黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

文字の大きさ
上 下
283 / 960
10章

偽者

しおりを挟む
 子供を守らなきゃという使命感だけで朱里が暴れて騒ぎ、男は男で暴れる朱里を落ち着かせようと話し掛けてくる。

「安心しろ。俺はユリアの客人だ。ルーファス・トリニア。ほら、温泉大陸の旅館の主だ」
「離してぇ!変態!痴漢!触らないで!」
 男が落ち着かせようとすればするほど、朱里は思いつく限りの罵倒をぶつけてくる。

「君みたいな若い子は知らないのかな?【刻狼亭】って結構有名なんだけどな」
 朱里が騒ぐのを止めると男がやっと解ってくれたかと笑顔を朱里に向けると、朱里が怒った顔をして男を見上げる。

「あなたみたいな品性の無い男が私の大切な番と場所を騙らないで!」
 男が少し朱里から手を緩めた瞬間、男の手が上に弾かれ、朱里の体が後ろに引き寄せられて男から離れる。

「もう大丈夫だ。アカリ怖かっただろう」
 聞きなれた声と匂いと腕の温かさに朱里がホッと息を吐く。
「遅いです。本当に怖かったんですから」
「悪い。ドラゴン達の方に来るとばかり警戒していたのでな」
 ルーファスが朱里のつむじにキスをしながら朱里の体を触り、どこも怪我をしていないかを調べる。
その間に羊獣人のプリシーとハガネが男を床に叩きつけて確保していた。

「ナルア、大丈夫?」
 朱里が腕の中の娘を見れば顔を真っ赤にして声を上げないで泣いていた。
「直ぐにナルアをテッチに診てもらえ。こちらの処理はしておくから」
「はい。お願いします」
 朱里が廊下に出て来てたテッチを見付けるとテッチに駆け寄り部屋に戻っていく。

 朱里を見送ってからルーファスが廊下でプリシーとハガネに踏みつけられて身動きを取れなくされている男に目をやる。

「おい!俺はこの屋敷のユリアの客人【刻狼亭】のルーファス・トリニアだぞ!使用人風情が気安く触るな!」
 男が騒ぎ、ハガネが男の頭を拳骨で殴る。

「いでっ!何するんだ!無礼だぞ!」
「無礼はどっちだ!・・・旦那こいつどうします?」
「こいつ何かわたし生理的に受け付けない。気持ち悪ッ!」
 ハガネに取り押さえるのを任せてプリシーが自分の両腕をさすりながら「気持ち悪い~っ」と廊下で足踏みする。

「好きに騙らせておけ。ユリアに話を聞かないとな」
 ルーファスがプリシーにユリアを呼ぶように言いつけると、プリシーと入れ違いに、専属騎士のクイードが廊下に駆けつける。

「この男は・・・」
 クイードが不愛想な顔を崩し、眉間にしわを寄せる。
「悪いが騎士団を呼んでもらえるか?」
「はい」
ルーファスがクイードに騎士団を呼ぶように頼み、クイードが駆けだしていく。


「おやぁ。もう片付いてますねぇ残念」
「テンさんが遅いからです!」
 のんびりとした口調でテンが小鬼を肩に乗せてドラゴン達と廊下に出て現状を把握するとのんびりと歩きながらルーファスの隣りに来ると小鬼を肩から降ろし男の前に立たせる。

「小鬼、顔を覚えましたね?情報を他の小鬼に流して良いですよ」
「任せてください。これで僕の評価が1プラスです!」
 フンフンと鼻歌を歌いながら小鬼が目をくるくる回して男の情報を他の小鬼に流していく。
 
 冒険者ギルドに犯罪者の顔を登録すると、被害者からの訴え1つに付き小鬼の評価もプラスされ給金が上がるので小鬼としては、この男が詐欺事件をいっぱいしてくれると嬉しいとは口には出さないが金貨を心に思い浮かべつつ作業を進めていく。

「さて、お前の顔は冒険者ギルドに回させてもらった。もう逃げられんぞ?」

 ルーファスの言葉に男は「ハッ」と鼻で笑う。

「何を勘違いしているのか知らないが、俺は温泉大陸の主なんだぜ?この屋敷のユリアに聞けば直ぐに判る事だ。あとで吠え面かいてもしらねぇぞ?」

 ハガネとテンが何とも言えない顔でルーファスを見ると、ルーファスは冷めた目で男を見下ろす。
テンが「何ていうか痛ましい男ですね」と言い、ハガネが「俺なら恥ずかしくなる・・・」と男の頭をスパンと叩く。

 プリシーがユリアとメイドのアンナニーナを連れて廊下に戻り、男を見るとユリアが男に駆け寄りしゃがみ込む。

「わたしに会いに来てくれたのですか?」
「そうだ。お前に会いに来たんだ。ユリア!こいつ等に俺が誰か教えてやってくれ!」
 男の言葉にユリアが眉尻を下げて目を左右に動かす。
ユリアに刺さる周りの視線にも戸惑い言葉に詰まる。

「ユリア・ロキシー、オレからもこの男が何者か聞きたいものだ」
 ルーファスの声にユリアの肩が揺れ、ユリアの目から涙がボロボロと零れ落ちる。

「ユリア!何をしてるんだ!早くこいつ等に俺が客人だと言え!」
 男がユリアに吠える様に言い、ハガネが男の頭を押さえつけて床に押さえつけるとユリアの顔を見る。

「彼は・・・ルーは、わたしの・・・恋人です・・・」
 か細い声でユリアが言うと男は「ハァ?」と声を出す。
「ユリア、そうじゃないだろ?俺が温泉大陸の【刻狼亭】ルーファスだと何故言わない?」
 ユリアが怯えるような目でルーファスを見上げて首を振る。
「違うんです・・・ルーはそんなつもりじゃ・・・」
「ユリアなにを言ってるんだ!俺を信じろ!早くこいつ等に退くように言うんだ!」
 なおもユリアに怒鳴る男にユリアが金切り声を上げる。

「黙ってぇ!お願いだから・・・っ!黙っててよぉ!!」
 髪を振り乱してユリアが泣きながら、ルーファスに「違うんです!この人は違うんです!」と繰り返して泣き叫ぶ。

「ユリアお前この俺を見捨てる気か?!俺がお前みたいな田舎娘と結婚してやろうって恩を忘れやがって!」
「わたしは、あなたを救う為にこの方にお願いしているのです!なんでわからないのよぉおお!!あなたが何といおうと赤ちゃんが居るんだから結婚してもらうわ!当たり前でしょう!」
「ハァッ?!何言ってんだ!このイカレ女!抱いた事もない女の子供なんか知るか!」
「酷い!わたしにあんな事をしておいて!!」
 
 ボウッ

 赤い火がユリアと男の前を通り過ぎると、ユリアと男が顔を上げる。
口を開けた火竜ローランドと氷を宙に浮かび上がらせている氷竜グリムレインが2人を見つめる。
他のドラゴン達も据わった目で2人を見つめ、2人が「ヒィッ」と小さく声を上げる。

「さっきからゴチャゴチャうるさいなぁ」
「我らの眠りを妨げたのだ。じゃれ合いもそこら辺にしておけ」
「ワシらの主君の名を騙った不届き者の戯言に耳を傾ける時間は無い」
「アタシの貴重な睡眠時間どうしてくれんの!お肌が荒れちゃうわ!」
「あんたは黙ってなさいケルチャ!」
「私達ドラゴンが本気で怒る前に正直に話した方が身のためだよ?」
「がおーっ!なの!」

 ドラゴン達が口々に喋り、ルーファスがやれやれと肩をすくめていると屋敷の玄関ホールが騒がしくなる。

「さて、騎士団が到着したようだな」

 ルーファスがハガネに退くよう手で払い、男を立ち上がらせると薄く笑う。

「自己紹介がまだだったな。オレは温泉大陸の領主【刻狼亭】15代目ルーファス・トリニアだ。それで、お前はどこの誰だったかオレに教えてくれるか?」
 
 ルーファスが金色の目を光らせて男の銀色の目を見つめて問いかけた。
しおりを挟む
感想 1,004

あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

婚約者である皇帝は今日別の女と結婚する

アオ
恋愛
公爵家の末娘として転生した美少女マリーが2つ上の幼なじみであり皇帝であるフリードリヒからプロポーズされる。 しかしその日のうちにプロポーズを撤回し別の女と結婚すると言う。 理由は周辺の国との和平のための政略結婚でマリーは泣く泣くフリードのことを諦める。しかしその結婚は実は偽装結婚で 政略結婚の相手である姫の想い人を振り向かせるための偽装結婚式だった。 そんなこととはつゆ知らず、マリーは悩む。すれ違うがその後誤解はとけマリーとフリードは幸せに暮らしました。

大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた

黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」 幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。