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12章
新しい住民の誕生
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月明かりの中を森を疾走する黒い狼の上を朱里とリリスが乗って、後ろを小さな黒い狼が追走してくる。
獣化したルーファスとシュトラールなのだが、足が速い分冬の冷たい空気でより冷たく感じられる。
狼族にしては小柄だとルーファスは言っていたが、朱里とリリスを乗せられる大きさはあり、シュトラールはおそらく大人になればルーファスより大きな狼の姿になるだろうとルーファスが言っていたが、今はまだ柴犬より大きく秋田犬より少し小さいくらいの大きさだ。
「あと少しで温泉街に出るからしっかり掴まっていろ」
「はい!」
ルーファスにギュッと掴まりながら冷たくなる手足にあと少しの我慢だと言い聞かせながら、歯がカチカチと音を立てない様に唇をキュッと噛みしめる。
歯を鳴らしたらきっと耳の良いルーファスとシュトラールは足の速度を遅くしてしまうだろうから、急いでいる時に余計な時間を掛けさせたくはない朱里なりの気づかいで我慢している。
温泉街の明かりが見え、ルーファスが大きく跳躍して通りに出ると温泉街のゴミをゴミ捨て場に入れて餌を食べていた温泉鳥達がルーファスとシュトラールを見て、「アゴッ!」と声を上げてバタバタと逃げまどい温泉鳥同士でぶつかりお互いに路地の隅に転がり回っている。
パニックに弱い温泉鳥達に「ごめんね皆!」と朱里が声を掛けて、シュトラールが軽い全体回復の魔法を掛けて走って行く。
リロノスの家の前に着くと朱里とリリスが産院の方へ急ぎ、ルーファスとシュトラールがリロノス宅へ入る。
リビングの灯りの下、リロノスがあらぬ方向へ曲がった足を引きずりながら真っ青な顔で椅子を支えに玄関に向かい歩いていた。
「リロノス邪魔するぞ」
「リロノスおじさん、回復魔法掛けるから下手に動かないで床に座ってて」
リロノスが痛みに耐えながら何かを言おうとするが、既に激痛で声も出せない様だ。
仕方が無いとルーファスがリロノスを抱き上げて床に下ろすと、リロノスが痛さに手を握りしめて脂汗を流していた。
「リロノスおじさん、早く産院に行きたいなら変に動かないでね。父上、少しリロノスおじさんを後ろから暴れない様に押さえてて」
「わかった。リロノス、ありすも今頃これ以上に痛い思いをしているのだろうから、頑張る事だ」
リロノスの両腕を後ろから羽交い絞めにして、シュトラールに「いいぞ」と言うとシュトラールが回復魔法の詠唱を始める。
詠唱を最後の方まで唱えると、シュトラールがリロノスの足をグイッと元の正常な位置に向かせて詠唱の最後を唱える。
「あ________っ!!!!!!!」
リロノスの声にならない叫びにルーファスが耳を下げるとシュトラールが「はい。終わり」とパシッとリロノスの足を叩く。
ルーファスがリロノスから手を離すと、リロノスがぐったりと床に白目をむいて気絶する。
「おいおい・・・、仕方が無いな。シュトラールこれはリロノスの為にも気絶したことは内緒にしてやれ」
「いいけど、情けないなぁ・・・。足が吹き飛んだわけじゃないのに」
「そういってやるな。シュトラールもいつか骨を折ったら痛みがわかる。結構痛いものだぞ」
「まぁ折ったことはないけど、12月末の今頃は襲撃で足吹っ飛んだ人とか治療してたから、骨が折れたぐらいは軽い方だよ」
温泉大陸を狙って奴隷商が襲ってきた時の怪我人の報告がなかったが、実際はこの目の前の息子の働きによって死者も怪我人も出ずに済んだことに今更ながらとんでもない能力の息子だと苦笑いが漏れる。
リロノスの頬をペチペチとルーファスが叩き、リロノスが目を開けるとガバッと起き上がり「アリスは?!」とルーファスにしがみついて来ようとしたのをサッと避け、ルーファスが立ちあがりシュトラールも立ち上がる。
「連絡がまだ入っていないから急げば出産に間に合うんじゃないか?」
「ほら、リロノスおじさん急ごう。もう足は大丈夫でしょ?」
「は、はい!直ぐに行きます!」
そろりと起き上がり、足を床に付けて大丈夫の様だと胸をなでおろすとリロノスが急いで走り出し、ルーファスとシュトラールも後に続く。
「リロノス、急ぐとまたコケるぞ」
「また足折らないでね。まだ足の骨の再生で骨が熱持ってるだろうから熱が治まるまでは魔法掛けられないからね。逆の足なら治してあげられるけどね」
リロノスが「すいません!ご迷惑をお掛けしました!」と叫ぶように言い、ルーファスとシュトラールがククッと笑いながらリロノスを追い越してサッサッと産院の中へ入る。
産院の待合室で朱里が入って来たルーファス達に気付くと小さく手を振る。
「アリスはどうなった?」
「先程、出産が終わって今は処置中です。リロノスさん少し間に合わなかったですね」
「リロノスおじさん残念だね」
「そうですか・・・アリスは大丈夫ですか?」
「ええ。アリスさんは元気ですよ。赤ちゃんも元気です。今、リリスちゃんが赤ちゃんを見に行っていますから、リロノスさんも見に行くと良いですよ」
「はい!ありがとうごさいます」
朱里に頭を下げてリロノスが新生児室に走って行く。
ルーファスが朱里に笑いかけると朱里も笑って、待合室の椅子に座るとシュトラールに「お疲れ様」と笑いかける。
「母上もお疲れ様」
「私は何もしてないから大丈夫よ。魔力は大丈夫?」
「うん。リロノスおじさんが30回骨を折らなきゃ大丈夫だよ」
「ふふっ、もう。人の不幸を茶化さないの」
シュトラールに「メッ」と言いながら朱里が笑って「母上こそ人の不幸を笑っちゃ駄目でしょ」と言ってシュトラールもくすくすと笑っている。
7年前のリリスの出産の時が悲惨な物だっただけに、こうして笑える程の余裕があるのは良い事なのだろう。
「それでアカリ、性別はどっちだったんだ?」
「男の子でしたよ」
温泉大陸にまた1人新しい住民が増えた事に笑顔がこぼれる。
獣化したルーファスとシュトラールなのだが、足が速い分冬の冷たい空気でより冷たく感じられる。
狼族にしては小柄だとルーファスは言っていたが、朱里とリリスを乗せられる大きさはあり、シュトラールはおそらく大人になればルーファスより大きな狼の姿になるだろうとルーファスが言っていたが、今はまだ柴犬より大きく秋田犬より少し小さいくらいの大きさだ。
「あと少しで温泉街に出るからしっかり掴まっていろ」
「はい!」
ルーファスにギュッと掴まりながら冷たくなる手足にあと少しの我慢だと言い聞かせながら、歯がカチカチと音を立てない様に唇をキュッと噛みしめる。
歯を鳴らしたらきっと耳の良いルーファスとシュトラールは足の速度を遅くしてしまうだろうから、急いでいる時に余計な時間を掛けさせたくはない朱里なりの気づかいで我慢している。
温泉街の明かりが見え、ルーファスが大きく跳躍して通りに出ると温泉街のゴミをゴミ捨て場に入れて餌を食べていた温泉鳥達がルーファスとシュトラールを見て、「アゴッ!」と声を上げてバタバタと逃げまどい温泉鳥同士でぶつかりお互いに路地の隅に転がり回っている。
パニックに弱い温泉鳥達に「ごめんね皆!」と朱里が声を掛けて、シュトラールが軽い全体回復の魔法を掛けて走って行く。
リロノスの家の前に着くと朱里とリリスが産院の方へ急ぎ、ルーファスとシュトラールがリロノス宅へ入る。
リビングの灯りの下、リロノスがあらぬ方向へ曲がった足を引きずりながら真っ青な顔で椅子を支えに玄関に向かい歩いていた。
「リロノス邪魔するぞ」
「リロノスおじさん、回復魔法掛けるから下手に動かないで床に座ってて」
リロノスが痛みに耐えながら何かを言おうとするが、既に激痛で声も出せない様だ。
仕方が無いとルーファスがリロノスを抱き上げて床に下ろすと、リロノスが痛さに手を握りしめて脂汗を流していた。
「リロノスおじさん、早く産院に行きたいなら変に動かないでね。父上、少しリロノスおじさんを後ろから暴れない様に押さえてて」
「わかった。リロノス、ありすも今頃これ以上に痛い思いをしているのだろうから、頑張る事だ」
リロノスの両腕を後ろから羽交い絞めにして、シュトラールに「いいぞ」と言うとシュトラールが回復魔法の詠唱を始める。
詠唱を最後の方まで唱えると、シュトラールがリロノスの足をグイッと元の正常な位置に向かせて詠唱の最後を唱える。
「あ________っ!!!!!!!」
リロノスの声にならない叫びにルーファスが耳を下げるとシュトラールが「はい。終わり」とパシッとリロノスの足を叩く。
ルーファスがリロノスから手を離すと、リロノスがぐったりと床に白目をむいて気絶する。
「おいおい・・・、仕方が無いな。シュトラールこれはリロノスの為にも気絶したことは内緒にしてやれ」
「いいけど、情けないなぁ・・・。足が吹き飛んだわけじゃないのに」
「そういってやるな。シュトラールもいつか骨を折ったら痛みがわかる。結構痛いものだぞ」
「まぁ折ったことはないけど、12月末の今頃は襲撃で足吹っ飛んだ人とか治療してたから、骨が折れたぐらいは軽い方だよ」
温泉大陸を狙って奴隷商が襲ってきた時の怪我人の報告がなかったが、実際はこの目の前の息子の働きによって死者も怪我人も出ずに済んだことに今更ながらとんでもない能力の息子だと苦笑いが漏れる。
リロノスの頬をペチペチとルーファスが叩き、リロノスが目を開けるとガバッと起き上がり「アリスは?!」とルーファスにしがみついて来ようとしたのをサッと避け、ルーファスが立ちあがりシュトラールも立ち上がる。
「連絡がまだ入っていないから急げば出産に間に合うんじゃないか?」
「ほら、リロノスおじさん急ごう。もう足は大丈夫でしょ?」
「は、はい!直ぐに行きます!」
そろりと起き上がり、足を床に付けて大丈夫の様だと胸をなでおろすとリロノスが急いで走り出し、ルーファスとシュトラールも後に続く。
「リロノス、急ぐとまたコケるぞ」
「また足折らないでね。まだ足の骨の再生で骨が熱持ってるだろうから熱が治まるまでは魔法掛けられないからね。逆の足なら治してあげられるけどね」
リロノスが「すいません!ご迷惑をお掛けしました!」と叫ぶように言い、ルーファスとシュトラールがククッと笑いながらリロノスを追い越してサッサッと産院の中へ入る。
産院の待合室で朱里が入って来たルーファス達に気付くと小さく手を振る。
「アリスはどうなった?」
「先程、出産が終わって今は処置中です。リロノスさん少し間に合わなかったですね」
「リロノスおじさん残念だね」
「そうですか・・・アリスは大丈夫ですか?」
「ええ。アリスさんは元気ですよ。赤ちゃんも元気です。今、リリスちゃんが赤ちゃんを見に行っていますから、リロノスさんも見に行くと良いですよ」
「はい!ありがとうごさいます」
朱里に頭を下げてリロノスが新生児室に走って行く。
ルーファスが朱里に笑いかけると朱里も笑って、待合室の椅子に座るとシュトラールに「お疲れ様」と笑いかける。
「母上もお疲れ様」
「私は何もしてないから大丈夫よ。魔力は大丈夫?」
「うん。リロノスおじさんが30回骨を折らなきゃ大丈夫だよ」
「ふふっ、もう。人の不幸を茶化さないの」
シュトラールに「メッ」と言いながら朱里が笑って「母上こそ人の不幸を笑っちゃ駄目でしょ」と言ってシュトラールもくすくすと笑っている。
7年前のリリスの出産の時が悲惨な物だっただけに、こうして笑える程の余裕があるのは良い事なのだろう。
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