黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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13章

恋の宅配便3

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 月明かりの無い星明りだけの中を要塞の様な学園の宿舎を木の上から見下ろす。
学園の敷地は外部の侵入者が直ぐに判る様に周りには木々が植えられておらず、地面は白い玉砂利の石が敷き詰められ闇に紛れて侵入者が居ても判る様になっている。しかも学生を守るにしては屈強な騎士達が警備に付いている。

 リュエールとシュトラールとイルマールが立っている木も学園の敷地からはかなり離れた場所にある。夜目が効き目のいい獣人だからこそ見える範囲というところだ。


「流石マデリーヌさんだね」
「魔牛の人は美味しいだけじゃないね」
 毎年貰えるお歳暮の魔牛の様な肉の甘さは無いらしく、学園にリリスに届け物に来たと告げれば問答無用で追い返されたのがリリスと別れた1時間後の事。
 一応、ありすからのサイン付き書類を持ってきてはいたのだが、ありすは魔国では死亡されている扱いなので、リロノスと結婚してリリスの母親になっているのはミコという名の女性となっている。
ミコという女性の身元証明は無いので学園側も確認が取れないという事で拒否してきたのだ。
 何より、元【魔王】のリロノスからリリスを預かっているので不審者は近寄らせる事は出来ないというのもあるだろう。
 リロノスからのサインならば話は早かったのだろうが・・・バレたら怖いのでそれは出来ない。
バレたらきっと稽古をつけてやると言いながら海上戦を挑まれてしまうだろうから、リロノスにバレるのだけは勘弁願いたい。
海上戦の不得意な2人は、海上戦を得意とするリロノスに挑まれると苦戦するのが目に見えているからだ。

 一番怖いのは自分達の父親にバレた時にどうなるか・・・。
朱里は「母上に任せなさーい」と言っていたが、十中八九、朱里ではルーファスに逆に打ち負かされて「2人共ごめんねー駄目だったー」と目を潤ませて言ってくるのが目に浮かぶ。

 自分達の一番初めの妹の様なリリスが1人で見も知らぬ土地でどうしているか心配もあったし、イルマールを少しだけ会わせてあげたかったのもある。
 あとは、まぁ、知らない土地に行ってみたいのもあった。

「さて、どうしようか?」
「オレ等は黒いから獣化すると白い玉砂利の上じゃ目立つからねぇ」
「おれなら獣化すれば白いから玉砂利の上は大丈夫だけど、獣化してると警備の人間を怪我させかねないからなぁ」

「じゃあ、僕とシューが警備を引き付ける囮役をするから、その間にイルが宿舎のリリの所に荷物を届けて」
「届けたら直ぐに戻って。撤退する時は腕輪で連絡して」
「わかった。何かあればそっちも連絡をしてくれ」

 木から降りると同時に3人が獣化すると、リュエールがスゥと息を吸い込み「ゥォオオオオォォン」と遠吠えをリリスに聞こえる様に吠える。

「シュー、左目は閉じて移動だよ」
「判ってる。リューも右目閉じてね」
 流石に黒狼で金目だとトリニア家の人間が獣化していると即バレしてしまうのは避けたい為に、お互いに金目の方をつぶる。

「じゃあ、イル、頑張って!」
「リリによろしく言っといてね」

 2人が走り出すと白玉砂利の上を黒い蛇が這う様にジグザグに走っていく。
警備が気付き2人に威嚇用の魔法を鳴らすが、2人は警備の騎士の所まで行くと急停止して左右に別れ、近くに居た別の警備の騎士へ向かっていく。
騎士達が2人に攪乱されているうちにイルマールが白玉砂利の上を走り抜けていく。

白玉砂利の部分が終わると、次は背の高い壁が聳え立つが、虎獣人のジャンプ力で難なく飛び越えると同時に獣化を解く。
褐色の肌をしているイルマールには闇に紛れるにはこちらの姿の方が見つかりにくい利点がある。

 この学園内の地図や部屋の位置などは警備上の問題で親にしか知らされていないが、ありすが「よろしくお願いするし!」と、地図をくれているので問題は無いが、元【魔王】の現【魔王】の姪にあたるリリスは宿舎といえど、他の学生より部屋が数段ランクが上の部屋らしく、たどり着くには4階まで上がる必要がある。

 中に侵入すると確実に見つかりそうではある。
外から侵入はどうなるか・・・リリスの部屋のある位置まで行き、上を見上げると4階の窓から白いロープが垂れ下がっている。

 ロープを手に取り匂いを嗅ぐと、花のような砂糖菓子のような甘い香りにリリスの匂いがしている。
リリスの部屋はあそこで問題ない様だと思うが、ロープを登るのは少し無理がある。
ロープが細すぎて途中で切れるのがオチという感じで、やはり10歳かそこらの子供の考えではこんな感じなのだと、改めて年齢差を思い知り、イルマールが苦笑いする。

 自分のハンカチを取り出してポードレッタイトの埋め込まれた腕輪を中に入れてロープの一番先に結び付け、ロープを何回か引くと、窓からリリスが体を乗り出す。

「イルー!」

 元気にリリスが窓から身を乗り出して手を振っているが、イルマールはギョッとして「危ないから中に入れ!」とリリスに中に入る様に声を出す。

「このロープに届け物を結んだから引き上げて」
「うん。わかったわ」

 スルスルとリリスがロープを引いていき、窓にロープが回収されるのを見ると、イルマールは踵を返して戻っていく。

 イルマールが腕輪に魔力を通してリリスを思い浮かべると、リリスが腕輪の通信に出る。
「リリス、おれはもう帰るから、窓はちゃんと閉めて寝るんだよ」
『イルは部屋に来ないの?』
「それは君のご両親に許しを得てないからね。でも腕輪があれば寂しくはないだろ?」
『うん・・・。ママにありがとうって伝えておいて』
「わかった。おれは2人が心配だからもう行くね。またねリリス」
『イル、大好き!気をつけて帰ってね。2人にもよろしくね』
「ああ。おれも大好きだよ』

 窓からリリスが顔を覗かせているのを見ながら、イルマールが獣化して壁を乗り越えてリリスをもう一度見てから玉砂利の上に降りる。
 腕輪でリュエールに戻る事を伝えると『宿まで各自逃げてね!撤収!』と騒いで通信を切られた。
その理由はイルマールにも直ぐに判った。
燃えるような赤い髪の女騎士マデリーヌがイルマールを見付けると勢いよく襲い掛かって来たので、イルマールも全力で逃げ出した。

 宿に戻ると、疲労困憊とばかりにリュエールとシュトラールが「魔牛の人怖いね」とベッドの上で伸びていた。

「朝一番に船で温泉大陸に撤収しようね」
「何で?まだ魔牛の料理色々食べたいんだけど?」
「シュー、マデリーヌさん確実に僕らに気付いたと思う。途中で攻撃が手加減されてたし」
「えー!あの化け物じみたえぐり技が?!アレは本気だよ!」
「直ぐにリリの事もバレるだろうから、捕まる前にサッサッと撤退だよ」
 
 リュエールがシュトラールに「修行が足りてないよ」とツンツン突きまわしてじゃれ合いながら、イルマールに「リリはどうだった?」と笑顔で聞く。

「昼間と変わらずだよ。荷物は届けたし、2人も連絡が取り合えるから良かったな」
「あはは。僕らは連絡したりしないよ。半年に1回は温泉大陸に戻るだろうから、その時に会えばいいし」
「そそっ。オレ達は人の恋路を邪魔する程野暮じゃないよ」
「ねー」「なー」
 
 2人が顔を見合わせて笑いながら、「疲れたー!お腹すいたー!」とゴロンとベッドであおむけになって盛大にお腹を鳴らした。 

 イルマールがお腹を鳴らす2人に成長期の子供は凄いなぁと思いつつ、あの赤い髪の女騎士が学園に居る限りリリスは安全そうだとホッと息をついてベッドに横になる。
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