黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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12章

試験官2日目 前編

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 昨晩振った雪に足を取られながらヒールの高いブーツでヨタヨタと歩いてチャルッタ支部の冒険者ギルドの扉を開く。
 ギルドの中では職員が朝の掃除を終わらせていた。

「おはようございます」
「ああ、ミヤ試験官おはようございます」
 職員に挨拶をしてカウンターの中に入り、奥にあるロッカールームに外套を掛け、お昼のサンドイッチの入ったバスケットをロッカーに入れて鍵をすると、今日は昨日の夜ルーファスにガブガブと歯型を付けられた肌が見えない様にタートルネックの上に長袖のシャツを着て、7分丈のズボンに腰にはポーションホルダーと手には見せかけだけの杖を持つ。
 見せかけの杖は魔法力増加と物理打撃軽減の石が埋め込まれている物で魔法使いにはヨダレ物の一品らしいが、魔法は使えないので魔法力増加は初めから意味がない。ルーファスが守ってくれている限りは朱里には物理ダメージもこないので、まさに見せかけの杖と言える。

 朱里の武器はルーファスと、ポーションホルダーに差し込んである痺れポーション睡眠ポーションに自分の血で作った特殊ポーションと疲労回復ポーションくらいだ。
特殊ポーションはルーファスに何かあった時に使う様に持ち歩いているが、朱里を舐めるだけでも病気・呪い・浄化が発動するらしい。
 昨日も剣に痺れ薬を塗って来た受講者が居て、ルーファスが直ぐに気付き朱里に甘える振りをして朱里を舐めて痺れを取ると受講者の剣を爪で弾いて受講者が逆に痺れさせられていた。

「あっ、ミヤ試験官おはよー。犬くんもおはよー」
 筆記試験官のリンディがロッカールームに現れ2人に元気に声を掛けてくる。
「チッ」
「おはようございます。リンディ試験官」
「あれ?何か舌打ちみたいのしなかった?」
「あー、多分・・・ルーが朝食べたお肉がまだ歯に挟まってるんじゃないかな?」
「へぇー、犬くん朝からご馳走だったんだね」
「グルルルル」
 歯をむき出して怒るルーファスは少し大人げないですよ・・・と、思いつつも狼族はプライドが高い分、犬族と同列に扱われるのを嫌うらしいから仕方が無いのかも?

「あっ、そういえばミヤ試験官ってもしかしてお金持ちですか?」
「え?どうしてですか?」
「実は昨日、食事が終わって皆で歩いてたらミヤ試験官が凄く高い料理屋さんから出てきてビックリしちゃったんですよ」
 どうやら料亭から出るのを見られていたらしいが、しかしそれ程高い所だったのかとも不思議に思う。
確かに高級料亭ではあるが、値段はそんなに高くはなく、格式が高く雰囲気を大事にして人を選ぶような場所というだけにも思えた。

「お金持ちと言うわけでは無いですよ。ルーも一緒に入れるお店を探しただけですから」
「へぇー。犬くん大事にしてるんですね」
「ルーは大事なパートナーですから」
 ニコーッと笑って誤魔化しつつ、他の試験官もロッカールームに入ってきて挨拶を交わしながらそそくさとギルドの待合室に出ると冒険者たちが依頼書を見に掲示板に集まっていた。
 お正月も終わったばかりだというのに、冒険者はもう働き始めていることに少しビックリではあるが、その日暮らしの様な冒険者にとっては正月も休みもあって無い様な物なのだろう。

 何かが朱里の後ろを通った時、ルーファスが唸り声を上げて男に飛び掛かっていた。
「グルルル・・・ッフーッフーッ」
「うわっ、何だこいつ」
「ふぁっ!ルー・・・!」
 慌ててルーファスに抱きつくと、押し倒された冒険者の男の手から朱里が首から下げていたクロの魔法反射のペンダントがコロンと落ちた。

「あっ!私のペンダント!」
 男がしまったという顔をした後、ルーファスが男の襟首を持ち上げて振り回すとブンッと投げ飛ばすとギルドの壁に叩きつけて、ペンダントを口で拾うと朱里の手に落とし、朱里に顔を擦り付ける。

「ありがとう。ルー」
 どういたしましてと言わんばかりに頭を擦り付けて朱里の横に寄り添うと、ギルド職員の方をルーファスが見て、ギルドの職員が急いで男を確保する。

「窃盗の現行犯だ!冒険者カードの剥奪及び、ギルドへの出入り禁止!」
 周りの冒険者が「しまった!出遅れた!」と騒ぎ、職員に引きずられて行く男に「次からは俺達の目の前でもっと派手にやれよー!賞金首ぐらいになれよー!」と騒いで冷やかして見送っている。

 朱里が首を捻ると、近くに居た冒険者が「犯罪者を捕まえると報酬が出るんだよ。でも職員に捕まえられると、それが貰えないんだよ」と、教えてくれた。
 成程、あれは冒険に行かずとも手に入る臨時ボーナス扱いなのかと少し勉強になった朱里は冒険者にお礼を言って試験会場の自分の持ち場である訓練場にルーファスと共に入る。

「今日は合格者が出ると良いねぇ」
 ルーファスに話し掛ければルーファスが小さく首を捻る。
「意地悪してると合格者が0人になっちゃいますよ?」
フッと鼻でルーファスが笑い、朱里が「厳しいんだから」と眉を下げて笑う。
 まぁ、話によれば冒険者試験官はなるべく冒険者の合格者を増やさない様にしているらしい。
1つの理由としては自分の食い扶持を減らしたくないから。
ライバルは少なければ少ないだけ良いらしい。
採取クエストなどでは初期ランクの薬草採取は場所の取り合いらしい。
 まぁ、確かに【刻狼亭】の製薬部隊も薬草の群生地を見付けると他の冒険者に荒らされない様に幻惑草という草を植えたりして自分達以外が採れない様にしているぐらいなので、ライバルは少ない方が良いのだろう。

 あとは新人程死にやすいので試験で落として、もう少し鍛錬をさせてから死に辛くなってから出直せみたいな親切心から蹴落としているとも聞く。
 ルーファスは多分後者なのだろうと朱里は思う。
ただ単に、朱里に触られたくないから片っ端から倒してるだけとはつゆ知らずにルーファスは優しいなぁと、体を撫でて微笑んでいるが・・・。

「ミヤ試験官、受講者2番さんから行きますよ」
「はーい。お願いします!ルー頑張ろう!」
 朱里が両手に持った杖を構えてルーファスにウィンクすると、ルーファスが尻尾を振る。
2日目の試験官の仕事の始まりである。
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