黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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11章

田中賢治

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 ヘラッと笑ってリルを持ち上げてぐるんと回しながらケンジがリルを抱きしめると、リルが真っ赤な顔をしてバシバシとケンジを叩きまわっている。

「リルだー!顔色が良いね!オレに会いに来てくれたんだろ?」
『下ろして!離して!バカケンジ!バカケンジ!』
「リルの罵倒が心地いい!」
『変態!下ろしてー!』
 ポカスカとリルに殴られながら笑うケンジに朱里が真正のマゾかな?と思いつつ、自分を抱き上げて抱きしめているルーファスを見上げて眉尻を下げる。
子供が出来てからはそんなに抱き上げられる事が少なくなったとは思っていたが、子供の目が無い今は思う存分ここぞとばかりに腕の中に収められている。

「ケンジ・タナカは400年前の人間だと思ったが何故ここに居る?」
「オレに時代とか過去とか現在とか未来はあんまし関係ないんだよね。まぁ簡単に言えばオレの能力の1つとだけ教えとく・・・って、リル痛いって、痛いよ~」
 ガブッとリルに手を噛まれてケンジが手を振りながらもリルを離さず、リルが眉間にしわを寄せたまま納得のいかない顔をしている。

「それにしても、リルと三野宮さんはやっぱりそっくりだな」
 久々に自分の名字を呼ばれた朱里が顔を上げてケンジを見れば、ケンジが前髪を掻き上げてヘラッと笑う。
朱里がその顔に驚いた表情をする。

「・・・谷口・・・さん?」
「本名は田中賢治です。まぁ三野宮さんとは谷口敦たにぐちあつしで何度かあってるかな?」
 訝し気な顔をするルーファスが朱里をギュッと抱きしめてケンジを睨みつけると、ケンジはヘラッと笑いかける。

「アカリに何をした?」
「オレは三野宮さんをこの世界に連れてくる為に少し元の世界で三野宮さんの周りをいじくり回しただけ」
「あっ、ルーファス。この人は保険屋さんなの。私が本来受け取るはずの両親のお金とかを・・・って、まさか叔父さん達を焚きつけたのは、あなた・・・?」
 ケンジは返事の代わりに口元を少し上げてみせる。
親切な保険屋が朱里を心配してくれたのではなく、叔父たちを焚きつけて朱里を殺そうと・・・そこまで思い至り、記憶がフラッシュバックする。
朱里を轢いた車の運転手はこのケンジではなかっただろうか・・・?
今も行方不明の車と運転手だとありすに聞いたが、もしケンジなら見つかるわけは無い。

 小さくブルッと震えた朱里をルーファスが抱きしめながら小さくケンジに唸り声を上げる。

「あの時、三野宮さんを瀕死にしないと人族の国が三野宮さんを手放さない上に2週間後には三野宮さんは死んじゃうし、仕方がなかったんだよ。ちゃんとそこの男が迎えにきただろ?」

「アカリがどれだけ酷い状態でこの世界に来たかお前は・・・っ!」
 ルーファスが毛を逆立てて唇を震わせて牙を向けると、ケンジは肩をすくめる。
 
「・・・やっぱり、私を轢き殺そうとしたのはあなただったんですね・・・」
「だから殺してないって。何度か練習もしたんだから。結構手加減が大変だったんだから」
「その何度か・・・というのは、アカリを何度か轢き殺して時間を移動し練習した・・・と、いう事かな?」

 冷ややかな目線でギルがケンジを見れば、ケンジは「まぁ生きてるんだしいいじゃないか」とヘラッとすると、ゾワッと鳥肌が立ち朱里が頭を左右に振りながらルーファスのシャツを握りしめてケンジから顔を逸らして「怖い」と涙声でルーファスの首に顔を埋める。

「異常者か・・・」
 怯える朱里を抱いたままルーファスがケンジに吐き捨てると、ケンジは「相変わらず【刻狼亭】はオレを理解しない」とリルの頭に顎を乗せる。

「オレのおかげでただの代々続く老舗旅館から温泉大陸を一族の物にする手助けもして今の【刻狼亭】になったっていうのに、三野宮さんにしてもさ、あのままだと【聖域】の力で亡くなるところを同じ力で打ち消せる東雲さんをこの世界に落としてあげたんだから、感謝してほしいぐらいだよ。オレああいうコギャルは好きじゃないのにさ、東雲さんしか同じ能力の人間見付からなかったんだよね」
 ありすまでもがケンジのせいでこの世界に飛ばされたのかと恐怖と一緒に少しの怒りも湧いてくる。


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