黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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10章

ロキシー邸

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 ゴトゴトと揺れる馬車の中でリュエールとシュトラールが窓から洋風の建物を見上げて「わぁー」と声を出していた。
1台目にハガネとプリシーとテッチに赤ん坊3人が乗り。
2台目にルーファスと朱里とリュエールとシュトラールが乗り。
3台目にテンと小鬼とドラゴン達が乗っている。

「温泉大陸は東国風の建物ばかりだからこういう建物は久々に見るね」
「そうだな。まぁ、オレは東国風の方が落ち着くが」
「父上、お友達の家にいくんですよね?」
「こんな所にもお友達がいるんだね父上」
「ああ。この国の人間では無いがな。別の国の人間でなここには別宅があると言うだけらしい。今は娘さんが管理しているらしいが」
 ルーファスが宝石商のロキシー家との縁があるのは【風雷商】のアシュレイ絡みではある。
【風雷商】で扱う宝石はロキシー家が提供していることもあり、ルーファスもその関係で知り合いになった。

「それにしても、ドラゴン達を皆冬眠から起こしてしまって良かったのかな?」
「派手に威嚇しろとうるさかったのはあいつ等だからな」
 ドラゴン達を置いて行く為にギルの屋敷でドラゴン達を預かってもらおうと思っていたら、ネルフィームが「危険だ!同胞は起こして連れて行け!」と騒ぐので、ドラゴン達を起こしたところ「面白そうだから派手にいこう!」とドラゴン達がノリノリで派手な入国の演出になったのである。

「ギルさんにお仕事押し付けちゃったからお土産買って帰らないとね」
「シュテン達にも買って帰らないとな」
「僕はリロノスさんとジーク達に買って帰るんだ」
「オレはありすさんとリリに買って帰る!」
「ジーク?」
「僕の友達だよ。父上にも今度紹介するね。色々役に立つ奴らだよ」
 友達って役に立つとか言うものだったか?と、ルーファスが疑問に思いながらのリュエールがニコニコとしているのでルーファスは言葉を飲み込む。

 そうこうしているうちにロキシー邸に着くとハニーピンクの髪のドレス姿の若い少女が出迎えに出てくる。
小豆色の髪のメイドと茶色の髪をした騎士も側に控え、ルーファス達に失礼にならない程度の角度で頭を下げる。

「あら?あなたは半年ほど前に刻狼亭でお会いしましたね」
 朱里がハニーピンクの少女に話し掛けると、ルーファス達が「え?」という顔で朱里と少女を見る。

「まぁ、その節はお世話になりました。あの時のお礼を申し上げたかったのですが、急ぎの用があり、起こしてしまうのも申し訳なく思い、そのままで出て行ってしまい申し訳ありませんでした」
「いいえ。その後はお加減大丈夫ですか?」
「はい。おかげさまでこの通りです」
 朱里と少女の話に入り込めず、朱里にルーファスが視線を投げかける。

「あっ、ほら。この子達を産んだ時に私、具合の悪い人を診療所に連れて行ったじゃない?その時の方がこの方なの」
「ユリア・ロキシーと申します」
 ユリアがドレスの裾を摘み、頭を下げると朱里とルーファスも挨拶を交わす。
「【刻狼亭】のルーファス・トリニアです。こちらは番のアカリ。息子のリュエールにシュトラール。娘のミルアにナルアに息子のミール。今回は大勢で押し掛けて申し訳ない」
「朱里です。お世話になります」

 挨拶を交わし終えると、部屋に案内され朱里が胸の張り具合からミルア達にお乳をあげて部屋で3人の赤ん坊と過ごしていると、部屋のドアがノックされる。

「はーい。どうぞー」
 朱里が入室を許可すると小豆色の髪をしたメイドがお茶を持って入ってくる。
「失礼いたします。皆様お茶になさっていますので、奥様にもお持ちしました」
「有り難うございます。でも、今は授乳中なのでお茶は控えているんです。ごめんなさい」
「このお茶は授乳中の方でも飲めるお茶ですのでご安心ください」
「それは嬉しいです。では有り難く頂きますね」

 メイドがお茶を淹れる音を聞きながら、朱里が赤ん坊達の背中を叩いてげっぷをさせているとティーカップをテーブルに置かれる。

「よろしかったらお飲みになる間、お子様の面倒をみていましょうか?」
「お願いできますか?」
 朱里が赤ん坊達の世話をお願いしてティーカップに口を付けると、メイドが慣れた手つきで子供達を抱っこしている。

「すごく手慣れているんですね?」
「弟や妹が多いもので・・・」
「お姉さんなんですね。私も妹や弟の面倒をよく見ていましたから同じですね」
 懐かしそうに朱里が笑うとメイドは少し疲れた顔をして無表情になる。

 コンコンと再びドアのノック音が響き朱里が入室許可を出すとユリアがニコニコとした表情で入ってくる。

「お嬢様、どうかなさいましたか?」
「アンナニーナ、どうだった?」
 アンナニーナと呼ばれたメイドが「後程報告に伺いますので」と、少し困った顔をしてユリアに頭を下げる。

 朱里がティーカップをテーブルに置くとアンナニーナが朱里に頭を下げてティーカップを片付けてユリアと一緒に部屋を逃げるように出ていく。

 アンナニーナのメイドドレスから白いハンカチが落ち、朱里が拾ってアンナニーナを追うと、廊下の端でユリアとアンナニーナが会話をしていた。

「わたしの赤ちゃんでしたか?」
「いいえ。わかりません・・・お嬢様、あの男の事はお忘れになった方が」
「ルーの事を悪く言わないで!あの子さえ居れば彼が、ルーがきっとわたしの元へ帰ってくるわ!」
「お嬢様・・・あの男は詐欺師です。お嬢様には・・・」

 廊下で話をする2人の会話に朱里の指先が冷たくなる。
その場を離れようと足を動かすとボスンと黒い物にぶつかる。
「あ・・・」
朱里が顔を上げると、ユリアの専属騎士が真後ろに立っていた。

「誰か居るの?」
「誰です!」
アンナニーナが声を上げると、朱里を体で隠して専属騎士が「私です」と答える。

「ああ、クイード。驚かさないで」
「すまない」
 
 アンナニーナとユリアがその場を立ち去ると、クイードが朱里に頭を下げて体を離す。

「あの、今の会話は・・・」
「私にも解りませんが、子供から目を離さない様にしてください」
 朱里が頷くと、クイードが朱里の手に持っているハンカチに気付く。

「そのハンカチはアンナニーナの物ですか?」
「ええ。落としたので渡しに行こうかと・・・」
「私が返しておきます。奥様はお子さんの元へ」
 それだけ言うとクイードは音も立てずに立ち去っていく。
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