320 / 960
11章
ルーファスとケンジ
しおりを挟む
ケンジが感謝しろと言いたげにこちらを見るが、感謝など出来るような事は何一つとしてない。
リルはケンジに相変わらず噛みついたりしてはいるが、嫌がっているというよりはじゃれついている延長線でしかない。
すっかりケンジが怖い人間だと怯えてしまっている朱里は胃の下が冷たく感じられて、早く帰りたいというより、このケンジという男に関わりたくなくなっている。
リルの事は心配だが、時間を移動して自分を車で轢く練習を何度もした様な人間と同じ空間に居る事の方が怖い。
「ああそうだ。三野宮さん、君のおかげでオレはリルに出会えた。凄く感謝してるんだ。君の望むことを1つ叶えてあげても良いよ。元の世界に帰りたいなら送るよ」
ケンジが良い案だろ?と、いう顔で口元を上げているが、朱里にとっては孤独に生きる人生を歩めと誘っている言葉でしかない。
ルーファスが朱里を抱きしめる腕の力が強めると、朱里もルーファスを抱きしめ返す。
「私の居場所はこの人のいる場所だから、この世界でルーファスと子供達と生きていく。元の世界に戻る気はさらさら無いの」
お互いの体温に安心を覚えながらケンジに首を振ると、ケンジが「ふーん」と首をかしげる。
「前に聞いた時は、兄弟が心配だから元の世界に帰るって言ってたけど今回は・・・ああ、今回は兄弟が居ない三野宮さんか。ごめん。コレは忘れてよ」
兄弟が居るから・・・帰る・・・?今回は、居ない・・・?
ケンジの言葉の意味が飲み込めず、朱里の頭が答えを出す前に涙は溢れ出していた。
「成程、アカリの家族を殺したのはお前か・・・」
ルーファスが絞り出す様に言った言葉は朱里の涙が悟った物と同じだった。
あの日の光景が頭の中をよぎる。誰も生き残ってはいない家の中で物音がしたのを覚えている。
キィ・・・と軋むあの音は足を静かに忍ばせる音ではなかっただろうか?
「オレは犯行を見てただけ。オレの物音で冷静になった犯人が母親と祖母だけ殺して立ち去る時と、オレが何もせずにいた場合は一家全員殺される場合があるだけ」
ケンジは悪びれも無く言うが、それは犯人では無いからという理由だからだろうか?
「何故、犯行を目撃していて止めなかった!」
ルーファスの言葉に朱里もケンジを涙で滲む目で見つめれば、ケンジは「それは無理」と一蹴する。
「何で関係のないオレが家に居たんだって話になれば、それはそれで面倒くさい事になる。そして、家族が生き残っていると三野宮さんはこの世界には来ない。母親と祖母だけ死亡の場合は、長男次男を産んだ後で元の世界に帰ってしまう。その場合は長男が非常にヤバい人生を歩んで子孫のリルが生まれた時には環境が悪すぎて、リルは4歳で亡くなってしまう。家族を皆殺しにされていた方が都合が良いのは、オレもアンタも一緒」
ルーファスと自分を交互に指してケンジが「そうだろ?」と問いかける。
「オレをお前と一緒にするな!時間を移動できる術を持ちながら、何故、全てを救う道を探さない!」
痛いほど朱里を抱きしめる手に力を入れ、怒りに肩を震わせるルーファスに朱里も、どうして幼い妹と弟だけでも救ってくれなかったのかと問いかけたいが、答えは先ほどの物と同じ物しか返ってこないのだろうと、唇を噛みしめて涙を流すだけだった。
「時間を移動出来ても人の行動は常に変わる。物音1つで大きく変わるんだ。それを1つ1つ救う術を探すのは膨大な時間とお金が必要だ。オレの能力は万能じゃないからね。目的を見失わないで動かないと意味が無くなる」
ルーファスとケンジが睨み合っていると、カキンと小さな金属音の様な物が部屋に響く。
ロボット店員とギルが光る剣のような物でぶつかり合っていた。
「折角、ダンジョンで拾った剣も同じ剣だと切れない物ですね」
ギルがロボット店員と攻防を繰り広げるとケンジが「またアンタか」とため息を吐く。
「ギル・アーバント、アンタもしつこいな。どの歴史でもアンタはオレに辿り着くんだよね。どうしてだろうな?」
「さぁ?どの歴史に居た私も貴方を気に入らなかっただけでしょうね」
ニッコリとギルが笑顔でケンジに答えるとケンジがリルを自分の手から離し、手をコキコキと鳴らして首を左右に揺らせば、バキバキと骨のなる様な音がする。
『ケンジ!止めて!ケンジは弱い!絶対怪我する!』
リルが携帯を使って騒ぐが、ケンジはヘラッと笑ってリルに「大丈夫だから」と手をヒラヒラと上げる。
「とりあえず、これはアカリの分です」
左にスッと避けたケンジにギルの蹴りが左に思いっきり入る。
体をくの字に曲げてケンジが呻いて床に膝をつく。
「これは貴方がこの時間軸の歴史で過去にした私の友人から託された分です」
ギルの蹴りが再びケンジに入ると、ケンジが信じられないような物を見る目でギルを見上げる。
「痛っ・・・何で、オレが見た歴史の中では攻撃は避けられるはずなのに・・・」
ケンジの目に動揺が見れるとギルがニコッと笑って答える。
「何度も私が貴方に辿り着いて蓄積された経験です。それに、この時間軸の歴史を貴方が動かせなくなったからですよ。リルが無事に22歳を超えられるこの歴史を貴方は私に蹴られたぐらいで無駄にするほど頭は悪くないでしょう?」
ルーファスと朱里が驚いた顔でギルを見れば、ギルはいつも通り笑い「やれやれですね」とケンジの胸倉をつかむとパンパンと頬を叩いてこれで終わりとポイッと手を離す。
リルはケンジに相変わらず噛みついたりしてはいるが、嫌がっているというよりはじゃれついている延長線でしかない。
すっかりケンジが怖い人間だと怯えてしまっている朱里は胃の下が冷たく感じられて、早く帰りたいというより、このケンジという男に関わりたくなくなっている。
リルの事は心配だが、時間を移動して自分を車で轢く練習を何度もした様な人間と同じ空間に居る事の方が怖い。
「ああそうだ。三野宮さん、君のおかげでオレはリルに出会えた。凄く感謝してるんだ。君の望むことを1つ叶えてあげても良いよ。元の世界に帰りたいなら送るよ」
ケンジが良い案だろ?と、いう顔で口元を上げているが、朱里にとっては孤独に生きる人生を歩めと誘っている言葉でしかない。
ルーファスが朱里を抱きしめる腕の力が強めると、朱里もルーファスを抱きしめ返す。
「私の居場所はこの人のいる場所だから、この世界でルーファスと子供達と生きていく。元の世界に戻る気はさらさら無いの」
お互いの体温に安心を覚えながらケンジに首を振ると、ケンジが「ふーん」と首をかしげる。
「前に聞いた時は、兄弟が心配だから元の世界に帰るって言ってたけど今回は・・・ああ、今回は兄弟が居ない三野宮さんか。ごめん。コレは忘れてよ」
兄弟が居るから・・・帰る・・・?今回は、居ない・・・?
ケンジの言葉の意味が飲み込めず、朱里の頭が答えを出す前に涙は溢れ出していた。
「成程、アカリの家族を殺したのはお前か・・・」
ルーファスが絞り出す様に言った言葉は朱里の涙が悟った物と同じだった。
あの日の光景が頭の中をよぎる。誰も生き残ってはいない家の中で物音がしたのを覚えている。
キィ・・・と軋むあの音は足を静かに忍ばせる音ではなかっただろうか?
「オレは犯行を見てただけ。オレの物音で冷静になった犯人が母親と祖母だけ殺して立ち去る時と、オレが何もせずにいた場合は一家全員殺される場合があるだけ」
ケンジは悪びれも無く言うが、それは犯人では無いからという理由だからだろうか?
「何故、犯行を目撃していて止めなかった!」
ルーファスの言葉に朱里もケンジを涙で滲む目で見つめれば、ケンジは「それは無理」と一蹴する。
「何で関係のないオレが家に居たんだって話になれば、それはそれで面倒くさい事になる。そして、家族が生き残っていると三野宮さんはこの世界には来ない。母親と祖母だけ死亡の場合は、長男次男を産んだ後で元の世界に帰ってしまう。その場合は長男が非常にヤバい人生を歩んで子孫のリルが生まれた時には環境が悪すぎて、リルは4歳で亡くなってしまう。家族を皆殺しにされていた方が都合が良いのは、オレもアンタも一緒」
ルーファスと自分を交互に指してケンジが「そうだろ?」と問いかける。
「オレをお前と一緒にするな!時間を移動できる術を持ちながら、何故、全てを救う道を探さない!」
痛いほど朱里を抱きしめる手に力を入れ、怒りに肩を震わせるルーファスに朱里も、どうして幼い妹と弟だけでも救ってくれなかったのかと問いかけたいが、答えは先ほどの物と同じ物しか返ってこないのだろうと、唇を噛みしめて涙を流すだけだった。
「時間を移動出来ても人の行動は常に変わる。物音1つで大きく変わるんだ。それを1つ1つ救う術を探すのは膨大な時間とお金が必要だ。オレの能力は万能じゃないからね。目的を見失わないで動かないと意味が無くなる」
ルーファスとケンジが睨み合っていると、カキンと小さな金属音の様な物が部屋に響く。
ロボット店員とギルが光る剣のような物でぶつかり合っていた。
「折角、ダンジョンで拾った剣も同じ剣だと切れない物ですね」
ギルがロボット店員と攻防を繰り広げるとケンジが「またアンタか」とため息を吐く。
「ギル・アーバント、アンタもしつこいな。どの歴史でもアンタはオレに辿り着くんだよね。どうしてだろうな?」
「さぁ?どの歴史に居た私も貴方を気に入らなかっただけでしょうね」
ニッコリとギルが笑顔でケンジに答えるとケンジがリルを自分の手から離し、手をコキコキと鳴らして首を左右に揺らせば、バキバキと骨のなる様な音がする。
『ケンジ!止めて!ケンジは弱い!絶対怪我する!』
リルが携帯を使って騒ぐが、ケンジはヘラッと笑ってリルに「大丈夫だから」と手をヒラヒラと上げる。
「とりあえず、これはアカリの分です」
左にスッと避けたケンジにギルの蹴りが左に思いっきり入る。
体をくの字に曲げてケンジが呻いて床に膝をつく。
「これは貴方がこの時間軸の歴史で過去にした私の友人から託された分です」
ギルの蹴りが再びケンジに入ると、ケンジが信じられないような物を見る目でギルを見上げる。
「痛っ・・・何で、オレが見た歴史の中では攻撃は避けられるはずなのに・・・」
ケンジの目に動揺が見れるとギルがニコッと笑って答える。
「何度も私が貴方に辿り着いて蓄積された経験です。それに、この時間軸の歴史を貴方が動かせなくなったからですよ。リルが無事に22歳を超えられるこの歴史を貴方は私に蹴られたぐらいで無駄にするほど頭は悪くないでしょう?」
ルーファスと朱里が驚いた顔でギルを見れば、ギルはいつも通り笑い「やれやれですね」とケンジの胸倉をつかむとパンパンと頬を叩いてこれで終わりとポイッと手を離す。
50
お気に入りに追加
4,628
あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。
鯖
恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。
パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

婚約者である皇帝は今日別の女と結婚する
アオ
恋愛
公爵家の末娘として転生した美少女マリーが2つ上の幼なじみであり皇帝であるフリードリヒからプロポーズされる。
しかしその日のうちにプロポーズを撤回し別の女と結婚すると言う。
理由は周辺の国との和平のための政略結婚でマリーは泣く泣くフリードのことを諦める。しかしその結婚は実は偽装結婚で
政略結婚の相手である姫の想い人を振り向かせるための偽装結婚式だった。
そんなこととはつゆ知らず、マリーは悩む。すれ違うがその後誤解はとけマリーとフリードは幸せに暮らしました。

大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた
黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」
幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。