黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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11章

未来への帰還

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 元の時代に帰ったリルを待っていたのは、18代目のタルトだった。
老人にしては大柄で凛とした雰囲気のある彼女はリルとアルビーとシグルトが帰ってくると、三人に形のいい唇に孤を描いて抱きしめた。

「よく戻りましたね。私達を許してね。リルがあの男に捕らえられていても勘づかれるわけにはいかず、貴女の存在が歴史に固定される瞬間まで時間移動の機械は使う事が出来ませんでした」
 タルトの目に涙が浮かび愛おしそうにリルに微笑み、抱きつかれたリルが目をぱちくりと瞬く。
タルトとはこんな風に自分を抱きしめてくれる存在だっただろうか?
どこか他所事の様に思っていた祖母の温もりに、リルの鼻先がツンっと痛くなる。

「リル帰って来たって?」
「お婆様ズルい!」
「お嬢帰って来たって聞いたんですけど!」
「リルは?!婆さんオレの姪っ子は!」
 ワラッと顔を出した親戚と従業員がタルトに抱きしめられているリルを見ると取り合う様にリルをギュウギュウと抱締めてくる。
温かい雰囲気のある人々ではあったが、それはリルが目の前で見ていた光景であって、リル自身がこんな風に温かい場所の中心に居た事はない。

 ぼろっと涙が溢れだしたリルにオロオロしたりギョッとしたり、笑いながらリルの頭を撫でてきたりと、忙しい人々に囲まれてリルが鼻をすすり上げると長い舌がペロッとリルの頬の涙を舐めて「甘じょっぱい」と笑う。

「ルーファスやアカリが言ってた番の甘さって聖属性の甘さとは違う甘さだね」
 竜化したアルビーがリルの頬にスリ寄りながら親戚や従業員達からリルを引き離す。
すぐさま周りに「アルビー!」と言われるがアルビーは「フフン」と鼻で笑うとリルを連れ出して窓から飛び出して空へ舞う。

「アルビー!こらー!リルを返せー!」
「嫌だよー!折角、私の番が見つかったんだもの」
 リルを抱きしめたまま踊る様に空をくるくると飛んでアルビーが楽しそうに声を出して笑う。

「フフフ。リルは空は平気?もう少しでお気に入りの場所に着くからね」
 余り接点のなかったドラゴンが自分に笑って、大切な宝物の様に抱きしめている事にビックリしてしまう。
しかも番だとリルの事を言っている。確かにアルビーからは甘い何とも言えない良い香りがしているが、こんなにドキドキするのは色んな事が今一杯起きて驚いているからなのか、番を意識してしまったからかもよくわからない。
ドラゴンの顔をしているのにすごく格好よく見える。
ケンジの顔は好きだったが、その比ではないのは何なのだろう?
この甘い匂いのせいだ。そうに違いないとリルは思いながらアルビーから目を逸らすと、アルビーが尻尾を振りながら、笑顔で飛び続ける。

「リル、少しだけ目をつぶっててね。良いよって言うまで目を閉じててね」
 リルが頷いて目を閉じると、アルビーが何処かへ降りて、リルの鼻には様々な甘い香りが広がる。
花の匂いとハーブの様な香りに柑橘系の匂いがしている。

 カサカサと草をかき分けるような音がしながらアルビーがたまに「まだだよー」と声を掛けてくる。
アルビーが動き回る度に耳がぴくぴくと動き何をしているのだろうと気になって目を開けたくて仕方がない。

「リル、目を開けていいよ」

 目を開けたそこにはミッカが実っているミッカ畑に、周りには数種類のハーブの畑と野菜畑に白い大きな『竜の癒し木』の横には過去で見た初代『女将亭』が建っている。

 アルビーがリルの頭に花冠を乗せて笑うと、リルの手を取って引いて歩いて行く。
リルが小さく首を傾げると「うん。ここは『女将亭』をそのままここへ移動させたんだよ。ミッカもここだけは実を付けられる様にケルチャにお願いしてるから、幻のミッカジュースも飲めるよ」アルビーの尻尾が嬉しそうに左右に揺れて、女将亭の扉を開くと1階の店のあった場所はバーカウンターになっていた。

「1階はドラゴン達のお酒専門の『悪友の集い』って名前のバー」
 2階へ上がるとリルが見た朱里達の住んでいたリビングとキッチンが家具が少し変わっているがそのまま置いてある。
 少し色あせた写真がリビングに並び、ドラゴン達に囲まれて朱里とルーファスが笑っている写真と家族に囲まれて笑う朱里とルーファスの姿が映っている。
古い写真から新しい物になっていくと2人の周りには大きくなっていく子供と子供の家族が増えていく。
そして二人の姿が無くなり、大人になった子供達の家族写真が増え、リルの知っている人物達の写真に近付くとアルビーが何も入ってない写真立てを出してくる。

「ここにリルと私の写真を飾ろうね」

 リルが少し眉を下げて笑って小さく頷くとアルビーが子供の様にはしゃいで「やったー」と声を出す。
アルビーの人懐っこい性格にリルは少し驚いてしまう。つい先ほどまで居た時代でもドラゴンと話していたが、ドラゴンはこんなにも人懐っこい種族だったのかと驚きが隠せない。

「あのね、リル。私もまだリルが番ってわかったばかりでドキドキして嬉しい気持ちばかりなんだけどね、リルは色々今まであったから、ゆっくりでいいんだ。私を好きになってくれたら私はすごく嬉しいよ」

 リルの手に自分の手を重ねながらアルビーが少し照れたように笑って、リルもつられて口元に笑みが浮かぶ。
ケンジとは楽しい思い出もあるが、どこか振り回されていた所もあった分、アルビーの優しくて明るい気持ちが今のリルには眩しくて、心臓が騒がしい。

 時間にして考えれば、1日も経っていないケンジとの別れなのに、ケンジの事を考えてこんなに胸が痛くなることは無い。すごく大事な物が心の中にあって、その大事な物がアルビーと話していると満たされて溢れてしまいそうになる。

「リル?大丈夫?」
 黙って俯いていたリルに、少し心配そうにアルビーが顔を覗き込むと、リルが顔を真っ赤にして両頬に手を当てる。

「フフッ。リル可愛いね!うん!あっ、少し待っててね」
 アルビーがトテトテと急ぎ足でリビングから出ていくと、しばらくして桐の箱を持ってくる。
テーブルの上に桐の箱を置いて、蓋を開けると女性物の白い着物が入っている。

「これ、アカリがリルに渡して欲しいって私が預かっていた物なんだ」

 白い着物はよく見ると白い糸でミッカの白い花が刺繍してあり、首衿の後ろにはミッカの実の刺繍に【狼】の文字が刺繍されている。
桐の箱の一番下に手紙が1通置いてあった。

『私達の弟アルビーを宜しくね。リルさん、あなたが幸せになれる事を遠い場所から2人で祈っています。ルーファス・アカリ』

 短い文章でも朱里の気持ちが込めてある物にリルが涙を流すと、アルビーが「あはは。アカリらしいや」と笑ってリルの頭を撫でる。

「リル、幸せになろうね」
 屈託のない笑顔で言ってアルビーがリルのおでこにキスをすると、リルが耳を下げながら顔を真っ赤にして尻尾を振っていた。
アルビーも尻尾を振りながら、幸せかも!っと思っていると、何処か遠い所で朱里が笑っている声がした様な気がした。
 
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