビーもそうだが、ドラゴン達には竜人は嫌われているらしい。
「アカリは温泉大陸から竜人の国へ誘拐され、1ヶ月程捕らえられていた。救い出した時は自力では歩けない程に衰弱して骨と皮の様な状態だった」
「そんな話知らなかった・・・」
「オレ達の生まれる前の話?」
「やはりあんな紛い者達は滅べばいいのだ!」
「リュー達の生まれる前だ。アカリが刃物を怖がって未だに小さなナイフしか料理に使わない理由も竜人にある。あいつらはアカリの【聖域】の血肉を採る為に、アカリを押さえつけて剣で腕を切り裂いた。あれ以来、アカリは刃物を怖がる様になった。アルビーに傷跡は消してもらったが、アカリの心の傷は今も癒えてはいない」
言葉を出そうとして何も言えず、口を噤んで耳をさげる息子達にルーファスが優しく微笑んで頭を撫でる。
「そんな顔をするな。アカリは竜人のせいで体がボロボロになって子供を望むことは難しいと言われたが、お前達が腹に宿ってアカリがどれだけ喜んだと思っている。お前達はアカリの幸せの形なんだ。グリムレインが祝福をアカリに授けてくれたからこそ、お前達がココに居るのかもしれないからな。グリムレインにも感謝しておけ」
耳を下げながらもリュエールとシュトラールが小さく尻尾を振ったのを見てルーファスが頷く。
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