黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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12章

試験官3日目 後編

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 試験会場になっている実技用の訓練場に昨日の受講者が集められ、1人1人の前をルーファスが歩き襲撃した犯人と同じ匂いの人間の前で一声吠ると、吠えられた人間は職員に確保される。
7人の受講者が捕まり、1人判らない人間が出た。
昨日はつけていなかった香水を頭から被ったのか?と、言うほど凄い匂いを放っている人間が居て、ルーファスも流石にこうも匂いがキツイと判別できないらしい。

 ルーファスが香水の匂いで鼻が変になったのか朱里の腹に鼻を押し付けてイヤイヤという様にこすりつけている。

「ルーの鼻が変になっちゃうので、その人ごと連れて行ってください」
 朱里が職員に言うと、香水男が「ふざけるな!」と騒いで暴れるが職員に引きずられて行く。

 今日は冒険者試験は中止となり、受講者候補の人々に今日の事が伝えられ、不合格を逆恨みで試験官を襲った場合は犯罪者リストに載り、冒険者試験は受けられず、冒険者にはなれない事、身内などに冒険者が居た場合はペナルティーとして冒険者ランクが1ランク下げられる事が告げられた。
 
 それを見ていたギルドに集まっていた冒険者達は「うへぇー」と声を上げながら、受講者達に「自分の実力不足を逆恨みは駄目だぞ」と冷やかしている。

「ルー、大丈夫ですか?」
 コップに水を入れてもらいコップの中にルーファスが鼻を入れながらブクブクと音を立てている。
朱里ですらも鼻を摘まんでしまうぐらいの匂いだったのでルーファスはその倍以上酷い匂いを嗅いでしまったのだろうと心配しながら撫でていると、朱里の周りに冒険者が集まる。

「ミヤ試験官だったか?俺を用心棒に雇わないか?」
「いや、オレならこいつより役に立つぜ」
「私達はチームで警護ができますからどうです?」
 ワラッと冒険者に囲まれ、ルーファスにしがみ付くとコップから顔を上げたルーファスが牙をむいて唸り声を上げて威嚇する。

「グルルッ」

 ルーファスの唸り声に冒険者が一瞬ビクッとするが、冒険者の1人がカバンから何かの干し肉を出してルーファスの前にちらつかせる。

「ほーら。良い子にしようなー」

 ルーファスがユラッと動くと、床を飛んだ瞬間、冒険者の頭を足で踏みつけ床に押し倒すと、朱里の周りに集まった冒険者を次々と踏みつけながら床に押し倒していく。

「フンッ」
「ルー、カッコイイけどやりすぎです」
 床に倒れた冒険者を周りに居た冒険者達が笑いながら「魔獣にやられる冒険者なんて情けねぇぞ」「用心棒したきゃそいつ倒せねぇと駄目だってよ」とヤジを飛ばしたり揶揄ったりしている。

 朱里に声を掛けた冒険者が「うっせぇーな」と言いながら笑って起き上がる。
「ミヤ試験官の魔獣はちゃんとした主従が出来てるんだな」
「その魔獣はワーウルフか何かか?」
「ミヤ試験官はCランクなのに魔獣はCランク以上だな」
 気さくに話し掛けてくる冒険者達に「ルーはお利口さんなので・・・」と曖昧な言葉で濁す。
流石に黒狼族で金目はルーファスだけなので獣人とは思われていないのが有難いところだろうか。
あとはルーファスが前に言っていたように、狼獣人にしてはルーファスは小柄な所に助けられているともいえる。

「今日は冒険者試験は無い様なので私達はこの辺で帰りますね。声を掛けてくださってありがとうございました!」

 冒険者達に頭を下げて逃げる様にロッカールームに置いたお昼ご飯の入ったバスケットとアンゴラータ族の布で作ったフード付きケープを羽織ってカウンターを出ると、少しだけ冒険者に見られている気がして、職員に挨拶をすると急いで冒険者ギルドを出る。

 ギルドを出るとまだお昼前という事もあり、道行く人々は忙しそうに歩いている。

「ルー、大丈夫ですか?」
 鼻を前足でカシカシと擦りながら朱里のお腹にグイグイと鼻先を押し付ける。
どうやらまだ鼻に匂いが付いているらしい。

「一度お宿に帰って休みましょう」
「フゥーン」
 少し元気のないルーファスの声に朱里が元気づける様に「帰ってお昼一緒に食べましょう」と声を掛ける。
朱里の横にピッタリと寄り添いながらルーファスと朱里が歩き出すと、ギルドの建物の脇からヌッと冒険者が3人現れる。
 3人共獣人の様で頭の上には耳と外套の裾からは尻尾が見えている。朱里がビクッと体を揺らすと、直ぐさまルーファスが朱里の前に出て毛を逆撫でて唸り声を上げる。

「落ち着いて、別にどうこうしようっていうわけじゃない」
「俺達はさっきの香水の匂いでギルドの建物から離脱しただけだ」
「んで、その魔獣・・・?鼻やられたんだろ?獣人用で良ければ鼻薬分けてやるよ。試験官が襲われたって聞いてるから、あんたもその魔獣の鼻が利かないと不便だろ?」
 冒険者の1人がバックパックから小さな小瓶を取り出してルーファスと朱里の前に差し出す。

「すいません。ありがとうございます!」
 朱里が受け取ると、ルーファスが朱里の足をタシタシと踏みつける。
朱里がルーファスを見ると、ルーファスが目で「何でもすぐに信用するなと」訴えて呆れた様なため息を吐く。

「あの、お金お支払します」
 朱里がポーションホルダーの小さいポーチに手を掛けると、冒険者達は「要らない」と言う。

「実は俺達が依頼されて追ってたコソ泥をあんた達が吹っ飛ばしてくれたおかげで依頼が達成出来たから、その礼だよ」
 朱里が「何かしましたっけ?」と首を傾げる。

「あんた達が泊ってる宿にターゲットが居たんだが、あそこは俺達みたいなのは入れない場所で参ってたんだが、昨日ターゲットが通気口のダクトに隠れてたらしくて、アンタ達に吹っ飛ばされて外に出たんで俺達が捕まえて依頼完了って訳さ」

「ああ、昨日のお風呂場の通気がおかしいから風魔法を使ったあれですか」

 ルーファスが風魔法を使った後でゴトンゴトン音がしていたなぁと朱里が思い出して「なるほど」と手を叩く。
3人の獣人冒険者は頷いて「助かったぜ」と朱里とルーファスに声を掛ける。

「ルー、鼻薬良かったですね」
 ルーファスが朱里にスリ寄りながら、早く帰ろうと服を引っ張る。

「ルーを早く治してあげたいのでもう行きますね。鼻薬有り難うございました」
 朱里が冒険者に頭を下げると、3人の獣人冒険者は小さく手を振って2人を見送る。

 遠ざかる朱里とルーファスに3人の獣人たちは「すげぇ匂い付けてたな」「ありゃ相当な独占欲の塊だな」「香水よりマーキングの匂いの方がオレ達には毒だな」と、朱里から漂うルーファスの濃厚な匂いに鼻を押さえる。
魔獣であれ獣人であれ、自分の物だと主張する匂いの付け方の異常さにはたじろぐものがあったのである。

 自分がそんな匂いを振りまいている事を知らない朱里は鼻薬を貰った事に喜びながら宿に戻っていた。
鼻薬で鼻がようやく使える様になったルーファスは「アカリの匂いがしないと凄く不安になる」と鼻薬は自分も用意すべきだなと製薬部隊に帰ったら作らせようと思いながら、1日暇になった朱里とベッドの上でイチャつきながら、お昼を食べ終わると子供達のお土産を買いに街に出て、少し買いすぎたとお互いに反省しつつ過ごした。

 夜、部屋に戻り、カーテンを閉めるともう人影はなく、昼間の冒険者が人影の正体だったのかとルーファスが少しだけ気を緩ませた。
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