黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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13章

ミヤと簒奪

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 ぶすっとむすくれる朱里に仕方がないなという顔でリュエールが朱里の髪を上の方で二つ縛りにして、少し大きなリボンで結ぶ。

「母上、可愛く出来たからいつまでもムスッとしてないで」
「だって、リューちゃん、皆失礼じゃないですか!」

 昨夜、作戦会議をしたところ、相手を油断させる事は簡単そうだという話になり、皆が朱里を見る。

「アカリはどう見ても強そうには見えないから相手は舐めてかかるだろうな」
「油断は一番の好機だな。嫁はせいぜい可愛くしておけ」
「母上が強いって事は無いからね。良かったね母上」

 ルーファスとグリムレインとシュトラールに悪気無く言われた言葉に朱里がムッとして3人を睨みつける。

「私だって色仕掛けで油断させたり出来るんだから!見てなさい!」

 朱里の言葉にリュエールもやれやれと売り言葉に買い言葉なんだからと、朱里とルーファス達を見ると、複雑な顔をした3人にプリプリと怒る朱里という図が出来ていた。

「アカリ、変な事は考えるんじゃない」
「嫁、バカも休み休み言え」
「母上、色仕掛けって・・・無理でしょ」

「酷い!私だって出来るんだから!」

 朱里が癇癪を起したような顔をしたのを見て、リュエールが「はいはい。そこまでだよ」と仲裁した。

「皆も母上も落ち着いて。母上はそのままで充分人を惹き付けるんだから、余計な事して変な人に目を付けられたら大変だよ。僕達を心配させないで、ね?」
「リューちゃん~っ!!」

 ガバッとリュエールに朱里が抱きついて、その場は収まったものの、宿に着いてから部屋は2つとっていたのだが、朱里が「ルーファスは3人部屋でどうぞ!リューちゃんは母上と一緒ね」とルーファスを追い出していた。

「キュゥゥゥン!!」

 ルーファスが悲痛な声を上げていたが、朱里が「知らない!」とふくれっ面をしていたのでスゴスゴと3人部屋にルーファスが入っていった。

 一夜明けて、朱里とリュエールが朝の支度をしている時にリュエールが「可愛い格好の方が相手は油断しやすそうだよ。可愛い子が実は凶悪だったとかギャップがあっていいんじゃない?」と言い、朱里が「そうかなぁ・・・」と少し可愛い服装を選び、リュエールが髪を子供っぽく見える様に上の方で二つに結んだ。

 ブリザードリザードの白いブーツに網タイツ、白いタートルネックにセーター、キュロットスカート、そして防御特化の聖属性が付与されている白いケープと、見た目は可愛い感じに見えるコーディネートが出来た。

 手には【眠れる賛華】、腰にはポーションホルダー。
パッと見だけはこんな子に「あなたのランクを下げに来ましたよ!」と来ても鼻で笑ってしまいそうだ。
まぁ、そこら辺は上手く利用できるといいんだけど。
 相手の情報がこちらにある分、こちらの方が有利ではあるけど、Aランクなのは伊達ではないだろうから気を付けるに越したことはない。
 リュエールが獣化して「母上、行こう」と言い部屋を出るとルーファス達が既に廊下で待っていた。

 グリムレインが朱里の前で申し訳なさそうに上目遣いで「嫁、すまん」としょんぼりとした声で言えば、朱里が「もう怒ってないです」とグリムレインを肩に乗せる。

「母上、オレもごめんなさい」
「いいよ。もう、母上も大人気なかったです」

 シュトラールが尻尾を振りながら朱里の横に座って朱里の足にスリつく。

ルーファスが耳を下げて朱里を見上げると、朱里が少し口を尖らせる。

「どうですか?可愛いですか?」
「アカリはいつでも可愛いオレの番だ。服装もよく似合ってる」
「・・・ならいいです」
 ルーファスが尻尾を振りながら朱里の太腿に頭を擦り付けて、朱里がルーファスの頭をぽふぽふと触る。

「リューちゃん、行きましょう」
「うん。行こうか」

 リュエールが静かに尻尾を振りながら朱里の後ろをついて歩く。


 宿を出るとミンクが馬車で迎えに来ていて、馬車に乗り込むと2時間程馬車の旅が続き、お尻が痛いと朱里が思う頃に、ネクソンという村に着いた。

 ネクソン村にニッキー・クロウという今回のランク剥奪させるべき冒険者が居るらしい。
村人たちは遠巻きに朱里達を見て怯える様に家の中へ入っていく。
民家が全て木で作られていて、高床式の家は夏場のスコールや雨季の時に床上浸水しない様にという事らしい。

 村の中央に行くと、高い木を見張り台にした様な家から一人の男が出てきた。
赤茶けた髪を逆立ててバンダナをした男で、三白眼の目が意地悪そうで、見た目からして小悪党にしか見えない。

「ニッキー・クロウ!冒険者ギルド、コーデン支部だ!本部の決定により、上級ランク剥奪対象として正式対決を行う!降りて来い!」

 ニッキーが片眉を上げながらミンクを見下ろした後で、横でニッキーを見上げていた朱里を見て、指をさす。

「もしかして、そこのチビが剥奪実技官か?」
「降りてこなければ、承諾したとみなすぞ!」

 ニッキーは「好きにしろよ」と朱里とミンクに片手をヒラヒラとして見せる。

「ミヤ実技官、承諾とみなし攻撃許可を出しますが、やれそうですか?」
「皆いけそう?」
「ウォン!」
 ルーファスが吠えて、リュエールとシュトラールが尻尾を振る。

「いきます!皆、頑張って!」
 
 ルーファスが木に飛び乗り、リュエールとシュトラールが木の下で待機する。
木の上の見張り台の様な家から女性の悲鳴がするが、直ぐにルーファスが顔を外へ出す。

「ウォン!」

 ルーファスが吠えて木の上から飛び降りると、リュエールとシュトラールも朱里の方をバッと見る。

「実技試験官なんて言ってもガキじゃどうしようもねぇな」

 朱里の後ろでニッキーの声がして朱里が振り向いた時には、ニッキーに後ろから羽交い絞めにされていた。

「うくっ・・・」
「・・・・いつの間に!」
バシュッ
 ミンクの言葉と同時に、朱里の後ろのニッキーが何かに弾かれるように吹き飛ばされる。

「っ、雷撃!」

 朱里が叫ぶと杖からルーファスの入れた雷撃がニッキーに襲い掛かる。
ギリギリ、ニッキーが避けると、朱里が杖を構えニッキーが距離を取るが、朱里から白い塊が次々と飛んで来る。

「クソッ!何だこの技は!」

 朱里の首元からグリムレインが氷玉を次々と出しているのだが、朱里のケープの中に居る為にニッキーは詠唱も無く飛んで来る魔法に翻弄されている。

 ルーファスがニッキーに飛び掛かりリュエールとシュトラールも飛び掛かって、ニッキーを押さえに掛かる。
朱里が杖をニッキーの額に付けると「氷結」と一言いうと、ルーファス達が飛び退き、ニッキーが凍り付く。 


 ルーファス達が朱里の周りに集まって心配そうに朱里を見上げると、朱里は凍り付いたニッキーを見て、眉を下げながら笑う。

「勝ちました・・・で、良いんでしょうか?ミンクさん」

 ミンクが凍り付いたニッキーを上から下まで見た後で頷く。

「はい。戦闘不能ですので、ランク剥奪になりますね・・・でも、さっき何をしたんですか?」

 朱里が自分の肩で小さくガッツポーズをしているグリムレインを指さす。

「レインが弾き飛ばしたのを私が魔法で距離を取らせて、あとは皆で一斉攻撃の連携プレイです」
「キュルルルル」
 朱里の首にグリムレインが頭をこすりつけて甘えると、ルーファス達も朱里の足に頭をこすりつける。
「皆、お疲れ様です」
「ウォン」

 村人からニッキーに関して、村の支配についての情報をミンクが聞き出し、苦情を出させてニッキーを処罰対象にした。
凍らせたままのニッキーをギルドへ連れ帰り、ギルドへ着いてから氷結を解くと、村からの依頼という事で処罰対象と、剥奪実技官に打ち負かされた事でのランク剥奪処分を言い渡した。

 ネクソン村とニッキーが支配していた他の村々に冒険者ギルドがニッキーの処罰の為に苦情を出す様に言い、魔物討伐に関しても冒険者ギルドが定期的に冒険者を派遣させる事を約束したら、アッサリと苦情が出て、ニッキーは今まで集めた家財などを村への慰謝料としてギルドに差し押さえられた。

「ランク剥奪実技官ミヤ、君はこのニッキー・クロウのランクを君の一存で下げられるが、どのような判断を下しますか?」

 ミンクに聞かれ、朱里がルーファス達と円陣を組みながら小声で相談してから顔を上げる。

「全員一致でニッキー・クロウの冒険者ランクはC以下、つまり冒険者資格はく奪で良いと思います」

「わかりました。実技官の判断にギルドは従いますので、そのように処分します」

 ミンクが頷きながら口元に笑みを浮かべて書類にサインをし、ニッキーの処分を冒険者資格剥奪と処理した。
そしてミンクが朱里に手を出す。

「もしよければ、ミヤさんの冒険者カードにニッキーへの実技経験値を反映させますが、どうしますか?」

「ぜひ、お願いします!」

 バッと朱里がミヤの冒険者カードをミンクへ差し出して、少しするとミンクが朱里に冒険者カードを返しに来た。

「ミヤさん本当にCランクなんですね。経験値が0だったのに驚きましたよ。早くランクアップすると良いですね」
「あはは・・・そうですね・・・」

 少し遠い目をしながら朱里が冒険者カードをポーションホルダーのポーチへ仕舞い込み、ギルドの本部から次の実技の仕事が来るまでは暇を出された。

 5人で1人目のランク剥奪実技が終わった事の打ち上げに行き、コーデンの名物、揚げバナナをクレープ巻きした物を朱里と子供達が口に頬張るのを見ながらルーファスがグリムレインと冷酒を飲んで、今回のギルドの仕事は人数を増やして連れて来て良かったとホッと息をつく。
 ルーファス1人では、あの距離を朱里を助けに走るには少し時間が足りなかったと、悔しいがAランクの動きを侮っていた事に反省をする。

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