黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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13章

恋の宅配便5

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 温泉大陸の港町に着くと嬉しそうな顔で母上の出迎えがあった。
母上の左右には妹のミルアとナルア。
その後ろには僕らの従者のアルビー、妹達の従者ローランド、そして母上の従者グリムレインが控えている。
子供の頃から見慣れている光景なのでどうという事は無いけれど、温泉大陸に来る冒険者や行商人は彼らの姿に驚くこともしばしばある。
 今も「うわぁ!ドラゴンだ!」と騒いでいる行商人が居る。
たまに冒険者が剣を構えて立ち向かおうとするが、理由は解らないけど母上は剣や刃物を見ると怖がって気を失いそうになるので、温泉大陸を警備している組合長さんやその傘下の人々に【刻狼亭】の人達が剣や刃物を街中で振り回すのを禁止している為、襲撃でもない限りは普通に周りの人々に対応されるので、ドラゴン達に刃が届くことはない。
 むしろ、ドラゴン相手にそんな剣ぐらいでどうこう出来ると思ってしまうあたり、冒険者としてどうなのかな?とは思う。
 
「おかえりなさーい!リューちゃん!シューちゃん!」
「にーさま、おかえりなさーい!」
「にいさま、おかえりなさい!」

 ミルアとナルアが突進するようにカバッとしがみついてきて「お姫様はもっとおしとやかじゃないっけ?」という言葉が出そうになるのを飲み込んで「ただいま」と言うと、2人が尻尾を振りながらえへへーと笑う。
可愛い妹達は僕らが留守の間も元気にやっていた様だ。

「ミル、ナル。お姫様ってそんなにガバーっと抱きつくものじゃないでしょ?」
 揶揄う様に僕の双子の片割れシュトラールが言うと、ミルアとナルアがぷくーっと頬を膨らませる。

「シューにいさまには抱きついてあげない!」
「シューにいさまはいじわる!」
 
 プイッとそっぽを左右に向くミルアとナルアにシュトラールが「えー」と言いながら眉をハの字にするが、なんで分かり切った事を考える前に口にするのか・・・と、少し呆れながらも、「お姫様は広い心と優しい心だよ」と妹達に言って、2人が「もぅ、にいさまはしかたがないですね」と、シュトラールにミルアとナルアが「おかえりさない」と抱きつく。

「イルマールさん、うちの子達を警護してくれてありがとうございました」
「いえ、おれの方こそ指名してもらって有り難うございました」
 イルと母上が僕らの警護の支払いについて話しながら、話がまとまるとイルは早速冒険者ギルドに依頼が無いかを調べに行くとかで軽く挨拶をしてから港町を出て行った。

「シューもリューも私を置いて行くなんて酷いよー!」
「ごめんね、アルビー」
「ごめん。アルビー。でも、魔国の滞在時間ほとんど無かったから来ても面白くなかったと思うよ?」
「それでも私に一言声をかけてよー!」
 僕とシュトラールに顔をスリスリと擦り付けながら「寂しかったんだから!」と甘えてくるアルビーは年上なのに子供みたいで可愛い。

「そろそろ移動せんと嫁が風邪を引く」
「あ、ごめんね。母上、この後は真っ直ぐ家に帰るって事でいい?」

 母上がこくこくと顔を上下に振ってグリムレインに「心配性なんだから」と笑っている。
エデンやハガネも母上を心配してよく「温かくしろ」と騒いでいるけど、グリムレインは母上が死にかけてから酷く母上の体調面を気にしたりしていて過保護になっている。
 まぁ、父上も過保護だし、他の人達も母上に関しては過保護といえば過保護だけど。
幼い姿になってしまったせいで余計に僕らよりも心配されている節はある。
ミルアやナルアは小さいけれど黒狼族の子供だから普通の子供よりも頑丈ではある。
たまに動きを見てると育て方を一歩間違えたら、どんな女戦士アマゾネスになるやら・・・と、一抹の不安がよぎる動きをする。
何事もなく大人しく『お姫様』を目指しておしとやかに育ってくれることを祈るばかりだ。

「母上、そういえば父上は仕事?」
「うん。ルーファスはお仕事だよ。もうすぐ帰って来るとは思うけど」
「母上、父上にバレてない?大丈夫?」
「ふふ。シューちゃん、母上に任せなさいって行く前に言ったでしょ?ちゃんと父上にお願いしてしておいたから、叱られないよ。今回は母上とありすさんのお願いでお使いに行ってくれてありがとうね」
「良かったー。父上に怒られたら怖いなーって2人で言ってたんだよね」

 母上の事だから父上にバレて僕らも必要以上に怒られるかも?と、結構覚悟をしていたけど、母上が上手く話を付けてくれたみたいで父上に怒られることは回避できたみたいだ。
 母上に基本甘い父上だから、きっとうるうるした母上の「お願い」ポーズにでもやられたんだろうな。
涙は女の武器とは言うけど、母上はたまに無自覚でそれを武器にするから、逆に男泣かせだと思う。

「ふふっ。リューちゃんもシューちゃんもプチ冒険はどうでしたか?」
「異国文化を垣間見れたし、船の旅行も楽しかったよ」
「船はもう少し食事の量を増やすべきだとは思うけどね」
「あとはまぁ・・・異国の騎士は意外と強いね」
「魔牛の人は怖かったね・・・」

 マデリーヌさんには今後会う事が無い事を祈るしかない。
結局あのあと、あと一歩船の便を遅らせていたらマデリーヌさんに捕まる所だったしね・・・。
朝一番に出て良かった。寝起きの悪いシュトラールを簀巻きにして船に乗り込んだおかげで、僕らが出航する頃に港に集まったマデリーヌさん達騎士に捕まらなかったからね。
もし掴まってたら、今頃、母上のお願いも帳消しになって、僕らは父上に吊し上げを食らっていたかもしれない。

 母上が「魔牛の人?」と首を傾げて、シュトラールが「お歳暮の魔牛の人に会ったんだよ」と言ったら、母上が笑いながら「お歳暮のCMのハムの人みたい」と言っていたが、しーえむって何だろう? 
たまに母上は異世界人だからかよくわからない言葉を使う事がある。 


 皆で『女将亭』に帰り着くと、2階から良い香りがしてキッチンでハガネが一杯ご馳走を作って出迎えてくれた。
メインは母上特製のハンバーグでシュトラールと2人で顔を見合わせて笑っていると、父上も帰って来て「ただいま、おかえりなさい」と言うと同じ様に言葉が帰って来た。

 母上が父上に抱きついて「お帰りなさい!2人が帰って来たよ!」と嬉しそうに報告して父上が蕩けそうな笑顔で母上の笑顔に魅入られている様で、僕らは無事、父上のお咎めを受けずに済んだ。

 なにはともあれ、初めてのシュトラールと僕の幼馴染への恋の宅配便はこうして終わった。
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