黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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12章

試験官5日目 最終日 前編

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 朱里の最後の試験官最終日。
凍えるような寒さと雪の多さに温泉大陸に毎年招待しているドワーフから貰った火の護符を両手に持ちながら寒さを凌ぎつつ、朱里がギルドの扉を開ける。
どうやら試験官の中での一番乗りは朱里だったらしく、ギルドの職員だけしか居なかった。

「おはようございます」
「ミヤ試験官、おはようございます」
「今日は最終日ですが、よろしくお願いします」
「そういえばミヤ試験官は今日までなんだよね。残念ですよ」
「あの今日お昼が終わったら帰るのですが、荷物いっぱいでロッカールームはみ出ても良いですか?」
「うわぁ・・・ミヤ試験官すごい手荷物ですね」
「家族にお土産を買ってたらこんな事になってしまいました・・・えへへ」
 最終日はお昼を過ぎると試験は終了になり、そのまま試験官は帰れる為に荷物を全て持って来たのだが、子供達や従業員へのお土産でかなりの量になってしまっている。
ルーファスが背中と両脇に荷物をぶら下げて、朱里も自分の服が入っているトランクを持っている。

 ギルドの職員に手伝ってもらい荷物をロッカールームに山にして紐で全てを縛り上げ、ギルドのカウンターを出て試験が始まるまで待機になった。

「あの大荷物持って帰れるんですか?」
「帰りは私のもう一人の従魔がお迎えにくるので、荷物の心配はないんです。それで・・・つい買いすぎちゃったという感じです・・・」
 まぁ、その従魔はグリムレインで、既に近付いてきているらしく雪が凄くなっている原因でもある。

「ミヤ試験官は魔獣何匹使役しているんです?」
「えーと、5体でしょうか?」
 グリムレインとエデンとササマキとクロにハガネはカウントすべきか、それともルーファスを入れるべきか?と、少し悩みつつも、一応5体と言っておく。

「試験官で使えるのは1体という事でルーだけを今回は連れて来ているんです」
 ルーファスが尻尾をフリフリと振りながら朱里の横に座る。
「ルー君、すごい活躍ですからね。ミヤ試験官がCランクなんて信じられないですよ」
「残念ながらCランクです。帰ったらルーと一緒にランクを上げてBランクになるつもりです」
「ええーっ、来年もミヤ試験官に来て欲しいぐらいなのに」
「いえいえ、私には荷が重すぎます」
「でも、ミヤ試験官のおかげで今年は下手に冒険者が増えませんでしたし、何より不合格者が試験官を襲うという毎年の逆恨みも犯人が捕まえられて、罰則も適用され、見せしめ効果で今後同じような事を考える受講者も少なくなりますからね。凄く助かりましたよ」
 すべてルーファスのおかげなので朱里としては何ともお腹のむず痒くなる感じではある。
ルーファスの頭を撫でればペロペロとルーファスが手を舐めてくる。

「あ、そういえば香水男はどうなりましたか?」
「ああ、あの香水男も他の受講者の証言から犯人の1人だと判明しましたよ。匂いで犯人捜しをしているというのがバレたのが不味かったですよね。冒険者は情報を直ぐに口に出す様な奴は失格だと判ってない奴が多くて困ります。だから不合格になるのだと気付いてほしい物ですよ」
 職員の言葉にうんうんと頷いていると、他の試験官もギルドに入ってくると朱里に挨拶をしてくる。

「ミヤ試験官おはようございます。今日は寒いですね」
「おはようございます。寒いですね」
「ミヤ試験官は試験が終わったら打ち上げに行きますか?」
「いえ、私は迎えが来るので直ぐに帰ってしまいます」
「ええ?!本当ですか?」
「リンディ試験官、ミヤ試験官打ち上げ不参加で直ぐに帰るらしいぞ」
「ええー!ミヤ試験官直ぐ帰っちゃうんですか?!」
「はい。迎えを待たせると大変なので」
 グリムレインが街に長く滞在すれば吹雪どころではなくなってしまうので長いは出来ないのが悲しい所である。
そうでなければ打ち上げは魅力的なお誘いではある。隣で座っているルーファスは良い顔はしないだろうが。

「迎えって、やっぱりミヤ試験官お嬢様か何かですか?」
 やっぱりとは何なのかとリンディに聞いてみたい所ではあるが、小さく首を傾げてお嬢様って年でもないんだけどなっと、ちょっと若さについて悩んでしまう所だ。

「お嬢様じゃないですよ?それに迎えって言っても従魔なので、馬車が来るぞー!とかじゃないです」
 多分、それ以上の物なのは確かではあるが・・・。
「うーん。ミヤ試験官の謎が深まるばかりです。でも今日のお洋服は普通の服に見えるけど、何かの高級な素材とか?」
 
 朱里の今日の服はグリムレインに迎えに来てもらうので寒さ対策に火羊マーモと呼ばれる炎属性の魔獣の毛で糸を紡いで作ったセーターに中にタートルネックとシャツを着こみ、ハーフパンツにタイツを2枚穿いている。
ロングブーツは中にボアが入っているのでもこもこと温か仕様である。

「リンディ試験官は私をお金持ちにしたいんですか?」
「だって、ミヤ試験官の杖って上級冒険者でも中々持ってない一級品だし、服も防御付与されてる物とか着てるって、どう見てもCランククラスの冒険者じゃ持ってない高級品ばかりですよ?それでお金持ちじゃないってありえないですよ」
「そうなんですか・・・?死蔵品って言って貰った杖に、冒険者だった人から使ってない服とかで貰ったんです。あとは皆でお金を出し合って作ってくれたものとかです」

 杖は死蔵品。服は従業員が昔購入した物を朱里にくれたり、素材を服にしてくれたりと短期間に色々と準備してもらった物が多い。
それに朱里の知識では、冒険者はこういう武器や服は皆持っている物なので、まさか高級品とは思ってはいなかった。
 それもそのはずなのは、温泉街に来る冒険者は上級ランクの冒険者ばかりだからというのが原因ではある。

「なんですかそれー!!羨ましいです~っ!でもミヤ試験官の謎がまた増えてしまうばかりですよー!」
 ギュウッとリンディが朱里に抱きついてきてルーファスが鼻にしわを寄せて「グルルル」と威嚇の声を上げる。
リンディを尻尾でバシバシと叩きながら、朱里とリンディの間に入り込みルーファスがリンディに歯をむき出しにしている。
 どうもルーファスとリンディの相性は悪いらしく、最終日も仲が悪いまま終わりそうである。

「リンディ試験官も今日で試験官が終わりならご両親が喜びますね」
「え?両親?どうして?」
 おや?薬の為にリンディは試験官を引き受けたのではないだろうか?と朱里が首を捻ると、リンディが「あ」と小さく声を上げる。

「そうなんですよー。薬がギルドから出してもらえるのが報酬なのでわたしも楽しみで」
 取って付けたように誤魔化すリンディに益々首を捻り『楽しみ?』普通はこれで親の病気が治るから『嬉しい』では無いのだろうか?と、首を傾げる。

 リンディの言葉に疑問は残るが、ギルドの営業時間になり、冒険者や試験を受けに来た人々が入ってくると話はそこまでになり、朱里は最後の試験官の仕事だと、気合を入れて立ち上がった。
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