黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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10章

謎のお嬢様

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 朱里がギュッとミールを抱きしめる。

「ミール、私が守ってあげるからね」

 あの日、確かにユリアは温泉大陸に来ていた。
でも、この子はユリアが見捨てていった子供なのだから、自分の子だと朱里は思う。
勿論、娘二人も愛しているが、同じ様にミールにも同じだけの愛情がある。

 子育てで言えば4人の子供を産んでいて、リリスやミールも朱里がお乳をやって育てていたのだ6人の赤ん坊を育てたお母さんといってもいい。
男の為に、しかも犯罪者に自分の所に戻ってきて欲しいから子供を使おうとするなんて、絶対に子供が不幸になる。
そう思うと朱里はミールを手放してはいけないと固く思うのだった。

「アカリ?どうした怖い顔して」
 ルーファスが部屋に入ってくるとミールを抱く朱里のあまりの真剣な顔に少し驚く。

「ルーファス・・・ユリアさんがミールの母親かもしれない・・・」
「それは彼女がミールが生まれた時に温泉大陸に居たからか?」
「それも、あります・・・」
「安心しろ。彼女は母親ではない。アカリがボビー医師に診せたのならボビー医師にあの日の患者は2人だと聞いているが、出産後の処置はしていないし、1人は虫下しで、もう1人はただ具合が悪かっただけだと言う話だ」
「でも、私さっき聞いたの・・・ユリアさんが『わたしの赤ちゃんでしたか?』って、詐欺師の男に戻ってきてもらう為にこの子が必要だと・・・っ」
 ポロポロと涙を流しながら朱里が「絶対、そんな人にミールは渡さない」とルーファスの腕の中に頭を埋めると、ルーファスが朱里の背中を撫でながら「ふむ」と声を出して考える。

 ユリアと詐欺師の男に何かしらの連絡手段が残っていれば、こちらの罠にあちらから食いつくかもしれない。
ルーファスが目を閉じ、朱里を抱きしめながら静かに怒りを煮えたぎらせていた。







 タルアニ国の街中ではドラゴンの話で持ちきりだった。
平和な小国で何か事件があるかというと早々なく、話題はいつも外の国の事件などを話すぐらいだが、今回は自分達の国にドラゴンが来たことに話に花を咲かせていた。

「何でもお偉いさんがドラゴンに乗って来たんだってさ」
「大きなドラゴンや小さなドラゴンがいっぱい居たんですって」
「ドラゴンってまだ生きてたんだね」
「滅多に人の前に現れないから一目見ようって人が大勢集まってるみたいだ」
「ほら、宝石商のロキシー邸にそのお偉いさんが泊ってるんだって」

 話は個人情報を駄々洩れさせるように流れていく。
夜の酒場で人の良さそうな男が一言いう。

「何でもドラゴン1匹で国1つ買えてしまうくらいのお金になるらしいですよぉ」

 酒場の人々が「じゃあ国何個分のドラゴンが今この国に居るんだ?」と笑いながら喋る。
可愛らしい羊の角をした女性も一言喋る。

「ドラゴンは優しい性格で滅多に怒らない大人しい生き物なんですって」

 酒場の人々が「へぇー。あんな見た目なのに大人しいのか」感心した様に女性の言葉に耳を傾ける。

酒場の隅で目深にフードを被っていた男が口元に笑みを浮かべる。
「国1つか・・・悪くない」
そんな言葉を呟いて男は酒場を出ていく。
彼は頭の中でロキシー家の娘の名前を思い出そうと頭を動かす。
騙した女が多すぎて、なかなか女の名前が出てこない。

「ああ、ユリア・・・そうだユリアだった」

 ようやく思い出せた名前に男は自分の記憶力もまんざらでは無いと思う。
一度騙した人間には関わらない様にしている為に、名前も顔も直ぐに忘れる様にしているからだった。
 
 ロキシー家の屋敷の馬小屋の横にある壁の一部は蔦で覆われているが、壁が途切れている場所があり、簡単に入ることが出来る。
人に見つからずに屋敷に入れるので、これだけは記憶の片隅にキチンと覚えていたのである。

 馬小屋の中で男はフードを脱ぎ捨てて着替える。
黒髪に三角の耳、銀の目がギラリと輝く。
黒い着物に着替え髪を撫でつけると、屋敷の中に侵入する。


 屋敷の中を歩くと既に夜という事もあってか屋敷は静まり返っている。
ユリアの部屋は何処だったかと、男が歩いていると廊下に白い着物を着た女性が出て鼻歌を歌いながら体を揺らしている。

 狼族の目は夜の方がよく見える為、女性の顔を見れば若い女で、この屋敷に若い女はユリアだろうと男は意気揚々と近付いて行く。

「ユリア久しぶりだったな。元気にしてたかい?俺だよルーファスだ」
 男がそう言って抱きつくと、腕の中の女性が「ヒッ」と悲鳴を上げて腕の中で暴れる。
暗がりで分からないのだろうかと顎に指を掛けて上に向かせると、怯えた瞳と目が合う。

 ユリアはこんな顔だっただろうか?
黒髪に黒目なのもどこかおかしい?人違いだろうか?

「ぅにゃあああああん」

 女性の腕の中から小さな泣き声がして女性が悲鳴を上げた。

「きゃああああああ!誰か、誰かぁあああ!!」
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