黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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13章

誕生日ケーキ

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「つ・か・ま・え・たぁ!」

 はしっはしっと小さな手を朱里が両手で1人ずつ捕まえる。
小さな手には赤いイチゴが握られ、口の周りとエプロンドレスにも真っ赤な汁を飛び散らせている。

「やぁー。はーなーしーてぇ」
「いーやぁ。はなしてぇ、だめぇ」
 ミルアとナルアがワァワァ騒ぎながら朱里に「メッ!」と声を上げられて「いーやぁー」と声を負けじと上げる。

「どうしたんだ?何だか騒がしいようだが」
「ルーファス、聞いてください。ミルアとナルアがお誕生日ケーキのイチゴ全部盗み食いしちゃったの」
 ルーファスがミルアとナルアを見れば、2人共手に持っているイチゴをサッと自分達の後ろに隠す。

「ミルア、ナルア駄目だろう?これはリューとシューの誕生日ケーキだろ?お手伝いするんじゃなかったのか?」
「うーっ、いちごぉ」
「いちごほしーの!」
「こらぁ!ミルア、ナルア!反省しなさい!」
 朱里が怒るとミルアとナルアが足をジタジタとその場で踏み、いやいやと首を振る。
反抗期真っ最中の2人に朱里が「ミールーアー、ナールーアー」と声のトーンを落とすと、2人が耳をぺしゃっと下げてうるうると目を潤ませる。

「アカリ、イチゴはまた買ってくれば・・・」
「ルーファスは黙ってて!駄目な物は駄目!我慢も覚えなきゃ駄目!」
 カッと朱里が2人に甘いルーファスを叱りつけ、ルーファスも耳を下げる。
「うーっ、おこっちゃやだぁ」
「やぁー、おこっちゃやぁあ」
「母上を怒らせたのは誰?イチゴ盗ったの誰?ん、言ってごらんなさい!」
 2人はサッと指を上にあげてルーファスを指さす。
ガクリとルーファスが項垂れると、朱里がハァーとため息をつく。

 あと1ヶ月で5歳を迎えるミルアとナルアではあるけれど、残念な事にとても兄二人の5歳の頃に比べると、とても悪い子ぶりを発揮している。
比べては駄目だと思いつつも、女の子はもっと育てやすいと聞いたのに、男の子のほうが素直なんだけど?!と、思わずにはいられない。

 それもこれも、朱里が氷の中で寝ている間のルーファスや周りの大人達の教育が叱らずのびのびとさせたせいで、軌道修正が少し難航している。

「もう、仕方のない子達ね。リューちゃんとシューちゃんのお誕生日ケーキはイチゴ無しね。あーあー、ミルアとナルアも来月のお誕生日はイチゴ無しだね。今日のイチゴの代わりにリューちゃんとシューちゃんに来月の2人のお誕生日ケーキのイチゴ食べてもらわなきゃ」

「いーやぁ!いちごぉー」
「だめなのー!いちごぉ」
「じゃあ、どうするの?もうお家にイチゴはないのよ?」
 朱里と娘二人のやり取りにルーファスが可愛くもあり、可哀想でもあり、何だか3人共ギュッと抱きしめたいという衝動に駆られていると、娘二人が再びルーファスを指さす。

「ちちうえがかいにいくー」
「ちちうえ、かってきてぇー」

 2人がお願いと両手を胸の前で握りしめるとルーファスが「うっ・・・」と耳を下げる。
お願いポーズにとても弱いルーファスに朱里がハァーと息をついて「誰が教えたんですか?このポーズ」と呆れた声を出す。

「駄目よ。父上は母上とまだやる事があるの。2人でお買い物行ってきなさい」

「え?!」

 2人が首をかしげ、ルーファスが驚いた声を上げる。
まだ2人だけでお使いに行ったことはなく、何処へ行くのも大人が一緒に行っていた為にルーファスは朱里の言葉に無茶を言うなと目で訴える。

「2人共、青果屋さんにイチゴを買いに2人だけで行くの。出来る?」
「いいのぉー?」
「できるぅー」
 ルーファスの気持ちとは裏腹に2人は元気に手を上げる。
朱里が2人の温泉鳥の形をしたポシェットにお金とイチゴと書いたメモを入れる。

「はい。2人共エプロンを外したらお出掛けだよ」
「はぁーい!」
「いくぅー!」
 朱里が2人の口の周りと手を拭いてエプロンドレスを外し、ただのワンピース姿にさせるとポシェットを2人の首に掛ける。
ポニーテルのミルアのポシェットは温泉鳥がウィンクしている物。
ツインテールのナルアのポシェットは温泉鳥が両目を開けている物。
そっくりな2人ではあるけれど、好みは少し違う為に若干持ち物などは違うので見分けはつけやすい。

「さぁ、2人共気を付けて行ってきなさい。母上達はお家で待ってるから」
 朱里が2人を玄関まで送りだし、2人が手を繋いで手を振りながら『女将亭』を出発した。
朱里がよしよしと満足そうに頷くと、横に居たルーファスが駆けだそうとするのを服を掴み引き留める。

「ルーファス、駄目です」
「いや、しかし、まだ早いんじゃないか?」
「ルーファス。初めてのお使いくらいさせましょうね?」
「でもあの子達に何かあったら・・・」
「ハァー・・・もう、心配いりませんよ。上を見て、ローランドがちゃんとついて行ってるから」
 ルーファスが空を見上げれば火竜ローランドが2人を上空から見守りながら飛んでいる。
ローランドはミルアとナルアの火属性を気に入り主従契約を結んだ。
条件はハッキリとは解らないが、何かしらあったらしいが、ローランドは「普通こういう契約条件はペラペラしゃべる物じゃないから、駄目」と教えてくれたりはしなかった。

「スピナ!スピナは居るか?」
「はーい。ルーどうかした?」
 風竜スピナがルーファスの頭の上に『竜の癒し木』の上から降りてくると、薄緑色の体をくねらせてルーファスに笑いかける。
「ミルアとナルアをスピナも見守ってくれ。何かあれば2人を連れて帰ってくれ」
「あらあら。ルーは心配性ね。まぁ良いわ。じゃあ行ってくるね」
 ふわっとした柔らかな風をそよがせてスピナがローランドの後を追ってミルアとナルアを見守りに行く。

「心配性なんだから」
「仕方がないだろう?アカリに似て2人は食べてしまいたいくらい可愛いからな」
「人食い狼なの?!」
 ルーファスが朱里を抱き上げて腕の上に座らせて唇を重ねると、朱里が「食べられたー」と声を上げて笑い、ルーファスが「食い足りない」と朱里を抱き上げたまま2階へ上がっていく。


「・・・ねぇ、リュー。オレ等忘れ去られてない?」
「まぁ、仕方ないよね。僕達の誕生日の準備してるんだし、外野で大人しくするしかないね」
 『竜の癒し木』の上で一つ縛りにした髪を風になびかせてシュトラールが半目になり、朱里譲りの顔で呆れた顔をしながらリュエールが木の上で頬杖をつく。
 
「あー、とりあえず。リュー誕生日おめでとう」
「あー、うん。シューも11歳おめでとう」
 
 2人が木の上で自分達の誕生日を口にしながら、両親が寝室に籠ってしまったので竜の癒し木の上でミルアとナルアが帰ってくるのを首を長くして待つ。
 2人が帰って来たのは3時間後で、家に戻って朱里がイチゴを見ると半分以上食べられていた。
理由を聞いたら「のどがかわいたのー」と言われ、水筒を持たせるべきだったと後悔し、残ったイチゴを薄切りにして、とても平たい誕生日ケーキでお祝いをすることになった。

「予想はしてたよ」
「想定内だよ」

 リュエールとシュトラールが苦笑いしつつ、薄切りのイチゴをミルアとナルアのお皿に乗せると、2人から帰って来た言葉は「もうイチゴおなかいっぱいなのぉ」だった。
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