黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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11章

19代目

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 人型のネルフィームが店に入って来た時には男2人は既に店内に居た。
ネルフィームには人の増えたか減ったかは、知る由もない事なのでギルの付けた目印を頼りに【復讐】相手のケンジを見付けると、息を吸い込み恨みを込めてブレス黒炎を口から吐いた。
恨みを込めすぎて勢いが付きすぎて店内に小規模爆発が起きてしまったのは、ネルフィームにとっても少しビックリだ。

「・・・っ!ぎゃあああああああああ!!!」

 ケンジの口から聞こえた断末魔と共に店内は消火用のスプリンクラーが天井から大量に水を出した。

 煙の中で少しずつ冷静になる心と、クリアになる視界の中に立ち尽くしていると、店の中にギルが飛び込んできた。
目が合えば出会った時と変わらない心配する様な目を向けてくる。
フッと笑みを浮かべて全て終わった事を目で伝えれば、ギルは少し寂しそうな顔をして、直ぐに店の中を見て口を開く。

「一体、これは何事なのかな?」

 ギルの問いにネルフィームもようやく周りをしっかりと見る。

 朱里を抱き上げているルーファスの周りにはネルフィームの黒炎の黒ずみが円状に避けられた跡がある。
咄嗟とはいえ、結界で自分達を守ったのは流石だと素直に褒めてやりたい、そして【復讐】前に周りに人がいないかを見るべきだったと反省をする。

 リルは白金の髪のルーファスそっくりな黒い着物の男の腕の中で声も無く泣いて、ケンジへ手を必死に伸ばしている。
それを塞ぐかのように立つ男は灰色の着物を着ている黒狼族の男で何処かルーファスに似ている。
白金の男の金目はネルフィームの知っている者の目だ。

「もしかして・・・アルビーか?」
「久しぶり・・・でもないな?うん、私だよ。アルビー」
 ネルフィームにアルビーが少し子供っぽく答える。
しかし、ネルフィームの知っているアルビーとは少し違うのはこのフレンドリーさだろうか?
アルビーはネルフィームにツンとした態度の多い子なのである。

「アルビー?なんでアルビーが【刻狼亭】の黒い着物を着ているんだ?」
「ギル・・・すごく久しぶり。また会いたいなって今更になって思ってたよ。私はね、この子リルの『番』なんだ。19代目のリルの夫だからこの着物なんだよ。まぁ2回ほど卵孵りしてるから少し私若いんだけどね」
 アルビーの言葉からネルフィームもギルも目の前にいるアルビーが、現在のアルビーではない事を知る。

「アルビー、相変わらずオレの姿のままなのか?」
「わぁ!ルーファス!アカリ!すごく会いたかった!ルーファスの姿が一番落ち着くからね!ふふっ」
「アルビー・・・?リルさんと番なのにリルさんはどうしてケンジさんと一緒に居たの?」
 ルーファスと朱里がアルビーの腕の中で泣いているリルを見つめると、アルビーが眉尻を下げる。

「リルはケンジが歴史を弄り回したせいで存在が不安定で、私もリルも『番』とは今まで判ってなかったからね。判ったのはケンジがこの時間軸を歴史の中で固定させて本体のケンジがココに現れたからだよ」
 アルビーが息絶えているケンジをチラリと見て、リルの見つめる先がケンジなのに片眉を上げて少しムッとする。

「アルビー、用件だけ伝えて早く姉上を連れて帰りますよ」
「シグルトはせっかちだなぁ。まぁ、これ以上居るとこの歴史も改変させちゃうから仕方ないか。よく聞いてね。ケンジが固定したこの時代から【刻狼亭】はケンジの能力で作り出した『時間移動』出来る機械を使える様に改良をする事になる。ケンジの能力は【創造クリエイト】といって自分の考えた機械を作り出す能力なんだけど、これが実は作るのは簡単だけど、使うにはお金が1回1回飛んでいくんだ。だからこそ、ケンジは下着を世界規模で売り回ってお金を稼いでたわけ。ケンジがこの時代で死亡したから、全ての下着店は徐々に新しい物を作らなくなって1年もしたら全て潰れるから、1年の間に全ての権利を押収して【刻狼亭】が乗っ取ってね」

 シグルトが着物の胸元から権利書と判子をルーファスに手渡す。
「これがあればすんなり行くはずです。慰謝料代わりにガッツリ取れる物は取って、より良い【刻狼亭】の資金にしてください」
 未来の総指揮者はしっかり者の様だ。
現在の総指揮者のシュテンに任せればきっと上手い事やってくれるだろう。

 残る問題は、唯一ケンジの為に泣いているリル。
【復讐】を終えたネルフィームはギルの側で静かに状況を見ているだけで、ギルもリルにどうこう言うつもりはないので静観している。

 口を開いたのは朱里だった。

「リルさん・・・ケンジさんは悪い人だったんだよ?」
 朱里の声にリルが顔を上げて、泣きながら震える手で携帯のボタンを押す。

『知ってる。分かってる。でも、私にはケンジしか構ってくれる人は居なかった』

 朱里がアルビーとシグルトを見れば、2人共も少し困った顔をする。

「ごめん。リルの存在は不安定で私達は認識することが難しかったんだ」
「姉上はケンジ・タナカに子供の頃からウロつかれてたから、姉上を蔵に閉じ込めた覚えがないのに姉上が蔵に閉じ込められていたり、水を庭に撒いていた筈なのに、家の中で姉上に水を掛けていた居た時には僕も自分が何をしていたのかわかりませんでした。言い訳の様に聞こえるでしょうが、ケンジ・タナカの時間操作で姉上はケンジ・タナカに懐く様に仕掛けられていたんです。僕は姉上の事嫌いじゃありませんよ」

 2人は眉尻を下げて「ごめん」と謝り、リルが小さく首を振る。
混乱した顔をしてリルの口が「わからない」と動く。

「リル、ごめんね。私がこれからはリルを連れて何所にでも行ってあげるし、一緒に居てあげるよ」
「アルビー程ではありませんが、僕も今まで姉上に誤解されていた分、誤解を解くために一緒に過ごしますよ」

 リルが首を振りながら俯くと、朱里が「気持ちの整理に時間がかかるよね」とリルに言いながらも自分にも言い聞かせる様に言って涙をこぼして、ルーファスが朱里の頬に流れる涙を手で拭う。
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