黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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11章

命の竜

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「アカリっちぃ~幼女、いや、幼竜が、うちを襲ってくるし!!」
 ソファの上でもんどりを打ってステーンと金色の髪の幼女に押し倒され、助けを求めてくるありすに朱里が慌ててボウルをテーブルに置いて駆けつける。

「こらー!エデン駄目でしょ、ありすさんを押し倒しちゃ」
 朱里が2,3歳の幼女姿に人化している金竜エデンを持ち上げると「やーん」とエデンがありすの口を引っ張り、ありすが「いひゃーい」と涙目で騒いでいる。

「のむのー!」
「嫌だってば!止めるし!何するし!」
 エデンがありすの口に何かを押し込もうとして、ありすが歯をギッと食いしばる。

「ああ、もしかしてオヤツか何かをありすさんにあげたいの?」
 エデンがコクコクと再びありすの口を開けようとすると、ありすが首を振る。
流石にこれは可哀想かと朱里が眉を下げて笑いながら自分の口を開ける。

「エデン、私の口に入れていいよ。あーん」
 コロンとエデンが朱里の口に飴のような物を入れてニコーッと笑ってアリスの上から体を退ける。
シュワッくちの中で溶ける飴に朱里が「あっ」と声を上げる。

 乱れた髪からシュシュを取ってありすが髪をまとめ直して起き上がり、「もぉー」と朱里の後ろから顔をのぞかせるエデンを睨みつける。

「もぉー!エデンちゃん、悪い子っしょ!」
「もぉー!」
 ありすの口真似をしながらエデンがキャッとはしゃいでリビングを走って逃げていく。
卵から生まれ直した為に少し言動が幼いエデンは小さな子供と同じなのでやる事は幼児と大差ないのである。
ドラゴン同士の心の会話のような物ではドラゴン同士そこら辺は意思疎通が出来るので言葉や言動は差異はないらしいが。

「あの、ありすさん・・・」
「何っしょ?あの悪ガキんちょ両足を掴んで逆さづりがいいっしょ!」
 プリプリと怒りながら手をワキワキさせているありすに朱里が苦笑いしつつ口の中に入れられた物の正体をありすに告げる。

「ありすさん、今の『祝福』です。もう1回エデンに貰いなおした方がいいかも?」
「え?!そうなん?!」
「ええ。私もエデンからの『祝福』はハッキリ貰ったことが無くて、確かじゃないんですけど、直ぐに口で消える丸い物は『祝福』だと思います」
 ありすがダッと走りエデンを追い駆けてリビングを出ていく。

「ありすさん!走ったら駄目ですよー!妊娠初期でしょうから!」
 朱里の言葉が聞こえているのか聞こえていないのか、ありすは部屋のドアを開けながら「どこいったっしょ!」と、エデンを探して回っている。

「うーん。あれじゃ逆に逃げられそう・・・」
 朱里が苦笑いしつつテーブルに置いたボウルを手に持ち、再びボウルの中のひき肉をこね合わせていく。
本日は餃子予定という事もあり、ありすが餃子の作り方を習いに来ていたのだけれど、ただ、肉を混ぜて塩コショウに卵に野菜に片栗粉を混ぜるだけの簡単な作業にメモを取るだけで終わってしまい、ミルアとナルアの相手をしてもらっていたら、エデンに襲われた感じである。

 ひき肉を混ぜ終えて、小麦を練って作った餃子の皮に肉だねを詰め込みながら水でちょんちょんと湿らせて餃子を包んでいく。

「お酒のオツマミ用に一杯作らなきゃね」
 ドラゴン達が冬眠から覚めて『竜の癒し木』の果実酒もいい塩梅で出来上がってきているので毎晩お酒を嗜むドラゴン達が宴会騒ぎをしている為に、お酒のオツマミは常に大量に用意しなければ次の日の食材まで奪われてしまうので多いぐらいが丁度いいのである。

「おっ、嫁よ。今日は餃子か」
「そうだよ。焼き餃子と揚げ餃子と水餃子どれが良いかな?」
 グリムレインが竜の癒し木から部屋の中へ入りテーブルの上に並べられていく餃子の数を数えながら尻尾を揺らす。
「焼きの一択であろう。揚げも水も邪道だな」
 そう言ってドヤ顔をするグリムレインをアルビーが押しのけて「私は揚げが良いな!」と尻尾を振り、グリムレインと尻尾でパシパシと攻防を密かに繰り返している。

「ふふっ、じゃあ、焼きと揚げを作るね」
「流石は我の嫁である!」
「アカリの作る餃子はお酒に合うから大好きだよ!」
 グリムレインとアルビーが朱里の両肩に首を乗せながら餃子が出来上がっていくのを見ていると、エデンを片手にありすがリビングに戻ってくる。

「アカリっちー、エデンちゃんが『祝福』くれないっしょー」
「もうないない」
 ありすに俵抱きにされながらエデンが首を振る。

「エデン、『祝福』はもうないのか?」
「あるじしゃまにあげちゃったー」
「じゃあ、エデンの『祝福』はもうないね。アリスには私の『祝福』をあげるよ」
「『祝福』は1回しか出ないからな。仕方ない」
 朱里の肩からアルビーが離れるとありすの所に飛んでいく。

「ありがとートカゲちゃん」
「トカゲ呼びしてると味辛くするよ?」
「マジで?!」
「あとエデンを離してあげて」
 ありすがエデンを離すとエデンが竜化して朱里の頭の上にポスンと乗ってくる。

「お願いっしょ!アルビーぃぃ」
「はいはい。口開けて」
「はーい。あーん」
 アルビーが手の平からミルクキャンディの様な乳白色の玉を出してありすの口に入れると、ありすが首を捻る。

「なんか口の中で直ぐ消えちゃったっしょ」
「そういうものなの。でもまぁ、これでアリスは安産になったんだから、大人しくしなよ?」
「わかったし!早速リロっちに言ってくるー!」
 ドタタタタと、大人しくと言ったばかりなのにリビングから下の『女将亭』へありすが走って行ってしまう。

「行った側から言う事聞かないんだから・・・」
 ハァーと、アルビーが息を吐きながら朱里に肩をすくめてみせる。
朱里もくすくす笑って「ありすさんらしいね」と目を細めて餃子を作る作業に戻る。

「ありすさんも2児のお母さんになるんだね」
「そうだね。私達には感じられないけどエデンが生命を感じたなら確かだろうしね」
「そういうものなの?」
「エデンは命を司るドラゴンだから私達より命には敏感なんだよ。私達が気付けるのはエデンより少し遅れちゃうからね」
「あっ、でも私さっきエデンの『祝福』ありすさんが嫌がってたから貰って食べちゃったんだけどどうすればいいの?」
「『祝福』が効いているうちなら子供が出来やすいから5人目を作るなら作ったらどう?」
 ボンッと朱里の顔が真っ赤になり「なっなっなっ!!!」とあわあわしながら餃子を握りつぶして、小さい声で「ルーファスと相談しています・・・」と顔を下に向けて答える。

「嫁よ。次も我が『祝福』してやるから安心するといい」
「うーっ、ルーファスと相談してからです!もぅ!」

 餃子が出来上がる頃にはリロノスがありすをお姫様抱っこしてはしゃいでいて、お土産に餃子を持たせると嬉しそうに2人は帰って行った。

「今回のお産は良いお産になるといいね」
「私の『祝福』なんだから大丈夫だよ」
 アルビーがフフッと笑って遠ざかるありす達に尻尾を振って見送っていた。
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