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12章
準備が必要
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シュトラールが「でもまだ駄目だから、少し待ってね。母上」と言って、朱里の眠る赤い氷に手を触れる。
「父上、準備が必要だから用意してもらう物があるんだけど良い?」
「ああ。それは構わない」
「母上の状態からすると、血液がまず足りない」
「それは既にありすが用意して常にストックしている」
ありすが「アカリっちに恩返しする為にも、うちは頑張るしー!」と、母乳から粉ミルクへの切り替えで血液をストックしてもらっていた。
「元々、あまりお乳の出が良い方じゃないから、気にしないでいいし」と、ありすは忙しい育児の合間を縫って献血していた。
朱里がありすの為に作っていた劣化を防ぐ輸血用容器が再び改良され鮮度を保ったまま保管出来るようになっていたのも幸運だった。
「あとはベアーウォールの爪からバイ菌が入ってるだろうから、解毒ポーションで洗い流さないといけないけど、多分、数秒で行わないと駄目。それには大量に解毒ポーションがいるよ」
「判った。製薬部隊にありったけの解毒ポーションを用意させよう」
シュトラールもベアーウォールの爪から雑菌が入り、傷をアルビーが塞いだ後も高熱が続いたりしていたのでかなりの解毒ポーションを用意して製薬部隊が活躍していた。
「肩から腕がちぎれそうな場所を回復魔法の詠唱が終わる寸前にくっつけなきゃいけないけど、これも一瞬で押さえないといけない。すごくタイミングが大事。だけど、詠唱が終わる瞬間までは氷から出さない方が良いから、2人係りで母上の腕をくっつける人と、回復魔法で腕が付いた時の激痛で母上が暴れない様に押さえる人が必要」
「そういう事ならオレがアカリを押さえよう。腕を付けるのは人体構造の判っている医師を用意しよう」
もし、上手くいかなくても朱里と最期の瞬間まで一緒に居たいルーファスとしてはその役目は自分が引き受けると即座に判断を下す。
「あとは、オレがもう少し勉強が必要なのと、魔力増加のアイテムがあれば全部貸して欲しいかな?母上が持って行った杖みたいなのとか、ありったけの物でオレの魔力量を増幅して一瞬で終わらせられるぐらいにしてあげたいから」
「判った。死蔵品の中から魔力増幅の物を探してお前に託そう。勉強に関しては必要な書物があれば取り寄せよう。ギル叔父上が聖属性の回復魔法が使えるから書物を持っているかもしれない。聞いておこう」
「うん。お願い。少しだけオレに時間をちょうだい。きっと母上を助けるから、グリムレインもう少しだけ母上を頼むね」
シュトラールがグリムレインを見ると、グリムレインは再び朱里を抱きしめる様に氷を抱いて目を閉じる。
そして早く行けと言わんばかりに、尻尾を少し振るとルーファスとシュトラールは部屋の明かりを消して出ていく。
「嫁よ・・・お前はどう思う?我がこのままでいいと思うのは臆病だろうか?」
氷の中で眠る朱里からは返事はなく、グリムレインがフゥとため息をついて静かに眠りにつく。
窓の外はグリムレインの心の様に吹雪いたまま温泉大陸に雪を降り積もらせていた。
ルーファスとシュトラールが朱里の病室から出ると、アルビーとリュエールが心配そうな顔で待っていた。
「シュー、母上は助けられそう?」
「うん。でも、少し準備が必要だから、もうしばらく時間をちょうだい」
「シュー、私も手伝えることがあれば手伝うよ。私も回復魔法は得意だからね」
「ありがとう。アルビー。アルビーにも手伝ってもらう事はあるから協力してね」
リュエールとアルビーがシュトラールに「おかえりシュー」と言って抱きつくと、いつの間にかシュトラールとリュエールの身長差がかなりの差になってしまったらしく、リュエールは頭1つ分低くなっていた。
言えば怒りそうなので黙っておくが、寝ている間に自分が成長したことが分かる。
「さぁ、シューはボビー医師に一度診てもらって帰れるようなら帰ろう。リューとアルビーはシューが帰れるようなら直ぐに荷物を持ち帰れるように荷物をまとめてやっておいてくれ」
「わかりました父上。アルビー行こう」
「うん。ルーファス、良かったね」
「ああ。アルビーにも迷惑を掛けるな」
「いいのいいの。私は好きでルーファス達の所に居るんだしね」
リュエールとアルビーが廊下を小走りで走って行き、シュトラールを連れてルーファスがボビー医師の居る診察室へ入ると、ボビー医師とテルトワイトがのんびりとお茶をしていた。
「おや、シュトラールくん目が覚めたんだね」
「どうやら賑やかだったのはシュトラール君が目が覚めたからだった様ですね」
2年前と変わらないボビー医師とテルトワイトの穏やかさにシュトラールも少しだけホッとする。
シュトラールの体を診てもらい、ボビー医師から退院の許可が出るとルーファスがシュトラールの頭を撫でながら、朱里へ回復魔法の使用についてシュトラールの意見と医師の判断の意見を聞いていく。
「うん。私としては異論はないねぇ。それにシュトラール君も自分の体をちゃんと回復魔法で治したみたいだし、腕はなまっていないようだね」
シュトラールは自分の状態を把握せずに回復魔法を掛けたが、実のところシュトラールは内臓の損傷と骨折箇所がかなりあり、朱里と同じように生死の分かれ道に立っていたが、子供の自然治癒能力の高さとアルビーの回復魔法で繋ぎ合わせていた命なので、目が覚めても修復出来ていなかった大きな傷跡や2年の間に衰えた筋肉や体力も懸念されていた。
それをシュトラールは事も無げに元の体の状態に戻してしまった。
シュトラールが聖属性の回復魔法を得意とし、温泉街での襲撃などで酷い状態の人々を回復させた魔法を行使していた経験が生かされていた証拠ともいえる。
ボビー医師が聖属性の回復魔法についての本を何冊か貸してくれ、シュトラールがお礼を言って退院すると、診察室で「あの子がいれば医者いらずな感じがしてくるよ」と肩をすくませ、テルトワイトに「それでもボビー医師の経験で助かる人々も居るんですから」と慰められていた。
「父上、準備が必要だから用意してもらう物があるんだけど良い?」
「ああ。それは構わない」
「母上の状態からすると、血液がまず足りない」
「それは既にありすが用意して常にストックしている」
ありすが「アカリっちに恩返しする為にも、うちは頑張るしー!」と、母乳から粉ミルクへの切り替えで血液をストックしてもらっていた。
「元々、あまりお乳の出が良い方じゃないから、気にしないでいいし」と、ありすは忙しい育児の合間を縫って献血していた。
朱里がありすの為に作っていた劣化を防ぐ輸血用容器が再び改良され鮮度を保ったまま保管出来るようになっていたのも幸運だった。
「あとはベアーウォールの爪からバイ菌が入ってるだろうから、解毒ポーションで洗い流さないといけないけど、多分、数秒で行わないと駄目。それには大量に解毒ポーションがいるよ」
「判った。製薬部隊にありったけの解毒ポーションを用意させよう」
シュトラールもベアーウォールの爪から雑菌が入り、傷をアルビーが塞いだ後も高熱が続いたりしていたのでかなりの解毒ポーションを用意して製薬部隊が活躍していた。
「肩から腕がちぎれそうな場所を回復魔法の詠唱が終わる寸前にくっつけなきゃいけないけど、これも一瞬で押さえないといけない。すごくタイミングが大事。だけど、詠唱が終わる瞬間までは氷から出さない方が良いから、2人係りで母上の腕をくっつける人と、回復魔法で腕が付いた時の激痛で母上が暴れない様に押さえる人が必要」
「そういう事ならオレがアカリを押さえよう。腕を付けるのは人体構造の判っている医師を用意しよう」
もし、上手くいかなくても朱里と最期の瞬間まで一緒に居たいルーファスとしてはその役目は自分が引き受けると即座に判断を下す。
「あとは、オレがもう少し勉強が必要なのと、魔力増加のアイテムがあれば全部貸して欲しいかな?母上が持って行った杖みたいなのとか、ありったけの物でオレの魔力量を増幅して一瞬で終わらせられるぐらいにしてあげたいから」
「判った。死蔵品の中から魔力増幅の物を探してお前に託そう。勉強に関しては必要な書物があれば取り寄せよう。ギル叔父上が聖属性の回復魔法が使えるから書物を持っているかもしれない。聞いておこう」
「うん。お願い。少しだけオレに時間をちょうだい。きっと母上を助けるから、グリムレインもう少しだけ母上を頼むね」
シュトラールがグリムレインを見ると、グリムレインは再び朱里を抱きしめる様に氷を抱いて目を閉じる。
そして早く行けと言わんばかりに、尻尾を少し振るとルーファスとシュトラールは部屋の明かりを消して出ていく。
「嫁よ・・・お前はどう思う?我がこのままでいいと思うのは臆病だろうか?」
氷の中で眠る朱里からは返事はなく、グリムレインがフゥとため息をついて静かに眠りにつく。
窓の外はグリムレインの心の様に吹雪いたまま温泉大陸に雪を降り積もらせていた。
ルーファスとシュトラールが朱里の病室から出ると、アルビーとリュエールが心配そうな顔で待っていた。
「シュー、母上は助けられそう?」
「うん。でも、少し準備が必要だから、もうしばらく時間をちょうだい」
「シュー、私も手伝えることがあれば手伝うよ。私も回復魔法は得意だからね」
「ありがとう。アルビー。アルビーにも手伝ってもらう事はあるから協力してね」
リュエールとアルビーがシュトラールに「おかえりシュー」と言って抱きつくと、いつの間にかシュトラールとリュエールの身長差がかなりの差になってしまったらしく、リュエールは頭1つ分低くなっていた。
言えば怒りそうなので黙っておくが、寝ている間に自分が成長したことが分かる。
「さぁ、シューはボビー医師に一度診てもらって帰れるようなら帰ろう。リューとアルビーはシューが帰れるようなら直ぐに荷物を持ち帰れるように荷物をまとめてやっておいてくれ」
「わかりました父上。アルビー行こう」
「うん。ルーファス、良かったね」
「ああ。アルビーにも迷惑を掛けるな」
「いいのいいの。私は好きでルーファス達の所に居るんだしね」
リュエールとアルビーが廊下を小走りで走って行き、シュトラールを連れてルーファスがボビー医師の居る診察室へ入ると、ボビー医師とテルトワイトがのんびりとお茶をしていた。
「おや、シュトラールくん目が覚めたんだね」
「どうやら賑やかだったのはシュトラール君が目が覚めたからだった様ですね」
2年前と変わらないボビー医師とテルトワイトの穏やかさにシュトラールも少しだけホッとする。
シュトラールの体を診てもらい、ボビー医師から退院の許可が出るとルーファスがシュトラールの頭を撫でながら、朱里へ回復魔法の使用についてシュトラールの意見と医師の判断の意見を聞いていく。
「うん。私としては異論はないねぇ。それにシュトラール君も自分の体をちゃんと回復魔法で治したみたいだし、腕はなまっていないようだね」
シュトラールは自分の状態を把握せずに回復魔法を掛けたが、実のところシュトラールは内臓の損傷と骨折箇所がかなりあり、朱里と同じように生死の分かれ道に立っていたが、子供の自然治癒能力の高さとアルビーの回復魔法で繋ぎ合わせていた命なので、目が覚めても修復出来ていなかった大きな傷跡や2年の間に衰えた筋肉や体力も懸念されていた。
それをシュトラールは事も無げに元の体の状態に戻してしまった。
シュトラールが聖属性の回復魔法を得意とし、温泉街での襲撃などで酷い状態の人々を回復させた魔法を行使していた経験が生かされていた証拠ともいえる。
ボビー医師が聖属性の回復魔法についての本を何冊か貸してくれ、シュトラールがお礼を言って退院すると、診察室で「あの子がいれば医者いらずな感じがしてくるよ」と肩をすくませ、テルトワイトに「それでもボビー医師の経験で助かる人々も居るんですから」と慰められていた。
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