黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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12章

おきゃくさま

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 『女将亭』は2年の間、朱里がいつでも戻って来れる様にと営業は続いていて、温泉鳥シリーズはありすが代わりにデザインをして、商人と話し合いの元、毎月作られていたらしい。
冬の今現在は、休業中なのは前からなのでシュトラールが家に戻った時も1階の店部分は暗いままだった。

 2階へ上がると、オレンジ色の温かい光がシュトラールを出迎えてくれた。
朱里がリビングは少し落ち着いた色味の橙色が良いよね?と、少しオレンジ色がかった灯りの魔道具を部屋に取り付けていた物で、その灯りは2年経っても変わりはない。

「おかえり。シュトラール」
 ハガネがキッチンから顔を出し出迎えると、ハガネの足元からひょこっとミルアとナルアが顔を出す。

「シューにーさまだ。おうちきたー」
「シューにいさま、いらっしゃいなの」
 トトトトと走ってシュトラールのズボンを引っ張ると「あんないしてあげる」と2人がシュトラールの手を引く。
少し困った顔で引っ張られながらシュトラールが2人に連れて行かれる。

「こら。ミルア、ナルア、シューは帰ってきたばっかなんだから振り回すなよ」
「わーかーってーるー」
「まかせてー」
「判ってねぇだろ!まったく」
 ハガネが困った幼女2人に苦笑いしながら、ルーファスとリュエールに「飯はもうすぐだからな」とキッチンに戻っていく。

「あの子達にはシューはお客さん状態だな」
「仕方が無いよ。ずっと居なかったからね」
 コート掛けにコートを掛けてシュトラールの荷物をリビングに置くと、リュエールが荷物をシュトラールの部屋に置きに行く。

 トトトと歩き回るミルアとナルアはシュトラールに「はがねのおへや」とハガネの部屋を無断で開けたり、「ひみつきち」と言って、ルーファスのクローゼットの中を案内したりと、色々と自由奔放に自分達の遊び場を広げているらしい。
 
 朱里とルーファスの寝室に着くとミルアとナルアが「よるねんねするとこ」と案内してくれる。
そこには朱里が化粧の時に使っていた鏡台も双子の妹達の遊び場として侵食されたのか人形やお絵描きをした紙が貼ってある。
ベッドの上もルーファスとミルアとナルアで寝ているらしく人形が大量に置いてあり、子供用の毛布が置いてある。

「あのね、ここはあけちゃだめなのー」
「ここあけたらおこられるんだよ?」
 2人が指さすのは朱里の衣装ダンスで小さな錠前が掛かっていて絶対に開かない様になっている。
娘と言えど、朱里の持ち物を遊び道具にはさせないというルーファスの意志なのか、2人は不服そうに頬を膨らませている。

「これは母上のだから駄目なんだよ」
「ははうえー?」
「ははうえいないよ?」
 2人は首をコテンと傾げてシュトラールを不思議そうな顔で見る。

「オレやリューやミルアとナルアの母上だよ?忘れたの?」
「わかんない」
「しらないよー?」
 ミルアとナルアの2年は自分達の成長と同じで流れが速く、朱里が不在の2年間は忘れ去るには十分な時間だった。
髪型と目の色が違うだけで朱里そっくりな2人は母親という存在を理解できないでいる。
周りが気を使いすぎて余計に朱里の存在が隠されてしまい、幼い2人を混乱させない様にしているのもあれば、朱里がこのまま氷の中でグリムレインが卵に孵る時まで帰ってくることはないかもしれない事も考えられてもいたからだ。

「こんな所まで案内してたのか?ミルア、ナルア、シュー、飯の準備が出来たからリビングにおいで」
 ルーファスが寝室に顔を出すと、ミルアとナルアが「わーい」と声を上げてトトトと足音を立てて走って出ていく。

「父上・・・ミルアとナルアが、母上の事知らないって・・・」
「ああ・・・。あの子達には理解出来ないからな。写真を見せたりはして説明をしているんだが、リューや自分達だとしか理解できない様だ」
 顔が似すぎているというのも些か困りものではある。

「オレのせいで2人から母上が消えてる・・・」
「大丈夫だ。2人もそのうち判るようになる」
「ごめんなさい、父上・・・」
 シュトラールを抱き寄せて、嗚咽を漏らす息子に掛ける言葉に迷い、背中を撫でて慰める事しか出来ない。
涙が止まるまで身を寄せ合い、2人がリビングに戻るとお腹を空かせたミルアとナルアからブーイングがあった。

「これあげるー」
「こっちもあげるー」
 シュトラールの皿にミルアとナルアがブロッコリーとしいたけを入れて「んふーっ」と笑顔を向けてくる。
一瞬、嫌いな物を入れられたのかと思ったが、ルーファスが2人の頭を撫でて、リュエールがシュトラールに「2人の一番好きなオカズだよ」とこっそり教えてくれた。

「ありがとう。ミルア、ナルア」
 シュトラールが笑うとミルアとナルアも笑顔で返してくる。
笑うと本当に母上にそっくりだと思いながら、2人のくれたおかずを口に入れる。
実のところシュトラールはブロッコリーとしいたけは苦手な部類ではあるが、2人の優しさに「美味しいね」と言えば、満面の笑顔が返ってくる。

 食事の後で自分の部屋に戻り、お風呂に入った時に自分の髪の長さに今更気付く。
2年の間に伸びた髪をどうするか・・・。
 そこで思い出したのは、ずっと小さかった頃、朱里の床屋の思い出だった。
朱里が「髪の毛を私が切ります。母上の床屋さんです」と張り切り、前髪をパッツンと切られ、後ろもガタガタに切られた事がある。
あの時はリュエールと一緒に大泣きした覚えがある。

「母上は、器用な様でいて不器用な所もあるからなぁ・・・」

 あれ以来、朱里の床屋は営業停止になっている。
久々に髪を切ってもらおうかな?と、考えて朱里の床屋は・・・うん、危険かな?とクスリと笑う。
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