322 / 960
11章
19代目
しおりを挟む
人型のネルフィームが店に入って来た時には男2人は既に店内に居た。
ネルフィームには人の増えたか減ったかは、知る由もない事なのでギルの付けた目印を頼りに【復讐】相手のケンジを見付けると、息を吸い込み恨みを込めてブレスを口から吐いた。
恨みを込めすぎて勢いが付きすぎて店内に小規模爆発が起きてしまったのは、ネルフィームにとっても少しビックリだ。
「・・・っ!ぎゃあああああああああ!!!」
ケンジの口から聞こえた断末魔と共に店内は消火用のスプリンクラーが天井から大量に水を出した。
煙の中で少しずつ冷静になる心と、クリアになる視界の中に立ち尽くしていると、店の中にギルが飛び込んできた。
目が合えば出会った時と変わらない心配する様な目を向けてくる。
フッと笑みを浮かべて全て終わった事を目で伝えれば、ギルは少し寂しそうな顔をして、直ぐに店の中を見て口を開く。
「一体、これは何事なのかな?」
ギルの問いにネルフィームもようやく周りをしっかりと見る。
朱里を抱き上げているルーファスの周りにはネルフィームの黒炎の黒ずみが円状に避けられた跡がある。
咄嗟とはいえ、結界で自分達を守ったのは流石だと素直に褒めてやりたい、そして【復讐】前に周りに人がいないかを見るべきだったと反省をする。
リルは白金の髪のルーファスそっくりな黒い着物の男の腕の中で声も無く泣いて、ケンジへ手を必死に伸ばしている。
それを塞ぐかのように立つ男は灰色の着物を着ている黒狼族の男で何処かルーファスに似ている。
白金の男の金目はネルフィームの知っている者の目だ。
「もしかして・・・アルビーか?」
「久しぶり・・・でもないな?うん、私だよ。アルビー」
ネルフィームにアルビーが少し子供っぽく答える。
しかし、ネルフィームの知っているアルビーとは少し違うのはこのフレンドリーさだろうか?
アルビーはネルフィームにツンとした態度の多い子なのである。
「アルビー?なんでアルビーが【刻狼亭】の黒い着物を着ているんだ?」
「ギル・・・すごく久しぶり。また会いたいなって今更になって思ってたよ。私はね、この子リルの『番』なんだ。19代目のリルの夫だからこの着物なんだよ。まぁ2回ほど卵孵りしてるから少し私若いんだけどね」
アルビーの言葉からネルフィームもギルも目の前にいるアルビーが、現在のアルビーではない事を知る。
「アルビー、相変わらずオレの姿のままなのか?」
「わぁ!ルーファス!アカリ!すごく会いたかった!ルーファスの姿が一番落ち着くからね!ふふっ」
「アルビー・・・?リルさんと番なのにリルさんはどうしてケンジさんと一緒に居たの?」
ルーファスと朱里がアルビーの腕の中で泣いているリルを見つめると、アルビーが眉尻を下げる。
「リルはケンジが歴史を弄り回したせいで存在が不安定で、私もリルも『番』とは今まで判ってなかったからね。判ったのはケンジがこの時間軸を歴史の中で固定させて本体のケンジがココに現れたからだよ」
アルビーが息絶えているケンジをチラリと見て、リルの見つめる先がケンジなのに片眉を上げて少しムッとする。
「アルビー、用件だけ伝えて早く姉上を連れて帰りますよ」
「シグルトはせっかちだなぁ。まぁ、これ以上居るとこの歴史も改変させちゃうから仕方ないか。よく聞いてね。ケンジが固定したこの時代から【刻狼亭】はケンジの能力で作り出した『時間移動』出来る機械を使える様に改良をする事になる。ケンジの能力は【創造】といって自分の考えた機械を作り出す能力なんだけど、これが実は作るのは簡単だけど、使うにはお金が1回1回飛んでいくんだ。だからこそ、ケンジは下着を世界規模で売り回ってお金を稼いでたわけ。ケンジがこの時代で死亡したから、全ての下着店は徐々に新しい物を作らなくなって1年もしたら全て潰れるから、1年の間に全ての権利を押収して【刻狼亭】が乗っ取ってね」
シグルトが着物の胸元から権利書と判子をルーファスに手渡す。
「これがあればすんなり行くはずです。慰謝料代わりにガッツリ取れる物は取って、より良い【刻狼亭】の資金にしてください」
未来の総指揮者はしっかり者の様だ。
現在の総指揮者のシュテンに任せればきっと上手い事やってくれるだろう。
残る問題は、唯一ケンジの為に泣いているリル。
【復讐】を終えたネルフィームはギルの側で静かに状況を見ているだけで、ギルもリルにどうこう言うつもりはないので静観している。
口を開いたのは朱里だった。
「リルさん・・・ケンジさんは悪い人だったんだよ?」
朱里の声にリルが顔を上げて、泣きながら震える手で携帯のボタンを押す。
『知ってる。分かってる。でも、私にはケンジしか構ってくれる人は居なかった』
朱里がアルビーとシグルトを見れば、2人共も少し困った顔をする。
「ごめん。リルの存在は不安定で私達は認識することが難しかったんだ」
「姉上はケンジ・タナカに子供の頃からウロつかれてたから、姉上を蔵に閉じ込めた覚えがないのに姉上が蔵に閉じ込められていたり、水を庭に撒いていた筈なのに、家の中で姉上に水を掛けていた居た時には僕も自分が何をしていたのかわかりませんでした。言い訳の様に聞こえるでしょうが、ケンジ・タナカの時間操作で姉上はケンジ・タナカに懐く様に仕掛けられていたんです。僕は姉上の事嫌いじゃありませんよ」
2人は眉尻を下げて「ごめん」と謝り、リルが小さく首を振る。
混乱した顔をしてリルの口が「わからない」と動く。
「リル、ごめんね。私がこれからはリルを連れて何所にでも行ってあげるし、一緒に居てあげるよ」
「アルビー程ではありませんが、僕も今まで姉上に誤解されていた分、誤解を解くために一緒に過ごしますよ」
リルが首を振りながら俯くと、朱里が「気持ちの整理に時間がかかるよね」とリルに言いながらも自分にも言い聞かせる様に言って涙をこぼして、ルーファスが朱里の頬に流れる涙を手で拭う。
ネルフィームには人の増えたか減ったかは、知る由もない事なのでギルの付けた目印を頼りに【復讐】相手のケンジを見付けると、息を吸い込み恨みを込めてブレスを口から吐いた。
恨みを込めすぎて勢いが付きすぎて店内に小規模爆発が起きてしまったのは、ネルフィームにとっても少しビックリだ。
「・・・っ!ぎゃあああああああああ!!!」
ケンジの口から聞こえた断末魔と共に店内は消火用のスプリンクラーが天井から大量に水を出した。
煙の中で少しずつ冷静になる心と、クリアになる視界の中に立ち尽くしていると、店の中にギルが飛び込んできた。
目が合えば出会った時と変わらない心配する様な目を向けてくる。
フッと笑みを浮かべて全て終わった事を目で伝えれば、ギルは少し寂しそうな顔をして、直ぐに店の中を見て口を開く。
「一体、これは何事なのかな?」
ギルの問いにネルフィームもようやく周りをしっかりと見る。
朱里を抱き上げているルーファスの周りにはネルフィームの黒炎の黒ずみが円状に避けられた跡がある。
咄嗟とはいえ、結界で自分達を守ったのは流石だと素直に褒めてやりたい、そして【復讐】前に周りに人がいないかを見るべきだったと反省をする。
リルは白金の髪のルーファスそっくりな黒い着物の男の腕の中で声も無く泣いて、ケンジへ手を必死に伸ばしている。
それを塞ぐかのように立つ男は灰色の着物を着ている黒狼族の男で何処かルーファスに似ている。
白金の男の金目はネルフィームの知っている者の目だ。
「もしかして・・・アルビーか?」
「久しぶり・・・でもないな?うん、私だよ。アルビー」
ネルフィームにアルビーが少し子供っぽく答える。
しかし、ネルフィームの知っているアルビーとは少し違うのはこのフレンドリーさだろうか?
アルビーはネルフィームにツンとした態度の多い子なのである。
「アルビー?なんでアルビーが【刻狼亭】の黒い着物を着ているんだ?」
「ギル・・・すごく久しぶり。また会いたいなって今更になって思ってたよ。私はね、この子リルの『番』なんだ。19代目のリルの夫だからこの着物なんだよ。まぁ2回ほど卵孵りしてるから少し私若いんだけどね」
アルビーの言葉からネルフィームもギルも目の前にいるアルビーが、現在のアルビーではない事を知る。
「アルビー、相変わらずオレの姿のままなのか?」
「わぁ!ルーファス!アカリ!すごく会いたかった!ルーファスの姿が一番落ち着くからね!ふふっ」
「アルビー・・・?リルさんと番なのにリルさんはどうしてケンジさんと一緒に居たの?」
ルーファスと朱里がアルビーの腕の中で泣いているリルを見つめると、アルビーが眉尻を下げる。
「リルはケンジが歴史を弄り回したせいで存在が不安定で、私もリルも『番』とは今まで判ってなかったからね。判ったのはケンジがこの時間軸を歴史の中で固定させて本体のケンジがココに現れたからだよ」
アルビーが息絶えているケンジをチラリと見て、リルの見つめる先がケンジなのに片眉を上げて少しムッとする。
「アルビー、用件だけ伝えて早く姉上を連れて帰りますよ」
「シグルトはせっかちだなぁ。まぁ、これ以上居るとこの歴史も改変させちゃうから仕方ないか。よく聞いてね。ケンジが固定したこの時代から【刻狼亭】はケンジの能力で作り出した『時間移動』出来る機械を使える様に改良をする事になる。ケンジの能力は【創造】といって自分の考えた機械を作り出す能力なんだけど、これが実は作るのは簡単だけど、使うにはお金が1回1回飛んでいくんだ。だからこそ、ケンジは下着を世界規模で売り回ってお金を稼いでたわけ。ケンジがこの時代で死亡したから、全ての下着店は徐々に新しい物を作らなくなって1年もしたら全て潰れるから、1年の間に全ての権利を押収して【刻狼亭】が乗っ取ってね」
シグルトが着物の胸元から権利書と判子をルーファスに手渡す。
「これがあればすんなり行くはずです。慰謝料代わりにガッツリ取れる物は取って、より良い【刻狼亭】の資金にしてください」
未来の総指揮者はしっかり者の様だ。
現在の総指揮者のシュテンに任せればきっと上手い事やってくれるだろう。
残る問題は、唯一ケンジの為に泣いているリル。
【復讐】を終えたネルフィームはギルの側で静かに状況を見ているだけで、ギルもリルにどうこう言うつもりはないので静観している。
口を開いたのは朱里だった。
「リルさん・・・ケンジさんは悪い人だったんだよ?」
朱里の声にリルが顔を上げて、泣きながら震える手で携帯のボタンを押す。
『知ってる。分かってる。でも、私にはケンジしか構ってくれる人は居なかった』
朱里がアルビーとシグルトを見れば、2人共も少し困った顔をする。
「ごめん。リルの存在は不安定で私達は認識することが難しかったんだ」
「姉上はケンジ・タナカに子供の頃からウロつかれてたから、姉上を蔵に閉じ込めた覚えがないのに姉上が蔵に閉じ込められていたり、水を庭に撒いていた筈なのに、家の中で姉上に水を掛けていた居た時には僕も自分が何をしていたのかわかりませんでした。言い訳の様に聞こえるでしょうが、ケンジ・タナカの時間操作で姉上はケンジ・タナカに懐く様に仕掛けられていたんです。僕は姉上の事嫌いじゃありませんよ」
2人は眉尻を下げて「ごめん」と謝り、リルが小さく首を振る。
混乱した顔をしてリルの口が「わからない」と動く。
「リル、ごめんね。私がこれからはリルを連れて何所にでも行ってあげるし、一緒に居てあげるよ」
「アルビー程ではありませんが、僕も今まで姉上に誤解されていた分、誤解を解くために一緒に過ごしますよ」
リルが首を振りながら俯くと、朱里が「気持ちの整理に時間がかかるよね」とリルに言いながらも自分にも言い聞かせる様に言って涙をこぼして、ルーファスが朱里の頬に流れる涙を手で拭う。
50
お気に入りに追加
4,628
あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。
鯖
恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。
パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

婚約者である皇帝は今日別の女と結婚する
アオ
恋愛
公爵家の末娘として転生した美少女マリーが2つ上の幼なじみであり皇帝であるフリードリヒからプロポーズされる。
しかしその日のうちにプロポーズを撤回し別の女と結婚すると言う。
理由は周辺の国との和平のための政略結婚でマリーは泣く泣くフリードのことを諦める。しかしその結婚は実は偽装結婚で
政略結婚の相手である姫の想い人を振り向かせるための偽装結婚式だった。
そんなこととはつゆ知らず、マリーは悩む。すれ違うがその後誤解はとけマリーとフリードは幸せに暮らしました。

大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた
黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」
幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。