黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

文字の大きさ
上 下
323 / 960
11章

朱里との約束

しおりを挟む
 水浸しの店内を乾燥魔法で水滴を吹き飛ばすと乾いた床に朱里を下ろしてルーファスが乾燥魔法を全員に掛ける。
店の外に少しだけ爆発音と黒煙に集まってしまった人達が店内を覗いている。

「これ以上は人の目につくといけないから、私達は未来に帰るよ」
 アルビーがリルを抱きかかえるとリルがケンジの死体を目で追えば、シグルトが「行きますよ」と死体から遠ざける様にアルビーの背を押す。

「待って!アルビー!」
「どうしたのアカリ?」
「リルさんを未来に連れ戻したら、もう時間移動したら駄目だよ」
「うん。もうこれ以上歴史に関与したら収拾つかなくなるからね」
「アルビー、リルさんをお願いね。あと、結婚おめでとう」
「任せといて。まだ番ってないから結婚はしてないけど、卵に孵る時までリルを幸せにするよ」
「約束だよ。いっぱい幸せになってね。アルビーは大事な弟なんだから」
「約束するよ。アカリ、大好きだよ」
 朱里の顔にアルビーが顔をスリ寄せておでこ同士をコツンと合わせて嬉しそうに笑うと、ルーファスが朱里の腰に手をまわして自分に引き寄せて、アルビーから引きはがす。

「早く帰るなら帰れ。まったく、人の番に近寄り過ぎだ」
「あはは。ヤキモチ焼きなんだから。私はルーファスも大好きだよ」
 ルーファスが「まったく」とため息を吐くとアルビーがルーファスに手を出す。
「なんだ?何か欲しいのか?」
「うん。ルーファスなら特殊ポーション持ってるでしょ?」
 ルーファスが手の平から鍵を出して空中で鍵を開錠して、特殊ポーションを3本出すとアルビーの手に乗せる。
「アカリの作った物とアリスの作った物と2人の共同で作った物だ」
「ありがとう。これでリルが22歳を超えられるよ」
「ああ。元気でやるんだぞ」
「うん。ルーファスとアカリみたいな夫婦になれるように頑張るよ」
 笑うアルビーに何とも言えない顔をするのはルーファスで自分の顔でニコニコ笑われるのは流石に慣れない物がある。

「アルビー、未来でちゃんと幸せになりなさい」
「ギルも幸せになりなよ?ちゃんと心に素直にならないと死ぬときに後悔するよ」
「それは未来の私が死ぬ間際にでも言ったのかい?」
「どうかな?でも私も結婚するし、ルーファスも結婚して家族もいるのにギルだけ独り身は可哀想かなっていう私なりの応援」
「余計なお世話ですよ。早く帰らないと現在のアルビーを追い回しますよ?」
「それは勘弁してほしいかな。この時代の私が可哀想」
「アルビー、寂しくなっても時間移動の機械は壊しなさい。わかったね?」
「わかってるよ。アカリもギルも心配しないで」
 アルビーがギルと朱里に頷いて最後にネルフィームを見る。

「ネルフィーム【復讐】に捕らわれないでよ。ネルフィームが助けられなかった過去は未来に繋がってるんだから、幸せになってよ。私は闇属性は本能的に嫌いだけど、ネルフィームの事は好きだから、ギルの事頼むね」
「未来のアルビーは寛容だな」
「生きてる年数がネルフィームより私の方が多いんだから当たり前だよ。未来のネルフィームは私より生きてるけど、過去に来た時ぐらいは先輩風を吹かせておかないとね」
「フッ。アルビー、私がこの時代ですることはあるか?」
「とりあえず、幸せになってよ。ケンジ・タナカに壊されたこの時代をアカリとルーファスの生きた時代として幸せに彩って欲しいから」
「そうか。努力はしてみよう」
 アルビーがシグルトに「帰ろうか」と言って笑うとシグルトが朱里達に深々と頭を下げる。
シグルトが頭を上げる前に姿は掻き消えていく。


 残されたのはネルフィームが小規模爆発を起こして滅茶苦茶になった店内だけ。
ケンジの遺体も掻き消えていた。

「アルビー、無事に未来に帰れたんでしょうか・・・」
「それは分からないが、未来はもう誰にも分らないからな。オレ達はアルビー達に言われた時間移動の機械を改良する仕事と、この下着専門店の買収をしないとな」
「忙しくなりそうですね」
 朱里とルーファスが振り向くと、ギルとネルフィームが既に店の外に出て騒いでいた。


「ネルフィーム!結婚してください!」
「嫌だ。主の冗談に付き合ってられないな」
「ネルフィームの楽しみに取っておいたお酒を飲んだのは私です!【復讐】していいですから、一緒にいてくださいよ!」
「そんな事で【復讐】はしない。普通に殴るだけだ」
 往来のど真ん中でネルフィームの拳をギルが手で押さえながら押し問答している。 

「ネルフィームは側にいてくれるだけでいいので!私が勝手に1人で幸せになりますから!」
「主が幸せでも私が不幸な未来しか見えない!」
「私の暴挙についてこれるのはネルフィームだけなんですよ!」
「主が余計な事をしなければ良い事だろう?」
「お願いですから、私を1人にしないでください!」
「主従契約は【復讐】完了と同時にお終いだ。そういう話だっただろ?」
「なら新しい【復讐】先を見付けましょう!」
 ギリギリと両手で押し問答をしている2人の足元が地面にめり込み始めたのを見て、朱里とルーファスが2人を止めに入ると、ネルフィームが竜化して朱里とルーファスを手に掴み空に舞い上がると、ネルフィームの尻尾にギルがしがみつき叫ぶ。

「絶対、私は幸せになりますからねー!」
「主はしつこい!」

 ギルを主と呼んでいる時点で一緒に居ると言っているようなものだと思いつつも、2人のやり取りを聞きながら笑う朱里の姿にルーファスは好きにやらせておくことにした。
 朱里が笑っていてくれるなら、ギルとネルフィームが年甲斐もなく公開プロポーズを繰り返していようと気にはしないのである。
しおりを挟む
感想 1,004

あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

婚約者である皇帝は今日別の女と結婚する

アオ
恋愛
公爵家の末娘として転生した美少女マリーが2つ上の幼なじみであり皇帝であるフリードリヒからプロポーズされる。 しかしその日のうちにプロポーズを撤回し別の女と結婚すると言う。 理由は周辺の国との和平のための政略結婚でマリーは泣く泣くフリードのことを諦める。しかしその結婚は実は偽装結婚で 政略結婚の相手である姫の想い人を振り向かせるための偽装結婚式だった。 そんなこととはつゆ知らず、マリーは悩む。すれ違うがその後誤解はとけマリーとフリードは幸せに暮らしました。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。